それを愛と希望の物語という 作:指輪のかけら
午後の医務室は珍しく騒がしかった。
原因は明白である。
「うおっ、消毒くせぇ」
扉を開けた瞬間に顔をしかめたのは、影浦雅人だった。
その後ろから、呆れた様子の絵馬ユズルと、静かな表情の北添尋が続く。
「医務室だからねぇ」
ロマンは苦笑しながら椅子を回した。
「というか、今日はどうしたの?」
「健康診断の紙提出」
北添が封筒を差し出す。
「ああ、ありがとう」
ロマンは受け取りながら三人を見た。
影浦隊。
ボーダーでも比較的自由人寄りの部隊だ。
特に影浦は癖が強い。
だが、悪い人間ではない。
「先生、なんか疲れてね?」
影浦がじっと顔を覗き込む。
「えっ、そう見える?」
「見るからに」
「最近みんな遠慮ないなぁ」
ロマンが肩を落とす。
ユズルが少し困ったように笑った。
「まあ、先生わかりやすいですから」
「そうかなぁ」
「結構顔に出てる」
「マジかぁ……」
ロマンは机に頬杖をついた。
影浦はそんなロマンをじっと見ている。
その視線に、ロマンは少しだけ違和感を覚えた。
影浦のサイドエフェクト。
感情を“刺々しさ”として感じ取る能力。
ロマンはそれを知っている。
もちろん、知らないふりをしている。
「先生さ」
「ん?」
「なんつーか……」
影浦が眉をひそめる。
珍しく言葉を選んでいた。
「悪い人じゃねぇんだよ」
「ありがとう?」
「でも時々、変な感じする」
医務室が少し静かになる。
ユズルと北添も視線を向けた。
影浦は腕を組む。
「大人の視線じゃねぇっていうか」
「……」
「もっと別のもん見てる感じ」
ロマンは少しだけ目を細めた。
影浦は続ける。
「なんか、わかんねぇけど」
曖昧な言葉。
だが、サイドエフェクト持ちらしい直感だった。
ロマンは数秒黙り、それから苦笑する。
「難しいこと考えてるんだねぇ、影浦くん」
「考えてるっつーか、勝手に刺さるんだよ」
「それも大変だ」
「めんどくせぇぞマジで」
影浦は椅子へ深く座る。
ロマンはその様子を見ながら、静かに笑った。
「でも安心して」
「?」
「僕、君たちに危害加えるつもりはないから」
その言葉に、影浦は少しだけ目を細める。
「……そういうとこなんだよな」
「え?」
「なんつーか、“人間側の言い方”じゃねぇんだよ」
ロマンの動きが一瞬止まった。
ユズルが慌てて口を挟む。
「カゲ、先生困ってるだろ」
「あ? 本当のこと言っただけだ」
「もっとこう、言い方ってものが……」
「別に怒ってないよ」
ロマンが苦笑する。
「影浦くんって素直だねぇ」
「遠回し嫌いなんだよ」
「羨ましいな、それ」
ロマンは小さく笑った。
だがその笑みは、少しだけ薄かった。
影浦隊が帰った後。
ロマンはしばらく机へ視線を落としていた。
“人間側の言い方じゃない”。
その言葉が妙に残る。
「……鋭いなぁ」
ぽつりと呟く。
サイドエフェクト持ちは時々こういうところがある。
論理ではなく感覚で踏み込んでくる。
そこが少し怖かった。
次の日。
「失礼します」
医務室へ入ってきたのは、熊谷友子と日浦茜だった。
「あれ、那須ちゃんは?」
ロマンが首を傾げる。
熊谷が少し困ったように笑った。
「今日は体の調子が悪くて、自宅待機です。」
「あー……そっか」
ロマンは納得したように頷いた。
那須の体調は波がある。
今日はあまり良くない日なのだろう。
「で、二人はどうしたの?」
日浦が少し視線を合わせる。
そして熊谷が口を開いた。
「先生、那須さんのことで少し」
ロマンは椅子へ座り直した。
「うん、聞くよ」
熊谷は少し迷うように言葉を選ぶ。
「……最近、無理してる気がするんです」
「ああ」
ロマンは静かに頷いた。
予想していた話だった。
「本人は大丈夫って言うんですけど」
「那須さん、昔からそうなんです」
日浦も続ける。
「自分が弱いって思われるの嫌がるから」
ロマンは二人の顔を見た。
本気で心配している顔だった。
良い隊だな、と自然に思う。
「ねえ」
ロマンは少し考え、それから口を開いた。
「前に、那須ちゃんと死ぬのって怖いかって話したんだ」
二人が目を丸くする。
「そんな話を?」
「うん」
ロマンは静かに続ける。
「那須ちゃん、“怖い”って即答したよ」
熊谷が少し驚いた顔をした。
「でもね」
ロマンは笑う。
「それでも前に進くって言ってた」
医務室は静かだった。
「誰かの記憶に残ってるなら、自分は完全には消えないって」
日浦がゆっくり目を伏せる。
「……那須さんらしいですね」
「うん。すごく」
ロマンは頷いた。
「だからさ」
二人を見る。
「心配するのは悪いことじゃない。でも、あの子を止めようとしすぎないであげて」
熊谷が顔を上げる。
「支えてあげてほしいんだ」
「……」
「一人で頑張る子だから」
その言葉に、二人はしばらく黙っていた。
やがて熊谷が小さく頷く。
「はい」
日浦も続く。
「ちゃんと支えます」
ロマンは少しだけ安心したように笑った。
「うん。それが一番だと思う」
外では夕方の訓練開始アナウンスが流れ始めていた。
戦う人たち。
支える人たち。
皆それぞれ、自分の場所で前へ進んでいる。
ロマンは窓の外を見ながら、静かに息を吐く。
「……強いなぁ」
それは感心だったのか。
羨望だったのか。
自分でも、まだ少しわからなかった。
アンケートにあった影浦隊と、那須隊(2回目)です。
あと一話、増やすとしても、もう1話なので少々お待ち下さい。
どの隊と絡ませる?
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風間隊
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嵐山隊
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加古隊
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三輪隊
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二宮隊
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影浦隊
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生駒隊
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東隊
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那須隊
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弓場隊
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鈴鳴第一
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荒船隊
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香取隊
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諏訪隊
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柿崎隊