ウチの湿度高い姫たちは甘いものがお好き   作:ふくつのこころ

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いくら親友でも急に家に来るの、あたしはどうかと思う。百合花ならいいけど

「……また急なんだから」

 

 親友からのメッセージに呆れながらも、ルームウェア姿のまま、眉を下げた。

 

『アンコ、今度、アンコんち行っていい?

ゲコちゃんのことも連れてくからさ。

久しぶりにアンコの家に私行きたいなー』

 

 百合花の遠慮しているように見せかけて、ほぼ来ることは確定事項だろうなと杏子は親友のわがままぶりを思い出す。

 

 一色杏子は親友を迎える準備を行なっていた。

 両親と死別して以降、杏子は兄の真次郎と二人暮らしだ。

 生活費は兄や自分のバイト代でやりくりしている。

 学費に関しては親戚が払ってくれているが、それは兄と杏子たっての希望だった。

 

「いつまでもガキでいられねえしな。

俺がお前の分まで働いてやるから、お前はちゃんと勉強しろよ」

 

 両親が亡くなった時、親戚は誰が自分たちを引き取るか揉めた。

しかし、二人暮らしを提案した時、自分そっくりの鋭い双眸と無愛想な顔で兄が言っていたのを思い出す。

 兄妹の家は両親が遺してくれた一戸建てであり、キッチンのガスコンロで湯を沸かしながら、百合花らの訪問を待つ。

 インターホンが鳴ると、杏子は火を止めた。

玄関に向かい、覗き穴を見ると白髪の少年と少年の裾を掴む少女がいる。

 月光と百合花だ。

 

「アンコ、お邪魔しまーす」

 

白いの(・・・)、連れてきたんだ」

 

 杏子が扉を開くと、百合花は笑顔で手を振る。

 百合花はシャツの上に水色の薄手のカーディガンを羽織っていた。

白のロングスカートを履き、ローファーを履いている。

 ポーチにはやはり彼女の愛する、カエル忍者ゲコえもんのキーホルダーがついていた。

 隣の月光はフライトジャケットは変わらないが、下はネイビーのシャツで第二ボタンは開けている。

筋肉質な身体が窺え、杏子は少しギャップを感じた。

 

「今日は空いていた(・・・・・)からね。

ゲコちゃん連れてきちゃった。

余所見(・・・)させるくらいなら、連れてきた方がいいかなって」

 

「余所見ィ?俺が何を?」

 

「じっくり、あいつの(・・・・)見てたでしょーが」

 

「んな見てねーよ」

 

 思いつかないとばかりに疑問符を浮かべる、月光に百合花は半ばキレ気味に返す。

百合花の方もあいつの(・・・・)や見てたで通じる月光が許せなかった。

百合花が言うあいつとはトリッシュ・フェレスのことであり、これは八つ当たりである。

 

「仲良しじゃん。

どうぞ?大したものないけど」

 

 杏子はそんなやりとりにクス、お笑いを漏らしながら、二人を中へ迎え入れた。

 一色家の玄関に入ってすぐに掛けられた絵を月光と百合花は目にする。

 玄関から入って左手がリビングであり、その“黒いもの”は目を惹きつけたのだ。

 

「アンコ、これは?」

 

「それ、昔、兄貴が描いたやつ。

読者投稿でカードになるって言うのに選ばれた時の絵かな。

イラストが結構得意でさ、前までよく描いてたんだよ」

 

 百合花が示した絵の額縁には“いっしきしんじろう”の名前と幼い杏子、笑う男女と絵を手にした笑顔の男児が映る写真があった。

 実際にトレーディングカードとなったものもまとめて飾ってある様子から、かなり審査員から受けが良かったのだろうと推測できた。

 

「胡堂、これわかる?」

 

「実際にカードんなって発売した奴なら、昔姉貴が持ってたな。確か名前は黒騎士」

 

 月光は大剣を担いだ黒騎士のカードを眺めながら、百合花に言葉を返す。

 

「マジなやつなんだ。……お姉ちゃんって、あのおじいさんの孫の?」

 

 百合花の脳裏をよぎるのは、長い後頭部を持つ女ぬらりひょんの姿。

月光が祖父のように慕い、保護者を女性にしたような姿を浮かべれば、頭から振り払う。

げんなりした顔の百合花を月光が小突いた。

 

「いちゃつくんなら、帰れよ」

 

「ごめん、アンコ!そうじゃなくて」

 

 冷たい杏子の睨みに百合花がジェスチャー混じりに謝罪する。

 すぐにそれは月光に百合花からの睨みという形で流れ弾が飛んでくるが、月光はどこ吹く風だ。

 

「冗談だよ。

兄貴が描いた、そのカードの正しい名前は黒騎士ラストブラスター。

デカい剣持って、勇敢に敵と戦うんだとさ。

お茶淹れるよ。座ってて」

 

 少し早口になった自分を恥じらうように視線を背けるも、月光は彼女の寂しさを感じられた。

 杏子は百合花と月光のやりとりに笑みをこぼし、リビングに通じる扉を開く。

 暖色の壁紙、木製のテーブルと二人暮らしにしては大きなソファ。

 大きな液晶テレビと壁際にある収納には一色兄妹の写真が飾られている。

 月光と百合花がソファに腰を下ろすと、杏子がトレーに湯呑や急須、茶請けの菓子を載せてきた。

 

「どうぞ」

 

 百合花と月光の湯呑に茶を注ぎ、それぞれの前に置く。

 

「それで、ただ彼氏自慢(・・・・)に来たわけじゃないんでしょ?何しにきたの」

 

 冷ますために息を吹きかけたあと、ゆっくり茶を飲む月光を一瞥し、杏子は百合花を見る。

 月光の様子に逃げたな?と視線で心底不服だと主張しつつ、百合花は杏子を見つめ返す。

 

「彼氏だってさ?ゲコちゃん。……やっぱりわかる?」

 

 百合花がニヤニヤ笑いながら小突くと、月光は顰めっ面で返した。

否定しなかったことに杏子は驚いたが、月光にとって、何を言っても五月蝿い百合花との向き合い方において重要な手段の一つである。

 

「わかるよ。あたしは百合花の友達だからね」

 

 杏子は百合花の言葉に笑う。

誤魔化すような笑顔だと月光は思った。

ただ、百合花なりに踏み込もうとしているのが分かる。

 百合花が震える右手を杏子に見えない角度で月光へ伸ばしてきた。

 月光はその手を優しく取ると、百合花は少しだけ驚いた顔を見せる。

 

「じゃあ、言うね。アンコ、悩んでることある?」

 

 百合花がストレートに切り込む。

杏子は自分の湯呑に口をつけ、茶を一口飲むと百合花を見据える。

 

「ない、と突っぱねたいけど。百合花はどうしてそう思うの?」

 

「ちょっと前のゲコちゃんに似てるんだよね、いまのアンタ。

だから、私にはお見通しってわけよ」

 

 杏子は百合花のストレートな質問に表情を和らげた。

百合花が胸を張ると、杏子がそういえば、と切り出す。

 

「ゲコちゃん、アンタ、何して(・・・)学校に入ってきた(・・・・・)?まわりの誰もアンタがきたの怪しまなかった」

 

「そっちが聞いてくれんなら、話が早い。

お前、あの日、空を変なバイク(・・・・・)走ってたの見えてたか?」

 

 月光も同様に気になっていた。

ぬらりひょんからの贈り目のフライトジャケットの力で場に“溶け込む”ことができるが、それに違和感を感じることができるのは特殊な才能が必要だ。

 あやかしの力を纏う月光を視認できていたのであれば、空を駆ける火車ダビッドソンのエンジン音や声を聞けてもおかしくない。

そんな憶測でしかなかった。

 

「アンタは見えた。

でも、空に走ってる?変なバイクは知らない」

 

「猫?豹?の頭がヘッドライトの位置にあるバイク。見てにゃい(・・・)?」

 

 百合花が猫の手を作るようなジェスチャーをとれば、杏子は親友のそれに倣い、恥じらいながら同じ仕草で返す。

 

「見てにゃい(・・・)

 

 ノリノリな百合花は通常運転だが、杏子が乗ったことに月光は心底驚いた。

百合花の視線が「アンタもやんなよ」と目で訴えていることに気づけば、月光は心底うんざりした表情を見せる。

 

「元からそう言うの視える(・・・)タイプにゃの(・・・)か?」

 

「ゲコにゃんこ!」

 

 胡堂が乗ったことで百合花がはしゃぎ、月光が手を握っているのに気づいた。

何度も月光を見るも、月光は決して彼女の方を見ない。

 内心照れているのを気づかれたくなかったのである。

 

「ここまで言ったなら、あたしもちゃんと話すよ。

あたしの兄貴、一色真次郎にはさ。

守護霊(・・・)が憑いてんの」

 

 杏子は拗ねた調子でチラチラ月光たちを見ながら、告白した。

 

 

 

 




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