機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0010年、春。月軌道上の巨大ドック「ラビアンローズ(※お高い機体ばっかり直すセレブな修理工場)」に、一人のガタイの良すぎる男が降り立つ。ハチローの親父、ゴロー・アマダである。
彼はかつて西暦末期の火星探査で「うおおお! 火星の砂美味い!」と叫んで英雄となり、現在は連邦政府が全予算をジャブジャブ注ぎ込む木星往還船「ジュピター・ワン」の、主機エンジン開発兼パイロット候補としてお上に呼び出されていたのだ。
「親父……。あんた、またあのエアコンの効きが悪そうなバカでかい鉄の塊に乗るつもりかよ」
久しぶりに再会した息子に対し、ゴロー親父はガハハと豪快に笑いながら、建造中の巨大な核融合スラスター(※男のロマンの塊)を見上げた。
「ハチ、これはただの船じゃねえ。人類が『毎月の家賃と重力』から解脱するための聖なる塔だ! 連邦の官僚どもは自分たちの利権(ポケットマネー)のためにこれを作らせてるが、俺たちはこれを使って、あいつらのケチな想像もつかない遠いフリーWi-Fiの宇宙へ行くんだよ!」
だが、その「聖塔」の建造現場は、連邦政府の強引な予算執行(※他の中東支援予算とかを『木星行くからナシね!』と全額カット)と、それに怒り狂った弃民テロリストたちに対する厳戒態勢によって、さながら「入るだけで職質される巨大な軍事要塞」と化していた。
そう、ジュピター・ワンに使用されている最先端テクノロジーの多くは、かつて大昔にイギリスやアメリカの軍事産業を裏で支えた巨大資本(のちのアナハイム・エレクトロニクス社的な奴ら)が独占的にパーツを供給して大儲けしていたのだ。
地球連邦政府は、この「科学の覇権(特許利権)」を木星開発において完璧に完成させていた。
連邦は木星を「人類最後の希望の星!」とパンフレットで大々的に定義することで、旧産油国や途上国への人道支援予算(お見舞金)をすべて「木星へのガソリン代」へと勝手に転用。
かつて英米が圧倒的な軍事力で「今日から俺たちのルールね」と世界の法律を書き換えたように、連邦もまた、圧倒的な推力(パワー)を持つジュピター・ワンをこれみよがしに誇示することで、宇宙世紀における連邦一極支配(お上のワンマン経営)の恒久化を目論んでいるのである。大人の政治は汚い!
ハチローとサハラは、ゴロー親父の「ちょっと裏口から入れちゃうぜ」という怪しい案内でジュピター・ワンの最深部へと足を踏み入れる。
そこには、連邦の公式取扱説明書には絶対に載っていない、大昔の「旧式の核ミサイル」のガワをそのまま転用した、物騒極まりない予備ブースターがズラリと並んでいた!
「おい親父、これ……核弾頭のパッケージをそのまま流用してんじゃねえか! 爆発したらどうすんだよ!」
「ガハハ! 連邦のケチな上層部はな、余った核兵器のゴミ処分と宇宙開発のコストカットを同時にこなそうとしたのさ。エコだろ? かつて大昔の英米が、砂漠のど真ん中で核実験をバリバリ繰り返しながら『平和のための原子力(アトム・フォー・ピース)』って笑顔で説いたのと同じだよ。使えるものは何でも使うのがアマダ家の家訓だ!」
その時、ドック内で「ドガァァァン!」と間の悪すぎるタイミングで爆発が発生する!
反連邦組織「宇宙防衛戦線」の潜入工作員のお兄さんたちが、ジュピター・ワンのメイン・PCをぶっ壊そうと仕掛けたハッキング&爆破テロだった。彼らにとって、このピカピカの船は「全人類の希望」などではなく、自分たちを永遠に月面のブラック炭鉱へ縛り付け、資源を独占し続ける「暴政の象徴(お上の自社ビル)」だったのだ。
ゴロー親父はフランクフルトを片手に持ったまま冷静に、ハチローをアゴで使って消火活動(バイト)にあたる。
親父はテロリストたちの「連邦のバカヤロー!」という叫びを、ちょっと切なそうな目で見つめていた。
「あいつらの言い分は100%正しい。だがな、ハチ。ロケットが火を噴いて時速マッハで加速する時、そこに正義なんていうめんどくさい書類は残っちゃいねえ。残るのは、この強烈なG(加速)に耐える筋肉と、『絶対に目的地へ行くぞ!』っていう男の意志だけだ!」
結局テロは親父の消火器一発で鎮圧されたが、ジュピター・ワンの建造スケジュールは、お上の「メンツのために明日までに作れ!」という超強硬なデスマーチで進められることが決まった。
連邦政府は、この事件をいいことに「宇宙における治安維持法(=要するにお上の悪口をSNSに書いたら一発逮捕令)」を強化。デブリ回収業者を含むすべての宇宙労働者への監視(スマホのGPS常時ON)をさらに強めたのである。
後日、ドックから離れるボロ作業艇の中で、ハチローは父が「お土産だ」と渡してきた設計図のコピーを見つめていた。
そこには、連邦の命令系統を完全にシカトして、いつか太陽系の外側へとバックレるための、秘密の「裏ルート加速計算」が落書きのように書き込まれていたのだ。
「サハラ。親父は、連邦の予算を都合よく利用して、誰もいない本当の宇宙へ行こうとしてるんだ。俺たちとは、有給休暇の使い方の覚悟の桁が違うな……」
サハラは、窓の外で遠ざかるジュピター・ワンの、金がかかってそうな巨大なシルエットを見つめた。
「でも、あの船のパーツを作るために、どれだけの現場のボーナスがカットされて消されてしまったんでしょうか……」
宇宙世紀0010年。人類の夢を乗せたロケットは、かつて大昔の英米から引き継がれた「覇権(お上のエゴ)」の歴史を燃料にして、高く、より高く昇っていく。しかし、その強烈な噴射炎は、月面に取り残された低所得者たちの絶望を焼き焦がし、暗黒の情念(ドロドロした愚痴)をさらに深くネットの掲示板に沈殿させていくのだ。
一年戦争まで、あと69年。
「フォン・ブラウン(※かつてナチスのヤバいミサイル兵器を作って、戦後はアメリカの月面着陸を支えた、天才だけどやってることがチャキチャキの科学者の名前)」という名を持つその月面都市で生まれし船が、人類を救うのか、あるいはさらなる地球へのコロニー落としの加速器となるのかを、この時のハチローは「親父、また実家の鍵をかけ忘れてたな」としか思っていなかったのである。
ハチロー・アマダは、父の背中(とバキバキの筋肉)を追いかけるように、自分の中に眠る「木星への、美味いメシへの飢え」を静かに再確認し、バケツの雑巾を絞った。
この「科学的探求という美名の下で、軍事的な覇権と資源独占を推し進める」手法は、20世紀の英米による「マンハッタン計画」や「アポロ計画」、そして冷戦期の「戦略防衛構想(SDI)」にその原型がある。彼らは「全人類の進歩」を謳いながら、実際には天文学的な予算を軍産複合体へと流し込み、他国が追随できない圧倒的な技術的格差(テクノ・ギャップ)を固定化した。