機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
宇宙世紀0010年、夏。木星往還船「ジュピター・ワン」の第二次乗員選抜試験(=要するにお上の超エリート出世コース)の通達が、どういう風の吹き回しか異例の形で弱小デブリ課に届く。
それは、現場での「ガチなデスマーチ経験」を重視するという名目の下、ハチロー・アマダに名指しで送られた臨時の特別招待枠(※ただし交通費は自己負担)だった。
「ハチ、勘違いするんじゃないよ。これはチャンスなんかじゃない。連邦のお偉いさんが、自分たちの都合のいい『底辺から這い上がった感動のドキュメンタリー用の英雄』を欲しがっているだけさ」
チームのサイフを握るフィーは冷ややかに言い放つが、ハチローの心は既に「受かったら基本給が3倍……!」と試験会場へロケットスタートで飛んでいた。
しかし、いざ高級なホテルのような会場に足を踏み入れた彼を待っていたのは、連邦軍士官学校を首席で出たピカピカのエリートたちによる、「おいおい、作業着の匂いが移るぜ」という無言の超絶ナメ腐った蔑視だった。
「へえ、デブリ拾いの一般職が、木星の超ハイテク核融合エンジンを理解できるのかい? 君たちが宇宙で学んだのは、せいぜいゴミの効率的な分別方法だけだろう?」
試験官たちがドヤ顔で突きつける適性検査の設問は、宇宙工学の知識以上に、「連邦政府のワンマン経営に対する絶対的なイエスマン度」を測るための、高度に政治的な心理トラップ(=要するに『お上の言うことは白でも黒』と答える社畜テスト)に満ちていたのだ。
そう、ハチローが直面している「選抜(マウント格付け)」の仕組みは、かつて大昔にイギリスやアメリカの偉い人たちが自国のエリート統治機構を維持するために開発した学歴選別システムを、さらに冷徹に洗練させたものだった。
連邦は、幼稚園の頃からお高い塾に通って高度な教育を受けられる富裕層や軍上層部のお坊ちゃまに絶対有利な試験制度を構築。
かつて英米が、自分たちの白人至上主義的な価値観に100%染まったエリートだけを植民地の冷酷な管理者(総督)として育成したように、連邦もまた、木星というゴールドラッシュの新天地へ向かうプラチナ切符を「連邦の社畜システムに最も適合した新人類(都合のいいエリート)」だけに制限しているのである。現場をナメるなよ!
そんなお受験選抜試験の後半、高重力(G)下での緊急回避シミュレーション試験が行われる。
運の悪いことにハチローがペアを組まされたのは、さっきまでハチローを「ゴミ拾い」と激しく蔑んでいた連邦軍の若手エリート、ハキムという名の超高慢なお坊ちゃまだった。
シミュレーション中、お上の設定ミス(あるいは試験官による『ちょっと意地悪して負荷を上げてみよう』という嫌がらせ)が発生し、ハキムの乗る高級シミュレーター機が完全に制御不能の暴走状態に陥る!
「うわあああ! ブレーキが効かない! パパ助けて!」とパニックになるエリートハキム。
ハチローは、「チッ、これだから温室育ちは!」と舌打ちすると、教科書には絶対に載っていないデブリ課特有の「そこらのゴミの重力を利用したスイングバイ航法(※力技)」を応用し、ハキムの機体を強引にワイヤーで引っ掴んで救助したのである!
「……なぜ助けた。君の試験スコアは、私の救助に時間を割いたせいで大幅に減点されたはずだ。効率の計算を考えれば、私のような無能(不合格者)を切り捨てて自分の試験を続行し、ポイントを稼ぐべきだったろう!」
息をハァハァ切らしながら救助されたハキムの問いに、ハチローはヘルメット越しに強烈な苛立ちをぶつけた。
「効率だのスコアだの、知ったことかァァァ! 目の前で誰かがリアルに死にかけてる時に、頭の中で『損得のブレーキ』をカチカチ動かしてるような奴を、俺は一人の『宇宙乗り(プロ)』とは絶対に認めねえんだよ!」
そのハチローの熱い説教は、試験会場のカメラで監視していた連邦の心理学者(お堅い先生方)には「協調性のない、情緒的不安定な危険人物」とバッサリ判断されたが、ジュピター・ワンの計画総責任者であるロック・スミス(※のちにガンダム開発とかで裏金を作る予定の怪しい男)のニヤリとした顔には、違った意味で深く響いていた。
そして運命の試験結果発表。ハチローに届いたのは、合格でも不合格でもない「保留(=要するにキープ、補欠)」という、一番モヤモヤする曖昧な判定だった。
一方、ハチローに命を救われたはずのハキムは、実家のパパのコネの力で、何事もなかったかのようにトップの成績で「合格」の画面を表示させていた。
連邦にとって、ハチローの天才的な現場技術は「いざという時に使い潰せる有用なデブリ(予備)」としてストックされ、彼の反抗的な性格は「要矯正ブラックリスト」に登録されたに過ぎなかったのである。格差社会が憎い!
ステーションのボロオフィスに戻ったハチローを、サハラが心配そうに迎える。
「ハチローさん……。試験、どうだったんですか? スーツ、ちょっと焦げてますけど……」
「……サハラ。あそこは宇宙(ソラ)じゃなかったよ。あそこは、連邦っていう巨大なブラック企業の計算機の中だ。俺たちが毎日拾ってる宇宙のゴミよりも、あいつらの頭の中の選民思想の方が、よっぽどドブ川のゴミ溜めだよ」
ハチローは、スマホの画面に映る不合格通知にも似た「保留」の文字をフイッと消し、漆黒の窓の外を見つめた。
そこには、連邦のケチな選別から漏れ、地球の重力(家賃と税金)に縛り付けられた数万人の「不適合者(一般市民)」たちの灯火が、切ない地球の夜景として広がっていた。
宇宙世紀0010年。人類は木星へ向かう輝かしいスター(英雄)を選び始めたが、そのお上の傲慢な選別こそが、後に「地球に住む特権階級(エリート)」と「宇宙のボロアパートに棄てられた民(スペースノイド)」の、修復不可能なギガント級の分断を決定づける運命のターニング・ポイントとなった。
一年戦争まで、あと69年。
「お上に選ばれなかった負け組たち」のドロドロした怒りは、やがて「自らを進化せしニュータイプと定義した、ザビ家という名の過激な指導者」を求め、連邦の選民思想をそのままひっくり返した「ジオンの優生人類主義(宇宙市民の方が偉いんだよォォォ!)」へと姿を変え、地球を恐怖のどん底に陥れる血塗られた宇宙戦争の歴史を刻み始めることになるのを、ハチローは「とりあえず、不合格でも交通費だけは経費で落とさせろよな、フィー」としか考えていなかった。
ハチロー・アマダは、保留の通知画面を握りしめ、自分に誓った。
「選ばれるのを待つ社畜で終わってたまるか。俺が、俺自身のこのレンチと腕一本で、木星への誰も文句の言えないルートを掴み取ってやる!」
その瞬間、ハチローの物語は、ただのゴミ拾いシステムの末端から、宇宙世紀の歴史を裏で動かす大渦の中へと、ガリガリと大きく舵を切り始めたのである。
この「特定の基準に基づき人間をランク付けし、上位層に特権を与える」手法は、20世紀初頭の英米における「優生学(eugenics)」や、初期の「IQテストによる人種・階級差別」にその根源がある。彼らは、生まれや環境の影響を「個人の能力(遺伝的素質)」という言葉で隠蔽し、社会的な成功を「適者生存」の結果として正当化した。