ウチの湿度高い姫たちは甘いものがお好き   作:ふくつのこころ

12 / 12
ぬらりひょんのま孫は厄介なモノを連れてくるねえ

 三人は注文した料理を平らげた。

約束通り、支払いを真次郎が済ませるのを待つ月光と百合花の二人は店外で待った。

 

「胡堂。零時まで時間あるけど、どうするの?」

 

 くいくいと百合花は月光のフライトジャケットの袖を引っ張った。

 

「一色真次郎が舐めてる(・・・・)キャンディの中身を見てもらわねえと。

ぬらりひょん(じいちゃん)の百鬼夜行には腕のいい薬剤師でかつ医者がいる」

 

 月光が真次郎から預かったキャンディがおさまっている、ポケットを百合花へ示した。

 

「ふうん」

 

 百合花はなんとなく、月光の返事が面白くない。

百合花自身には医学も薬学も知識はないが、月光に頼られる、その薬剤師と医師に嫉妬した。

青ざめた顔をして悩みを打ち明けられない月光が簡単に頼りにできてしまう相手。

それが面白くない。

 

「ねえ、胡堂。私、まだ今日の服装の感想聞いてないけど」

 

 ジトっと百合花は月光を見上げる。

 水色の薄手のカーディガンを羽織り、白のロングスカートにローファー。

 今日の清楚な服装に月光から感想をもらってないとむすっとした表情でフライトジャケットの袖を引っ張る。

 

「(……よくて悪くない、かな)」

 

 眉尻を下げながら、百合花は月光の返事を予想する。

付き合いはそれなりに長いのだ、月光が何を考えているかはおおよそわかるつもりだ。

 

「普段と印象が(ちげ)ェよな、今日の御代」

 

「……へ?」

 

 月光の言葉に百合花は思わず、間の抜けた声が出た。

 

「どーゆーことよ?似合ってないって?そ、そりゃあ、私だって……」

 

 いつものペースで振る舞おうとするが、目線を泳がせて声もだんだんと小さくなってと格好がつかない。

 

 私だって、こういうの着たくなる。

 

 そうだと素直にいえたら、どれだけいいか。

所詮、自分は悪友でしかないのかと肩を落とした時だ。

 

「そうじゃねぇ。上手く言えねえけど、似合ってる。御代に」

 

 月光は気分を落としている百合花に語彙を探しながらも、言葉を続けた。

百合花は予想外の言葉が続いたことで思わず、月光を見つめてしまう。

 白髪と紅の瞳と言った、浮世離れしたビジュアルでかつ顔もいい。

そんな男の恥じらうような表情に百合花はキュンとしてしまった。

 

「やればできんじゃん、私の(・・)白いの!!」

 

「わしゃわしゃしてんじゃねえよ!?」

 

「私のわんこのくせにー?」

 

 月光の髪に手を伸ばし、くしゃくしゃにしながら、百合花は嬉しそうに笑った。

 

「……だーかーら、そう言うのは、二人でやれよってんだ」

 

 戻ってきた真次郎が月光と百合花の甘い雰囲気に眉を顰める。

 

「あ、お兄さん!ご馳走様!それ聞くと、アンコそっくりじゃん!」

 

 慌てて百合花が月光の髪から手を離すと、取り繕うように笑うが、月光に触れていたことはバレバレである。

そんな百合花に月光はため息をついた。

 

「ご馳走さん。……やれやれだぜ」

 

☆☆

 

 ここ、オサキ医院は漣花町内にあるオフィスビル街の古い雑居ビルの三階に入っており、二又の尻尾を持つ黒猫が目印の小さな診療所である。

 所長のオサキはぬらりひょんの百鬼夜行の構成員であり、正体は千年生きた猫が転じるとされる猫又の女性だ。

グレーの縦ロール、白衣の下に和風ゴスロリと言える着物を着た、独特なファッションの彼女(・・)もぬらりひょんの百鬼夜行の構成員で豊富な知識を活かし、薬剤師と医師を兼業している。

 

 オサキ曰く、人間の生活する中に診療所を置くことでカモフラージュしていると言う。

医者であるが、恨みを買ってもいるらしい。

 

 診療所内に三人が入ると、入ってすぐの入り口で声をかけられる。

 

受付と赤い文字で書かれた、アクリルボード越しに女医が頬杖をついて診察室へと促す。

和風ゴスロリにグレーの縦ロールをトレードマークとする、ぬらりひょんの百鬼夜行のオサキである。

 

「空いてるのでどうぞー。と、月光か。

退治屋ちゃんと、……随分と厄介なものを連れてるね」

 

 和風ゴスロリの女医、オサキは怪訝な顔を見せる真次郎の()、黒騎士を示してニタニタ笑った。

 

「こんにちは、オサキ姐さん。

見てもらいてえモンがあって。

これ、野球帽のヤツの異能を制御するものみてえなんだ。

よく見てもらえねえか?」

 

「私に見てもらいたいもの?

……それを調べろってのかい?

まーた、厄介なものを持ち込んでくるねえ。

ぬらりひょんの孫(・・・・・・・・)ってのは」

 

 百合花が何が言おうとするのを手で制し、月光がフライトジャケットから取り出した、ジップロックにオサキは目をやった。

 

「ただのタブレットじゃあなさそうだね。

良いよ、見てあげよう。

座ってお待ちくださいね」

 

 黄色い瞳を注意深く細め、小さなジップロックに入れた中身(・・)が入ったものを手にし、さまざまな薬品が並ぶ調剤室に置いている顕微鏡のような器具。

 

「……白髪野郎、大丈夫なんだろうな?」

 

 待合室のソファに腰掛け、アルコールのにおいが鼻腔をつきつつ、真次郎は月光に尋ねる。

 

「心配すんな。黒騎士が見えてる段階でわかるだろ?オサキ姐さんはあやかしで医者なんだ。

俺もガキの時から診てもらってるしよ」

 

「……もしかして、猫又?だとしたら、あの先生は」

 

 月光があやかし、と言うと百合花の中でぴたりとピースが当てはまる。

 

「年齢のことは言うんじゃないよ、小僧小娘共」

 

 黒いマスクを着用したオサキが指を振ると、“診療中”と出している看板をひっくり返し、“本日の診療は終了しました”の看板を出した。

 

 オサキは手早くジップロックからキャンディ(・・・・・)を取り出し、受け皿へ載せる。

それを霊力を用いて解析する。

その解析をオサキが続けると、調剤室から「ふざけるなよ!!なんてもの作ったんだ!」とブチ切れた。

 

「月光、頼まれていたものを調べたよ。

こいつが異能を制御する薬だって?とんでもない!これは血肉(・・)だよ。それも、あやかしのね。

削ったのか、切ったのかわからないけど、そうしたものを加工したんだろう」

 

 オサキは苛立ちを隠せないながらも、待合室にいる月光たちの前にやってきた。

なるべく冷静さを保ちながら、ジップロックからキャンディ(・・・・・)を取り出す。

 

「一色真次郎、だったね。これを初めて使った時に持った印象やにおいとか。どんなものでも構わない。退治屋ちゃんもある?感じたもの」

 

 オサキは三人が座るソファの目の前に腰を下ろし、その封を解く。

 

懐かしい(・・・・)ような甘いような」

 

「懐かしい感じ」

 

 真次郎と百合花がそれぞれ口にすると、オサキはため息をつく。

 

「これはね、あやかしの血肉(・・)から作られている。

その懐かしさも甘さ?も感覚に訴えかけてるんだ、魂が覚えている感覚(・・)にね。

月光は何か感じたか?」

 

 オサキは月光に尋ねるも、月光は二人と異なり、首を振るだけだった。

 

「何も」

 

「……なるほどね。

そこの野球帽も、退治屋ちゃんも赤ん坊の頃の記憶が深層心理にあるんだろう」

 

 オサキは月光の頭をくしゃくしゃに撫でながら、息を吐いた。

その懐かしさ(・・・・)を覚えないことを憐れんだのか、それとも手持ち無沙汰なのか。

 

「やめろ、オサキ姐さん」

 

 月光の言葉にオサキはイタズラっぽく笑い返す。

 

「減るものじゃないだろう?

これ、あやかしの母乳(・・)だよ。

退治屋ちゃんとそっちの彼が懐かしいと思うのは、赤ん坊の時の記憶だろうねえ。

落ち着くような効果は安心感を得られるから、異能が無闇に発動しないんだろう」

 

 オサキはニヤニヤ笑いながら、睨みつける月光に返す。

そして、揶揄う顔からすぐに専門家の顔に切り替える。

 

「ただ、どんな良薬も過剰服用(オーバードーズ)したら毒になるように、これもそう都合がいいものじゃない。

これ、服用(のみ)続けたら、あやかしになるよ。

そういう、作り変える(・・・・・)薬だね」

 

「ねえ、なんで胡堂の髪に触ってんの?」

 

幼少(ガキ)の頃から診てもらっていると月光は語るが、百合花はそれにしては距離が近い(・・)ともやもやする。

 百合花は拗ねた表情でオサキの言葉を飲み込むより先に月光の腕を引き寄せた。

 

「嫉妬しているのかい?かわいいねぇ。

とにかく、気をつけて行きな」

 

 百合花と月光の様子にケラケラ笑いつつ、オサキは考え込む真次郎も含め、背中を押す。

 

「あとは生きて帰ってくれば、私が必ず治してやるから」

 

 かくして、月光たちは夜を迎える。

 深夜零時、漣花タワー一階で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」(作者:群缶)(原作:ブルーアーカイブ)

▼・Vol.1▼ホシノは主人公のことを身体の隅々まで知っている。▼なお、馬鹿タレ主人公はまったく心当たりないし、童貞を捨てた記憶もない模様。▼・Vol.2▼穏やかなアビドス高等学校での日常。頼れる? 先輩と同級生。▼でも、今自分が過ごしているありふれた生活にはどこか、違和感を覚える。▼※『ブルーアーカイブ』アビドス編3章までクリア済みの方じゃないとストーリー…


総合評価:21774/評価:9.11/完結:71話/更新日時:2025年05月17日(土) 07:00 小説情報

担いだ神輿が重すぎる!(作者:Ωが来た!)(オリジナルファンタジー/コメディ)

 周囲が人外だらけの中、主人公が生き残る為に軽そうな魔王候補を神輿として担いだ筈が…なんか気付いたら手に負えなくなっていた話▼ 或いは、ヤバい女達に囲まれ人外価値観に振り回されてながらも、知恵と勇気と下心で切り抜けようとするお話。▼ 尚、大小様々な矢印を追加で受けている様で、しっかりそれにも振り回される模様。


総合評価:1858/評価:8.32/連載:25話/更新日時:2026年09月23日(水) 07:00 小説情報

ストーカーしていたと思ったらストーカーされていたのは俺だった話(作者:アロアロス)(オリジナル現代/恋愛)

 銀髪狐耳タートルネックにダッフルコート、おまけに眼鏡をかけている。▼ 尻尾は四本、身長183cm、人気インディーズバンドの一員、担当はベース。▼ 名前を宮舞天音と呼ぶ。▼ 眼が眩むほどに輝く星に、それでも必死に手を伸ばしていたのに、その恒星が向こうから近づいてきたら焼き尽くされるのは道理と呼ぶ。▼推しをストーカーしてたら推しの方から近づいてきたので、それは…


総合評価:14054/評価:9.25/短編:2話/更新日時:2026年07月24日(金) 18:13 小説情報

上位存在ヤンデレもの(作者:ヤンデレスキー)(オリジナル現代/恋愛)

怪しげなバイトに応募した大学生が施設先の上位存在に依存される話


総合評価:11317/評価:8.91/連載:12話/更新日時:2026年09月11日(金) 15:31 小説情報

不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。(作者:RGN)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、かつての仲間は全員上位種で、色々と主人公への感情を拗らせまくっているものとする。


総合評価:5738/評価:7.87/連載:5話/更新日時:2026年05月12日(火) 23:48 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>