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黒騎士が片手で振るう、その大剣が放つ斬撃はビスケットの盾を真っ二つに割る。
ビスケットの盾は衝撃に弱く、脆いので急場凌ぎにしか使えないため、月光は防御には期待していない。
ただ、刃がビスケットの盾を両断した時に空いた左手で殴りつけてくるとはさすがに予想できなかった。
「止まりやがれ、黒騎士!!」
真次郎が黒騎士の暴走に抗っている。
左腕を押さえようとするも、その甲斐なく、月光は黒騎士が放つ拳撃を受ける。
黒騎士の身体は半透明で実体を持たず、殴られた
式神を行使する
一色真次郎は自らの力を恐れている。
御代百合花は自らの力を手懐けている。
それは胡堂月光のような同じ
砕けたビスケットの盾のかけらに霊力を纏わせ、黒騎士の左腕に突き刺す。
鎧を貫くイメージを思い浮かべることで、ビスケットのかけらは鋭さが増し、鎧を貫通した。
イメージの強さに由来する、能力であるバイキングを持つ月光のちょっとした応用である。
一瞬、黒騎士が怯んだように見えた。
「……同じ
同時に真次郎が左腕を押さえる。
どうやら、その黒騎士から本体へのダメージの
真次郎は暴走する黒騎士を止められるかもしれない、と希望を持ったようだ。
しかし、逆にフィードバックがあることは。
一色真次郎の命にも危険があるということに他ならない。
「(……霊力纏わせたなら触れるとはいえ、要は
漫画作品内に登場する、超能力の
一人一体でかつ多種多様な力を持つ代わりに受けたダメージが本体の人間へと反映される。
一部例外があるが、黒騎士はそのルールが適用されるようだ。
腕にビスケットのかけらを突き刺された、黒騎士の攻撃は勢いが落ちるどころか、激しさを増している。
大剣を片手で振るい、大きく叩きつけるだけでなく、頭突きを繰り出す。
月光は黒騎士の頭突きに対し、回避せず、鎧越しに衝撃を与えるように右足を軸に左で回し蹴りを黒騎士の頭部に叩き込んだ。
バランスを崩した黒騎士が左から右に投げた剣を持ち替え、月光の左脚を切り落とそうとする。
月光は即座に硬い煎餅を生成し、黒騎士の腕ーーでなく、剣を叩き落とす。
黒騎士の手を離れ、地面に落ちたソレは音を立てず、吸い込まれるように消えていった。
黒騎士は消えた剣に一瞥もせず、月光に飛び掛かる。
剣がないのであれば、あとは適度に距離を取れば良かった。
間髪入れずに黒騎士の胴に蹴り入れる。
蹴りが胴に炸裂した時、炸裂音が響き、焦げた香りとポップコーンが散乱する。
徐々に蛇口から水を溢れさせ、最後に暴発させるイメージとともに。
これは、足技使いのレディ・ピーコックの
腕に霊力を纏わせたビスケットのかけらを突き刺すより効果が薄かったのを見るに、鎧の作りは良いらしい。
「(霊力を纏わせてるから、通用しているようなもんか)」
水分、燃焼。
月光の能力は菓子を作り出すことにある以上、生み出された菓子は防水もできなければ、耐熱性もない。
ただ、そんな欠点を補えるほどの利点があるとすれば、それは
本来、菓子が持つ性質に月光のイメージを加えてアレンジできる。
イメージさえできれば、出し方は自在。
童謡のように叩いてビスケットを出すことだって可能だ。
生成した直径三十センチの巨大堅焼き煎餅。
それを両手で縁を掴み、ヒールレスラーがパイプ椅子をぶつけるように振り回す。
胴の守りが薄いのであれば、と顔にぶつける。
衝撃が発生し、黒騎士がわずかに後ろに下がるも、ナイフを突き出すように大剣で軽々と月光の顔に向かって突きを入れた。
月光は黒騎士の突きはかろうじてかわすも、頬を切ってしまい、血が噴き出す。
そのまま、月光は飛び上がって左足で黒騎士の顔を勢いよく蹴り飛ばした。
黒騎士と戦っている中、真次郎と目が合う。
真次郎は本人も喧嘩慣れしているのか、黒騎士の顔に月光が蹴り入れた衝撃はフィードバックしなかったらしい。
黒騎士に
「(やり辛ェな)」
普段の退治ならば、もう少しめちゃくちゃにやったって良かった。
わずかにそちらに意識を向けていたのが仇になったのだろう、黒騎士は再度
咄嗟に煎餅を出してガードするも、不規則な突きなようでいて、衝撃が加わった箇所に再度突きが入り、煎餅は砕け散った。
煎餅が焼失してから即座に生成したビスケットの
黒騎士の大剣を握る力はあまりにも強く、動かない。
「止められんなら、やってくれ!何か策があんだろ!遠慮なんて要らねえ!俺は、」
「どうなってもいい、なんていうんじゃねぇぞ!テメェの妹が待ってんだからな!」
月光は真次郎の言葉を遮り、左回し蹴りが黒騎士へと炸裂した。
霊力を込めた、その蹴りはわずかに黒騎士を退け反らせる。
わずかな隙をも月光は見逃さず、畳みかけた。
円状の盾として使っている、ビスケットを霊力を使って強化した腕力で無理矢理横に引き裂くと、左右それぞれの手で握る。
その手にビスケットを掴んだまま、霊力を纏わせる。
黒騎士は躊躇わずに大剣を振った。
暴走している
両手にした煎餅で大剣を受け止めるが、当然の如く、砕かれてしまう。
月光はその右手に持った煎餅が砕かれた
「……いっけェェェ!」
月光は中指と薬指だけを折り、それ以外の親指、人差し指、小指を黒騎士に向ける。
いわゆる、スパイダーマンのハンドサインである。
スパイダーマンのハンドサインをした右手を黒騎士に向けると、手首から放出された霊力が蜘蛛の糸のように軌道を描いて黒騎士の両腕を捕縛する。
月光がイメージして霊力で生成したのは、
空気に触れることで固まるイメージを持った、それは飛行に使い、火車ダビッドソンを追跡するのに使った綿飴のように
捕縛された黒騎士はもがき、水飴の拘束から抜け出そうとするが、時間と共に空気に触れて固まる水飴の糸は黒騎士の動きを許さない。
混乱している機会を逃さず、黒騎士の両腕を捕縛している水飴を引っ張る。
霊力で強化された水飴の糸の硬度に月光の腕力と加わり、月光が勢いをつけて後退する。
反発して戻ろうとする反動を利用し、月光が勢いよく黒騎士を蹴り上げた。
「今だ!」
「簡単に言ってくれるなぁ、テメェは!」
重い蹴りの衝撃が真次郎を襲う。
喧嘩慣れしている方だが、月光のそれは真次郎がこれまで相手にしてきた不良やチンピラと異なっているように感じられた。
何か
極めつけは炸裂音だ。
黒騎士の顎を蹴り上げた時、ポンッ!ポンッ!と弾くような音がしたかと思えば、小さな爆発が起きて黒騎士の鎧に衝撃が加わる。
あたりにはポップコーンらしきものが散らばった。
真次郎は月光の言葉の意図を理解する。
黒騎士と真次郎の制御権の取り合いはいわば、綱引きのようなものだ。
力を押さえ込むように真次郎がイメージし、黒騎士を自らの中に収納する様を思い描く。
すると、黒騎士は雄叫びを上げながらも、その姿は光の粒子となって消失した。
汗を拭う月光と目が合う真次郎。
その場に座り込んでしまいたいところだが、彼のプライドはそれを許さなかった。
「……テメェに礼は言わねえぞ」
黒騎士と真次郎はその目に視認できずとも、密接な
「要らねえよ。礼なんかより、テメェのこと話してもらうぜ」
月光の言葉に真次郎は内心感謝しつつ、真次郎は悪態をついた。
「ああ言えばこう言う、杏子と一緒だ。減らず口のクソガキめ」
とはいえ、真次郎は爽やかな気分だったのは確かだった。
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