ウチの湿度高い姫たちは甘いものがお好き   作:ふくつのこころ

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ハイウェイスターに気をつけて!前編

 火車(かしゃ)

 閻魔大王の命を受け、悪人を迎えにきた死神。

あるいは死体を貪る、妖猫(ようびょう)であるとされる。

ぬらりひょんの百鬼夜行、その縄張りの一つである滑飄町と背中合わせの漣花町(れんげちょう)を駆け回っているのはスピード狂の火車だった。

 

「イャァァァハァァァッ!!どこの誰だろうと、このダビッドソン様を捕まえられない!!!

世界最強最速のダビッドソン様を捉えることは不可能なのさァ!!」

 

 はぐれあやかし、火車のダビッドソン。

自ら“してぃあやかし”と名乗る火車のそのフォルムは燃える二輪にヘッドライトの位置が豹の頭部になっている。

三メートルを越す、改造大型バイクのようなビジュアルのダビッドソンを警察が追う。

しかし、ダビッドソンは物ともしない。

 前輪を支えに後輪を上げる逆立ちのような姿勢になれば、マフラーから火炎弾を飛ばしてパトカーを爆発させる。

 一人、また一人と上がる悲鳴にダビッドソンはニヤけてしまう。

 

 あやかしは通常、視る(・・)ことができない。

あやかしが姿を見せるときは、人間を驚かせたり、テリトリーに入った際がほとんどである。

 

よって、あやかしを自分の意志で視るには、特別な血筋や才能がなくてはならない。

 

視界に捉えることもできない、強大な存在になす術なく、強者(じぶん)に潰される人間。

それがたまらなく、ダビッドソンには気持ちよかった。

 

「イヒヒヒヒ!心地良い音だ!こんなに耳障りのいいものなんてねェ!隠居ジジイのの百鬼夜行だってアチキを捕まえられねぇ!」

 

 道路を跳ねるように駆け、自動車を踏みつける時は車体にわざと力をかけることで重量で押し潰す。

人間がダビッドソンに殺されるという、恐怖を糧にするのがダビッドソンのこのスピード自慢であった。

 大陸の御伽話には、雲に乗って千里を一駆けする伝説の妖怪がいるとか。

だが、この日本には存在しない。

百鬼夜行を率いる、大親分ぬらりひょんもいまや隠居老人、恐る恐るに足らず。

このダビッドソンこそが、最速なのだから。

 

「ちげーよ。

捕まえるまででもねぇ(・・・・・・)の間違いだろ?」

 

 甘い香りを漂わせる、その雲に乗ってダビッドソンを追ってくる白髪の少年。

 赤い瞳に真っ白な肌、いくつもワッペンをつけたフライトジャケット。

手にしている得物らしい、巨大な棒状の菓子。

そんな特徴的なビジュアルは一人しかいない。

 

ぬらりひょんの(・・・・・・・)番犬(・・)!来やがったな!?だが、アチキを捕まえることはできねえ!」

 

 地上を走っている赤いフェラーリが目に入る。

 ホラー映画の愛称がついたフェラーリがアスファルトからビルのガラス張りの窓を駆け上がった(・・・・・・)

思わず二度見した月光、あやうく得物を落としかけるも、すぐさま態勢を立て直す。

 手作り感満載の忍者の格好のカエルを描いたメダルに紐を通したようなストラップを揺らし、黒いスライド式の携帯電話のカメラモードを起動する。

 

「御代に送ってやるか。“フェラーリがビル駆け上ってた”よっと」

 

 写真を百合花に送信。

 百合花の連絡先のアイコンは片目を閉じ、横ピースをしている百合花になっている。

送信完了と表示された時、月光は悪魔姉妹を自然と追い抜くが、その跡を「お待ちなさい!何自然に抜いてるんですの!?」と追走する悪魔姉妹のフェラーリ。

 

「そのまま自然に行こうとしない!」

 

「なんだよ、邪魔すんなよ。お前らに構ってる場合じゃねえんだから」

 

 ルチア・フェレスが左側でハンドルを握る中、トリッシュ・フェレスが呼び止める。

スーパーで出会った時はウェーブロングの髪を流していたが、今日はスーツ姿で髪を纏めている。

 妹も同様にスタイルがいいらしいことはわかったが、さすがにフェレス姉妹を撮影しなかった。

 百合花の反応が面倒だからである。

騒がれてはたまったものではないからだ。

 

 フェラーリはさらにスピードを上げ、月光のわたあめ雲に追いついてきた。

月光の異能バイキングは菓子を生み出すが、それに付随する効果は月光が解釈を深めることで強まる。

 スピードを上げ続ける、ダビッドソンに追いつくためにわたあめ雲の走行速度は時速450キロ。

対するフェラーリも同等の速度で飛ばしており、法定遵守速度などあったものではない。

悪魔の駆る車とあれば、それくらい出て当然かと月光は内心思った。

 

「肖像権を訴えますわ!白わんこさん!」

 

「俺のこと?白わんこ?悪魔に肖像権もクソもねーだろ。俺もお前らも」

 

 銀髪を靡かせ、人差し指を突きつけるトリッシュに心底面倒臭そうに月光は顔を顰める。

 

「あーれー!!!???ダビッドソン!!!おいおい、修羅場か?ぬらりひょんの番犬が!?アチキはなァ、アチキは誰であれ、アチキの無視をすることを許さない!!」

 

 月光らに自分を無視されたダビッドソンが怒鳴り散らすと、咆哮のようなエンジン音が上がった。

 地上を走行していたはずのダビッドソンが空中をさも当然のように駆け上がり、月光らの方に向かってきている。

 

 轟音を撒き散らし、後輪をぐるぐる回転させれば、炎が撒き散らされる。

同時に排気ガスを噴出するマフラーから液体らしいものを噴き出した。

 

その液体が彼らに吹きかかる刹那、月光は得物の巨大プリッツを投げ捨てる。

 投げ捨てたプリッツが消滅(・・)すると、月光が両手を叩く。

すると、チョコレートでコーティングされた円形のビスケットを作り出す。

さながら、円状の盾(ラウンドシールド)のようだ。

 隣を走行する悪魔姉妹はトリッシュが白いフリルのついた、黒い日傘を取り出し、魔力で巨大化させる。

 

 ビスケットにかかった、液体が瞬く間に表面の溶かし始めた(・・・・・・)ため、月光はすぐにそれから手を離した。

 ダビッドソンがマフラーから射出したものは溶解弾だったのだ。

 

月光の手から離れたビスケットはたちまち、液体が広がり、ジュッと音を立てて消える。

一方、トリッシュの傘は表面をジュウッと溶かす音がしたが、完全に守られていた。

 

「あっっっぶねぇぇぇ……」

 

「随分、下品なことをなさるわね」

 

 月光が汗を拭いながら、少し(おど)けたように言う。

隣に視線を向けると、トリッシュが自分たちにかかるのを防ぐべく、開いた傘を閉じた。

 トリッシュは月光が作り出した、円状の盾がビスケットであることに内心興味を持つ。

 

(白わんこさんの能力はビスケットの生成?いえ、力を利用してのお菓子(・・・)の生成。まさか、あの雲も?)

 

 月光が乗っている、わたあめ雲。

雲に乗って飛び回る、あやかし。

それ自体は術を学べれば、乗れるようになることは不可能ではない。

トリッシュが興味を持ったのは、半妖だと噂の胡堂月光がそんな異能を使いこなしている点だ。

 菓子を凶器に理性(タガ)の飛んだ、あやかしたちと戦っている。

そんな面白いこと、悪魔は見逃さないのだ。

 

「気づいた?アチキの力!ただ走り屋なだけじゃない、アチキはアチキの走りを邪魔するのを許さない!邪魔なものはさっきので溶かす!

そんなオヤツ(・・・)なんかでアチキを止めらんないよ?菓子は水や火に衝撃にも弱いから、アチキはぬらりひょんの犬の天敵さァ!」

 

 轟音を上げ、車輪を回すダビッドソン。

 ダビッドソンの注目を月光が惹きつける傍ら、トリッシュは携帯電話に何かを打ち込んでいた。

そうしているうちにダビッドソンが向かってくると、月光は再度両手を叩く。

次に生み出したのは、二枚のポテトチップスだった。

 

 右手と左手、それぞれで直径三十センチはあるそれの縁を掴みつつ、左手で掴んだものをフリスビーのようにして投げる。

 

 ダビッドソンは避けるどころか、軌道を描いて向かってくるポテトチップスを悠々と口に含んだ。

すると、みるみるうちに顔を赤くし始めた。

月光が投げたのは、ただのポテトチップスではない。

唐辛子たっぷりのスパイシーチップスだったのだ。

 

「か、(かへ)ェ!にゃにくわせやにゃったぁ!?」

 

「激辛チップスに決まってんだろ?デカさに見合った辛さを詰め込んでんだからな」

 

 月光はわたあめ雲でダビッドソンに近づいた。

 握ったスパイシーチップスをヘッドライトにあたる、豹の頭部に向かって下から切り上げる。

 ポテトチップスである以上、通常の刃物より硬度は頼りない。

しかし、スパイシーチップスの辛さに悶えるダビッドソンには効果覿面だった。

 

「ギャァ!」

 

「酷い顔してるな、火車さんよぉ!」

 

 ダビッドソンの頭部を切り上げると同時にスパイシーチップスをスライドさせ、上から下へと振り下ろす。

 一度目にできた傷口に唐辛子を塗り込む形となり、顔を切り刻まれて悲鳴を上げるダビッドソンの頭を蹴り飛ばし、宙返りしては、そのシートに跨った。

 

「お、降りろ!!アチキは一人で風になるんだ!!」

 

 ダビッドソンがぐるりと三百六十度、頭部を回転させると、月光を睨む。

カウボーイを乗せた馬が振り下ろそうと暴れる、ロデオの如く、ダビッドソンは車体をめちゃくちゃに揺らす。

 ハンドルを手にしている月光は振り落とされまいとしっかり握っていた。

ダビッドソンは凄まじい速度を出している。

そんな中、振り落とされては、たまったものではないからだ。

 

「なんてな」

 

 月光に切り刻まれた顔を歪め、ニヤリと笑った時、ダビッドソンのマフラーが長く伸び、先ほどの溶解弾を放ったようにトリッシュには見えた。

 

「お姉さま、あんな距離じゃ白犬は……!

もう良いでしょう。彼が死んだら、この仕事はそこで終わりのはずです!」

 

 ハンドルを握るルチアに入力を終えたトリッシュに呼びかける。

 

「いや、まだですわ。

スカーレッドさんもおっしゃったでしょう?ルチアさん。

ぬらりひょんの傘下には常識が通用しない(・・・・・・・)と」

 

「常識が通用しないですって?……あれは!」

 

 ルチアの言葉にトリッシュは落ち着き払っていた。

 一切の動揺を見せず、トリッシュが示した言葉の意図を知ることになる。

 フェレス姉妹が傘で防ぎ、月光のビスケット製円状の盾(ラウンドシールド)が溶けた溶解弾。

それが月光の背中、フライトジャケットに着弾する瞬間。

チョコレートでコーティングされた(・・・・・・・・・)、ビスケットの壁が現れた。

 溶解弾が着弾し、ビスケットは燃え上がった。

焼けたチョコレートの甘い匂いが辺りを漂う。

 

「……超至近距離でぶち込んだはずなんだけどな!?化け物か!?」

 

「あやかしが半妖(おれ)を化け物呼ばわりはナンセンスだろ?」

 

 ダビッドソンが驚いた声を上げつつも、その進路を変更していくことに月光は気づいた。

 

「ここまで来れば、ヤケだ。

あーれー!!

もっともっともっと!アチキの炎でたくさん焼き殺せる場所に行く。

あそこはいい、新鮮な魂の悲鳴が聞こえるし、ナマの魂が食える。

それに若い魂は栄養価が高いからなァ!」

 

「新鮮な魂ィ?」

 

 ダビッドソンの言葉に月光は首を傾げるも、すぐに気づいた。

 

「クソッタレが。御代んとこかよ」

 

 行き先は(おぼろ)学園。

 百合花が通う学校だ。




半妖は人間に見えないようにできるのか?はまた次回
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