こんにちは、slo-peです。
私事ですが、転職やら引っ越しやらで忙しくなるため、スバルが記憶を失った本編はしばらくお休みとなります。
その間の気晴らしとして、本編に入れられずに泣く泣く削った裏話を投稿していきたいと思っています。
一つ一つは短いですが、読んでいただけると嬉しいです。
第一弾である今回は、シリーズ5話目の『弁え』の裏話となっております。
再度読み直してから進んでいただけると幸いです。
それではどうぞ。
予習
王選の招集まで残り一週間となり、アリーゼも王都に帰ってきた。
今のフェルトは日中の殆どを自由時間とされているが、昼食後のこの時間だけは別だ。ラインハルトから当日の大まかな流れを伝えられ、取るべき振る舞いの最終チェックをしていた。
予想される流れとしては、まずラインハルトによる5人目の竜の巫女発見の報告。
そこからフラム・グラシスを伴っての入場、徽章の輝きの呈示、ラインハルトから王選参加の経緯説明……と続き。
そして、フェルトの容姿が示す、とある可能性の示唆。
「アタシが王族唯一の生き残りねえ……」
金色の髪に紅の双眸──それはルグニカ王家の血筋に表れる容姿の特徴、らしい。フェルトは今それを初めて聞かされた。
さらに、当時の王弟の娘が行方不明になったのは十四年前。フェルトの年頃とぴったり一致する。可能性として、なくはない。
だが、なくはない、程度なのだ。
「いーのか、そんな確証もないこと言っちまって?」
「確信はありません。確かめる手段はすでに失われております故。──ですが、これだけの符合を偶然と呼ぶのには抵抗があります。それに、途絶えたはずのルグニカ王家の血が存続する可能性があり、王選の正統性を強化することにも繋がります。その価値は計り知れない」
「そーかよ」
ラインハルトらしい綺麗な理屈を、フェルトは雑に受け取る。
「アリーゼはどう思ってんだ?」
「フェルト様がルグニカ王家最後の一人である。その可能性も十分あると思っていますよ」
「そうじゃねーよ。王選の場でそれを言ってもいーのか話だ」
「問題ないと思います」
「理由は?」
彼女もラインハルトと結論を同じくしているのは分かる。けれどその過程は、おそらく異なるはず。フェルトはそれを聞きたがった。
アリーゼはフェルトの成長と、生来の勘の良さに頬を緩めながら、端的に答えた。
「その場にいる誰もが、驚かずには居られないでしょう?」
「は?」
「単純に、皆の度肝を抜くことができます。それだけでも十分過ぎるほど価値はあるかと」
「……詳しく話せ」
「当日玉座の間で、フェルト様がどれだけ完璧に振る舞おうと、貧民街という出生が頭にある限り、その場で得られる評価はたかが知れています。着飾った小娘というのが精々でしょう」
「まあ、そーか……で、続きは?」
「ですが、そこにルグニカ王家の末裔という情報が加われば、評価に迷いが生じます。──王家の血なのか、そうでないのか。もしそうだとして、底辺に染まってしまったのか、底辺にありながら為政者としての才覚を失っていないのか」
「つまり、30点が頭打ちのはずの評価が、アタシの振る舞い次第で0点にも100点にもなり得る。王族の生き残りって可能性は、その起爆剤っつーことか」
「ええ」
──王家の血という可能性は、フェルトに有利な状況を作るのではなく、フェルトが実力で評価を覆せる舞台を作ることができる。
過不足なく理解を示したフェルトに、アリーゼはよくできましたと微笑む。
フェルトはその微笑みに心温まるものを感じながら、同時に「この女マジで……」とも思った。
「……じゃ、そーゆー感じで進めっか。ラインハルト、他に気を付ける事あるか?」
「…はっ」
まさかの視点に固まっていた『剣聖』も、主の呼び掛けに意識を目の前に戻す。
「表明演説はフェルト様ご自身でお考えになるのでそれ以外となりますと……立ち居振る舞いを磨くこと、それと貧民街という情報を開示した際の周囲の反応でしょうか」
「周囲の反応か……」
フェルトはちらりとアリーゼを見やる。目が合った彼女は薄く微笑みを湛えているのみ。
他にも留意すべき事はあるのかもしれないが、少なくとも合格点ではあるらしい。フェルトはそう判断した。
「アリーゼ、お前ならどうする?」
「そうですね……」
アリーゼは片手を頰に当てて、悩んでいるようなポーズを取った。中々さまになる姿だったが、フェルトは彼女が本心から悩んでいるとは受け取っていなかった。
「フェルト様は、貧民街で似たような雑音を浴びた場合、どう対処しますか?」
「貧民街で? そりゃあ……黙らせるだろ」
「どのようにですか?」
「……『うるっせえな!』つって叫び返して、とかか? そんな場面になったことねーから想像でしかねーけど」
そもそも貧民街で多対一で責められれば、本人がよほど強くない限り終わりだ。
故にフェルトの答えも、想像の範疇を出ない軽いものだったが──
「──ではそれでいきましょうか」
「は?」
アリーゼは、それを通した。
困惑するフェルトに、ラインハルトに、アリーゼは噛んで含めるように言う。
「ドレスを纏い、作法を修める。これらは王選という場で、自分の意思を伝えるために必要な道具ですが……フェルト様が貧民街で過ごした時間を消せという意味ではありません」
「……アタシが言うのも何だけど、あそこで暮らしてた奴らの性根なんてまともなもんじゃねーぞ?」
「フェルト様が言うなら、そうなのでしょう。ですがフェルト様に関しては、培った気力や判断力をそのままに、多少方向性を整えて知識と経験を積んでいけば、王選でも十二分に戦えます。──貧民街で生きていけるよう、もし将来環境が変わったとしても適応できるようにと。ロム爺の教育の賜物でしょうね」
バッと、フェルトが弾かれたように部屋の隅を見る。そこには大柄な禿頭な老人が一人、静かにこれまでの会話を聞いていたロム爺がいた。
彼は太い眉を太い指で掻きながら、視線を彷徨わせた。
「ロム爺ぃ!」
「おおい!?」
喜びのあまり、フェルトは駆け寄り、飛びついた。その軽い体を受け止め、ロム爺は呆れた顔をする。
「すげーすげー、すげーよロム爺! やっぱり、アタシを助けてくれんのはロム爺だ!」
「そりゃ光栄な評価じゃが、わざわざ言わんでもな……」
フェルトを抱えたまま、ロム爺はささやかな抗議を込めてアリーゼの方を見る。
「ではフェルト様が仰った言葉を軸にして、玉座の間に相応しいよう調整しましょうか」
当然そんな視線では、アリーゼの微笑みを僅かにも揺らすことなど、できはしないのだった。
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