機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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仕事として、あるいは免責の荒野(※ただしハンコを押すのは自己責任である)

宇宙世紀0010年。

 

木星往還船「ジュピター・ワン」の第一次航海成功の熱狂が冷めぬ中、低軌道上のデブリ課(=月給20万の限界職場)には、連邦政府のお偉いさんから新たな通達が届いていた。

 

それは、デブリ回収作業における「二次被害の免責事項(※簡単に言うとお上が責任を取りたくない言い訳)」の更新だった。

 

「……要するに、作業中に事故が起きてあんたたちが宇宙のチリになっても、連邦は一切関知しない。すべて民間委託先であるブッホ社の自己責任だっていう、いつもの『二枚舌(=お上の大嘘)』さ。まったく、これだからお役所仕事は嫌なんだよ」

 

フィーが毒づきながら、電子タバコを噛み締める。その目は、今月の給料明細を見た時のように据わっている。

 

その日、デブリ課に下った任務は、軌道上に放置された古い「核熱ロケット・エンジン」の回収だった。宇宙世紀が始まったばかりの頃、お上が「早くみんな宇宙に引っ越ししろ!」と焦るあまり、安全基準を完全に無視して打ち上げ、案の定軌道上で暴走してそのままポイ捨てされた「負の遺産(=超巨大な粗大ゴミ)」だ。

 

「そんなの、危険すぎます! もし冷却材が漏れ出したら、近所のシャトルの窓ガラスが割れるかもしれないんですよ!?」

「サハラ、問題は窓ガラスじゃなくて俺たちの命だ」

 

サハラが的外れな抗議をするが、ハチローは無言で宇宙服(※この時代、まだ『ノーマルスーツ』というカッコいい名前はなく、ただのクソ重い耐圧作業着である)の気密チェックを続けていた。

 

「サハラ、これは『仕事(=生活費の稼ぎ口)』だ。俺たちがやらなきゃ、別のブラック業者がもっといい加減な装備で駆り出されて、全員全裸で宇宙を漂う羽目になるだけだ。そうなれば、被害(とネットの炎上)はもっと大きくなる」

 

ハチローたちが向かう宙域には、連邦軍の哨戒艇がパトロールがてら待機している。だが、彼らは決して手伝ってくれない。

 

ただ上空から「監視」し、問題が起きれば即座にハチローたちのポッドを「証拠隠滅」のために撃破し、被害を最小限に抑える「大人の処置」のためにそこにいるのだ。冷たい!

 

地球連邦政府はこの手法を、悪知恵の働くサラリーマンのように極限まで洗練させていた。

 

彼らは宇宙開発のあらゆる危険な泥仕事を民間企業に丸投げし、現場の労働者に、かつて中東の砂漠で戦わされた傭兵のような、労基も守ってくれない「命のギャンブル」を強いている。連邦にとって、デブリ回収員は「宇宙の英雄」ではなく、コピー機のトナーカートリッジのように、切れたら交換すればいい「使い捨ての部品」に過ぎないのだ。

 

現場に到着したハチローとサハラが見たのは、凍りついたまま漂う巨大なエンジンの残骸だった。かつてパンフレットで「人類の希望の光!」と謳われた初期型エンジンは、今やちょっと触れば大爆発しかねない、宇宙一危険なマインクラフトの爆弾と化している。

 

「よし、サハラ、慎重にロープをかけるんだぞ。絶対に『あ、手が滑った』とか言うなよ」

 

「分かってますって! 私だってプロの……あっ」

 

作業中、エンジンの配管が経年劣化でボロっと崩落! 冷却用の液体酸素がドバドバと噴出し、サハラのポッドを直撃した!

 

「ハチローさん! ポッドのレバーが効きません! このままじゃ地球に落ちて私のお肌が摩擦熱で大ピンチです!」

 

「サハラァァァ! お前やっぱりやらかしたな!」

 

サハラの悲鳴が無線に響く。だが、連邦の哨戒艇はサハラを救うどころか、「おい、あのポッドが地球に落ちたら、お偉いさんの住む高級住宅街に直撃するぞ」と計算。冷酷にも、主砲の照準をサハラのポッドに合わせたのである!

 

「待て! 撃つな! まだギリギリ回収可能だ! 俺の今月のボーナスがかかってるんだ!」

 

ハチハチ(ハチマキ)は叫ぶが、哨戒艇の指揮官は冷淡に答える。

 

「我々の任務は、連邦の資産と地上の安全(と、私の出世)を守ることだ。契約書の第14条を思い出せ。作業員の生存は保証されていないし、有給も認められていない」

 

「うるせえええ! 契約書なんて紙クズだァァァ!」

 

ハチローはマニュアルをシュレッダーにかける勢いで無視し、自らのポッドのガソリン(推進剤)を限界まで大噴射!

 

サハラのポッドに背後からロケット頭突き(体当たり)をかまし、強引にその軌道を変えた!

 

九死に一生を得たサハラだったが、ハチローのポッドは燃料を使い果たし、冷たい宇宙を「あ、これ詰んだわ」という状態でプカプカ漂うことになった。

 

結局、エンジンは爆発してチリになり、デブリ課の今回の仕事は完全に赤字(大損)となった。

 

ステーションに戻ったハチローを待っていたのは、連邦からの「ありがとう」の言葉ではなく、「燃料の無駄遣いに関する始末書」と、「私は今後お上に文句を言いません」という免責事項の再確認書類だった。理不尽!

 

サハラは、震える手で書類にハンコを押しつつ、ハチローに問いかける。

 

「……ハチローさん。私たちは、何のために、誰のためにこんな命がけの不審者みたいな仕事をしてるんでしょうか。連邦にとって、私たちはただの『予算内のコスト』なんですか?」

 

ハチローは、ボコボコに凹んだポッドのハッチをレンチでガンガン叩きながら答えた。

 

「サハラ、ここは宇宙だ。重力も酸素も、誰かが『無料サービス』で用意してくれたもんじゃない。大昔の英米が砂漠で油田を奪い合ったように、連邦はここを『書類で管理された戦場』に変えたのさ。俺たちが拾ってるのは、その戦場で使い古された空き薬莢(ゴミ)だ」

 

彼は、今日も遠くで神々しく輝く木星を見つめる。

 

「俺が木星に行きたいのは、あそこならまだ、連邦のめんどくさい『契約書』や『始末書』の郵送が届かないほど遠いからだ。あそこなら、お上のためじゃなく、自分の明日の飯のために命を使える気がするんだよ」

 

宇宙世紀0010年。人類は宇宙を新しい「職場」に変えたが、そこにはかつての地上と同じ、冷酷な資本主義のリアルと、上司の責任逃れの構造がギッチリ詰まっていた。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

「仕事だから仕方ない」という名の社畜精神は、やがて「お国のため」という名の強制(ギレン・ザビあたりの演説)へと姿を変え、人類をさらなる大赤字の戦火へと引きずり込んでいくことになるのを、この時の彼らは「今日の晩飯、奢ってくれません?」というサハラの能天気な一言にかき消されていたのである。




この「汚い仕事は民間に、果実は国家に」という構図の雛形は、20世紀後半の英米による中東政策にある。彼らは軍事介入の批判を避けるため、民間軍事会社(PMC)を多用し、戦場の実務と「汚れ」を外部化した。問題が起きれば契約を破棄してトカゲの尻尾切りを行い、成功すれば「国家の勝利」として喧伝した。
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