「……っ!」
ナルトの身体がぴくりと震えた。
恐怖で足がすくみ、何もできなかった自分。
敵が襲ってきた瞬間、サスケはすぐに動いた。
迷うことなく敵に向かい、サクラちゃんだってダズナのおっちゃんが狙われたと気づいた瞬間、クナイを構えて前に出た。
なのに自分は――。
サスケに助けられ、最後にはカカシ先生にまで救われた。
己の無力さと情けなさが、胸の奥で激しい怒りとなって渦巻く。
(俺は……何やってんだ……!)
ナルトは強く拳を握りしめた。
頭の中では、先ほどの光景が何度も繰り返されていた。
敵が現れた、あの瞬間。
サスケはすぐ動くことができた。
なのに――。
(俺は……何もできなかった)
動かなきゃ。
そう思っていた。
頭では分かっていたのに、身体が言うことを聞かなかった。
怖かった。
ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
ナルトは横目でサスケを見る。
いつも気に食わない奴。
絶対に負けたくない奴。
いつか必ず追い越してやると思っていた奴。
そんなサスケが、自分にはできなかったことを当たり前のようにやってみせた。
(サスケはすぐ動けた……なのに俺は……!)
悔しさに拳が震える。
(くそっ……またサスケに遅れを取った……!)
このままじゃダメだ。
こんなところで怯えているようじゃ、火影になんてなれるはずがない。
ナルトは覚悟を示すようにクナイを手にした。
直後――。
「ナ、ナルト!?」
サクラちゃんの驚いた声が響く。
「何やってんだ、お前は!」
サスケまでもが目を見開いた。
それでもナルトは二人を見ることなく、真っ直ぐ前を睨みつけた。
「俺は……この左手の痛みに誓うんだ……!!」
声はわずかに震えている。
それでも、その瞳に先ほどまでの怯えはなかった。
「逃げるのも……人に助けられるのも、もうやめだ!」
ナルトは強く拳を握る。
(サスケにだけは……絶対に負けねぇ……!!)
「俺はもう怯まねぇ! 絶対に逃げ出さねぇ!」
そして、ダズナへと視線を向ける。
「俺はこの痛みに誓って……おっさんを守る!」
迷いはなかった。
「任務続行だってばよ!!」
ナルトの力強い声が辺りに響き渡った。
サクラちゃんは呆然とナルトを見つめ、サスケも何も言わずその姿を見ている。
そんな中――。
カカシは、いつものように目を細めた。
そして、にこりと笑う。
「うん。いい覚悟だね、ナルト」
「へへっ……だろ!」
褒められたと思ったナルトが得意げな笑みを浮かべる。
しかし――。
「でも、そのままじゃ死ぬぞ」
「…………へ?」
ナルトの笑顔が固まった。
「し、死ぬ……?」
「うん」
「俺が……?」
「うん」
「…………マジで?」
「マジで」
数秒の沈黙。
「ええええええええっ!?」
ナルトの叫び声が辺りに響き渡った。
「ちょ、ちょっと待ってくれってばよ! 俺、死ぬの!? こんなところで!?」
先ほどまでの覚悟に満ちた表情は完全に消えていた。
「カ、カカシ先生! どうすんだってばよ!?」
「どうするって?」
「助けろってばよ!! 先生だろ!!」
カカシは首を傾げる。
「でもナルト、さっき『人に助けられるのはもうやめだ』って――」
「今のは別だってばよ!!」
即答だった。
「俺まだ火影になってねぇんだぞ! こんなところで死ねるかってばよ!!」
「ナルト……」
サクラちゃんが呆れたようにため息をつく。
「さっきまであんなに格好つけてたのに……」
「う、うるせぇサクラちゃん! 死ぬって言われたら誰だって焦るってばよ!」
「……ウスラトンカチ」
「んだとサスケェ!!」
「はいはい。喧嘩は後にしてね」
カカシはそう言いながら、ナルトの手へ視線を向ける。
「…………」
一瞬だけ、その目が鋭くなる。
(やっぱりか……)
カカシには分かった。
普通なら、こんな短時間で変化が現れるはずがない。
だがナルトは違う。
(九尾の力……)
知識として知ってはいた。
けれど、実際に目の前で見ると、その異常さがよく分かる。
カカシはしばらくナルトの手を観察する。
そして――。
「まぁ、大丈夫やろ」
「へ?」
ナルトが間の抜けた声を漏らした。
カカシは忍具袋から包帯を取り出すと、ナルトの手に手早く巻いていく。
「ほら、これでよし」
「…………」
ナルトは包帯を巻かれた手を見る。
そしてカカシを見る。
「…………先生」
「ん?」
「さっき俺、死ぬって言われたよな?」
「言ったね」
「めちゃくちゃ焦ったんだけど!?」
「そうだね」
「じゃあなんで今『まぁ大丈夫やろ』なんだってばよ!!」
ナルトの叫び声が、再び辺りに響き渡った。
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