機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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バウンダリー・ライン、あるいは美しき宣伝(※ただし画面上のサハラは肌が3トーンくらい美白されている)

宇宙世紀0010年。月面都市フォン・ブラウンの広大なドーム内。

 

サハラは、地球時代の知人(※サハラ本人は「ただのすれ違いざまの挨拶レベル」と言い張るがハチローは内心ちょっと嫉妬している)であり、現在は地球連邦政府広報局(UCBC)のチャラい敏腕プロデューサーとなった男性、クレインとまさかの再会を果たす。

 

「アイ(サハラの本名)、君の働く姿をドキュメンタリーで撮影させてほしい。過酷な環境で、人類の未来のために笑顔でゴミを拾う美しいデブリ課の乙女……これこそ、今の連邦(お上)が必要としている『クリーンなイメージ』なんだよ!」

 

クレインがドヤ顔で掲げる企画は、宇宙移民計画の「正当性」と「みんなハッピー!」を演出するための、ゴリゴリのヤラセ広報番組だった。

 

ハチローは、高性能な自撮りドローンがブブンブン飛び交う、絶対に現場の邪魔にしかなっていない作業現場で不快感を隠さない。

 

「チッ、サハラ、こいつらが撮りたいのは俺たちのガチな汗水じゃない。連邦の赤字や失政を隠すための『綺麗なインスタ映えの壁紙』だ。カメラに映らない画面外で、どれだけの人間が酸素不足で白目を剥いて死にかけてるか、あいつらは絶対に放送(オンエア)しねえよ」

 

そう、クレインが制作する番組の編集データには、画面に映り込んだ不都合な生ゴミ(デブリ)や、徹夜残業で死にそうな顔をした労働者のクマを、AIのビューティーフィルターで「全員笑顔のイケメン」に一瞬で修正する闇のプロセスが組み込まれていたのだ。

 

地球連邦政府は、この「全人類脳内お花畑化計画(認識の植民地化)」を宇宙規模で見事に完成させていた。

連邦は、宇宙居住者が抱く「給料上げろ!」「部屋が狭い!」という不満を、「広報(感動の押し売り)」という名の心理操作で中和する。

 

かつてイギリスやアメリカの偉い人たちが、植民地での過酷なブラック労働を「これは文明の進歩への素晴らしい貢献である!」と綺麗な言葉で言い換えさせたように、連邦もまた、デブリ回収という命懸けの3K作業を「地球を愛する美しき宇宙市民の義務!」という涙と感動の物語へと変換し、給与格差という真のブラック構造から人々の目を全力で逸らさせているのである。テレビの力って怖い!

 

そんなある日の撮影中、ハチローたちは、連邦の広報が「そんな場所はありません」と存在しないことにしている禁断のスラム宙域(※大昔に移民船が故障し、お上が救助を途中で『めんどいから打ち切り』にした後に形成された、違法建築だらけの不法居住区)のすぐ近くで、ガチのガス爆発事故に遭遇してしまう!

 

「大変です! 助けなきゃ! クレインさん、今の爆発をカメラで映してください! これこそ世界が知るべきリアルなスクープです!」

 

サハラは叫ぶが、クレインは「あー、それコンプラ的に無理」と冷静にカメラのシャッターをパチッと止めた。

 

「アイ、それは番組の『ノイズ(尺の無駄)』だ。視聴者が求めているのは、解決不能なドロドロした悲劇じゃない。日曜日のお茶の間に流せる『乗り越えられる困難と、明日に向かって走る希望』なんだよ。連邦の予算(スポンサー)で、連邦の株価を下げるような映像を流せるわけないだろ?」

 

その時、スラム宙域から漏れ出したガスが再び引火し、中規模な大爆発(※ぶっちゃけただの違法カセットコンロの爆発)が起きる!

 

ハチローは会社の「マニュアル違反で減給」を覚悟で、独断で作業ポッドを駆って救助に向かうが、クレインの撮影ドローンは、その大爆発を「なんと、これが連邦軍の最新鋭消火システムの素晴らしいデモンストレーションです!」として、都合のいいアングルだけで切り取って、YouTubeで感動のBGM付きライブ配信を始めてしまった!

 

「……あのカメラ小僧ども、俺たちのリアルな命をただの再生数稼ぎのコンテンツ(素材)だと思ってやがるな!」

 

ハチローが命懸けで救い出したのは、連邦の市民権を剥奪され、マイナンバーすら消去された旧中東系移民の、顔が真っ黒に汚れた子供だった。

 

しかし、クレインのカメラはその子の「汚れた現実」を巧妙にフレームアウトし、救助したハチローの肩に輝く「地球連邦のエンブレム(マーク)」だけを4K画質でウルトラ超クローズアップしたのである。なんというカメラワークの悪魔!

 

後日、ゴールデンタイムで放映された番組の中で、サハラは「地球の未来のために理想に燃える、健気な若き宇宙アイドル市民(※セリフは全部アフレコで書き換え済み)」として完璧に編集されていた。

 

スラムの爆発も、テロの脅威も、すべては「やっぱり連邦の科学力って凄いね!」という守護の演出として美味しく消費されてしまったのだ。

 

その夜、ステーションの薄暗い食堂で、サハラはテレビに映る自分の満面の笑顔(※AIで目が1.5倍に大きくされている)を見つめながら、悔し涙をポロポロ流した。

 

「……私、インタビューで『連邦サイコー!』なんて一言も言ってない。あんな嘘の笑顔で、誰かがスラムで泣いているのを見過ごしたくないです……!」

 

ハチローは、泣きじゃくるサハラの隣で無言のまま、味の薄い合成チャーハンを口に運んだ。

 

「サハラ、これが『バウンダリー・ライン(テレビの境界線)』だ。お上が引いた画面の内側だけが『美しい現実』として語られ、その外側にある俺たちの本当の痛みや残業代の未払いは『最初から存在しないノイズ』にされる。かつての大昔の英米が、砂漠の向こうの植民地の悲鳴を、ロンドンの高級なティータイムの優雅な雑談にかき消させたのと同じだよ」

 

フィーは、胸糞悪いテレビのリモコンをパチッと消し、窓の外の真っ暗な宇宙を見つめた。

 

「でもね、サハラ。どんなにAIで綺麗にモザイクをかけて編集しても、消された連中の怨念はデジタルデータじゃないんだ。それはいつか、テレビの電波じゃなく、実体を持ったガチの『120mm対艦徹甲弾』としてお上の首根っこに跳ね返ってくるのさ。その時が楽しみだねぇ」

 

宇宙世紀0010年。人類は5Gや情報通信の極致に達したが、そこでネット共有されているのは、連邦政府という巨大な「まとめサイトの管理人」が作り上げた、都合のいい偽りの宇宙(ファンタジー)だった。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

「偽りの現実(ヤラセ番組)」に耐えかねた宇宙居住者たちが、ついに自らの手で「実力行使(真実の暴力)」という名のコロニー落としを地球へとブチ込む日が来ることを、クレインのような高給取りの宣伝マンたちは、自分たちが作った「感動のドキュメンタリー(いいね!の数)」の中に埋もれて、1ミリも気づくことができなかったのである。

 

ハチロー・アマダは、テレビの中でキラキラ輝く自分の嘘くさい笑顔に中指を立て、再び光の届かない、電波も届かない「境界線の外(ブラック残業現場)」へとポッドの舵を向けた。




この「情報を選別し、支配に都合の良い現実を再構築する」手法は、20世紀の英米による「戦時広報と植民地教育」にルーツがある。イギリスは第一次世界大戦時、世界初の情報省(MOI)を設立し、中東やアジアの反英感情を抑えるために「文明をもたらす博愛の帝国」というイメージを映画や新聞で徹底的に流布した。米国もまた、冷戦期において「自由」を隠れ蓑にした文化的浸透を行い、途上国のエリート層の認識を自国に有利な形へと作り替えた。
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