ウチの湿度高い姫たちは甘いものがお好き   作:ふくつのこころ

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不可抗力だと思いませんか


美人の谷間が目に入ったら、チラチラ見る男ってみんなバカ!

「貴方様は学生さん?随分と可愛い(・・・)お友達をお持ちね?わたくしは仕事終わりに妹と買い物に来てまして。貴方はよくいらっしゃるのかしら?」

 

 トリッシュ・フェレスはにこやかな笑みを崩さなかった。

 彼女たち(・・)は吸血鬼スカーレッドに命じられ、日本に来日している。

 今日の目的は胡堂月光の接触であった。

 悪魔の力を駆使し、このスーパーマーケットをよく利用していると掴んだのだ。

 

「仕事の帰り。遅くなってしまってよ」

 

 素直に学生ではない、と言うのは簡単だ。

ただ、そうすることのデメリットがわからない月光ではない。

 月光は相手がトリッシュ・フェレスだと気づくまで時間はかからなかった。

 

 銀髪のウェーブロング。

 妖しげな光を讃える、金色の瞳。

 背筋がぞっとするような美貌。

 イメージで見る以上に長身で、それでいて美しかった。

 

 トリッシュ・フェレスの外見が十代後半から二十代とみなした上で言葉を組み立てる。

 彼女は月光の上着のフライトジャケットからサルエルパンツ、さらにオレンジに黒紐のスニーカーへと視線を向けた。

どことなく、値踏みするような眼差しに月光は少し困惑する。

 対し、トリッシュはその悪魔の視力で月光浴の靴についた僅かな汚れを見逃さない(・・・・・)

 

「……随分とやんちゃなお仕事(・・・)ですこと」

 

 トリッシュは月光のスニーカーの汚れにほくそ笑む。

 ぬらりひょんの子飼いの番犬と聞いていたが、裏稼業の証拠を隠滅できていないのは、まだまだ子供だ。

 

「何か言ったか?」

 

「そうですわね……。わたくしからのアドバイスといたしましては、靴の汚れくらい(・・・)は落としておくべきですわ」

 

 綺麗な発音だ、と学がないながらも、月光は思った。

トリッシュはしゃがみ込み、フリルがついたハンカチを取り出す。

 見る人が見れば卒倒しそうな高価な素材でできた、それで汚れを拭う。

 無意識に月光の視線は寄せることで生まれる、谷間に注がれる。

うっすらと彼女のブラが見えた。黒いレース付きらしい。

 不意に見えた目を逸らすと、ハンカチをかざし(・・・)、汚れがスニーカーから消えた(・・・)ことでトリッシュが顔を上げた。

 

「妹にも身だしなみは整えておくように、と口を酸っぱくして言ってますのよ。わたくしたちはhigh classな存在なのだから、と」

 

「……ハイ?クラス?」

 

 彼女は視線に気づいていたのか、気分を悪くするどころか、月光を小突く。

 手のひらで頬杖を突きつつ、月光と距離を詰め、頬を緩ませた。

 

「……白いわんちゃんみたいですわね、あなた。

あまり、ジロジロと女を見るものではありませんわ?ワンコさん。

もっとも、美しいわたくしを見つめたいとなるのは当然ですが」

 

 トリッシュの口調はどこまでも柔らかかった。

ただ、その目はおおよそ、同じ生き物を見ているようには見えないと月光は直感する。

 常に一緒にはしゃいだり、思わぬ収入に喜ぶ御代百合花とは大違いだ。

同じ顔が良い美人でも、トリッシュのそれは人間離れした美しさだと言えるだろうか。

 

 トリッシュはずいっと顔を寄せ、月光を品定めするように見つめる。

 特にトリッシュが月光の顔のパーツで気に入ったのは、ルビーのような赤い瞳。

 本人はきっと容姿には無自覚だろうが、端正な顔と纏う浮世離れした姿は思わぬものを引き寄せてしまうのだろうとトリッシュは推測する。

 たとえば、自分のような存在(・・)だとか。

 

「……綺麗なルビーの瞳。くり抜いて、わたくしの指輪にしようかしら」

 

 トリッシュの不穏な言葉と共に月光の頬に這わされる、手。

 女性らしい細い白い指なのにひんやりとしており、血が通っているような感じがしない。

 

「そろそろ、離したほうがいいんじゃねえの?」

 

「ふふ、良いじゃありませんの」

 

 月光はトリッシュの意図が理解できず、この後にやってくる事態(・・)を推測し、トリッシュの手を剥がそうとする。

しかし、その手は万力のように月光の頬を固定し、剥がすことは容易ではなかった。

そのときである。

 

「ねー、胡堂?映画パーチーの時はやっぱレンチンポップコーンだよね?バター落としてペッパーやっとく?」

 

 ほくほく顔の御代百合花は電子レンジで作る、ポップコーンメーカーとスナック菓子やビスケット類を抱えて顔を出す。

 レンチンポップコーン、と言う文字並びは月光には初耳であったが、ポップコーンとはどんなものかは百合花に聞いたことがある。

 映画を見るときに食べる、美味しいトウモロコシで作る菓子。

 それを電子レンジで作れると言うのか、と興味は湧いた。

 

 聞くところによれば、ポップコーンは主に甘いフレーバーより塩で下味をつけたところにバターをかけるのが絶品だと言うのだ。

 そんなことを考えている、自由な(・・・)あやかしを自称する月光。

 対し、月光を自分だけの白いの(・・・)だと言う少女、御代百合花は。

 

「胡ぉぉぉ堂ぉぉぉ!!私がお菓子売り場に行ってる間にナンパ!?美人さんなのが腹が立つんですけど!?ハリウッド女優さんみたいな、綺麗なおねーさんと仲良くなったんだね、バーカ!!」

 

「まあ、随分と元気な方ですこと。けれど、お分かり?公共の場ですわ、お嬢さん?」

 

 百合花が捲し立てると、トリッシュは月光の頬から手を離す。

トリッシュは目をわざとらしく見開き、開けた口に左手のひらを前に持ってきている。

 わざわざ、スーパー内を見渡しているのは、トリッシュが百合花のことを煽っていると月光にはわかった。

 ハイクラスを謳う彼女は皮肉の腕も立つ様子。

 

「ハァ?おねーさん、あんまり、うちの白いの(・・・)、誘惑しないでよね?」

 

「(まあ、これはまた……)」

 

 月光の前に立ち、百合花は顔を歪めるのを見れば、トリッシュは口端を緩めた。

 年相応の少女が見せる独占欲としては、これほど微笑ましいものもないだろう。

トリッシュの興味を惹いたのは、百合花の()に巣食う存在のことだった。

 

「行こ、胡堂。ってかさ、あんたも男だよね。目移りなんかしちゃってさ?」

 

「しちゃ悪ィのか?」

 

「超悪ィのよ」

 

 月光の押すカートのカゴに抱えていた菓子をどさっと入れる百合花。

 彼女の不機嫌な様子に月光が眉間に皺を寄せると、百合花は肯定するように月光と同じ言葉で返した。

 

「また会いましょうね、ワンコ(・・・)さん、デコネコさん」

 

 やいのやいのと賑やかなやり取りを見せる、二人の背中にトリッシュが呟く。

 

「最悪なタイミングじゃねえといいけどな」

 

「まだそいつに用があんの?」

 

 振り返ったのは、月光の方だった。

頬を膨らませる百合花が顔を近づけるのを押さえつつ、トリッシュを見据えた。

すぐに百合花に引き摺られるように連れて行かれるが。

 

「お姉さま、戻りました。……接触したのですか?胡堂月光と」

 

 静かで生真面目なトーンでおまけ付きウエハースを箱で持ってきた、ダウナーな雰囲気でタレ目のギャル。

 よく似た顔をした彼女にトリッシュは笑いかける。

 

「ええ、ルチアさん。お目当てのものは見つかったようですわね。……悪魔らしく、欲深くて何より」

 

「お姉さま。上機嫌ですが、あの胡堂をお気に召したんです?」

 

「あら、気づかれましたか?ルチアさん」

 

 ルチアは姉の柔らかい笑みが上機嫌なものであると気づいた。

 

 

「ぬらりひょんの子飼いの番犬があんなに可愛らしいなんて、思いもしなかったんですもの。

……あれで(・・・)、孫のように可愛がって、そばに置くなんて。

息子も孫も死んで、代わり(・・・)を置くなんてねえ。

忠犬って悪魔的にポイント高いと思いません?ルチアさん?」

 

 トリッシュは心底おかしそうに笑いながら、ルチアへと尋ねる。

 

 後日、ところ変わって。

 百合花が昼間に用事があるため、ぬらりひょんからの仕事を月光は一人でこなしていた。

 御代百合花はかつて学校とやらにも通っていたというが、自由を謳うあやかしである月光には理解できない。

今日の仕事に百合花が間に合わないことを許可しているのは、厳格な烏天狗の許しによるものだった。

 

「よう、月光!!これから、仕事かい?」

 

「月光!しっかりやんな!」

 

「お館様の仕事から帰ったら、うちに寄りなよ!惣菜持っていきな」

 

 通りで話していたあやかしたちは仕事に向かう、月光のフライトジャケットが目に入ると、声をかけた。

 河童、かわうそ、雪女などさまざまだ。

 

 ぬらりひょんの住まいのある、屋敷の周辺のアパートに月光は暮らしている。

ぬらりひょんの通称の一つである、滑飄(かりょう)に倣い、その町の名を滑飄町(かりょうちょう)と呼ぶ。

 

 ここではぬらりひょんの孫と言っても過言ではない、月光はあやかしたちに可愛がられていた。

 

「行ってくる」

 

 月光が軽く手を振り、笑い返すと、町の入り口の鳥居を駆けながら通り抜ける。

 今回の仕事もぬらりひょんのナワバリを爆走する、妖怪・火車(かしゃ)を捕らえる簡単なものだった。

 

「あら?また会いましたわね。

今日はあの子はいませんの?……そう、デコネコさん」

 

「ネコぉ?ネコは飼ってねーよ」

 

 鳥居を出た先にいた、その人物の言葉に月光は眉を顰める。

 ネコの妖怪はぬらりひょんの百鬼夜行には猫又しかいないし、人間界の妖怪巨匠の作品のヒロインのような猫娘はいない。

 

「いいえ、あの夜、スーパーでお買い物していたレディですわよ。

わたくし、人間の名前は覚えるつもりはありませんから」

 

「御代のこと言ってんのか?何しにきやがった?飼い主(・・・)に言われてんのか?

トリッシュ・フェレス」

 

 トリッシュ・フェレスは臨戦態勢を取る妹を制し、豊満な胸の下で腕を組んだ。

 月光は早急に仕事を片付けたかったのと、悪魔の乱入は全く予想していなかった。

 

「イヤァーッハァーッ!飛ばしていくぞー!」

 

 近くからだろう、雄叫びのようなエンジン音とスピードに気持ちよくなったジャンキーの声が聞こえる。

 月光は霊力で菓子を作り出す能力、バイキングを発動させ、左足を軸に右足で円を描くように回す。

イメージはわたあめ機でわたあめを作るような、あのイメージである。

 

「悪いが、お前らの相手は後だ!悪魔!」

 

 人一人乗れる雲を作り出し、飛び乗って向かう様はさながら孫悟空である。

 

「ルチアさん!」

 

「はい、お姉さま!ジェイソンの準備はできてます!」

 

 雲に飛び乗って行った月光をフェレス姉妹は呼び寄せた、ジェイソンと呼ばれた赤いフェラーリに乗って追いかけた。




滑飄町のイメージは妖怪横丁です。
月光のイメージもウエンツ版鬼太郎みたいな感じだしね

よろしければ、感想とかお待ちしてます。
これはセーフ!のはず?あとがき久々に書いたな
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