一度無くしたらもう戻ってきませんからねー。
あれ…?此処、何処だっけ?
何があったんだっけ…?
というか、何で此処は…こんなに真っ暗なのだろう。
……………?誰かいる?
眼鏡をかけた…大人の男の人………?
………お、父さん?
……何で、僕はあの人の事、お父さんって…?
………振り向いた?
お前、誰だ?
虹星 「(………?あれ、此処は…?)」
目が覚めた…のだろうか?気がつけば見知った天井。
虹星 「(………死に損ねたのか…僕は………。)」
身体を動かせない事は全身の痛みでよく分かっていた。………言葉では言い表せない程の激痛でも身体をよじる事すら出来ない。
虹星 「(失ったものも…沢山あるなぁ。)」
右から感じる空っぽの感覚と…真っ暗な左側。
それを見る事すら叶わないので取り敢えず天井を眺め続けた。
そうしていると…ドアをノックする音が聞こえた。
「………入るぜ、虹星。」
見る事は出来ないけれど…声で大体分かる。
魔理沙が部屋に入ってきた。
「今日は雲一つない快晴だな…。いい日になるぜきっと。」
言葉に応えようとして…声が出せない事に気づいた。
恐らく、声帯をやられたか何かだろう。
「そういえばさぁ、霊夢がお前にカンカンだったぜ。なんで呼びに来なかったのか頼らなかったのかーってさ。まぁ、時間も無かったし仕方ないよなー。」
魔理沙は窓際の花瓶の水でも変えているのだろうか、兎に角淡々と話していた。
「それで、香霖に至ってはベットで寝てるお前を見た途端に泡吹いて倒れてさぁ、そっから今日までずっと寝込んじまってさ、霊夢と私で看病してるんだ。」
魔理沙は窓の外を見続けて此方を向こうとしない。お陰でいつまで経っても目覚めている事が言えなかった。
「そうだ!聞いてくれよ、レミリアとフラン、お前のおかげですっかり仲直りしたぜ。………まぁ、今は二人ともあまり元気はないけどさ。」
「なぁ…虹星、あれからもう三日も経っちまったんだぜ?………いい加減目、覚ましてくれよ。パチュリーがさぁ…可笑しな事言ってんの。出血が多すぎて、もしかしたらもう目覚めないかもしれないって…そんな事あり得ないよな。あいつの言ってる事嘘だって証明する為にもさぁ…早く起きてくれよ………虹星…。」
魔理沙の声が掠れているのを聞いて一刻も早く返事がしたかった。
魔理沙 「………ま、香霖が心配だし今日はもう帰るよ…また明日来るからな虹星。」
まずい、魔理沙が帰ってしまう。
小悪魔 「魔理沙さーん、咲夜が昼食いかがって………!?ま、魔理沙さんっ!!!」
魔理沙 「………何だよ、急に大声出してさ。」
小悪魔 「虹星さんがっ!目ぇ覚ましてますよっ!」
こあさんが此方に指を向けて、漸く魔理沙と目が合った。
魔理沙は自分を見て………ばたりと仰向けに倒れ込んだ………霖之助さんと一緒じゃん。
それからと言うもの、フランと美鈴さんも部屋に来ては三人一緒に小一時間程ギャン泣き。
ベットのシーツと寝てる間に着せられた病衣みたいなガウンがびしょびしょになるまで泣かれ、喋る事すら叶わなかった。
漸く皆泣き止むと、魔理沙は自分の安否を伝える為に香霖堂へとすっ飛んで行ってしまった。
フラン 「虹星っ………良かった。目覚めてくれて、本当に良かったよ…。」
美鈴 「私たち、虹星君がもう目を覚まさないんじゃないかって気が気じゃなくて………。」
虹星 「心配してくれたのは嬉しいんですけど…美鈴さん、ハグは辞めてください…恥ずかしいです。」
美鈴 「………別いいじゃない、これくらい。」
パチュリー 「ほら、どいたどいた。今から彼の診察するから、二人とも下がりなさい。」
フラン 「はーい。」
美鈴 「………ちぇっ。」
パチュリー 「それで………まずは喉の調子ね。応急処置を施したけれど、大丈夫かしら?」
虹星 「…はい!問題なく喋れます…いたた……。」
パチュリー 「今の貴方はあまり声は出さない方が良いわ。………じゃあ本題に入ります。………まずは、貴方の身体について。
貴方が倒れた後…一日中治癒魔法をかけ続けて、何とか貴方は一命を取り留めた…って感じ。」
虹星 「一日中って…パチュリーさんのお身体は大丈夫なんですか?」
パチュリー 「え?大丈夫じゃないわよ。………だから、貴方には悪いけれど…暫くは貴方の身体を完治させる事が出来ないわ。」
虹星 「………それは構わないんですけど、それでもパチュリーさん、何だか妙に元気じゃ…?」
咲夜 「今日のパチュリー様は喘息の薬を決めてるからね。」
音もなくさっさんが現れた…正直、もう慣れた。
虹星 「決めたって言い方の悪い…。」
咲夜 「魔理沙が倒れたって聞いて何事かと思ったけれど…無事で何よりだわ、坊ちゃん。」
虹星 「坊ちゃんは辞めてくださいよ、さっさん。」
咲夜 「じゃあ貴方も私の事は咲夜さん、と言いなさいよ。」
パチュリー 「呼称なんてどうでも良いでしょう。取り敢えず、内臓と骨は以前と同様、完治させたわ。……全身複雑骨折、内臓は掻き回されたみたいにぐっちゃぐちゃで、実際それを治すだけで私達はヘトヘト。そして身体に空いた穴三つ………一つも塞がりきってないの。暫くは過度な運動は避けて極力でベットの上で過ごしてもらうわ。」
虹星 「上半身を起き上がらせるのは…?」
パチュリー 「それは構わないけれど、体を捻ったら傷口かっ開くわよ。」
虹星 「分かり………げほっ…?」
身体を持ち上げようとした途端、口から何か噴き出た。
反射的に手で押さえると、手には赤黒い液体が。
虹星 「やっば………!?うっ……ぐふ…。」
身体に激痛が走り、ベットに再度倒れた。
パチュリー 「あぁもう言わんこっちゃない!だから言ったでしょ身体捻ったら傷口開くって!」
パチュリーさんにガウンを捲られると、身体に巻かれていた包帯が真っ赤に染まっていた。
美鈴 「待ってね虹星君…直ぐ塞ぐから…!」
虹星 「ご、こめんなさい…。お願いします…。」
美鈴さんに気で傷口を塞いでもらい、事なきを得た。
咲夜 「まったく…身体を起き上がらせたいなら今度からは私たちの誰かに頼みなさい。貴方は危なっかしくて見てられないわ。」
フラン 「呼ばれたらすっ飛んでくるからね!」
虹星 「あっ…うん、ありがとう。」
壁を突き破ってきそうで怖いな…なんて思っていると。
パチュリー 「全身の擦り傷、切り傷、打撲とか痣とかその他諸々………これも治ってないわ。まぁ…これは三日もあれば完治させられるけれど………。」
そうね、貴方が一番気になってる事………。
貴方の顔の傷とその右腕の事。
パチュリーさんが重々しくその言葉を告げると、賑やかだった皆は途端に何も喋ってくれなくなってしまった。
沈黙が酷く煩い。
そう思っていると、顔を伏せたパチュリーさんが
少しずつ喋り出した。
……………ごめんなさい。
私や魔理沙の治癒魔法では………
塞ぐ事や治す事は出来ても………
無くなったものを元に戻す事は………出来ないの。
左眼と耳は………もう元には戻らない。
その腕も……………。
虹星 「えぇ!重々理解してますよ!」
皆、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いていた。
虹星 「しょーじきなはなし………割と死ぬつもりだったんですよ?実際、パチュリーさんや皆が助けてくれなきゃ今頃墓の中ですし。命に比べると軽いもんですよこれくらい!」
パチュリー 「………はぁ。なんかもう、落ち込んでた私達が馬鹿馬鹿しく思えてきたわ。」
咲夜 「この坊ちゃんは失ったものの重みが分かってないというか何というか…。」
美鈴 「本当、お人好しだね…君は………。」
フラン 「………虹星の馬鹿さ加減は今に始まった事ではないけれどね。」
虹星 「なんだフラン!前からも僕の事馬鹿って思ってたのか!?」
フラン 「え?そりゃそうでしょう。」
虹星 「うがー!何だとー!?」
皆、クスクスと笑っていた…そう、これで良いのだ。
パチュリー 「あぁもう悩む事なんか辞め辞め!元に戻せないなら新しく創るだけだわ!とっておきの高性能な義手やら義眼やら創ってあげるから首を洗って待っておきなさい虹星!」
パチュリーさんはそう言うなり、そそくさと部屋から出ていってしまった。
小悪魔 「パチュリー様ったら、錬金術苦手なのにあんな発言を…あ、あまり期待してあげないでくれると有難いです虹星さん!それでは!」
美鈴 「………私も門番の仕事に戻らなきゃ。何かして欲しい事があったら何でも言ってね虹星君。」
咲夜 「呼んだらすぐ来れるから。決して無理はしないようにね、坊ちゃん。」
小悪魔さんと美鈴さんは扉から、咲夜さんはいつも通りで…皆部屋から出て行った。
フラン 「………虹星、これあげる。」
虹星 「……これって、フランの羽の結晶…?」
フラン 「それ、砕いてくれれば私も砕かれたって感知できるから…しょっちゅう部屋には来るけれど、緊急時にはそれを何とか砕いてね。」
虹星 「………痛くないの?」
フラン 「うーん…あんまり?まぁ、すぐ生えてくるから気軽に割っていいよ。会いたいからーっていう理由でも全然おっけー!」
虹星 「う、うーん………まぁ、大事に取っておくよ。」
フラン 「ふふ。それじゃ、またね虹星!ゆっくり休みなさいよー!」
フランも部屋から出て行き、とうとう一人になった。
虹星 「……………」
右腕の裾を握りしめる。
空っぽになってしまった右の腕。
虹星 「これが重いのは………よく分かってる。」
あの人と………師匠と誓った事。
折角、勝ち取った、貰った筈だった片腕は
自分の弱さのせいで一瞬で失くしてしまった。
それだけではない…片目と片耳も無くした。
強くなり続ける事………
それが、今の自分に出来るのか?
虹星 「ごめんなさい…師匠………僕は…。」
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
泣き虫もいい加減に直さないとなぁ………。
虹星 「(………いや、違う。師匠はこう言う筈だ。例え腕やら目やら耳やら失おうが………強くなる事を諦める理由にはならない。それに………パチュリーさんが代わりを用意してくれるって言ってくれた。………僕も、諦めちゃいけない。この姿でも…強くなる!)」
そう決意を固めた時………。
部屋の入り口からきぃ…と、扉が開く音が鳴った。
と言うか、元々開いていた扉がより開いたという形だった。
レミリア 「………っ…!ち、違うの!決して盗み聞きしたかったって訳じゃなくて…!ご、ごめんなさいっ!」
虹星 「レミリアさっ………行っちゃった…。」
………直ぐ何処かに行ってしまったけど…いつから居たんだろう?……袖を掴んで泣いている所、見られてると嫌だなぁ…。
子供の頃に大事だったカードをバインダーごと無くしてギャン泣きする事、あるあるだと個人的には思います。