その日…フランとの遊びを終え、帰る…その前に、自分もフランが外に出られるように周りを説得してみる事にした。
流石にレミリアさんを最初に説得するのは無理に等しい。先ずはフランの部屋から近く、話しやすいパチュリーさんを説得する事にした。
虹星 「………という訳で…フランの外出を許可して頂く事って出来ますかね?」
図書館を訪れ事の経緯を話し、何とか説得を試みる。
パチュリー 「………それはレミィにもそっくりそのまま伝えるつもりなのかしら?」
虹星 「………自分の発言は多分耳に入れてくれないんで………なので、パチュリーさんからも話が出来るよう説得に協力して欲しいんです!…勝手な事を言っているのは重々承知してます…でも、あの子をこのまま部屋に閉じ込めておくなんて…僕は嫌です!」
パチュリー 「………初めに私に会いに来て運が良かったわね。…貴方は何も分かっていない。あの姉妹の苦しみを…何があったのかを。………あの姉妹は運命に呪われている、貴方自身が考えられる事よりずっと恐ろしい呪いにね。」
虹星 「……………。」
ごめんフラン、さっきした約束………破らせてもらう。
本当に悪いとは思ってる。………でも、知らなくてはいけない。
フランとあの人に…何があったのか。
虹星 「お願いします、フランとレミリアさんに一体何があったのか…どうか教えてください。」
パチュリー 「……これはあの姉妹と私達紅魔館の問題、部外者が関わるべきじゃ───。」
虹星 「友達なんですっ!!!」
パチュリー 「………!」
虹星 「フランには…レミリアさんには悪いと思ってます!それでも…僕は知らなくちゃいけない!少し前は詮索するべきじゃないって思っていたけど…大切な、大切な友達だから…!」
パチュリー 「………何を言っても無駄みたいね。教えてあげる…但し、その事を知った貴方にどんな不幸が訪れようとも、私には知った事ではないし貴方の命の保障もできない。貴方は…貴方は覚悟が出来ているの?」
虹星 「…師匠に教えてもらったんです、怖がってもいい…けれど逃げないって。」
パチュリー 「………そう。それなら…まず初めにあの子の両親について………」
今から数百年前………
レミリアとフランは…かつて百を超える吸血鬼を束ねる伯爵とその夫を支える夫人…スカーレット夫妻の元に生を受けた。
吸血鬼の長として非常に優れた力を持ちながらも、闘う事を好まない穏やかな父と同じく寛容な心を持ち優しさ溢れる母の間で…二人は幸せに暮らしていた。
スカーレット伯爵と夫人は………吸血により眷属を増やす事を好まず…というか、人間を殺める事すら好きではなく血は吸わずに食事に血を混ぜる形で血液を摂取していた…レミリアとフラン、配下の吸血鬼も同様に。
スカーレット夫妻は表向きは人間の貴族として振る舞っていた為…領土に住む者から税に加えて命に関わらない程度の血液を徴収していた。
スカーレット伯爵は…人間を見下す事もなく、むしろ親しみを込めて接していた。貴族の中には重い負担を課せる者も多かったが、伯爵は他の貴族に比べても血を徴収する事以外は負担が小さく、民からも慕われていた。
だが………それを良く思わない吸血鬼も当然いた。
吸血本能を抑えきれず人間を襲う吸血鬼もおり、それらは処罰の対象として即処刑の対象となる…その執行人として動いていたのがスカーレット一家が住む館の門番を勤めていた…紅美鈴だった。
美鈴は夫妻に恩があった為に同族殺しをさせないべくその役割を自ら買って出て夫妻も美鈴に感謝していた。
穏やかで優しい両親や、武闘を共に嗜む美鈴に囲まれて…レミリアとフランは確かに幸せだった。
パチュリー 「………レミィが丁度、貴方と同じ位の歳になるまでは。」
ある時、民の一人がこう言った。
何故貴族だけが裕福な暮らしをしているのか…と。
伯爵の優しさが今だけは仇となってしまった。次第に民は反乱を起こしても大丈夫ではと思い始め、あろうことか実際に館を襲撃した。
だがそこは吸血鬼、たかが人間など相手ではなかった。
徒党を組んだ民を返り討ちに出来たものの…
伯爵はそれを見ていたレミリアにこう言われた。
お父様は私にとってのヒーロー。だから…罪もない人を傷つけたりしちゃダメ…と。
伯爵は決して殺さないよう配下に命じ、配下は確かにその命を守り人間を痛めつけ畏怖させる程度で追い返した。
それがいけなかった。
民たちはスカーレット夫妻及びその配下の恐ろしい力を目の当たりにして、彼らが人間ではないという事実に気がついた。
民たちは貴族が悪魔ではないかという仮説を立て…
丁度その街を訪れていた悪魔祓い…それも歴戦の猛者であった夫婦を頼る事にした。
街の民から多額の対価を支払われた夫婦はスカーレット夫妻を祓い…もとい、抹殺を図った。
また人間が押し寄せて来たのかと考えた吸血鬼たちは…油断していた。
時を操る夫と空間を操る妻の二人の人間に…百を超える数の吸血鬼たちはあっという間に数十人程度まで屠られてしまった。
事態の深刻さを漸く飲み込んだスカーレット伯爵は………自身の同胞が無惨に殺められた事、人間への甘さがこの事態を招いた事に対し自責の念に駆られ…どんどんと追い詰められていった。
パチュリー 「………そうして悪魔祓いがスカーレット伯爵の前に辿り着いた時………伯爵は妻を守る為、残り少ない同胞を守る為、愛する娘たちを守る為…とうとう人を殺める覚悟を決めた。」
伯爵は恐ろしい強さで悪魔祓い夫妻二人を相手に互角以上に渡り合った…いや、一方的に追い詰めていた。
そうして伯爵が夫妻まとめて止めを刺そうとしたものの…心優しい伯爵は命を奪う事が出来なかった。
躊躇いを持った伯爵の一瞬の隙を夫妻は見逃さず、完璧に息のあった同時攻撃を受け、伯爵は倒れた。
そうして倒れ込んだ伯爵を仕留めようとした矢先、其処に民が徒党を組んで再び現れ…磔にして民の自由の見せしめとしたいと夫妻に述べた。
まだ意識のあった伯爵は…人間の本性に怒りと絶望を覚え………こんな種族に優しく接した自分を只管に嫌悪した……………そして。
パチュリー 「………伯爵は…妖怪や悪魔が発症する精神疾患………ディザスターを発症した。」
虹星 「でぃ、ディザスター……?」
パチュリー 「酷く精神的に追い詰められた妖怪、またはそれに近しい者が発症する病…。症状としては知能の著しい低下、闘争本能の向上、自身の目的に忠実に行動を起こすようになる事の三つ。
…とは言え、この状態は一時的なもので、上級妖怪以下の力の妖怪はこれ以上悪化することもない。………そう、これを発症したのがレミィの父親じゃなかったら、大した問題じゃなかったの。」
凄まじい力を持つ伯爵が発症したからこそ…初期段階の時点で既に手のつけられない災厄と化してしまった。
パチュリー 「伯爵は悪魔祓いの夫妻含め…その場にいた全員の腑を引き裂き、惨殺した。…唯、それだけでは伯爵の怒りは収まり切らなかった。」
伯爵は家族と仲間を守りたいという一心から…街を滅ぼし、その人間たちも皆殺しにした。たった一晩で…栄えていた街が、人間が…絶滅したのだった。
パチュリー 「それと同時に…伯爵から娘と己の身を守れと言われ、館の最奥の部屋…スカーレット夫婦の寝室に娘や他の吸血鬼共々身を隠していた夫人は…夫の身を案じて居ても立っても居られなくなり、自分がこの場から離れる事を嫌がった娘たちを生き残りの吸血鬼に任せて…娘を残して部屋の外に出た。」
部屋の外に広がっていたのは、惨たらしい光景だった。数十を超える人間が、身体からズタズタになった腸をはみ出し、苦痛に顔を歪ませながら息絶えていた。
………たった一人を除いては。
その中に一人、唯一の生き残りがいた。
悪魔祓いの夫妻がお互いに守りあうように覆い被さっていた間から二つの目が夫人を覗いていた…恐怖に身体を震わせながら。
銀髪の少女…夫人はそれを悪魔祓いの夫妻の娘であると瞬時に理解した。
夫人は少女を怖がらせないよう、しゃがみ込んで目線を合わせ、優しい声で何があったのかを問い掛けた。
少女は街の方角を震える手で指刺した…涙に声を震わせながら…自身の両親と人間たちを殺した化け物が街の方角へと向かった事を伝えながら。
夫人は息を呑んだ、信じられなかったのだ…あれ程温厚であった夫がこんな惨劇を起こした事を。
夫人は………伯爵を止めなければいけなかった。人間の為に、娘たちの為に、自分ら夫婦の為に。
夫人は少女を…吸血鬼に任せた場合怒りで殺めてしまう事を考慮して…娘を守るよう言われ、同じく寝室に待機していた美鈴に預けて一人、街へと向かった。
パチュリー 「その少女の子孫が…咲夜ね。
レミィはその少女が何かの役に立つだろうと、館のメイドにした。その結果、今の今まで一族代々メイド長。」
街は酷い有様だった。辺り一面にに血溜まりが出来、人間の死体が至る所に転がっていた。
その街の中心に………夫人は夫を見つけた。全身に返り血を浴び、白目をむいて涎を垂らした…変わり果てた姿で。
伯爵は夫人を目に捉えた瞬間…夫人に襲いかかった。
夫人も覚悟を決めた、自身の命に変えても…夫を止めて見せると。
パチュリー 「それから数刻経って…一才の物音が聞こえなくなった頃…レミィはフランと手を繋ぎ、配下と美鈴を連れて、部屋の外を出た…両親を探す為に。」
館に…街に広がった惨状を目の当たりにし、顔を青ざめながらも…レミリアたちは先に進んだ。
そうして街の中心で…姉妹は両親を見つけた。
二人とも生き絶えていた。
人間と吸血鬼…沢山の死者を出し、街を滅ぼした惨劇は………伯爵と夫人の相討ちで幕を閉じたのだ。
吸血鬼の少女たちは…涙ながらに必死に両親の名を叫んだ。
…言葉は両親の身体を通り抜け夜のしじまに消えた。
吸血鬼の姉妹は同胞を、仲良くしていた街の民を、愛する両親を…一晩で全て失った。
パチュリー 「………そして、傷心した心を癒す間も無く…新たな悲劇がレミィを襲った。」
今度はフランが…ディザスターを発症したのだ。
レミリアは父の跡を継ぐべく悲しみと寂しさを必死に抑えていたものの…吸血鬼にしてはまだ幼いフランには…仲睦まじかった同胞、何より両親の死は耐えられるものではなかったのだ。
更には………フランの症状は完全に父のそれを超えてしまっていた。
パチュリー 「ディザスターは症状の進行度合いで三つの段階に分けられる。まず先程話したディザスター…これがステージ1。次にステージ2…ハザードディザスター…。フランはそれを発症してしまった。」
ハザードディザスターは上級妖怪またはそれに近しい力を持つもののみが発症する妖怪の精神疾患、ディザスターが深刻化したもの。
知性を取り戻すものの、感情の抑えが効かず暴走する
また、目的達成により重きを置くようになり敵味方の区別ができず自身に立ち塞がるもの邪魔するもの全てを敵とみなし、容赦なく殺しにかかるようになる。
自身の深層心理に刻まれている"何か"(執着しているもの)を全面的に押し出し、それを得ようとする。
猟奇的な発言も多くなる。その一方でこれらを制御できるものにとっては自身をより強化できる術でもある。
パチュリー 「ハザードディザスターとなってしまっては自然に治る事はもうないの。この病は…暴走する力を制御する術を得るか、精神的な成長をすることでしか完治しない。…当時のフランにはそれは期待できなかった。………例外として、発症者自身が信じることが出来るほどの絆や愛があれば治る事もある。けれど……レミィは怖がった。」
自ら前に出ようとせず、配下の吸血鬼に任せて自分は隠れてしまった。
見たくなかったのだ。
フランが父と同じになってしまう所を。
フランが同胞を殺す所を。
フランが死んでしまう所を。
フランは父の力と聡明さ、母の能力と高度な魔術を受け継いでいて…恐ろしい強さで暴れ回った。
フランが自我を取り戻した頃には…押さえ込もうとした数十人の吸血鬼たちは皆死んだ。………スカーレット姉妹を除いて…吸血鬼たちは完全に死滅してしまった。
パチュリー 「それ以来フランは地下に籠るようになった。自分の為にも周りの為にも…引き籠ることが最善だと思ったから…自分の意思を踏み潰してね…。
そして…レミィも変わった。以前の純粋で優しい…伯爵と夫人の良い所を受け継いだ性格から一変…今みたいに弱さを嫌い、強さ至上主義の吸血鬼となった。
………レミィはずっと恨んでいるのよ。両親を救えなかった、何も出来なかった自分を…今もフランを救ってあげられず、地下に閉じ込めてしまっている弱い自分を…ね。………昔話はこれでお終い。」
虹星 「………そんな、そんな…事が…。」
パチュリー 「………で、あんたはどうするの?まだ無責任にフランを館の外に出そうと思っているのかしら?」
虹星 「………僕は…。」
知らなかった…それでは済まされない程に
レミリアさんとフランの過去は重く辛いものだった。
自分は…過去の発言を顧みて、酷く無責任だった事を理解した。
けれど………けれど…!
虹星 「僕は…意思を曲げるつもりはありません。」
パチュリー 「………はぁ、これだから人間は度し難い。フランはいつ暴走するか分からない…そんな危険性を孕んだ子に自由を与えたらどうなると思う?最初はきっと友達でも作れるじゃないかしら。…そして最後には作った友達みんな破壊して、フランはまた心を病む…そうなるのが必然。」
虹星 「そんな事はさせません…!そうなる前に僕がフランを止めますっ!!!」
パチュリー 「吸血鬼が束になっても敵わなかったフランを貴方が?たった一人で?馬鹿も休み休み言いなさい。」
虹星 「…っ。………確かにその通りです。僕は…弱い。だから………お願いします。仮にフランが暴走した時に…フランを止められるように、僕に力添えしてください。それに…フランが外に出る時は常に僕が見張っておきます!フランにバレないようにして、暴走したらすぐに知らせます!自分に出来る事なら全部やります…!だからフランに…あの子に一度自由を与えてあげてくださいっ!!!」
パチュリー 「………分からないわね。何故そこまであの子に関わろうとするのか………。」
虹星 「………可哀想じゃないですか。今の今まで外に出た事が無いなんて…貴方たちもあの子に会いにくる事はあまりなかったと聞いてます。…寂しいなんてものじゃなかったと僕は思うんです。…何より友達だからです。友達って、辛い時に側に居るべきじゃないですか…。」
パチュリー 「………実に人間らしい感情論ね。どちらにせよ、レミィを言いくるめる事が出来なければ意味の無い事だわ。……まぁ、もしレミィを説得できたって言うなら…その時はあんたの考えに乗ってあげる。」
虹星 「…!ほっ、本当ですか!?」
パチュリー 「…私が言うのも何だけど、このまま引き籠らせるのもあの子の為にならないのは事実だしねぇ…。……で、あんたはレミィをどうやって説得するつもり?恐らくだけど、私の言葉だけでは彼女は耳を傾けない。」
虹星 「……一先ず美鈴さん…出来れば咲夜さんにも同じ様に協力を仰いでみます。」
パチュリー 「そう…じゃ、さっさと向かったら?」
虹星 「…はい!改めて…有難うございます、パチュリーさん。」
虹星はパチュリーに深くお辞儀をした後、足早に図書館から出て美鈴の元へと向かって行った。
パチュリー 「…はぁ。」
小悪魔 「パチュリー様〜?本の整理終わりましたよー。」
パチュリー 「…あぁそう、それならあんたも休憩してもらっても構わないわ。」
小悪魔 「はぁ〜い。…お二人の会話を途中から小耳に挟んでいましたが…パチュリー様も中々虹星君に甘いですねー。」
パチュリー 「別に、甘やかしている訳ではないわ。ああいう子は痛い目を見なければ分からない。今だけ同意していれば良いのよ…どうせ諦めるでしょうし。」
小悪魔 「つまり今だけ口裏合わせたと…悪いですねぇ〜。………私はそこそこ心配してますけどね……お嬢様が彼がこの館に立ち入っている事に気がつかないとは思えませんので…。」
パチュリー 「…そうね。私はそれが要因で諦めると思っているもの。恐らく、次に私の元に訪れた時には彼はもう…心が折られているでしょうね。」
この物語に芯まで悪者って奴はあまり出てきません。
皆良い奴ではあります。
ディザスターは物語に深く関わってきますよー。