保育園の仲間と集まってピクニックをしよう。
息子の喜ぶ顔を見る為と踏み込んだその場所は
男にとって余りにもキラキラ眩し過ぎる世界だった。

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コミュ症親父がハイスペック父兄の集まる河川敷ピクニックに参加したら

「保育園で同じクラスで集まってピクニックをしよう。」

誰かが言い出して3年前に始まったその集まりも今回で3回目。

そこに私は息子の父親として参加していた。

正直、あまりよく知らない人たちとの集まりは苦手だった。

まず距離感がわからない。

あと、趣味もいまいち分からない。

極め付けが、意識の高さについていけない。

大阪の中心部梅田へ徒歩数分の場所にあるその保育園には、

経営者や高収入など、いわゆる成功者達を親に持つ子供が

集まっていた。

結婚とともに妻の実家のお膝元に引っ越しただけの、

しがない地方の工場で事務員をやっている私とは

そもそも住む世界の違う人達だ。

もちろん、彼らは何一つ悪く無い。

ただの私の僻みだ。

でも、無理して話に入って、私が話した時の、

「んー、そうじゃ無いんだよなー」

という感じが余りにも居た堪れない気持ちにさせるのだ。

 

その苦手意識と相まって、

コミュレベルの高い人達同士の賑やかな会話に

徐々に蚊の鳴くようにか細い声になっていった

わたしの発言は掻き消され、何度か無視された結果、

見事、私はコミュ症を発症する。

いやまあ、無視ですら無いのだが、

ポッキリ心が折れてしまったのだ。

ついにポツンと少し離れた場所でボーッとスマホを見つめる

なんでいるのか分からないおっさんの誕生である。

この状態が4時間である。

まさに長い長い苦難の始まりであった。

 

三度目なのだからいい加減慣れろよ。

そう怒られるかもしれない。

ごもっともなご意見だ。

事実、二回目はもう少しマシだった。

一回目のピクニックですでに痛い目にあっていた私は、

二回目の時には対策をしていたのだ。

酒だ。

少し多めで、500ml缶を5本。

酒でほろ酔い気分になり、苦手意識を鈍らせる事で、

上手く…とはいかないまでも、無難に輪に入り、

うんうん頷くだけではあるが、

他人を不快にさせない程度の同調意思を示す事が出来た。

しかし、今年から事情が変わった。

道路交通法が変わって自転車でも罰金を取られる。

そんなアコギな改悪がなされていたのだ。

変えたのは「増税大臣」と悪名高い岸田元総理だ。

ほんとにロクな事をしない。

あのヤロー!いつかブン殴…申し訳ない、話が逸れた。

兎にも角にも、酒に頼れなくなったのだ。

河川敷へは自転車で行く予定なのだから。

妻には、

「バスか何かで行きたいな」

とそれとなく打診はしてみたが、

酒にすがろうとしている私の思惑を知らない妻は、

「は?運動せえや!頑張れ、頑張れ!」

と冷たく言い放たれる。

最早、これまで。

もちろん強行して酒を持参するという手も考えたが、

その場合、警察との相性がこの上なく悪い私が、

格好の餌食となる事は火を見るより明らかだった。

私は間が悪いのだ。

以前、ニ夜連続で職質にあったこともある。

飲酒運転なんかしたら、絶対警察に止められる。

そんな、謎の自信が湧いてきたので、酒は諦めることにした。

この判断が間違っていた。

 

酒を飲まずにシラフの私は身動きもできないまま、

ひたすら時間が過ぎていくのを待つ、そんな時間を過ごす。

もちろん、何度か話しかけてくれる人達はいた。

みんな良い人達なのだ。

しかし、何度かのチャレンジで既に心が折れていた私は、

その優しさを無碍にした。

いや、悪意では無い。

心が折れて上手く会話を繋げる事が困難になっていたのだ。

「今日は奥さん来られていないんですか?」

と気を遣って話しかけてきてくれた方にも、

「あー、店の仕事で…」

としどろもどろになってしまうのだ。

ついには困った時の鉄板トークの代表とも言える「天気の話題」、

「いやあ今日は晴れて良かったですね」

に対してすら、

「…はい」

で終わらせるモンスターに堕ちていた。

 

最終的には、

「どうせ奥さんは集まりの終わり際にしか来ないんだし、

この時間を適当にやり過ごしてさえいれば、家に帰ったら元の日常だ!」

と、不貞腐れて、開き直ってしまう。

いつもなら子供達が集まると必ず

「鬼ごっこやろう!大人が鬼で」

という、50歳手前の人間にはキツいイベントも

誰も話を振って来ないのを良いことに、

他人事のように我関せずとスマホを見ると言う

超絶感じの悪い態度を取るようになっていた。

若いとはいえ、同じ中年のお父さん達が頑張る中、

何もせず、輪にも入ろうとしない者など、

大顰蹙を買うのを承知の上で。

その顰蹙すら、

「これだけの嫌な態度を取っていれば、

次の集まりに呼ばれることもないだろう」

と都合の良い解釈をして正当化しながら何もしないのだ。

 

そんな態度に話しかけてくる人も居なくなり、

孤立したまま、河川敷でのピクニックは終わりをつげた。

「やっと終わった!これで元の日常に戻れる!」

と喜んだのも束の間、

その日、お父さんやお母さん達が撮った動画や写真が

集まりのメンバー共通のアプリに次々と上げられ、

そこには楽しく遊ぶ子供たちとは対照的に、不貞腐れ、

クソみたいな態度を取る私の姿もバッチリと映っていた。

それを見た妻に、

「お前は今日一日何をしとったんじゃ!」

と激怒され、

その後、小一時間、正座で説教を受ける事になるのであった。

 


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