放っておいたら自滅しそう
彼が目を覚ました…そう咲夜から伝えられて胸を撫で下ろした。
彼に礼を言いに行かねば。
それは紅魔館の主人として、フランの姉として当然の事。
………けれど、中々面と向かって話す決心がつかず、結局皆より遅れて彼の部屋に向かった。
初めに何を言うべきだろう。
礼?謝罪?それとも無事を祝う?
そんな事を考えながらもドアノブに手をかけて………
扉を開けようとして、辞めた。
私は、どの面下げて、彼に会おうとしているんだ?
「………はぁ…はぁ……。」
何やってるんだろう私。
いきなり逃げ出すなんて…まるで本当にわざと盗み聞きしてたみたいじゃない。
……………袖を掴んで泣いていた。
もう元には戻らない事をパチェから伝えられたのね…
………私の…せい…。
………私は、あの子に何が出来るのだろう。
あの子を散々傷つけた、痛めつけた、苦しめた。
更には、片腕と片目と片耳まで………。
……………何をすれば、私は許されるんだろうか?
「………お姉様ー?どうしたの?廊下に突っ立って。」
「…………!フ、フラン…。何でもないわ。それより、何時からそこに?」
「丁度今通りかかった所だよ?今から虹星の部屋に行くの。一度虹星の部屋から出てまだ十分も経ってないけどね!………そうだお姉様、此処にいるって事はもう虹星とお話ししたの?」
「…………え、えぇ!紅魔館の主人として礼を伝えて今、彼の部屋から出てきた所…よ!」
………何故?何故私は今、咄嗟に嘘をついた?
………そうだ、盗み聞きをしていたと思われているかもしれないのだから、気不味くて彼の部屋にはあまり行きたくないからだ。………それが理由だ。
「……………ふぅん。ま、でもお姉様ももう一回虹星の部屋に行こうよ!今度は私と二人でさ!」
「えっ、わ、私はもういいわよ!それに何度も行ったら彼に失礼でしょう?彼だって今は一人で休んでいたい筈よ?」
「んー………でも、虹星の状態確認はしなきゃでしょう?虹星はあまり頭が良くないからぁ、もしかしたらまた傷が開いちゃってるかもだし。一緒に行きましょ!」
フランに手を掴まれ、私は再び彼の部屋へと向かう事になってしまった。
とは言え、此処で部屋に行くのを拒めば何か怪しまれる可能性も捨てきれない。
ならば、せめて何事もなかったかのように接しよう。
そう思いながら、医務室の扉を開けた。
「あぁお二人とも…もういらっしゃったのですね。」
その時、改めて彼の姿を確認した。
顔に貼られた幾つもの真っ赤な絆創膏やガーゼ、更には顔の左側が大きく裂けており、痛々しい傷跡が覗いていた。
そして……左眼を覆うように包帯が巻かれていた。片耳もなかった。
病衣の様なガウンの袖や裾から出た手や足は血で滲んだ包帯が巻かれており全身に巻いているのだろうと理解できた。
そして………右腕がある筈の場所には空っぽの裾だけが取り残されていた。
目も当てられないような状態だった。
にも関わらず、彼は私たちに微笑んでいた。
あぁ駄目だ…何故か彼の顔を見ると泣いてしまいそうになる。
辛いのも痛いのも苦しいのも貴方の筈なのに…
何で、貴方は笑っていられるの?
「十分しか経ってないけど様子を見に来たよー!身体の調子はどう?」
「全身まだまだもの凄い痛いけど…まぁ大丈夫!」
「うんうん!………そうだ、虹星…お姉様に何てお礼言われたの?」
「………お礼?」
「そう!さっきお姉様に言われたのでしょう?プライド高めのお姉様が何てお礼を伝えたのか少し気になるのよ。」
まずい、まずいまずいまずいまずいまずい…!
このままでは嘘だとバレる。
何故、嘘をついたのかと咎められた場合…
彼の辿り着く結論は……私の盗み聞き疑惑に確証を得るか或いは………礼を述べたくなく、礼をしたと嘘をついた最低な奴であると認識されるかの二者択一だ。
どうにかして誤魔化さないと───
「………普通だったよ?紅魔館の主人としてフランの姉として礼を述べます、感謝致しますーって。」
「………え?」
「………うーん、お姉様にしては普通すぎる気がするけれど…ま、そんなもんよね!」
その言葉を聞いて、すぐに彼の顔を見つめた。
彼は首を傾げ少し困ったような、そんな笑顔を此方に向けた。
「けれど…お姉様が虹星にお礼を言うなんて正直びっくりよ。お姉様なら、良くやったーとか、そんな上から目線で言うと思ってたから!」
「フーラーン………実際、レミリアさんの立場は僕なんかよりずっと上だよ?」
「そ、そうね!光栄に思いなさいよ!私に礼を述べられるなんて滅多に無い事なのだから!」
………?何…を言っているの?
「そうですね…身に余る光栄です。」
「そ、そうだわ!貴方の怪我が完治するまでここに置いて貰える事をわ、私に感謝しなさいよ!」
何を…馬鹿な事言っているの………私は…?
「はい、有難うございます!パチュリーさんが義手や義眼も用意してくださるそうで…本当に感謝してもしきれないです!」
「と、というか…あんたが弱いから腕や目を無くしたのよ!パチェにも迷惑かけてー…これだから人間は弱っちくて嫌なのよねー!はー本当やだやだ!」
違う…!こんな事言いたくないのに…何で……。
「………そうですね、僕が弱いばかりに…。」
彼が目を伏せ、申し訳なさそうに俯いた。
嫌………貴方も…貴方も何か言い返してよっ!!!
「………お姉様、大丈夫?顔が真っ青だし…汗もすごいよ?」
「え…あ、ああ、そう…ね…。あ、あまり…気が優れないから………一旦、自分の部屋に戻る事にするわ…貴女も………もう戻りなさいよフラン…彼の迷惑に、なるかも…だから。」
碌に回らない頭で何とか言葉を繋げ、フランにそう伝えた私は…直ぐに部屋を出て自分の部屋へと向かった。
そうして部屋に向かう途中で…とうとう我慢出来ずに泣き出してしまった。
「………ぅぅ…。ふぇ…。」
最低だ。
彼の善意を利用しただけじゃない、思ってもいない事を伝えて、彼をまた傷つけてしまった。
「……ぐすっ…。なんで…ひぅ……謝れないの…!うぇ………なんで…素直になれないの…!」
もう駄目だ。
私は彼に謝れない。
だったら…別の何かで誠意を示すしか無い。
……そう、彼が満足するような何かで。
虹星 「……レミリアさん、無理してたのかな…。大丈夫かな?」
そう言いながらフランを見つめると…
フラン 「………ねぇ、虹星。………もしかしたら、お姉様が…虹星に対して変な事言っちゃうかもしれないわ。」
虹星 「………変な事?」
フラン 「うーん………詳しくは想像できないけれど、多分言われたら…うん?ってなる様な事を言うかも。」
虹星 「………あのレミリアさんが?僕に対して?」
フラン 「うん。…だから、虹星は………そういう事言われたら、優しく窘めてあげて?虹星はお姉様の事あまり好きじゃないかもだから酷だと思うけれど…。」
虹星 「………ううん、そんな事ないよ。レミリアさんのおかげで僕も一命を取り留めたしさ。」
フラン 「ありがと………それと、さっき…お姉様が言っていた事………きっと、お姉様はあんな事思ってないよ。ただ…虹星に素直になれないから、無理矢理言葉を出した結果ああなったってだけでさ。………だから、お願いね虹星。」
虹星 「………うん!任せておいて!」
フラン 「………それじゃ、私は部屋に戻るから………きっと杞憂だと思うけれど、もし…お姉様が虹星に………悪い事をしちゃう様だったら、直ぐに結晶を砕いてね、宜しくね…。」
虹星 「(……きっと、何もないと思うけどなぁ…。)」
こういう時は手を差し伸べて上げないとね!