機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0010年、冬。地球連邦政府が「宇宙移民は大成功! みんなハッピー!」とテレビで華やかにプロパガンダを流す陰で、低軌道上のデブリ課ステーションは、慢性的な物資不足(主に美味いつまみの不足)と連邦の「配給管理(ケチな仕送り)」に激しく喘いでいた。
そんな世知辛いある日、ハチローとフィー、そしてサハラは、ステーションの片隅の倉庫で、怪しい光を放つ自家醸造装置(※見た目はほぼ爆弾)の前にしゃがみ込むベテラン技術者、ギガムのおっさんと出会う。
「ハチローさん! これ、宇宙法違反じゃないんですか!? 確か社内規則で『合成ウーロン茶以外のアルコール類の持ち込みは一発クビ』って書いてあったはず……!」
サハラがコンプラの塊のような顔で困惑する中、ギガムのおっさんは錆びた蒸留器を愛おしそうにスリスリ撫で回した。
「宇宙法? ああ、あの連邦の偉い奴らが作った『お前らはカルピスでも飲んでろ令』のことか。あいつらは自分たちの高級パーティでロマネコンティをガブ飲みしてるくせに、現場の俺たちにはビタミンCを無理やり混ぜたクソ不味い合成ノンアル炭酸水しか与えない! これは、俺たちの『社畜としてのプライド(五臓六腑)』を取り戻すための、命懸けの宅飲み(抵抗)なんだよ!」
そう、宇宙世紀の地球連邦政府は、この「胃袋(お腹の満足度)による支配」を宇宙規模に意地悪くアップデートしていたのだ。
連邦は地球の豊かな自然物(本物のビール、本物の肉、本物のタバコ)を一等市民だけの「ご褒美(恩寵)」とし、宇宙居住者には管理しやすくて日持ちする「謎の合成プロテインとカロリーメイト」を強要する。
かつて大昔にイギリスの偉い人が、お茶の税率をめちゃくちゃ高くして「文句言うな、黙って紅茶を飲め」と植民地のアメリカと大喧嘩(ボストン茶会事件)したように、連邦もまた「宇宙での健康と安全のためだからね!」を名目に、宇宙市民から地球の美味いB級グルメとの繋がりを強制遮断。システムへの完全な従属(お上の犬化)を強いているのである。食べ物の恨みは怖いんだぞ!
そんな作業の合間、ステーション内で「ウー」と警報が鳴り響き、小規模な火災が発生する!
原因は、ギガムのおっさんが「よっしゃ、アルコール度数チェックだ!」とライターで火をつけたら、漏れ出していたエタノールに引火したという、ただのうっかり大惨事だった。
現場にすっ飛んできたのは、連邦の「生活管理官(ライフ・コーディネーター=要するにお上の厳しい風紀委員長)」たちだ。彼らは消火活動もそこそこに、ギガムのおっさんのささやかな大人の趣味を「これ、液体爆弾だろ! テロ準備行為として逮捕する!」と過剰に摘発し始めたのである!
「見てみろよハチロー……これが連邦の言う『クリーンな秩序』の正体だ。あいつらは、俺たちが仕事終わりに一杯やって『プハァー!』って自分を喜ばせることすら許さないんだよ!」
ギガムのおっさんは容赦なくお説教部屋へと拘束され、丹精込めて発酵させた密造酒(時価:おっさんの魂)は、危険な化学廃棄物として宇宙へポイ捨てされる処分が決まった。
そして、不運なことに船外活動中だったハチローが、お上のインカム越しに「今すぐその液体をバルブから排出(クリーンアップ)しろ」と冷酷に命じられたのである。
「ハチローさん、捨てないでください! それはギガムさんが、故郷の秋葉原の居酒屋の味を思い出そうとして作った……たったひとつの心のオアシスなんです!」
サハラが涙ながらにインカムで懇願するが、ハチローは奥歯を噛み締めながら、無言で作業ポッドのバルブを「カチッ」と開いた。
プシューッ! と真空の闇の中に霧散していく、ガチで度数の高そうな液体の粒。それは遠い太陽の光に反射して、一瞬だけ高級なダイヤのようにキラキラ輝き、次の瞬間にはただの宇宙のデブリ(水分)となって消え去った。
「サハラ、あいつら連邦にとって、俺たちの『仕事終わりの一杯(願い)』は、システムの稼働率を下げるただのバグ(不安定要素)でしかないんだよ。大昔の英米が、植民地の民が夜中に集まって楽しそうに歌を歌うのを『あいつら反乱の作戦会議をしてるぞ!』ってビビって禁止したのと同じだよ」
その日の夜、デブリ課の薄暗くて換気扇の音がうるさい汚い休憩室。
彼らは、フィーがブラジャーの隙間に隠し持っていたという最後の1本の「本物のタバコ(※なお、お上の検問をくぐり抜けたためシワシワである)」を、フィーとハチローの二人で「一吸い交代な」と回し吸いしていた。
シュボッ。一瞬だけ、換気扇の唸る部屋に、合成の消臭剤ではない「本物のタバコの煙」の香りが漂う。
「……ねえハチ。あたしたちは、いつまでこの『お上に禁煙スペースを指定された宇宙』で、あいつらの飲み残しの空き缶を拾い続けるのかねぇ」
フィーの気怠そうな問いに、ハチローは答えず、窓の外の青く輝く地球をじっと見つめた。そこには、美味いラーメンも、冷えた生ビールも、すべての理不尽な贅沢の源泉があり、同時に彼らのような低月給の清掃員が二度と帰ることのできない、手の届かない楽園(タワマン)が浮かんでいる。
「……木星に行けばさ、サハラ。そこには連邦のケチな配給マニュアルも、風紀委員もいないはずだ。俺は、いつかあそこで自分たちの手で耕した芋から作った芋焼酎を、誰にも『密造だ!』って怒られずに、一晩中ダラダラ飲みたい。ただ、それだけなんだよ」
宇宙世紀0010年。人類は宇宙に完璧な秩序をもたらしたが、それは個人の「週末の楽しみ」を容赦なく生ゴミ(デブリ)として処理していく、冷徹な「配給制の平和(禁酒法)」だった。
一年戦争まで、あと69年。
「自分たちの晩酌(生活)を自分たちの手に取り戻す!」という、一見めちゃくちゃささやかな新橋のサラリーマンのような願いが、やがて「こんなお上の管理体制、一回ギレン・ザビ総帥に頼んでリセットしてもらおうやァァァ!」という巨大な独立の炎(ジオン軍)へと変わり、地球圏すべてを焼き尽くす軍事蜂起へと繋がっていくのを、この時のハチローは「あー、頭痛い。明日ウコンの力買ってこよ」としか思っていなかったのである。
ハチロー・アマダは、最後の一吹きの煙を思いっきり吸い込んで激しくむせ返りながら、再び漆黒の作業場へと意識を向けた。
そこには、明日もまた、連邦の偉い奴らがどんちゃん騒ぎした後に捨てた、無数の高級ワインの空き瓶(デブリ)がプカプカと漂っている。
この「生活に不可欠な嗜好品や食料を国家が管理し、統治の道具とする」手法は、18世紀から19世紀にかけてイギリスが行った「東インド会社による独占貿易」や「塩の専売」にその原型がある。彼らはインドやアジアの民に対し、生活に必須の物資に高額な税を課し、自国の供給網に従う者だけが生存できるシステムを構築した。