決着です。
ゲヘナ学園本校舎最深部、風紀委員会執務室。
先ほどまで響き渡っていた空崎ヒナの苛立ち混じりの足音も、天雨アコの悲痛な絶叫も遠ざかり、部屋の中にはどこか気の抜けた奇妙な静寂が漂っていた。
机の上では、先ほどまでの『ドミニオン』に代わり、数枚のカードとメモ帳が雑然と広げられている。
「……で? ウミガメのスープを飲んだ男が、どうして崖から飛び降りて自殺したんだ? なぁヒフミン、もしかしてそのスープに毒でも盛られてたのか?」
高級本革ソファーにだらしなく寝そべり、頭上の純金の王冠を指先で弄びながら、志真コノカが退屈そうに鼻を鳴らす。
「いえいえ、毒殺ではありませんよコノカさん! 質問は『はい』か『いいえ』で答えられるものにしてくださいね。これは水平思考推理ゲーム、通称『ウミガメのスープ』なんですから! 頭を柔らかくして、隠された真相を解き明かすのが醍醐味なんですよぉ」
向かい側のパイプ椅子にちょこんと腰掛け、出題者用のカードを両手で大事そうに掲げながら、阿慈谷ヒフミが得意げに笑みを浮かべる。
ピピッ!
その時、机の上に置かれていたヒフミのスマートフォンのバイブレーションが小気味よい電子音と共に震えた。
「ん? なんだヒフミン、トリニティのお仲間からのお呼び出しか?」
「あ、いえ……これは、動画配信サイトの通知ですね。私の大好きなチャンネル『少女忍法帖ミチルっち』の生配信が始まったみたいです」
「は? 少女忍法帖……? おいおい、お前あんな頭のネジが何本もぶっ飛んでる銀狸の動画なんて見てんのかよ」
コノカが心底信じられないといった様子で、片眉をピクッと跳ね上げる。
「えへへ……確かにちょっと怖いところや理不尽な場面も多いんですけど、見ていてスカッとするというか、不思議な疾走感があるんですよね。それに、いざとなったらコノカさんに守ってもらえばいいですし!」
「あぁん? なんであたしがお前のボディーガード前提なんだよ」
「だってコノカさんは、あの悪名高い『七囚人』をたった1人で全員素手でボコボコにして逮捕した伝説の警察官なんですよね? ミチルさんも八囚人として指定された凶悪犯なんですから、コノカさんがかつて捕まえた相手の1人なのかなって。なら、いざ遭遇しても安心かなーって思ったんです!」
無邪気な笑顔で全幅の信頼を寄せてくるヒフミ。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、コノカは露骨に嫌そうな顔をして、口をへの字に曲げた。
「いや、こいつはあたし捕まえてねえぞ」
「……え?」
ヒフミの動きがピタリと止まる。
「えっ、捕まえてないんですか!? コノカさんが!?」
「あぁ。あいつが公園で警官相手に大暴れした後に、すっかり説教が終わって大人しくなってたところを、うちのガッコの警備局の生徒たちがビビりながら手錠かけただけだよ。あたしは現場にすら行ってねぇ。まっ、そのあと連邦矯正局に入れられたと思ったら、たったの3日で脱獄しやがった上に、脱獄に手を貸した自称犯罪コンサルタントの『ニヤニヤ教授』とかいう奴まで、今じゃ行方不明になってるらしいじゃねぇか。ぶっちゃけ、関わりたくねえな」
コノカは肩を竦め、心底面倒くさそうに息を吐き出す。
「で、でも……あの天下のコノカさんなら、万が一タイマンで戦うことになっても絶対に負けませんよね……?」
ヒフミがおずおずと問いかける。
「そりゃ負けねーよ? タイマン張りゃ最終的にはあたしが勝つに決まってんだろ。でもな……割に合わねーんだよ」
「割に合わない……ですか?」
「あぁ。あの狸、一度スイッチが入ってブチギレ怒りモードに突入すると、こっちがどれだけ全力の鉄拳を叩き込もうが、どんな武器で殴ろうがビクともしねぇで無傷なんだよ。その癖、首根っこ掴んで耳元で延々と意味不明な創作論やらカット割りの説教を怒号で浴びせ続けてきやがる。殴り合いじゃなくて、終わりのねぇ地獄の講義だ。おまけにこっちの意識が飛びそうになったら、壁や天井、床に力任せに叩きつけて強制的に覚醒させてきやがるんだぞ? まともにやり合ったら、こっちも体力を限界まで消耗してやっと勝てるレベルの怪物だ。だがな、逆を言えばあいつの地雷を踏まねぇで、無視して近づかなかったら実害はゼロだ。なら、わざわざ自分から関わらないに越したことはねえだろ」
コノカの生々しい解説に、ヒフミは顔を引き攣らせた。
「あ、あはは……そうなんですね……」
「(ひ、ひえぇぇぇぇ……!? あの七囚人を素手で制圧したコノカさんに『消耗するから戦いたくない』と言わしめるなんて、千鳥ミチルって本当に歩く人災じゃないですか……! 私、そんなヤバい人のファンクラブに入ってたんですか……!? 今すぐチャンネル登録解除した方がいいんじゃ……!?)」
心の中で冷や汗を滝のように流しながら、震え上がるヒフミ。
その時、机の上のスマートフォンの画面が、自動再生によってパッと明るくなった。
「ん? おいヒフミン、画面でなんか始まったぞ」
コノカが画面を覗き込む。
「コノカさん、どうしまし……」
画面を共に視界に収めた瞬間、二人は揃って石像のように硬直した。
画面の中に大写しになっていたのは――粉々に粉砕された屋台の残骸と、めくれ上がったアスファルトのど真ん中。
激怒の形相で眼球を血走らせた千鳥ミチルに、胸ぐらを片手で軽々と掴み上げられ、足をジタバタさせて宙吊りにされている空崎ヒナの無残な姿であった。
同時刻。キヴォトス某所、秘密結社『KMU』の地下作戦室。
壁面にずらりと並んだ監視モニターの中央には、大音量で『少女忍法帖ミチルっち』のゲリラ生配信の映像が映し出されていた。
「完全に嵌まりましたね、ミネさん」
セナが白衣のポケットに手を突っ込み、冷ややかな視線を画面のヒナへと向けながら呟く。
「えぇ、これほどまでに簡単にいくとは拍子抜けですよ。あの暴食の化け物が、こうも鮮やかに罠へと飛び込むとは」
ミネが包帯の巻かれた首を僅かに揺らし、満足げに喉を鳴らした。
「ふふ、作戦は完璧でしたね。KMUの構成員一同総出で、あのアカウントの配信予告に『ゲヘナの商店街でホルモン丼の屋台をやるべきだ』『ゲヘナの風紀委員会はスタミナ不足だから絶対に売れる』と、執拗に数千人単位のアカウントでコメントを送り続けましたから。あれだけの数の要望が届けば、自己顕示欲の塊である暴虐の銀狸は、それが大多数の民意だと容易に思い込みます。手のひらの上で無邪気に踊ってくれる狸ちゃん、私は大好きですよ」
セリナがカルテを胸に抱き、天使のような微笑みの裏でドス黒い嘲笑を漏らす。
「うぅ……アカウントを何十個も切り替えて同じような絶賛コメントを打ち込みすぎて、私、両手の指が完全に腱鞘炎になりそうでしたけどねぇ……! でも、あの憎たらしい害獣が吊るし上げられてるのを見たら、苦労が吹き飛びましたよぉ!」
ハナエが包帯の巻かれた手首をさすりながら、快哉を叫ぶ。
「さぁ、害獣が餓死するまで優雅に鑑賞しましょう。あのタヌキの執念深さは、私たちの試算通りであれば最低でも数十時間は持続します。一切の食物を補給できぬまま、あの怪力で絞め上げられ続ければ……空崎ヒナの強靭な肉体とて、やがて代謝の限界を迎えて自壊するしかありません」
セナがその瞳を冷たく光らせ、モニターに映る2匹の怪物を値踏みするように見つめ続けた。
ゲヘナ自治区、粉砕された屋台の跡地。
【12:30(30分経過)】
「ふざけるなッ! 私の動画がタレントごっこだとぉ!? 貴様、このサムネイルの文字配置における視線誘導の黄金比が、どれだけの試行錯誤の末に生み出されたか知っているのかッ!!」
ミチルの絶叫が、鼓膜を直接針で刺すような音圧となってゲヘナの大気を揺るがす。
「ぐっ……調子に乗るな、この害獣がッ!!」
胸ぐらを掴まれたヒナは、まだ眼光の鋭さを失っていなかった。空いた両腕を交差させ、ミチルの顔面へ向けて音速を超える鉄拳を幾度となく叩き込む!
ドゴォッ! バギャッ! ドカカカァッ!!
直撃のたびに大気が爆縮し、衝撃波で周囲のビルの窓ガラスが粉々に吹き飛ぶ。
しかし――ミチルの頭部はmm単位たりとも揺らがなかった。まるで大仏の眉間を小石で小突いたかのように、一切のダメージを受け付けず、傷ひとつ負わない。
「効かんなッ!! お前のその無反省な拳など、私のクリエイター魂に比べれば綿毛よりも軽いんだよッ!! おい、目を逸らすな! 第3話の炎エフェクトの透明度について、今すぐお前の貧困な語彙力で批評してみせろッ!!」
「なっ……この化け物……ッ!」
反撃が完全に無効化されている事実に、ヒナの表情が微かに引き攣り始めた。
【13:00(1時間経過)】
拷問が始まってから1時間が経過した。
「いいか! カットの繋ぎ目に生じるわずか1フレームの不協和音を解消するために、私がどれだけの睡眠時間をドブに捨ててきたと思っているんだッ!! 才能がないだと!? 私の情熱の熱量はなぁッ、太陽の核融合反応よりも熱いんだよォォッ!!」
「……はぁ……はぁ……っ。う、うるさい……耳元で……金切り声を上げるんじゃないわよ……ッ」
宙吊りにされたヒナの身体は、すでに目に見えてフラフラと揺れていた。
超人的な代謝機能を持つヒナの体内燃焼炉は、常に莫大なエネルギーを消費している。
直前の大食い大会から何も口にしていない空腹状態のまま、ミチルの超重力のような万力で締め上げられ、耳元で1時間ぶっ通しの音響兵器を浴びせられたことで、急激なガス欠症状がその肉体を蝕み始めていた。
それでもヒナは虚勢を崩さず、血走った目でミチルを睨みつけて悪態をつく。
「……誰が……誰がお前の……クソ長い自己満足動画なんて……見るもんですか……。この……ド素人……狸が……ッ」
「素人と言うなぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
ドガアアアンッ!
ヒナの悪態が新たな燃料となり、ミチルの怒髪天が再び爆発する。
ヒナの身体はそのまま地面のアスファルトへ叩きつけられ、バウンドしたところを再び頭上高くへと引き上げられた。
【15:00(3時間経過)】
正午の太陽が街を無慈悲に照りつける中、ヒナの意識はもはや混濁の極みに達していた。
「……あ……う……」
手足から完全に力が抜け、だらりと垂れ下がっている。
極度の飢餓と3時間絶え間なく脳髄へ直接注ぎ込まれ続けた『動画編集における色彩設計の重要性』についての罵声の嵐。
胃壁が自らを消化し始めるような強烈な激痛が腹を突き破り、視界は白く霞み、思考の輪郭がドロドロに溶け出していく。
「起きろォォッ!! 私の話の第4章『エンディングテロップにおけるフォントの可読性と情緒の相克』について、まだ半分も語り終えていないぞッ!! 寝て逃げるなど、表現者に対する最大の侮辱だッ!!」
ガクガクと前後に激しく揺さぶられるが、ヒナの瞳からはもはや焦点が失われつつあった。
死ぬ……。あの傲慢にして暴虐の魔王が、純粋な『飢え』と『説教』によって、キヴォトスの路上で野垂れ死にかけようとしていた。
朦朧とする意識の中、ヒナの乾ききった唇が、微かな掠れ声を紡ぎ出す。
「……ノ……ア……」
誰にも聞こえないはずの、小さな呟き。
ミチルの怒号の嵐へと消える。
「はい、お呼びでしょうか、ヒナちゃん?」
ーーはずだった。
スッ、と。
瓦礫と粉塵が舞う路地裏の影から、まるで最初からそこに空気として存在していたかのように、生塩ノアが姿を現した。
純白の制服には埃ひとつついておらず、その手には黒革の手帳と万年筆が握られている。
「……っ! あ、あんた……ずっと……見てたの……?」
ヒナが薄く目を開け、掠れた声で恨めしそうにノアを見つめる。
「ええ、もちろん。ヒナちゃんの限界値における声帯の周波数変化、および飢餓状態に伴う筋肉の弛緩データを、特等席で克明に記録させていただいておりました」
涼しい顔で微笑むノア。
ヒナは屈辱に唇を噛み締め、最後の気力を振り絞って喉を鳴らした。
「……助け……なさい……」
「あら? 私のような気味の悪い女の助けなど、プライドの高い魔王様には不要なのではありませんか?」
ノアが首を傾げ、愉悦を隠そうともせずに問い返す。
「……条件を……出すわ……。3日間……私の家での……『お泊まり』の権利を……あんたに……やる……! だから………助けなさい…ッ!!」
それは空崎ヒナの人生において、最も屈辱的な魂の切り売りであった。
その言葉を聞いた瞬間。
スッ……。
生塩ノアの口元が、三日月のように吊り上がった。
天使の如き微笑みの皮を脱ぎ捨て、底知れぬ強欲の深淵を剥き出しにした、まさに悪魔そのものの恐ろしい笑み。
「――契約成立、ですね」
ノアは手帳をパチンと閉じると、優雅な足取りで、未だに怒鳴り散らしている千鳥ミチルの目の前へと歩み出た。
「おいお前ッ! 誰だ邪魔をするな! 私は今、この愚か者にクリエイターの矜持を――」
ミチルが怒髪天の形相でノアを睨みつける。
だが、ノアは動じるどころか、その薄紫色の瞳をこれ以上ないほど輝かせ、胸元で両手をぎゅっと組み合わせた。
「素晴らしいです……! なんて圧倒的な熱量、なんて研ぎ澄まされた表現力なのでしょう! 千鳥ミチルさん、あなたの動画はまさにキヴォトスの夜明け、前衛芸術の最高峰ですわ!」
「……は?」
ミチルの怒号が、不意に喉元で詰まった。
「私、拝見いたしました! 第162話の、あの水面に映る月影のカット……わずかコンマ数秒のフェードアウトに込められた孤独の美学、あれは全キヴォトスの映像作家が束になっても絶対に到達できない、神の領域の色彩設計です! 既存の枠組みを根底から覆す、唯一無二の独創性! あなたこそ、時代が求めた真の天才クリエイターですわ!!」
息をつく間もなく、淀みなく紡ぎ出される完璧な美辞麗句の連打。
それはAIのような計算されたテンプレではなく、ノアが自らのアーカイブからミチルの自尊心のツボをmm単位で正確に狙い撃ちにした、至高の毒薬であった。
「え……? え、あ……そ、そうかな……? あそこのカット、やっぱり分かる……? 水面の反射、実は3徹して調整したんだよね……えへへ……」
ミチルの顔から、どす黒い怒気のプラズマがみるみるうちに引いていく。
「当然です! あんな素晴らしい映像を理解できない輩がいるとすれば、それは感性が退化しきった哀れなモブに過ぎません! あなたの手掛ける動画の1フレームには、宇宙の真理が宿っています! 世界は今まさに、千鳥ミチルという新星の輝きにひれ伏すべきなのです!」
「う、うわぁぁぁ……! そこまで褒められちゃうと、照れるなぁ~! あはは、やっぱりわかる人にはわかっちゃうんだね! ミチルっち流忍法の真髄がさ!」
ミチルは真っ赤になって後頭部を掻き、ヘラヘラと締まりのない笑顔を浮かべた。
ドサッ。
その瞬間、ミチルの手の力が抜け、胸ぐらを掴まれていたヒナの身体が重力に従って地面へと力なく落下した。
「……げほっ、ごほっ……!」
泥の上に膝をつき、激しく咳き込むヒナ。
すっかりいつものお気楽なタヌキ娘に戻ったミチルは、スマホに向かって「みんなー! 私の動画を完璧に理解してくれる最高のファンが現れたよー!」と両手を振ってはしゃぎ始めている。
「……こ、の……クソタヌキが……ッ」
這いつくばったままのヒナが、憎悪を込めて右の拳を握りしめた。
しかし、今のヒナには立ち上がる体力すら残っていない。繰り出されたのは、普段のフルパワーの数億分の1……一般生徒のパンチ程度の力のないパンチであった。
ポスッ。
ヒナの小さな拳が、ミチルの脛のあたりに弱々しく触れる。
その瞬間。
「キュー……」
ミチルは情けないカエルのような声を漏らし、白目を剥いてその場にバタンと仰向けに倒れ伏した。
そのままピクピクと痙攣し、完全なノックアウト状態で動かなくなる。
「………………………………は?」
地面に座り込んだまま、ヒナは自らの拳と、倒れたミチルを交互に見つめ、信じられないものを見たかのように目を丸くした。
先ほどまで、至近距離からの徹甲榴弾の連射を歯で噛み砕き、戦車を素手で叩き折っていたあの絶対無敵の怪物が、なぜこんなそよ風のような一撃で沈んでいるのか。
ノアが手帳を開き、万年筆をサラサラと滑らせながら冷静に分析を口にする。
「ふふ、なるほど。怒り狂っている精神極限状態の時のみ、アドレナリンと神秘の異常活性により物理法則を超越した超耐久を獲得する……ですが、それが解けてしまえば、肉体構造そのものはただの非力でヤワな女子高生に戻るわけですね。実に興味深い生体データが採取できました」
「……なによ、それ……。ふざけんじゃないわよ……ッ」
あまりの拍子抜けなオチに、ヒナのこめかみが怒りでピクピクと痙攣する。
だが、すぐに激しい胃の痙攣がぶり返し、ヒナはその場に突っ伏した。
「……ノア……。肉を……食わせなさい……。早く……何でもいいから……肉を……」
ヒナは息も絶え絶えに、命の恩人(?)であるノアへと命令を下す。
「…………………………」
しかしノアはその場から一歩も動かなかった。
「何をしてるの……早く肉を……」
ヒナが苛立ちを露わにして見上げた、その刹那。
ムニュッ!
「……むぐっ!?」
ノアの白く冷たい指先が、ヒナの柔らかい両頬を万力のように力強く挟み込み、その口元を強引にすぼめさせた。
「忘れてませんよね……お・と・ま・り・か・い❤︎」
ノアの瞳の奥で、ドロリとした狂気の渦がギラリと怪しく光った。
「3日間、ヒナちゃんの自宅で、私の監視下で、私の質問にすべて答え、あなたの生活習慣から寝相に至るまで、24時間体制で克明に記録させていただく……まさか、契約を反故にするおつもりではありませんよね?」
「んぐ……っ、んんーーッ!!」
頬を固定されたまま必死に抗議しようとするヒナ。
その半開きになった口の中へ、ノアはもう片方の手で、ポケットから取り出したばかりの冷めたファ○チキを無造作に、力任せにギュウギュウと押し込んだ。
モグッ、モグモグ、ゴクンッ!!
喉を通る油脂とタンパク質。
肉が入った瞬間、ヒナの体内の超回復機能が凄まじい勢いで作動し、失われていた体力が急速にリカバリーされていく。
だが、体力が戻るにつれて、自らの頭脳に訪れる冷酷な現実の自覚。
「(……クソッ…! とんでもない契約をしてしまったわ…!! あのタヌキの説教から逃れるために、もっとタチの悪い底なしのストーカーに自ら首輪を差し出すなんて……ッ!!)」
回復していくエネルギーの代償として支払わされたものの重さにヒナはチキンを咀嚼しながら、ただただ後悔していた。
【暴食&強欲 VS 憤怒 ―― 暴食&強欲の勝利!】
これにて七つの大罪編完結です。
次回からは長編の新章が始まります。
他の生徒の家族も見たいですか?
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