機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

16 / 23
イグニッション、あるいは独占の炎(※ただしハチローが耐えているGは、遊園地の絶叫マシンを3倍速にしたレベルである)

宇宙世紀0010年、冬。月軌道上にある、入るだけで筋肉痛になりそうな連邦軍の超スパルタ訓練センター。

 

ハチロー・アマダは、ジュピター・ワンの最終乗員選抜を勝ち抜くため、連邦軍から提供された高機動訓練機(※ぶっちゃけ超高速で回転するだけの拷問観覧車)による、極限の加速試験(G耐性テスト)に臨んでいた。

 

「おいハチロー、さらに0.5G上げるぞ。三半規管が限界で吐きそうならそこにある『ギブアップ・レバー』を引け。お前が辞めても、次の低月給の身代わり(候補)はハローワークにいくらでもいるんだ」

 

試験官であり、絶対裏で悪いことしてる顔のロック・スミス教官の声が、ノイズ混じりのインカムから冷酷に響く。

ハチローの視界は、強烈な重力加速度(G)によって周囲が真っ暗になる「ブラックアウト(※というか気絶の一歩手前)」寸前だった。

 

彼が全身の筋肉をバキバキに硬直させて耐えているこの凄まじい「力」は、木星のヘリウム3を独占し、地球圏のエネルギー利権(電気代)を完全に掌握しようとする連邦政府の「めちゃくちゃ強欲な物欲の質量」そのものだったのである。ハチロー、顔の皮が後ろに引っ張られて凄い顔になってるぞ!

 

その頃、デブリ課のボロステーションに残されたサハラは、最近様子がおかしいハチローの激しい変貌(というか仕事中毒っぷり)に、めちゃくちゃ戸惑っていた。

 

「ハチローさん……最近、お昼ご飯のメニューのことより『いかにGに耐えるか』の姿勢のことばかり考えてるんです。まるで、自分自身がロケット花火になってどこか遠くへ飛んでいっちゃいそうで、私、心配です……」

 

それもそのはず、ジュピター・ワンに搭載された「タンデム・ミラー型核融合エンジン(※名前はめちゃくちゃカッコいい)」は、連邦政府の直轄天下り企業がすべての特許をガチガチに握る、文字通りの宇宙エネルギー覇権テクノロジーだったのだ。

 

地球連邦政府は、このかつての西暦時代の「石油利権(ガソリン代)」を、宇宙の「ヘリウム3利権(お上の電気代)」へと都合よくスライドさせていた。

 

つまりジュピター・ワンは、単なる「宇宙の神秘を探るぜ!」というロマンあふれる探査船ではない。

 

それは、中東や旧発展途上国が必死に持っている地上資源(古いエネルギー)を一瞬で無価値のゴミにし、連邦が100%管理する月や木星のニュー資源へと、全人類の財布(生命線)を強制的に繋ぎ変えて大儲けするための「点火装置(イグニッション)」だったのだ。

 

かつて大昔の英米が、石油の輸送ルート(シーレーン)を守るためにデカい空母艦隊を派遣してプレッシャーをかけたように、連邦もまた、木星航路を自分たちの「内海(プライベートプール)」にするために、文句を言わずにアクセルを踏み続けるハチローのような有能な「社畜パーツ」を血眼になって求めているのである。エリートの考えることはスケールがデカくて汚い!

 

そんなブラック訓練の最中、月面都市フォン・ブラウンのエネルギー貯蔵庫(ガスタンク)で、反連邦組織「宇宙防衛戦線」による大規模な自爆ゲリラテロが発生する!

 

彼らは、木星開発のピカピカの恩恵から「お前らはお留守番ね」と冷酷に切り捨てられた、南米やアフリカ系移民の可哀想な末裔たちだった。

 

「連邦の豪華なエンジンが点火されるたびに、俺たちの貧しい故郷は歴史から忘れ去られるんだ! この爆発の炎は、俺たちの絶望の怒りの光だァァァ!」

 

テロリストたちのお決まりの叫びを、ハチローは訓練機のモニター越しに、無機質なサーモグラフィ(赤外線の熱源反応)として、ただ淡々と眺めていた。

 

かつての熱い彼なら「何やってんだあいつら!」と憤りを感じたはずのド派手な光景が、今の彼にとっては、スマホの画面の向こうの遠い世界の出来事のようにしか感じられない。今の彼の脳内は、エンジンの燃焼効率のパーセンテージと、木星までの最短ルートの算数の計算だけで100%埋め尽くされていたのである。完全に受験生の脳みそだ!

 

過酷な訓練が終わった後、ロッカールームでハチローは、ライバルのエリート・ハキムと再会する。ハキムはプロテインをシェイクしながら、冷淡に告げた。

 

「アマダ、君がその連邦のエンジンに火をつける時、君は連邦の『利権独占の共犯者』になるんだ。かつて英米の軍需産業にホイホイ加担して爆弾を作った天才科学者たちが、『自分の大発見がどこに落とされるか』を100%知りながら、『俺は研究がしたいだけだから』って都合よく目を逸らしたようにな」

 

ハチローは何も答えなかった。ただ、自らのゴツい手が、レバーの握りすぎで血が滲むほど真っ赤になっていたことだけを、プロテインの匂いの中で静かに自覚していた。

 

そしてついに、ハチローはデブリ課の面々に「俺、次のステージに行くから」と別れを告げる。それはただの「おめでとう昇進!」ではなく、連邦の巨大な国家システムの深部へとズブズブに飲み込まれていく、チームとの切ない「決別」の儀式だった。

 

「フィーさん、サハラ。俺は、あのデカい船に乗るよ。あそこまで加速して飛べばさ、地上のケチな残業代の計算も、お上のうるさい騒音も何も届かない。エンジンが唸る加速の音だけが、俺の本当のリアルなんだ」

 

フィーは無言でシワシワのタバコに火をつけ、サハラは荷物をまとめて去っていくハチローの広い背中に向かって、涙をグッと堪えながら、絞り出すような声で言った。

 

「……ハチローさん。宇宙は、見上げればみんなにとって一つしかないのに、どうして、みんな別々の方向を向いて、誰かを弾き飛ばすために点火しちゃうんですか……?」

 

宇宙世紀0010年。ジュピター・ワンの超巨大エンジンに、ついに運命の火が灯る(イグニッション)。

 

それは人類の輝かしい新たなフロンティアを照らす希望の灯火であると同時に、大昔の英米からしぶとく引き継がれた「資源独占(ボロ儲け)」という名の戦争の火種を、太陽系全土へとばら撒く大迷惑な業火でもあったのだ。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

ハチロー・アマダが「お上のルールからバックレたい!」と掴もうとした社畜からの自由は、連邦政府の「全宇宙を支配してやるぜ!」という名の強固な外装(シートベルト)にガチガチに包まれ、誰にも止められないマッハの加速を始めてしまったのである。ハチロー、スピード違反で捕まるなよ!




この「特定の資源と技術を独占し、それを利用する全ての国家を従属させる」構図は、20世紀に英米が構築した「石油メジャー(セブン・シスターズ)による支配」に端を発する。彼らは中東の油田を支配し、ドルの決済通貨としての地位を確立することで、他国の発展を蛇口一つでコントロールした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。