機動戦士ガンダム 宇宙世紀0010 重力より重い住宅ローンに魂を引かれた男 連邦軍の社畜、有給申請を宇宙の塵にされる   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

8 / 9
拠るべき場所、あるいは打ち捨てられた残滓(※ただし一番打ち捨てられているのはハチローの貯金である)

宇宙世紀0010年。人類初の木星往還船「ジュピター・ワン」の華々しいニュースがテレビで流れる陰で、低軌道上のデブリ回収作業(=月給20万の限界肉体労働)はより過酷さを増していた。

 

そんなある日、ハチローとサハラが遭遇したのは、完全にスピード違反の制御を失い、死の沈黙(※ぶっちゃけただのバッテリー切れ)を保ったままプカプカ漂流する古い民間救助艇だった。

 

「おいおい、なんだよこの船……って、中にいるの、まさかサシャさん!?」

 

その中にいたのは、ハチローが若かりし頃に「いいかハチロー、ゴミを拾う時は腰を入れろ」と仕事を教えてくれた元デブリ課のベテラン、サシャさんだった!

 

「……サシャさん! なぜこんなところで!? 引退して、お上からもらった年金で地球の高級特区でハワイアンな隠居生活を送っているはずじゃ……」

 

ハチローの問いに、サササ(サシャさん)は力なくフッと笑った。彼の身体は、長年の宇宙放射線(要するに強烈な日焼け)と低重力下での残業続きにより、もはや地球の重力に耐えられる状態ではなかったのだ。

 

連邦がパンフレットで約束した「宇宙開拓の英雄にはもれなく豪華な年金と地球のタワマン居住権をプレゼント!」という甘い言葉は、実際には「身長180cm以上、腹筋バキバキで病気一回もしたことない奴限定」という極めて厳しい条件をクリアしたエリートだけに限定されており、サシャさんのような「現場の使い捨ての平社員」には、戻るべきハワイ(地球)など最初から一ミリも用意されていなかったのである。世知辛い!

 

地球連邦政府は、この「釣った魚にエサはやらない」という収奪のサイクルを、宇宙規模で元気に再現していた。

 

連邦は「宇宙を開拓する君たちは英雄だ!」とポスターで労働者を騙して集め、彼らが身体を壊せば「あ、医療費高いから地球への着陸はNGね」と拒否。

 

かつてイギリスやアメリカの偉い人たちが、使い古した炭鉱夫を「あ、石炭の時代終わったからバイバイ」と切り捨てたように、連邦は宇宙の「清掃員」を、役目を終えた空き缶(デブリ)と同じように宇宙へポイ捨てし続けているのである。

 

サシャさんは、連邦の目が届かないブラックジャックのような「闇のモグリ医師」を探して、非合法な航路をナビなしで彷徨っていたのだ。

 

彼は、連邦がお上の面プライドのためにひた隠しにする「宇宙適応不全(space・sickness=要するに深刻な宇宙シック)」の末期症状を抱えていた。これを「労災」と認めちゃうと、連邦は移民計画の失敗を認めることになるため、患者は最初から「そんな奴はいなかった」として書類上データ消去されるシステムなのだ。隠蔽体質がすぎる!

 

「ハチロー、あいつらお上にとって、俺たちはジュピター・ワンとかいうクソ高いピカピカの船を輝かせるための『激落ちくん(研磨剤)』なんだよ。使い減りして、最後には粉になってシンクに流されるだけのな……」

 

その時、間の悪すぎるタイミングで連邦の税関パトロール艇(※一番関わりたくないタイプ)が接近してくる!

サシャさんの船は「車検切れの不法漂流物」として、強制撤去の対象となってしまった。連邦にとって、不都合な労災隠しを知っているベテラン労働者は、もはや回収すべき資源ではなく「お上のイメージを損ねる生ゴミ」扱いだったのだ。

 

「ハチローさん! サシャさんを連邦に引き渡せば、彼は書類の上で消されちゃいます! でも、見逃したら……!」

 

「チクショー、上等だ! 契約書なんかシュレッダーにかけてやる!」

 

サハラの叫びに、ハチローは奥歯をガタガタ噛み締めた。彼は、かつて英米の巨大組織が自国の不利益になる証人を「おっと手が滑った、事故だったね」として処理してきた汚い歴史をネットのまとめサイトで知っていた。

 

ハチローはマニュアルを即座にゴミ箱へポイし、自身の作業ポッドをサシャさんの船の前に割り込ませて「あー、すいません! バックミラー見てませんでした!」とパトロール艇のセンサーを全力で撹乱した!

 

「行け、サシャさん! お上の目が届かない、小惑星帯の裏側の無法地帯へバックレてくれ!」

 

サシャさんのボロ船は、闇に紛れてニトロ噴射(加速)し、星々の彼方へと消えていった。それが救いなのか、それともガス欠による死への旅路なのかは神のみぞ知るである。

 

静かになったコクピットで、ハチローはサシャさんから手渡された古い「デブリ課の紋章」を見つめていた。それは、かつて連邦が「みんなで宇宙を綺麗にしよう!」というプロパガンダのために作った、今はもう製造されていないメルカリでも売れそうにない安っぽいプラスチックのバッジだった。

 

「ハチローさん。サシャさんは、一体どこへ帰るんでしょうか……実家、ないんですか?」

 

「……サハラ、あいつらお上にとって、俺たちが帰る場所なんて、最初から一坪も用意されてないんだよ。地球も、月も、連邦っていう巨大な計算機の中じゃ『JMPの所有地』と『お偉いさんの別荘』で埋め尽くされてるからな」

 

ハチローは、遠くで輝くジュピター・ワンの、ガソリン代が高そうな航跡を見つめる。

 

宇宙世紀0010年。人類は宇宙に「マイホーム(拠るべき場所)」を求めたが、そこで見つけたのは、かつての英米が築き上げたものよりもさらに巧妙で、リボ払いくらい逃げ場のない「管理と収奪」の社畜システムだった。

 

一年戦争まで、あと69年。

 

「拠るべき場所(家賃補助)を奪われた負け組たち」の彷徨は、やがて「そんなに地球が上が偉いなら、地球の地面を直接コロニーで殴って分からせてやるよォォォ!」という、世界一スケールのデカい逆ギレ独立戦争(ジオン軍)へと姿を変えていく。

 

ハチロー・アマダは、安っぽいバッジをポケットに無理やりねじ込み、自分に言い聞かせた。

 

「俺は、あいつらの引いた『有料エリア』の線の外側まで行く。木星のさらに先、誰も俺に『始末書を書け』と言えない、本当のフリー素材の宇宙までな!」

 

その熱い社畜の誓いは、冷たい真空の中に、静かに(無言でセンサーに怒られながら)吸い込まれていったのである。




この「資源がある間だけ人間を住まわせ、不要になればインフラごと放棄する」冷酷な手法は、19世紀から20世紀にかけて英米が行った「鉱山都市や植民地のスクラップ・アンド・ビルド」にその原型がある。彼らは中東の油田やアフリカの鉱山で、現地住民や移民を過酷な環境で働かせ、資源が尽きると同時に医療も法秩序も撤収させ、後に残ったのは汚染された土地と病んだ人々だけだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。