機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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デブリの街、あるいは見捨てられた区画(※なお、ギガムが防護服の継ぎ目をテープで補強していた時、間違えてお気に入りの『スナックの割引券』も一緒に貼り付けていた)

宇宙世紀0010年、春。月軌道上の主航路(お上の大通り)は、往還船「ジュピター・ワン」のド派手な出港を100%祝うための、黄金色のエレクトリカルパレードみたいなイルミネーションで埋め尽くされていた。

 

しかし、ハチローはそのお祭り騒ぎのうるさい喧騒を逃れるように、型遅れのボロシャトル(※エアコンが死んでてめっちゃ寒い)にコソッと乗り込み、お上の公式マップからは「こんな不採算な場所、無かったことにしてね!」と半分消されかけているセクター「ダウン・軌道」へと向かっていた。

 

そこは、デブリ課が「効率化」の名の下にバッサリ解体された後、明日からの家賃と仕事がなくなった端役の労働者たちがゾロゾロと流れ着いた、通称「デブリの街(宇宙のドヤ街)」だったのである。

 

「……おう、ハチじゃねえか。お前、そんなお上の予算がたっぷり詰まったツルツルのピカピカな制服を着てこんなスラムに来るなんて、命知らずにも程があるぜ。ここではその黄金のワッペン一枚で、1年分の合成肉が買えるからな」

 

再会した元デブリ課の同僚・ギガムは、防護服の破れた継ぎ目をガムテープ(※一番安いやつ)でペタペタと補強しながら、自嘲気味にゲラゲラと笑った。

 

街のオンボロ空気清浄機は、まるで重度の喘息のおじいちゃんのような「ヒュー……ゴホッ」という怪しい音を立てており、薄い壁の向こう側からは、常に「シュー……」という微かな空気漏れの音が聞こえる。

 

そう、ここは地球連邦政府がドヤ顔で喧伝する「人類の輝かしい進歩!」という華やかな工場の裏口から、容赦なく排出された『生きた人間』という名のリアルな粗大ゴミ(デブリ)が溜まる、最悪の掃き溜めだったのである!

 

この「デブリの街」という名の地獄が発生したのは、決して偶然のトラブルなんかではなかった。

 

連邦政府が、経済的価値の低い(=要するにお金を持っていない)貧しい市民を特定の危険な宙域に強引に押し込め、インフラ整備の優先順位を常に「最下位(後回し)」に完全固定する、最悪の『居住区格付け政策(宇宙版レッドライニング)』を裏でコッソリ採用しているからなのだ!

 

宇宙世紀の地球連邦政府は、この「金のない奴から空気を奪う隔離政策」を、『生命維持コストの最適化』という冷たい大人の論理で宇宙空間にそのまま適用していた。

 

連邦は木星計画という「国家の金ピカのメンツ」に全予算を集中させるため、セクター「ダウン・軌道」のような古い居住区の酸素供給や、降ってくるゴミを防ぐデブリ防護シールドの定期メンテナンスの更新を「あ、そこ赤字だからカットね!」と容赦なく打ち切ったのだ。

 

かつて大昔の西暦の時代に、アメリカやイギリスの偉い人たちが、都市の内部に「ここは貧民街だから銀行の融資はストップね」という見えない差別の壁を築いたように、連邦もまた、地球の重力から解放されたはずの自由な宇宙において、経済力(お財布の厚さ)という名の「新しい見えない重力」によって、逆らう力のない人々を底辺へとガチガチに縛り付けているのである。お上のやることはどこまでもそろばん勘定だ!

 

ハチローは、街の薄暗い居酒屋(※出される酒の半分は密造酒)で、かつてデブリ課でともに泥まみれになって働いたサハラの噂を耳にする。

 

なんと彼女は、お上が用意した「地球に帰って大人しくしてれば、まともな仕事(事務職)を斡旋してあげるよ」という恩赦の書類を「ふざけないでください!」と目の前で破り捨てて帰国を拒み、このスラム化した危険な居住区で、たった一人で無償のデブリ回収ボランティアを続けているというのだ! サハラ、お前どこまでストイックなんだ!

 

「あの子は本当に大バカ野郎だよ。連邦の言うことを大人しく聞いてりゃ、重力のある地球で今頃ナウいOLにでもなれたはずなのにさ。今はあんな、いつ空中分解してもおかしくないツギハギのボロ作業艇で、街を直撃しそうな巨大なデブリを毎日命懸けで追いかけてるんだからな」

 

ハチローは、街の外殻に文字通りカサブタのようにへばり付くように存在する、貧しいボランティア・オフィスへと急いだ。

 

プシューと開いたドアの向こうには、連邦の支給品ではない、そこら辺のジャンクパーツでつぎはぎだらけに改造された宇宙服を着た、すっかり顔つきの変わったサハラが立っていた。

 

「ハチローさん……。その黄金のエリート制服、すごく似合ってますね。でも、そんな偉い人が、こんなゴミ溜めに一体何の用ですか? あなたが今いる場所は、ここから一番遠い、光り輝く未来の特等席のはずでしょう?」

 

サハラの瞳には、かつてデブリ課で「ハチローさん、お昼ご飯行きましょう!」と言っていた頃の、あの盲目的で無邪気な優しさは1ミリも残っていなかった。

 

彼女は、連邦のお上が綺麗に切り捨てた「冷たい現実」をその生身の目でハッキリと見て、自分の意志でレンチを握り直して戦うことを選んでいたのだ。

 

ハチローは、自分がこれから乗るジュピター・ワンの圧倒的な大推力(ガソリン)が、この街の綱渡りのような脆弱な生命維持の均衡を、一瞬でブチ壊しかねない「巨大な暴力」そのものである事実に、ここで初めて気づかされ、愕然とする。俺たちの乗るロケットは、こいつらの空気を奪って飛ぶのか……!

 

その時、オフィス内に「ウー! ウー!」と最悪の緊急警報が鳴り響く!

 

なんと、ジュピター・ワンがお上のドックでドヤ顔で行った「最終エンジンテスト」の凄まじい余波(爆風)によって、周囲に漂っていた微細なデブリの群れが「どけどけェェ!」と弾き飛ばされて超加速し、この「デブリの街」を正面からハチの巣にする直撃軌道へと突入したのだ!

 

しかし、連邦軍の管制レーダーは「あー、そこは公式マップに載ってないセクターだから『誤差の範囲(計算外)』ね。被害報告書書くのめんどくさいからスルーで」と、街を見捨てる決定を下したのである。使えねえな、お上のシステム!

 

ハチローは、自分の「選抜クルー」という最高ランクの特権を使って、軍の防空レーザーシステムを「これで街を救え!」と動かそうとするが、彼のIDはお上のセキュリティによって「木星計画専用」として厳格にガチガチに管理されており、スラムの古いインフラには一切アクセスできない仕様になっていたのだ! 役に立たねえゴールドカードだな、おい!

 

「……クソッ! 目の前でみんなが死にそうなのに、何一つ助けられないのか!? 俺は木星へ行く、連邦に選ばれた特別な人間なんだぞ……!」

 

「ハチローさん、もう諦めて自分のピカピカの船に帰ってください。お上に『選ばれた』あなたには……私たちみたいなゴミと一緒に、ここで泥まみれになって死ぬ権利さえ、最初から与えられていないんですから」

 

サハラはハチローの制服を振り返ることもせず、一人でボロ作業艇のハッチを閉め、宇宙の闇へと発進していった。

 

彼女がたった一隻で、迫り来るデブリの群れを必死にレンチとワイヤーで食い止めるその命懸けの後ろ姿を、ハチローは黄金の制服を着たまま、頑丈な防弾ガラスの向こう側から、ただ指をくわえて見守ることしかできなかったのである。

 

街はサハラのガチの職人技によって辛うじて壊滅を免れたが、ハチローとサハラの間に引かれた「エリートと棄民」という名の赤い線は、もはや修復不可能なほど深く、冷酷に刻まれてしまったのだ。

 

宇宙世紀0010年。人類は間もなく、木星という輝かしい新世界への扉をドカンと開こうとしている。

 

だが、そのまばゆい扉のすぐ足元には、連邦政府が歴史の塵として掃き溜めた「デブリの街」があり、そこには連邦の偉いエリート官僚どもが決して理解することのない、泥まみれの本当の勇気(プライド)が息づいていた。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

この「お上に綺麗に切り捨てられた居住区(スラム)」に溜まった労働者たちの凄まじい怨嗟(怒り)は、やがてサイド3(ジオン)の独立運動へと確実に伝播し、連邦という名の巨大なハリボテの建築物を、根底からひっくり返す革命の巨大な火種となっていく。

 

その火種は、ハチローたちが木星から必死に持って帰ろうとした「輝かしい未来」を、一瞬で灰にしてしまうほどの、凄まじい復讐の熱量を秘めていたのである。

 

ハチロー・アマダは、完全に沈黙したままボロシャトルに乗り込み、黄金の光に満ちたお上の主軌道へとトボトボと戻っていった。

 

彼のピカピカの背中には、暗黒の宇宙にポツンと沈む、スラムの寂しい街の灯火が、消えない冷たい焼き印のように、いつまでも痛烈に焼き付いていたのである。ハチロー、その黄金の制服、今のままだとただの『お上の操り人形』だぞ!




この「特定の居住区を意図的に荒廃させ、そこに住む人々の社会的上昇を阻む」手法は、20世紀の英米、特に米国における「レッドライニング(Redlining)」にその原型がある。銀行や政府機関が、マイノリティが多く住む地域の地図に「赤い線」を引き、融資やインフラ投資を拒否することで、意図的に貧困とスラムを生み出した。イギリスにおいても、産業構造の変化に伴い見捨てられた炭鉱町や工業都市の放置が、深刻な階級的分断を固定化した。
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