アストレア家の長女   作:slo-pe

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アストレア式教育

 

 

 王選──親竜王国ルグニカにおける一大事。

 空位となった王座を埋めるため、徽章に導かれた五人の候補から新たな王を選び出すこととなった。

 フェルトはアリーゼから説明を受け──盗んだ徽章の重要性を知らされ、「連座」という言葉が誇張でも何でもないと理解してしまったことで──王選への参加を表明せざるを得なかった。

 

 そんなわけで、アストレア家に厄介になってから1週間。フェルトは日夜歴史や礼儀作法の勉強に励んでいた。

 

「あーもうやってらんねえ!」

 

 とはいえ、フェルトは貧民街出身。スリで生計を立てていたような生粋の浮浪児だ。

 いくら身内が実質的な人質となっているとはいえ、次代の王候補としての勉強などそう長くは続かない。

 

 彼女は昼食後、勉強が再開されるまでの自由時間に、自室で不満を叫んでいた。

 

「フェルト、そう言うでない」

 

 同じくアストレア家の厄介になっているロム爺が、フェルトを宥める。

 

「あやつ……アリーゼ・アストレアは厳しいように見えて、限界をよく見極めておる。お主に無理をさせるような真似はするまい」

「だからムカつくんじゃねえか。完璧に見透かされてるみたいでさ……あー、クソっ、あいつのあの余裕そうな顔、一発殴ってやりてえ!」

 

 フェルトはベッドの上で乱暴に寝返りを打ち、枕に顔を埋めて足をバタつかせた。

 ロム爺の言う通りなのだ。アリーゼ・アストレアという女は、決して無理な課題は課してこない。「これくらいなら、ちょっと頑張ればできるでしょう?」という絶妙なラインを常に提示してくる。だからこそ、できないという言い訳すら見つからず、余計に腹が立つのだ。

 

 コンコン、と上品なノックの音が響いた。フェルトがびくりと肩を揺らした瞬間、

 

「フェルト様、入りますよ」

 

 返事も待たず扉が開かれ、件の『完璧な姉上』が姿を現す。

 

「元気があって何よりです、フェルト様」

「チッ……」

 

 フェルトはあからさまに舌打ちをして、アリーゼを睨みつけた。

 これがラインハルトなら、自室とは言え淑女が云々かんぬんと小言が飛んでくるのだが、アリーゼはフェルトの反抗的な態度を、まるで可愛い子猫の威嚇でも見るかのような、穏やかな微笑みで受け流す。

 

『屋敷では自室以外は公の場』とは初日にアリーゼから告げられた言葉だ。逆に言えば、自室ではフェルトが何をしていても咎められたことはない。

 例えば食堂で開かれる朝晩の食事は、所作の一つ一つにアリーゼから指摘が飛んでくる。だが昼食は自室でロム爺と二人きりなため、フェルトは作法などは無視して、ただ美味い料理を堪能していた。

 

「ではお昼休みの時間は終わりです。着替えてから、礼儀作法の練習を始めましょうか」

「……」

 

 フェルトは無言で睨むという精一杯の抗議をしながら、大人しくベッドから降りた。

 

「さあフェルト、そんなもたもたしていても授業は進まんぞ。ほら、早くせんかい」

「……わかってるっての」

 

 うきうきとしたロム爺、彼はフェルトの授業に付ききっきりだ。横で話を聞いているだけの彼だが、唯一礼儀作法の時間だけはテンションが上がっている。

 

 その理由は単純で、この時間は普段ラフな格好をしているフェルトが豪奢なドレスに身を包むのだ。

 本番と同じ条件で練習しなければ意味がないというアリーゼの理屈に、最初こそフェルトは抵抗したが、ロム爺の期待の視線には勝てなかった。

 

 着飾った姿は物理的・精神的に息苦しいし、アリーゼの指摘は容赦がない。数ある授業中でも一等嫌いなものではあるが。

 貧民街では見せたこともない、だらしなく緩んだ笑顔のロム爺に、フェルトは満更でもない気持ちでいた。

 

 

 

「──少し休憩にしましょう。お茶の用意をしてきますね」

 

 礼儀作法の授業を終え、ドレス姿からラフな格好に着替えたフェルトに、アリーゼが静かに部屋を辞した。

 休憩とはいえお茶、作法の延長線だ。

 

 その足音が遠ざかったのを確認したフェルトは、部屋の窓枠へと足をかけていた。

 

「フェルト!? お主、何を──」

「悪いなロム爺! アタシもう限界だ、ちょっと風に当たってくる!」

 

 ロム爺の制止が届くより早く、フェルトは庭園へと飛び降りた。

 かつてラインハルトが吹き飛ばし、今は完璧に修復された美しい生垣の影を縫うようにして、全力で走り出す。

 

 世界に愛された加護、そして貧民街で磨いた韋駄天の脚がアストレア邸を駆けていく。

 庭園の隅にて芝生の手入れをしている爺やがいたが、気配を消してやり過ごし、遂にアストレア邸を抜け出す。フェルトはしてやったぞと、そのまま街の方へ走り去った。

 

「まったく、あの子は……」

 

 ロム爺はその様子を呆れながらに見送った。

 彼は理解していた。アリーゼはともかく、屋敷の管理を任された老人と老女、アリーゼの護衛の青年。現在この屋敷にいる3人なら、フェルトを捕縛するのは容易かったはずだ。その上で何の障害もなく抜け出せたということは、見逃されたということ。

 日が暮れた頃には、フェルトにとって楽しくないことが待っていることだろう。それを思ってロム爺は苦笑した。

 

 少ししてから、コンコン、とノックの音が響いた。

 

「バルガ・クロムウェル様、入ってもよろしいでしょうか」

 

 続いて掛けられた言葉に、ロム爺──クロムウェルの身体が強張る。まさか、再びその名で呼ばれる日が来るとは思ってもみなかった。

 返事も待たず扉が開かれ、アリーゼが背後に老人・老女を伴って姿を現す。

 

 クロムウェルはゆっくりと立ち上がり、その巨躯を揺らした。警戒心を露わにする彼に、アリーゼは穏やかな笑みで席を勧めた。

 アリーゼとクロムウェルが向かい合う形でソファへ相対する。アリーゼの背後に控えるのは、背筋を伸ばした白髪の老女と、無口な庭師の老人だ。二人とも普段の温和な態度とは打って変わって、抜き身の刃のような剣呑さを纏っていた。

 

「……フェルトの脱走を許容したのは」

 

 クロムウェルにとって、この対面は予想外のものだった。

 アストレア家に保護されてから、アリーゼはもちろん、老人と老女など屋敷の面々から、貧民街の不審者を一応監視する──ただそれだけの、当たり前で、業務的以上の警戒は感じられなかったのだ。

 それほどに、彼女たちの「見逃し」は自然だった。

 

「儂と話すためだったか」

 

 自身のペースを掴むため、クロムウェルはそう切り出した。

 

「ええ」

「……儂のことを、知っておったのか」

 

 低く、地響きのような声でクロムウェルが問う。

 

「ええ。キャロルから教えてもらったのですよ。かつて、お祖父様たちの前に立ち塞がった、亜人の頭目について」

「キャロル、だと……?」

 

 アリーゼが親しげに呼んだ名に、クロムウェルの古い記憶が一気に呼び覚まされる。

 アストレア家との古い因縁。その中にあった、忘れるはずもない二人の顔と名前が、目の前の老人たちと重なった。

 

「──そうか。どこぞで会ったかと思ったが、お主らはそういう繋がりか。そこは変わっておらぬようじゃな、キャロル・レメンディス」

 

 クロムウェルの呟きに、老女が小さく息を呑む。

 さらにクロムウェルは、その隣に立つ無口な──口のきけない老庭師に視線を向けた。かつて「剣鬼」の傍らに常にあった、盾を持つ戦士の姿。

 

「そしてグリム・ファウゼン、か……物騒な使用人たちがいたもんじゃ」

 

 納得がいったと頷くクロムウェルを見て、アリーゼは驚きと共に称賛を浮かべた。

 

「流石、亜人戦争の『頭脳』ですね。たったこれだけで彼らの正体に気づかれるなんて」

「当時の関係者、特に王国の連中のほとんどはここに入っておる」

 

 クロムウェルは、とんとんと指で自分の頭を叩いた。

 

「大方、フェルトに付きっきりにさせていたのも方便じゃろう。本命は儂を見張る方だったというわけじゃな」

「そうされる心当たりは、痛いほどあるでしょう?」

「そうじゃな……『剣鬼』め、想像していた以上に嫌な家柄を築いておるわ。忌々しい」

 

 平手で禿頭を撫でながら、クロムウェルの表情が憎々しげな皺を刻んだ。それは、フェルトには──少なくとも、物心ついてから彼女には見せたことのない表情だ。

 

 盗品蔵が吹き飛んだ日から、あらゆることにケチがついて回る。いっそ忘れたいと思っていた過去が、捨てたものを拾い集めていっぺんに押し寄せてきたような気分だ。

 フェルトに訪れた転機も、アストレア家との関係も、この二人との因縁も、全て。

 

「誤解しないでくださいね、クロムウェル様。私は貴方を縛り付けるつもりはありません」

「では何をすると?」

「私たちアストレア家の方針と、貴方の心向きの確認を」

 

 アリーゼは、そこで一度言葉を区切った。

 その碧い瞳には、一切の敵意も、あるいは同情すらもない。ただただ、凪いだ湖面のような静けさだけがある。

 

「私は戦争を知りませんので。貴方が過去に何を思い、何を成したか……書物と伝聞にしか知り得ません。ですが、この先フェルト様に、ルグニカに害を成すようであれば、然るべき対応を取らざるを得ません」

 

 アリーゼの示した冷徹なまでのスタンスに、クロムウェルはゆっくりと首を横に振る。

 

「儂はロム爺、貧民街で盗品を売り買いして小金を稼いでいた小悪党よ。それ以上でも以下でもない。あの子を……フェルトを利用しようなどと、思っておらん」

 

 目をつむれば、幼子との思い出が蘇った。掌に乗るほど小さな頃から、その成長を見守り続けてきた少女だ。

 

 ──かつての憎悪も、執念も、全ては少女との日々に洗い流されてしまって。

 

 クロムウェルの瞳を見て、老女からは剣呑さが薄れ、躊躇いが浮かんだ。対して老人からは未だ射抜くような眼光が注がれていたが。

 

「分かりました」

 

 実際に口を開いたのはアリーゼだった。

 

「信じてよいのか?」

「1週間フェルト様と過ごす貴方を見てきましたから。もし騙られていたとしても、私の見る目が無かったというだけです」

 

 アリーゼの纏う雰囲気が緩んだ。

 

「貴方はバルガ・クロムウェルではなく、ただのロム爺。孤児であるフェルト様を拾い、育て上げた一人の老人。私達にとって、それ以上の真実はありません。──ね? 爺や、婆や」

 

 甘い雰囲気で振り返るアリーゼに、老女は複雑そうな表情のまま、けれど確かに頷いた。無口な老人もまた、深く一度だけ首を縦に振る。

 アストレア家の古強者たちすらも、この若き長女の穏やかな手の中に収まっている。その事実に、日が暮れれば帰ってくるであろう孫娘が受ける罰を想像して、ロム爺は乾いた笑みを漏らすのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 夕闇が王都を包み込む。

 久々の自由を満喫したフェルトは、腹を空かせきってアストレア邸へ戻ってきた。

 

「よお、戻ったぜ。……って、なんだよ、その顔は」

 

 フェルトは門の前で佇むラインハルトの顔を見て眉をひそめた。いつも嫌味なくらい爽やかな『剣聖』が、まるで哀れな小羊を見るような目でフェルトを見ていたのだ。

 彼がこんな表情をするのは、たった一人の女性に関する事だけ。

 

「なんだ? アタシの脱走にキレたアリーゼに八つ当たりでもされたか?」

「いえ、姉上はそんな事はされませんが……フェルト様、今後は脱走はなさらない方がよろしいかと」

「あん? なんでだよ」

「じきに分かります」

「もったいぶるんじゃねえよ」

 

 不気味な忠告をしてくるラインハルトに鼻を鳴らし、フェルトはこれ以上ないほど腹を鳴らしながら屋敷へ入る。

 

「よお、戻ったぜ! 腹減ったから飯にしよ──って、なんだよ。ロム爺まで妙に暗い顔してさ」

 

 出迎えた食卓の空気は、どこか奇妙だった。

 ロム爺は、フェルトと目が合った瞬間に気まずそうに視線を逸らし、ただ静かにスープを啜っている。

 

「お帰りなさい、フェルト様。良いお散歩になりましたか?」

 

 食卓の上座。優雅にグラスを傾けていたアリーゼが、何事もなかったかのように微笑む。フェルトは「ケッ」と席にドカリと腰掛けた。

 

「お散歩じゃねえよ、脱走だ。……まぁ、腹が減ったから戻ってきてやった。ラインハルトがいねえんだ、アタシの足に追いつける奴なんてこの屋敷に──」

 

 言いかけて、フェルトの言葉が止まる。

 婆やがフェルトの前に静かに皿を置いたからだ。

 

 それは、あまりにも、ひもじい皿だった。

 ロム爺やラインハルト、そしてアストレア家当主であるハインケルの前には、肉汁溢れるステーキや色鮮やかな温野菜、焼き立てのパンが豪華に並んでいる。

 フェルトの前に置かれたものも、料理の質や香りは全く同じ──しかし、その量だけが、あまりにも無慈悲に削ぎ落とされていた。スプーンの一掬いにも満たない一口分のマッシュポテトと、指先ほどの肉の切れ端、そして、薄いパンの一片だけ。全体のおよそ3分の2以上が消え去った、寂しい残高。

 

「……おい。なんだよこれ。アタシへの嫌がらせか?」

 

 フェルトの額に青筋が浮かぶ。餓えを何より嫌う彼女にとって、目の前のご馳走をお預けにされるのは拷問以上の侮辱だ。

 だが、アリーゼは至って穏やかに、ナプキンで口元を拭って告げた。

 

「嫌がらせだなんて滅相もない。それは、貴女が今日『働いた分』の正当な報酬ですよ。今日の貴女は、午後の授業を3分の2以上サボって脱走されました。ならば、支払われる食事も3分の1になるのは当然の道理でしょう?」

「なっ……! たかが数時間サボったくらいで──」

 

 フェルトは反射的に言い返そうとしたが、アリーゼに真っ直ぐ見据えられ言葉に詰まった。

 

「『なにもしねーで食い物がわいてくるならやらねーかもな』……そう仰ったのは貴女ですよ、フェルト様。食べるためには働かなくてはいけない、その摂理を貴女は誰よりも理解していると思いますが」

「っ……くそが」

 

 フェルトはギリ、と奥歯を噛み締めた。

 援軍を求めようとするも、ロム爺は駄目だ、時折すまなそうな視線を向けつつも、静観を貫いている。

 ラインハルトも駄目、完全に気配を消して黙々と皿を進めている。確かにそこにいるはずなのに目を凝らさなければ見えないという、技術の無駄遣いをしていた。

 当然爺やと婆や、護衛も駄目。

 

 フェルトの視線が、この場の一番の上座。その席に座るハインケルへと向く。赤髪に碧眼という色彩を持った男性、ラインハルトが歳を重ねれば彼のようになるのだと、容易く想像させる美丈夫だった。

 アリーゼたちの父であり、この家の主である彼なら、何か言ってくれるのではないか、と。

 

 しかし、ハインケルはフェルトと目が合った瞬間、ハッと鼻を鳴らした。

 

「諦めろ嬢ちゃん。次からは飯を減らされねえよう頑張んな」

 

 粗野な口調からはアリーゼやラインハルトの面影は感じられない。だが、貧民街の習慣が抜けないフェルトにしては、こちらの方がやりやすかった。

 

「おいオッサン! あんた当主だろ、それでいいのかよ!」

「あ? バカ言うな。『家のことに男が口を挟むもんじゃねえ』って相場が決まってんだよ。第一、逃げ出したお前が悪い。今日はそれだけ食って、さっさと寝ろ」

 

 ハインケルはそう答えると、口調に似合わず丁寧にワインを喉へ流し込む。

 

「っ……わーったよ!」

 

 完全に孤立無援となったフェルトは、人差し指ほどのパンの切れ端を乱暴に──いや、反射的に姿勢を正して丁寧に、口へと運んだ。こんな時だからこそ、アリーゼのお小言を貰うのは勘弁だった。

 すぐに空になった虚しい皿を前に、フェルトは皆が食べ終わるまでお行儀よく待つことになった。

 

「あー、そういやよ、今日街でアストレア家について聞いたら、口を揃えて『剣鬼恋歌』って答えるんだけどよ」

 

 手持ち無沙汰を誤魔化すため、フェルトはそう口にした。

 

 ロム爺の持っていたフォークの先が皿に当たり、カチリと音を立てた。

 フェルトはそれに気付かず、何気なく続ける。

 

「なんか、アリーゼたちの祖父ちゃんたちの話なんだろ? 若い頃の剣鬼がどうの、先代の剣聖がどうのって」

「そうですね。お祖父様とお祖母様の大恋愛のお話で、ルグニカを代表する名歌ですよ」

「へえ。どんな話なん、だ……?」

 

 台詞の途中で、フェルトは猛烈な嫌な予感に襲われた。

 アリーゼの穏やかな笑み……『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアが唯一敵わないそれに、フェルトも早々に苦手意識を覚えていた。

 

「そのお話は少し長くなりますし。今日の午後にサボってしまった歴史の授業の代わりとしましょうか」

「げぇっ!?」

 

 その予感が外れることはなく、フェルトは自身の迂闊さを呪った。

 そんな素直な反応に、アリーゼはくすくすと楽しげに肩を揺らす。

 

「婆や」

「はい」

「お夜食をお願いできる? 私とフェルト様、ラインハルトの3人分」

「……夜食?」

「ええ。少し長くなるでしょうから」

 

 その単語を聞いた瞬間、フェルトの赤い双眸がパッと輝いた。お腹の虫が限界を迎えていた彼女にとって、これ以上ない救いの言葉だった。

 

「ラインハルトも来るのか?」

「『剣鬼恋歌』は弾き語りの歌ですから。『歌唱の加護』と『仕様の加護』を持っているラインハルトが適任なんですよ」

 

『歌唱の加護』

 宮廷お抱えになるほどのカリスマ歌手の能力を付与。

『仕様の加護』

 握った道具の使い方がわかる、また使いこなせる。

 そのどちらも、ラインハルトが持つ数ある加護のうちの一つだ。

 

「……お前、本っ当に何でもできるのな」

「ありがとうございます」

「褒めてねえよ」

 

 ラインハルトから視線を外して、フェルトは意気揚々とロム爺に訊ねる。

 

「ロム爺も一緒に聞くか?」

「馬鹿言うでない。老人の夜は早いんじゃ、儂は先に寝かせてもらう」

「そっか……」

 

 フェルトは残念そうに頷く。

 だが、いくら孫娘に甘いロム爺とて、こればかりは受け入れられなかった。かつての宿敵の恋バナなど聞きたくない。

 

「では夕食後、フェルト様が湯浴みを終えた頃、部屋に伺いますね」

 

 ロム爺の言い訳の完成度と、アリーゼがそう締めくくったことで、フェルトに一切の違和感を持たせることなく話題は収束した。

 

 

 

 

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