月光はオサキから姑獲鳥についての調査結果を聞いた。
調べたところによれば、その身体の作りは鳥よりも人間のそれに近いと言う。
身体に取り込んだものを自分や近しいものへ作り変え、
産まれてきた
しかも、姑獲鳥の母乳には魂レベルで懐かしさを覚えるよう働きかける力があり、いかなるあやかしや人間もこれを避けられない。
生みの母親に
「この
はい、タンクトップ上げてー?」
「赤ん坊なんて戻りてえのか?よくわかんねえ。ったく、めんどくせぇ
診察室で月光は回転椅子に座り、フライトジャケットを脱ぎ、黒タンクトップを捲る。
背中には無数の傷を持つも、引き締まった身体が月光の戦闘慣れを物語っていた。
オサキは月光の胸へ聴診器を当て、月光の心臓の音を確認する。
月光は姑獲鳥の身体をオサキに調べてもらい、結果を聞きにきたのだが、ついでと診察を受けていた。
百合花と一色兄妹の身体は問題なく、タフだから大丈夫だろうと平日に百合花と杏子が学校の間に呼び出されたのだ。
聞いたところによれば、一色真次郎は相当絞られたらしい。
自分がどうなってもいい、と言ったことをちゃっかり百合花から杏子に報告されたため、真次郎は泣かれたという。
それでいいのだ。
自分のために死んでほしくないのだ。
百合花の破れた服については、杏子が支払い、百合花が月光と買いに行くことでまとまった。
月光は後から聞かされたのだが。
「はい、問題なし。服、着ていいよ。
どうだかね。
私たちは自由にやれてるけど、人間はそうじゃないとは聞くからね」
月光の言葉に飄々としたオサキは少し目を丸くした後、ケラケラ笑った。
聴診器を外した時、月光はタンクトップを戻し、フライトジャケットを羽織り直す。
姑獲鳥とその子どもたちとの戦いで血や体液に塗れたが、その汚れはヒナによってあっさり取り払われた。
ぬらりひょんの霊力を持つ
「お館様と
昔から、うちの三きょうだいたちも今じゃ派手な格好している
筋骨隆々な身体にゴスロリファッションのピーコックの本名は
月光はピーコックと呼ぶも、昔から彼を知るヒナのような百鬼夜行の上の世代は藤孔雀と呼ぶ。
ヒナの言う三きょうだいは平八郎との子どもたちであり、漣花、ピーコック、月光と並んでぬらりひょんの百鬼夜行を担う次代として期待されていた。
もっとも、そんな六名のうち、四名は死んでしまっているが。
言葉を口にできない月光をヒナは優しく抱きしめてくれ、小言ばかり言う平八郎も何も言わずに月光の髪をくしゃくしゃ撫でたのを思い出す。
「月光。
君のいまのお姫様はあの退治屋ちゃんなのかい?あの子、心底君に惚れ込んでいるようだけど」
「御代が?」
思わぬオサキの言葉に月光は動きを止める。
二又に分かれた、猫又の尻尾は不動。
ただ、飄々としたオサキらしくない真剣なトーンだった。
彼女はぬらりひょんの孫の主治医でもあり、月光が来る以前から漣花を知っている。
百鬼夜行の上の世代ほど漣花に思い入れがあるのだ。
『月光は
でも、あたしは月光のねえねだから』
「私の
ポニーテールを揺らし、優しい声で抱き寄せて言葉を向ける漣花。
腕を引っ張り、むすっとした顔でいう百合花。
「私らしくないけど、姫様に不義理は許さないよ」
「オサキ姐さんらしくねぇや」
そっと目を逸らし、茶色の長財布を取り出した月光の手を止めるオサキ。
「君が退治屋ちゃんを手放したら、平八郎も小言が減るだろうに」
漏れたオサキの本音に月光は掴まれた手を振り払った。
「手放さねえよ、姐さん。
アンタたちがそうしてくれたみたいに。
今日はアイツが初めてメシ作ってくれるんだとよ。
ありがと、姐さん。またな」
月光はオサキに柔らかく笑いかけ、そのまま、診療所を出て行った。
「やれやれ、らしくないことをするのは苦労するな。
一時期に比べたら、笑えなかった月光が笑うことに優先されたことはないのに。
君が
くれぐれも、お大事に。月光」
月光の笑顔を思い出し、オサキは“本日は終了しました”と提げている看板を“診察しています”とある裏面にひっくり返した。
そこにはぬらりひょんの百鬼夜行の子どもたち六名の名前が落書きされており、月光の名前もある。
時間は十六時半。
そろそろ、オサキ医院の診察が始まるのと百合花たちが学校から帰ってくる。
手作り感満載のカエルの忍者を描いたメダルがついたストラップを揺らし、黒いスライド式の携帯電話を取り出す。
メールを一件受信している。
件名:百合花さんごはん
本文
ゲコちゃん、見てこれ。
百合花のエプロン姿とレアな表情!
添付されている画像を開く。
黒地にカエル忍者ゲコえもんのアップリケがついたエプロンを制服の上に着用し、腕まくりした百合花が餃子の皮に具を詰めている。
刻んだチーズとトマトを詰めているようだ。
カメラに気づいており、少し照れ臭そうにしている。
内装を見るに一色家の台所のようだ。
アドレスは確かに百合花だが、文章はどことなく、杏子を彷彿とさせる。
携帯電話が着信すると、月光は電話に出た。
発信者は百合花だ。
『胡堂写真すぐ消して!アンコが撮ったの!!』
『良いじゃん。減るもんじゃないし』
電話に出るなり、百合花が捲し立てた。
隣に杏子もいるらしく、楽しげな様子だ。
兄のことで肩が降りたのだろう。
『ゲコちゃん、お兄ちゃんの件はありがと。
バカ兄貴とあたしを助けてくれて』
「大したことはしてねえが、礼はお前の親友に言えよ。
俺は
『本当にありがと』
杏子が百合花から携帯電話を持ち、月光に礼を述べる。
月光の素っ気ない言葉に構わず、杏子に伝えられた言葉に月光は隣にいる百合花に思いを馳せた。
『アンコ!電話を私に!
あのね、ゲコちゃん。
目の前で余所見って良い度胸なんじゃない?』
「目の前も何もねえだろ。俺がいる場所もわかるわけじゃあるまいし」
『白牙、後ろにいるよ』
形代式術は式神が
百合花の言葉に月光は背後を振り返る。
すると、そこには白い狼がいた。
式神は術者と視界を共有できる。
つまり、オサキとのやりとりも百合花に見られていたことも考えられた。
「……なんでつけてんだよ」
『いまようやく見つけたみたいだからね?ストーキングしてたとかそんなんじゃないし。
ゲコちゃん、アンコの家は白牙について行ってね?で、腹空かせててよ。
たくさん作ったんだから』
百合花は慌てたようにいうものの、どこか声色も優しい。
白牙は周囲に見えていないものの、静かにおすわりをしていた。
月光を見上げ、動きを待つ様子は忠犬そのもの。
月光が手を伸ばすと、唸り声を上げることなく頭を差し出した。
「一色兄の分も残してやれ」
『ちゃんとありまーす!やっぱり、アンタ優しいよね』
楽しげに笑う百合花にすぐ行くと返し、月光より前を白牙は歩き出した。
そうして、やがて一色家に到着し、百合花と杏子が作ったイタリアン風餃子に舌鼓を打った。
「御代。これからも作ってくれ」
「……たまにね」
「百合花!!百合花、良かったじゃん!!」
そんな月光の言葉に緊張していたらしい百合花は袖を引きながら頷き、杏子ははしゃぎながら、親友の頑張りを労った。
その光景に月光は