ラノベとかでよくある学園に男は自分一人ってシチュ、
あれ、主人公が女の子とラッキースケベするより先に……女の子たちが主人公をエロい目で見るのでは?

これは、そんな発想から生まれた作品。
魔力を持つ少女たち――戦乙女が通う学園に編入した唯一の魔力持ち男子・羽坂蓮が、周囲からエロい目で見られていることにまったく気づかないまま頑張る、現代ファンタジー入り貞操逆転系エロコメ作品です。

※短編予定ですが、ウケが良かったら連載化します。

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戦乙女学園の、とある一日

 お父さん、お母さん、水奈(みな)へ。

 拝啓。

 お元気でしょうか。

 

 戦乙女学園に編入して一週間。

 色々なことがありましたが、僕はなんとかやっていけています。

 

 ただ、友達はまだできていません。魔力を発現した唯一の男ということで、普段は周りから目を逸らされるのに、鍛錬中にふと周囲を見るとなぜか睨まれたりしていて……自分が場違いだと感じることもあります。でも、心配しなくても大丈夫です。それよりも僕は早く強くなって、戦乙女と並んで戦えるようになりたいので!

 

 それに、中学一年の時に同じクラスだった、舞宮(まいみや) 怜葉(れいは)さん、覚えてますか? なんと彼女、実は戦乙女で、もともと知り合いだということもあって僕と同室になってくれたんです! 中学の時は自分にも周りにも厳しく、運動部の先輩たちが告白してもまったく靡かない高嶺の花って感じで、ちょっと近寄りがたい雰囲気があったんですが……思っていたより優しくて、ユーモアのある方でした。彼女が同室なら、きっと学園生活もうまくいくと思います!

 

 それから、水奈。水奈は僕が学園に行く前、『お兄ちゃんが変な女に捕まらないか心配』ってしきりに言ってたけど、今のところ、そういう感じはまったくありません。水奈も知っている通り、戦乙女は人間の上位種で、男性のことは花や人形のような守る対象としか見ていない。多分、たまたま魔力を発現しただけの僕も例外ではないはずなので……心配性の水奈が考えてるようなことは起きませんよ、安心してください。

 

 他にも色々書きたいことはありますが、これ以上は筆が止まらなくなってしまいそうなので、ここまでにしておきます。今困っていることも、シャツが一枚見つからないとか、そんな下らないことなので。

 

 改めて、僕は新天地で頑張っています。いつか必ず、一人前になって帰ってきますので、身体に気を付けてお過ごしください。

 

 敬具。

 羽坂(うさか) (れん)より。

 

 *

 

 鳥のさえずりが聞こえ、夏の気配を含んだ陽光が差し込む春の朝。墨を潰したかのような黒髪をなびかせる、凛とした目鼻立ちをした美少女……舞宮怜葉は今、同室の男子が眠っている寝室の前で佇んでいた。落ち着かない様子の彼女が体を揺らす度に豊満な胸がふるふると震え、その存在感を露わにしている。

 

「……そう、これは同室として当然のこと。起きるのが遅いから起こしに行って。ぐっすり寝てたから、無理矢理布団を剥ぎ取って起こす。そしたら偶然、パジャマがめくれあがって……。そう、これは全部偶然なのよ」

 

 顔は薄く紅潮させながら、自分への言い訳をぶつぶつと呟き続ける怜葉だったが、やがてぐっと口の端を結ぶと……なるべく音を立てないよう慎重に、寝室のドアを開いた。

 

 部屋に明かりはなく、朝日がカーテンで遮られているためか薄暗い。そんな部屋の壁際に鎮座するベッドは膨らんでおり、誰かが眠っていることがうかがえる。

 

「……っ」

 

 まだ部屋の主が起きていないことを確認した怜葉の喉がこくりと鳴った。そのまま抜き足差し足でベッドに歩を進めた彼女は、掛け布団に手をかけ、一気に捲り上げる――。

 

 その、寸前だった。

 

「……ん。あ、おはようございます」

 

 部屋の主である中性的な顔立ちをした大人しい雰囲気の少年、羽坂 蓮が目を覚まし、身体を起こした。

 

「――――っ!?!?」

 

「……? どうして、怜葉さんが僕の部屋に?」

 

 不意に声を掛けられた怜葉が、言葉にならない悲鳴をあげながら壁際にまで飛び退く。蓮は眠そうに目を擦りながら、なぜか自分の部屋にいる怜葉に少し怪訝な顔をしたが、すぐに合点がいったかのように表情を晴らした。

 

「……! もしかして、僕を起こしに来てくれたんですか?」

 

「……ぇ、……ええ! そ、そそそそそ……そうよ! あ、あなたが起きるのが遅いから、起こしに来てあげただけなのよ――感謝しなさい!」

 

 偶然を装ったセクハラを仕掛けようとしていたなんて言えるわけがない怜葉が、顔中から冷や汗をダラダラ流しながら強い口調で返答を行う。返答を受けた蓮はさらに笑みを深め、感謝の気持ちを前面に出した。

 

「すいません。わざわざ――ありがとうございます!」

 

「……ぅ、……っ」

 

 なんの含みもなさそうな蓮の感謝の受け、怜葉の胸がちくりと痛む。怜葉が形容しがたい感情を持て余していると、ベッドから降りた蓮がカーテンを開いた。

 

 窓から差し込む朝日に導かれるように、ふと蓮の方を向いた怜葉は見てしまった。昨晩の気温が高く寝苦しかったせいか、蓮の着ているパジャマのボタンが上から数えて二つ外されていて……蓮の首筋からシャツ越しでも硬さが分かりそうな胸元までが、汗ばんでいるのを。

 

 

「――ん゛ん゛っ!!??」

 

 

 蓮のセクシーショットを見てしまった怜葉は、女の子がしていい訳がない奇声をあげながら、両手で目を覆い、見ないようにした。

 

 ……いや、よく見ると指の間隔がガバガバで、隙間から蓮の胸元をガン見しており、口元はだらしなく緩み切っている。もう少し、欲望を隠す努力をした方がいい。

 

「……!? どうされましたか、怜葉さん!」

 

「え? えぇと……」

 

 だが、蓮はまず奇声が気になってしまったようで、心配混じりの視線が怜葉へ向けられる。再び顔に冷や汗を浮かばせながら、脳をフル回転させた怜葉は……。

 

「これは、その……ドッ■ンの物真似よ!!」

 

「ど、ドッス■の、ものまね……?」

 

 見切り発車で、滅茶苦茶な言い訳を始めた。

 流石に苦しすぎる。すぐに嘘だとばれてしまうだろう。

 

「そ、そう! あなた、いきなり親元から離されて寂しい思いをしているって聞いたから、笑わせてあげようと思ったのよ!」

 

「僕のために……そんな、身体を張ってまで……!?」

 

 ……なんか、上手く行きそうだ。

 

 どうやら、ギャグ自体はぜんっぜん刺さらなかったが、高嶺の花の怜葉が自分のためにそこまでしてくれたことに蓮は感銘を受けたらしい。その勢いのまま誤魔化そうと、怜葉は蓮に背を向けて、早足で部屋から出ていこうとした。

 

「ほら、そんなことより――そろそろ準備しないと遅れるわよ!」

 

「はい! そうですね! まずは着替えないと……」

 

「…………っ!?」

 

 が、蓮の口から『着替え』という単語が出てきた瞬間、怜葉の足が止まる。そうして、蓮が服に手を掛けたその瞬間、怜葉の目は溢れんばかりの期待で輝きだす――。

 

 ……より先に、蓮がまだ部屋にいる怜葉に気づいてしまった。

 

「……あの、部屋から出てくれないと、着替えができませんが」

 

「………………そうね」

 

 蓮の指摘を受けた怜葉は、心底名残惜しそうに部屋から立ち去った。

 

 *

 

 朝の準備を終えた蓮は、寮から出て学園へ向かっていた。普段は怜葉が付き添っているのだが……今日は事情があるようで、蓮は一人で歩いている。

 

(怜葉さんはお手洗いに寄ってからくるらしいですが、朝のホームルームに間に合いますかね……? 心配です)

 

 怜葉のことを心配しながら廊下を歩く蓮の目に、楽しそうに談笑する三名の女生徒が映る。ついさっきまで明るく笑っていた三人は、蓮の姿を認めた瞬間、ぴたりと会話を止めた。蓮は背筋を伸ばし、わずかに表情を緩め――女生徒たちへ挨拶した。

 

「――おはようございます!」

 

「……ぇ、ぁ。……スゥー」

 

 軽い会釈を伴った蓮の挨拶に対し、女生徒たちは……直視できないように目を逸らし、口から空気が抜けるような音を漏らすだけだった。勇気を振り絞って行った挨拶を無視された蓮が、口の端を強く結ぶ。

 

(……やっぱり、まだ僕はこの学園に受け入れられてないみたいです。僕はこの学園の異物ですから、当然のことでしょう。でも、諦めません。いつかきっと、心を開いてくれる……はずです!)

 

 強い決意を胸に、蓮は歩幅をわずかに広げて歩き続ける。

 彼は気付かなかった。

 

「うぅ……ダメだ。顔直視できないし、挨拶も返せなかった。絶対変な子だって思われたよ、どうしよぉ……」

「な、なんか、笑顔向けて挨拶してくれたんだけど!? もしかしてあの子、私のことが好きなんじゃ……?」

「……今夜はこれでいっか」

 

 ……自身が通り過ぎた後、女生徒たちの話題が自分一色に染まったことに。

 

 *

 

 朝のホームルームが終わり、授業が始まる。

 この日の一限は、戦乙女社会についての授業だった。

 

「えー、私たち戦乙女は、西暦20■■年、理由も分からずに世界中で現れた災厄の化身『ディザスター』を倒すために魔力が発現した少女たちの総称であり、人間の上位存在とも言われている……という話を前の授業でやりました。なので、本日は戦乙女が生まれたことへの世界への影響について、掘り下げていこうと思います。では、教科書の8ページを……」

 

 生真面目そうな女の先生が、抑揚のない声で授業を進める。黒板に書かれているのもほぼ教科書の書き写しなので、授業を受けている生徒の半数以上はつまらなそうだったり、うつらうつらと舟をこいだりしてしまっている。

 

 そんな中、蓮とその左隣の席に座っている怜葉は真面目に教科書に書かれている内容を書き写している。だが、怜葉は次第に、蓮を挟んで右隣にいる金髪ミディアムの女の子――制服を着崩しているせいか谷間が丸出しで、付け爪とピアスをバッチバチにキめたダウナー気味のギャル、陽芽乃(ひめの)のことが気になり始めていた。

 

「~~~~♪」

 

「…………」

(授業中にゲームだなんて、隣の蓮に悪影響が出たらどうするのよ……!)

 

 陽芽乃は教科書を立てて置き、その裏で飴を咥えながらスマホを横持ちにし、ゲームに没頭している。怜葉はそれが許せないようで、しばらくその様子を鋭い目で睨みつけていた。

 

「……チッ」

 

 そうこうしている間にゲームに負けてしまったようで、陽芽乃は軽い舌打ちをしながら軽く机を蹴り飛ばす。すると、飴やスマホを隠していた教科書が机から蓮の側へ落ちた。

 

 それに気づいた蓮が教科書を拾い、小声と共に陽芽乃へ向ける。

 

「はい」

 

「……ん、どーも」

 

 蓮が差し出した教科書に対して、陽芽乃が腕を伸ばして受け取ろうとした。一見態度が素っ気ないように見えるが、よくよく見ると横目でチラチラと蓮の方を見ており、露骨に意識している。

 

 陽芽乃が教科書を受け取るために身を乗り出し、二人の距離が一番近づいたその刹那、蓮は手を口に添え、ウィスパーボイスで彼女へ話しかけた。

 

「授業中なので、ゲームはほどほどに」

 

「ひぁ……っ!?」

 

 蓮からすれば左隣の怜葉が不機嫌なのを受け行った、やんわりとした注意のつもりだったのだが、陽芽乃からすればいきなりASMRを仕掛けられたようなもので。元々耳が弱点の彼女の口から艶めかしい声が漏れ、身体を震わせる。

 

 そんな彼女を皮肉るかのように、戦乙女に関する授業は続いた。

 

「特に大きな社会問題になっているのは、戦乙女が男性を異性と認識しないことです。多くの戦乙女にとって男性は性的対象ではなく、花や人形のような庇護対象に近い存在として認識され、その結果、婚姻や出産に結びつく例が少なく、次世代の戦乙女が生まれにくいという問題が起きています。戦乙女が男性に比べてあまりにも強すぎるためとも、魔力を持つ戦乙女は魂の位階が人間より一つ高次にあるので、庇護対象としてしか認識できないためとも言われており、根本的な原因はいまだ分かっていません。また、戦乙女の素質には遺伝的要因が大きいと考えられているため、生殖医療の活用や卵子提供制度の整備も検討されておりますが、倫理的・感情的な反発は大きく……」

 

「…………っぅ」

 

 陽芽乃は顔を熟れた果実のように真っ赤にし、もじもじと腰をくねらせていたが、やがて耐えきれなくなったようで……飴を飲み込んで立ち上がった。

 

「先生、トイレ行ってきまーす……っ!」

 

「あ、はい……」

 

「…………!」

 

(怜葉さん、まだ睨んでます……)

 

 何でもないのを装いながら、陽芽乃はそそくさと足早に教室から出ていく。怜葉はその背中を憎らし気に睨みつけていたが……。

 

(う、羨ましい……! わ、私だってあんな至近距離で囁いて欲しい……!)

 

 いつの間にか、その目に秘められた感情は、違うものに変わっていた。

 

 ……尚、トイレから戻ってきた陽芽乃は肌がツヤツヤしており、中指の付け爪が外れていたのだが、怜葉以外それに気付く人はいなかった。

 

(コイツ、授業中にヤりやがった……っ!)

 

 *

 

 授業の終わった放課後、蓮はぴっちりした訓練用の魔力伝導補助スーツに着替え、アリーナにて魔力を使った武術鍛錬に励んでいた。訓練用アリーナには他にも、多くの戦乙女が集まっている……のだが、その目的は鍛錬ではなく……。

 

「……ふっ! はっ! せいっ!」

 

(うっわ、エロすぎでしょ……! あんな子に私たちと同じようなスーツ着せるなんて、なんかの法に引っかからないのかしら……!?)

(ああ、躍動する筋肉! 飛び散る汗! 素晴らしい……!)

(やっば! 国宝級でしょアレ!)

 

 もっぱら、身体のラインが浮いた訓練用スーツで鍛錬に勤しむ蓮の見学にあった。劣情を抱いていることが分からない程度に距離をとって鍛錬を行う戦乙女は日に日に増え、逆に蓮の近くで鍛錬をする戦乙女は、ついに誰一人いなくなってしまった。

 

 まるで人だかりがドーナツのようになった訓練用アリーナで、独り剣を振る蓮の顔には若干の憂いが浮かんでしまっている。

 

「…………せいっ!」

 

(ついに、僕の周りには誰もいなくなってしまいました。……いえ、気にしちゃダメです! 独りには慣れてますし、それに僕の目的はあくまで戦乙女と並んで戦えるくらいに強くなること! それを、間違えたらいけません……!)

 

 首をぶんと振り、蓮は魔力を込めた剣を訓練用の人形へ叩きつけることに意識を集中させる。そのまま1時間も一心不乱の鍛錬を続けた蓮の息はあがり、全身が汗でびっしょりと濡れてしまっていた。

 

「……ふぅ。そろそろ一度、休憩入れましょうか」

 

 水筒を使って水分補給をした蓮は、自身の汗ばんだ身体に不快感を示し、そして……自らの訓練用スーツに手をかけた。

 

「…………っ!!」

 

 瞬間、周囲で見ていた戦乙女たちが息を飲み、期待で目が輝き始める。

 それは、蓮の悪癖。蓮には、自らの汗を無意識のうちにシャツで拭きとろうとする習性がある。訓練用スーツを着用しているのにその下にあるシャツで拭こうとするあたり、癖はかなり根深いようだ。

 

 周囲を取り巻く戦乙女たちの目線が蓮の一挙手一投足を捉え、期待と動揺が共鳴し、ざわ、ざわ……とアリーナが揺れ始める。うちの何名かは、見えないようこっそりとスマホを構えようとし、隣の子に叩き落とされている。

 

 というのも、一度蓮は同じようなことをして、その胸筋を、腹筋を、鼠径部の端を、衆目に晒している。その際には周囲にいた戦乙女が鼻血を吹き出して倒れ、原因不明の魔力干渉と処理される程の威力を誇ってしまった。今戦乙女が遠巻きに見ているのも半分、耐ショック体勢のようなものだろう。

 

 そんな無数の視線に気づかない蓮がスーツをめくり、シャツに手をかけた、その時……。

 

 柔らかいタオルが、蓮の顔へ向かって投げつけられた。

 

「わぷっ!」

 

「……人前で服脱いで、はしたないわよ。汗はちゃんとタオルで拭きなさい」

 

「あ、すいません」

 

 蓮がタオルを投げられた方を見ると、そこには僅かに頬をふくらせた怜葉がいた。怜葉の忠告を聞いた蓮は顔をタオルで拭きながら、スーツをもとに戻す。

 

 

「――――チッ!!!!」

 

 

 蓮の服を戻させた怜葉へ、アリーナ中の戦乙女からこれ以上ないほどの憎しみが込められた視線と露骨な舌打ちが向けられる。

 

「……ふんっ」

(私だって見たいけど、他の人に見られるくらいなら……!)

 

 憎悪すら混じった視線を、怜葉は鼻で笑って一蹴する。だが、それは当然、怜葉の傍にいる蓮も受け取っており……。

 

(舌打ちに、この睨み付け……僕に向けられてます、よね? 怜葉さんへ向けられる理由がありませんし。やっぱり僕はまだ全然、この学園に受け入れられてないみたいです)

 

 周囲からの悪感情の原因は自分にあると誤解した蓮が、その身体を縮こまらせる。だが、その一瞬後にはぐっと奥歯を噛みしめ、顔を上げようとした。その瞬間――。

 

「ねぇ、アタシと鍛錬してくれない?」

 

 横合いから、言葉を投げつけられた。二人が声を掛けられた方を向くと、そこにいたのは金髪巨乳で飴を咥えた、蓮の右隣の席のダウナーなギャル、名前は――。

 

「陽芽乃さん、でしたっけ?」

 

「……え? アタシの名前知ってんの?」

 

「あ、はい」

(早く馴染みたいので、同じクラスの人の名前は頑張って覚えました)

 

「ふーん。そっか……」

 

 蓮の返答を聞いた陽芽乃は心底嬉しそうに口角を上げると、口から飴を取り出して器用に紙へ包んでスーツのポケットへしまい、蓮に顔を近づけた。

 

「ねーねー。入学時の実技試験成績が学年トップクラスなアタシがキミの鍛錬の相手になったげようか。やっぱ、効率的に強くなりたいなら強い相手と組み手しないとねー?」

 

 陽芽乃は快活な笑顔と共に訓練用の剣を引き抜き、蓮へ向ける。それを受けた蓮の表情に少しずつ喜びと驚きが混ざり始めた。

 

「い、いいんですか!? でも、どうして……?」

 

「あー。さっきのお返し、かな?」

 

「なるほど……?」

(さっき教科書を拾ったことへの、ですかね……?)

 

 蓮が納得しそうになった、その時……怜葉が二人の間に割り込んできた。

 

「――ちょっと! 先に声を掛けたのは私なんだけど!? それに、あなたみたいな不埒な輩に、蓮を任せるわけには……!」

 

「不埒、ねえ? あんたがそれ言っちゃう?」

 

「何が言いたいのよ……!」

 

 額に青筋を立てた怜葉の問いかけに対し、陽芽乃は肩を竦めながら答える。

 

「聞いてるよ。あんた、たいした交流なかった癖に、『中学の同級生だから』って理由でゴリ押ししてあの子との同室を勝ち取ったらしいじゃん? ふーき委員みたいに小うるさい癖に、ずいぶん卑しいね」

 

「じ、授業中に『あんな事』するあなたに、そんなこと言われる筋合いは……!」

 

「『あんな事』って何? 分かんないから、教えてよ」

 

「ぐ、ぐぅ……! 屁理屈を……!」

 

 言い争いが苛烈になるにつれ、怜葉と陽芽乃の物理的距離はどんどん縮まっていき……ついにはほぼ0距離となる。それによって、二人の豊満な胸が真正面からぶつかり、潰れてしまった。しかし、夢中で言い争いを続ける二人はそれに気づけない。

 

「とにかく! あなたみたいなのに蓮の相手はさせられないっ!」

「信用で言うならどっこいどっこい。だったら後は実力じゃなーい?」

 

「あ、あの……」

 

 ぴっちぴちのスーツを着た二人が身体をよじらせたり相手へ押し付けたりする度、ぴったりとくっついた爆乳が軟体生物のようにぐにんぐにんとその形を変化させながら、擦りあわさっていく。

 

「うぅ……」

(このスーツ、女の人が着るとあんなセクシーになるんですね……! って、駄目です! 戦乙女は僕を男として見ないんですから、僕も戦乙女をそういう目で見てはいけません! と、とにかく視界に入れないようにしなければ……!)

 

 二人を直視できなくなった蓮が、目を背ける。どうやら、健全な青少年である蓮にとって、美少女同士の乳合わせは少々刺激が強すぎたようで……。

 

「――すいません! ちょっと今日は、一人でやらせてください……!」

 

「え、ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「待って待って、け、喧嘩しないから!」

 

 二人の声を背に、結局蓮は一人で剣を振り始めてしまった。

 

 *

 

 その夜、シャワーを浴び、夕食を摂り終えた蓮は、洗濯機を回している間に、歯磨きを終え、寝室で家族への手紙を書いていた。うんうんとうなりながら手紙を書き進めるうちにかなりの時間が経過してしまったらしく、洗濯の終了を表すアラーム音が蓮の耳に届く。

 

「おっと、もうこんなに時間が経ってしまったんですね……洗濯物干しながら気分転換しましょう」

 

 洗面所にある自分用の洗濯機から着替えを取り込み、ベランダで干していた蓮は、自身の洗濯物にある異変に気づいた。シャツが、一枚足りないのだ。

 

「多分なくしたのは、今日鍛錬の時着てたのです。どこかで落としたのでしょうか……?」

 

 一通り洗濯機の中や脱衣所を探してみても見つからなかったので、蓮は……怜葉に頼ることにした。怜葉の寝室のドアを叩き、扉越しに事情を説明したのだ。

 

「……と、いうわけなんです。多分シャワー室から持って帰る時に落としたとか、そんな感じだと思うのですが……怜葉さん、何か心当たりがありますでしょうか?」

 

「え゛っ。ええと……心当たりはないわね。ま、まあ、私も探してあげるから、そんな深追いして探す必要はないと思うわよ……? 多分、明日とかには見つかってるでしょ……」

 

「あ、ありがとうございます! 多分、汗ですっごく臭うと思うので、異臭とかしたら教えてください……っ!」

 

 喜びの中にわずかな羞恥を含んだ蓮の言葉に対し、怜葉の言葉は少しずつ力を失っていく。

 

「え、えぇ。ほんと、すごい、いい、匂いね……」

 

「うん? すいません、今ちょっと声が小さくて聞こえなかったです」

 

「――っ、なんでもない! おやすみなさいっ!」

 

「……? はい、おやすみなさい」

 

 何かを誤魔化すように会話を終えた怜葉に対し、若干疑問を抱きながら挨拶を返して部屋へ戻り、手紙の続きを書き始めた。

 

「……よし、書き終わりました!」

 

 どうやら怜葉と話したことで筆の進みが良くなったようで、30分も経たずに手紙を書き終えた蓮は、勢いのまま布団に転がった。

 

 気持ちよさそうに布団に寝そべる蓮の目が少しずつ細まっていく。薄れる意識の中、蓮は言葉を紡ぎ始めた。

 

「今日は、いい日です。怜葉さんに陽芽乃さん……二人と少し、仲良くなることができた気がします……。この調子で、きっといつか、友達を……すぅ……」

 

 心の奥に秘めた想いが途切れ、寝息に変わる。

 そうして、蓮の一日は終わりを告げた。

 

 

 

 

 一方その頃、壁一枚隔てた隣の部屋で、怜葉は――。

 

「すぅ……っ。んぁ、あ、すごっ、はぁぁっ……こんな、蓮のにおいで、なんて、私、へんたいみたいなことしてるのに……あっ、指、とまんない……っ!」

 

 蓮の汗が染み込んだシャツを顔に当て、布団の中でもぞもぞと艶めかしく身体を揺らしていた。




【備考】
戦乙女は蓮に対し、貞操観念が逆転してるのに加え、童貞みたいな反応になっちゃいます。
戦乙女たちは蓮と出会うまで『異性』と出会ったことがないから、仕方ないね。

どんな救世の英雄戦乙女でも、蓮の前では性欲を持て余した恋愛クソザコ同然で、蓮はそれに気づかなくて……。
連載化したら、そんな話にする予定です。
応援、よろしくお願いします。

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