漸く序章が終わります。
次の日………。
妖忌 「………何じゃその体たらくは。」
額、腕、足と至る所に包帯や絆創膏を身につけた虹星を見て、妖忌は顔を歪めた。
虹星 「え、え〜っと…魔法の森で妖怪と交戦して…で、でも追っ払ったんです!勝ちました!」
妖忌 「下級妖怪相手に満身創痍………状況を理解しているか?小童に残された猶予はもう二ヶ月を切っておる。苦戦などしている余裕はないぞ。」
虹星 「う…。だ、だったら鍛錬の量を少し増やします!今のにも少しは慣れてきたのでそれでお願いします!」
妖忌 「………仕方ないのう。じゃが、量を増やす前に………小童、この石を持ってみい。」
虹星 「はい…?何ですかこの鉛みたいな………うぅっ!???」
石を持った途端、虹星は自身が動けない程に身体が重くなったのを感じた。
虹星 「な、何すか………こ、これ……。身体…くっそ重いんですけど………。」
妖忌 「それは世にも珍しい重力玉。持つだけで重力を最大百倍まで変化できる代物じゃ。」
虹星 「なんて物持たせてんですか!?」
妖忌 「童の重力は五倍に設定しておる。霊力で血液循環させんとすぐ失神するから気をつけるんじゃぞ。」
虹星 「(ヤベェ事言ってるのにニッコニコ笑顔なの本当に駄目だこの人………。)」
妖忌 「因むと就寝時も重力五倍じゃ。」
虹星 「殺す気です!?それもう死ねって言ってますよね間接的な殺人になりますよね!?」
妖忌 「さて、鍛錬を始めるぞ。」
虹星 「…………ごめんなさい妖忌さん今日用事があったの忘れてましたさよならっ!!!」
虹星は重力が五倍のままにも関わらず力を振り絞り走って逃げ出した。鍛錬するよりマシだからである。
当然逃げられる訳もなく捕まった挙句、無理やり鍛錬が始められた。
最初は動くことさえ辛かった。
三日もすれば慣れて来ていた事に我ながらビビった。
二週間が経過した。
今度は鍛錬の量やら重りやらをまとめて三倍にするとの事。
本当に馬鹿としか思えなかった。
重量石が自身にのみ反映で本当に良かったと虹星は心の底から思う。
二つ合わせて千五百kgとか身体が地面に埋まるわ。
これも一週間で慣れてしまった、自分が怖くなった。
途中、難癖つけて何度も逃げ出そうとしたがその度に毎回毎回待ち伏せされ連れ戻され…逃げるのは不可能と理解した。
なので身体の不調を訴えようとしたが…鍛錬を始めてから身体の調子が著しく良くなっている。何故かは知らないが…結果逃れられないのだった。
気がついたらまた二週間が経過。
あっという間に残り一ヶ月となった。
虹星 「よ、四百四十九…四百五十…。」
虹星はいつも通りの指一本腕立てをやらされていた。
妖忌 「……………ほい後五百五十ー。」
虹星 「ぐっ…ぐぐ………だぁーっ!!こんなんずっとやってられるかぁーっ!!!」
妖忌 「あ!?何じゃ儂のやり方に文句があるのか!?」
虹星 「基礎練ばっかでいつ剣技教えてくれんですかあぁ!?」
妖忌 「基礎のなっとらん奴に教える剣技なんぞあるか!」
虹星 「んだとこんのやろぉ!!!」
虹星は横に置いていた刀を手に取り、妖忌に斬りかかった。
虹星 「おぉぉぉっ!!!」
妖忌 「………!(基礎だけ故、粗はあるが…成程。)」
妖忌は虹星の斬撃を全て軽やかに交わし…虹星に拳骨を喰らわした。
虹星 「いでっ!?〜〜〜〜っ!!!!?」
虹星は余程痛かったのか、頭を抱えて涙目になっていた。
妖忌 「師に向かって刀を振うからこうなるのだ。………まぁ、それはさておき。
小童………どうやら儂が教えられる事は全て教え尽くしたようじゃ。」
虹星 「いってて………ってええ!?剣技一つも教えてもらってないじゃないですか!?」
妖忌 「ん?あぁ、良い良い剣技なんぞ必要ないわ。童には基礎を入れ込んだ。剣技なんてものは自ら作り出せば良い。」
虹星 「えぇぇ…。それの為に頑張ってたのに〜!」
妖忌 「兎に角!儂が教えられる事は終わり!………と、言う訳で……最後の実践を始めるぞ。」
虹星 「さ、最後の実践?」
妖忌 「まぁ…一言で言うならば……儂は刀を二本持っているじゃろう?それを両方とも抜かせてみろ。どんな手段を用いても良いぞ。」
虹星 「不意打ち、闇討ち、騙し討ち…?」
妖忌 「日中ならいつでも何でもありじゃ。」
妖忌は大太刀を鞘から抜き、虹星の前で構えた。
妖忌 「儂は反撃しないでおいてやろう。…さぁ、お手並み拝見といこうかの。」
虹星 「手加減するのも悪いんで…本気で行きますっ!!!」
まぁ………当然の如く歯が立たなかった。
まず初めに動きに無駄がない。
全ての所作において適切に重心を変えて動いてくる。
次にめっちゃ力強い。
自分もあれだけ鍛えたのにも関わらず、刀の押し合いになったら一瞬で力負けする。
どこにそんな力あるんだよ。
極め付けにめっちゃ速い。
分身でもしてるんかってぐらい沢山いる様に見えるくらいには目に追えていない。
気がついたら背後に回られて首に刀が添えられていた事も珍しくなかった。
虹星は三週間経っても妖忌の息一つ乱すことすら出来なかった。
正直な話…不意打ちなんかはしたく無く、真正面から打ち勝ちたい虹星は必死に頭を巡らせた。…何か、今まで教わってきた中で何か使えるものはないか…と。
ふと思いつく。一つだけあった…彼から学んだ剣技が
虹星 「……………今日こそ二本とも抜かせて見せます。」
妖忌 「…策を練ってきたか…?面白い。言葉は不要じゃ…掛かってこいっ!!!」
第一に…何が何でも素早く勝負を決めにかかる。これが何より重要だ。
虹星は妖忌との距離を詰め、一気に斬りかかる。
妖忌 「どうした!いつもと大して変わらんぞ!」
虹星 「くっ………!
当然、全て躱されるか往なされる。
妖忌 「今日は何か違うと感じたのじゃが…残念じゃがこれで終わりじゃっ!!」
素早く、力強く刀を振り下ろしてくる。
…この時を待っていた。
妖忌 「………!ほう…。」
虹星 「ぐっ……ぐぐっ………!」
刀で受け止めれば間違いなく力負けして、押し倒される。かといってその速度から避けるのも不可能。
出来る事は…受け流す事のみ!
虹星は刀の鎬で妖忌の刀を受け流そうとする。
しかし…
虹星 「(だ、駄目だ…!力が強すぎて受け流しても体勢が崩される…!これじゃ、次の動きが………!?)」
虹星は驚く………刀を受け流した刹那、妖忌の動きが一瞬固まったからだ。
虹星 「(この機を逃したら、もう好機は回ってこない!)」
虹星は腰を捻りつつ妖忌の懐に入り、地面についた刀を踏み、刀に全体重を乗せた。
妖忌 「………!その動きは───。」
虹星 「この一撃に全てを賭けるっ!!!届けっ!!!」
妖忌が刀を持ち上げようと隙ができる一瞬に全てを賭けて、虹星は刀を横薙ぎに振るった。
妖忌 「…………くくっ。」
虹星の刀は妖忌に受け止められていた………
妖忌が左手に持つ短刀で。
それを見た瞬間、虹星は気が抜けて地面に座り込んだ。
虹星 「…………や、やった?や、やりましたよね!?ぼ、僕………二本とも抜かせましたよね!?」
妖忌 「………うむ、見事。合格じゃ…。よく頑張ったな…虹星。」
初めて名前で呼ばれた、認めてもらえた。
頭を撫でられたのも相まって
虹星は感極まってほろほろと涙を流した。
虹星 「………はい゛っ!!」
虹星 「……………ん。」
妖忌 「おぉ、目覚めたか。あの後、精魂尽きたのかいきなり倒れ込むように眠ってしまったからのう。もう少しで神社に着くぞ。」
気がつくと、虹星は妖忌におぶられ帰路に着いていた。
虹星 「……… 妖忌さんさ…最後ちょっと手加減したでしょ。」
妖忌 「………ふむ、何の事かさっぱりじゃな。儂は真剣じゃったぞ。」
虹星 「………むぅ。 ………ねぇ、僕…この刀に相応しい剣士になれたかな…?」
妖忌 「………まだまだ半人前じゃが…。何れ…何れ必ず相応しい者になれる。儂はそう思うよ。」
虹星 「………へへへ。」
そんな話をしていると、博麗神社へと辿り着いた。
虹星 「………もう旅に出るんですか?」
妖忌 「まぁのう。儂とてまだまだ旅の途中、剣の道は決して尽きぬからのう。もう、虹星に会うことも…きっと無いじゃろうな。」
虹星 「…そうですか。」
妖忌 「………そう落ち込むな虹星。………最後に一つお主に話しておくべきことがある。」
虹星 「………!何…でしょうか?」
妖忌 「儂は虹星に剣の道を教えた。………だが、虹星にはまた別の才能があるかも知れぬ。自身が剣の道よりもその優れた才能を活かしたいと思うのならば…道を変える事も良いことじゃろう。
だが…これだけは心に誓え。例えどんな事があろうと…一度決めた信念は貫き…そしてどんな事があろうと…諦めずに立ち向かうことじゃ。」
虹星 「………!はいっ!」
妖忌 「…良い返事じゃ。それでは…これは餞別じゃ。」
妖忌が何かを投げ渡してきたのを虹星が手に掴む。
手に掴んだものを見てみると…綺麗な翡翠色の勾玉だった。
虹星 「………これは…?」
妖忌 「それは儂の長い旅路の中で見つけたもの。儂には使い道はさっぱりじゃったが…きっと虹星になら使えるであろう。…………では、儂は行くとするよ。
……………またな、虹星。」
虹星 「……………有難うございました!
妖忌師匠ー!!!」
妖忌は振り返らず…背を向けながら手を振った。
虹星 「………さようなら…また、いつか…!」
おーい!!!
虹星が空を見上げる…そこには霊夢と魔理沙が此方に向かって来ているのが見えた。
魔理沙 「じいさんとの修行はこれで完全に終わりなのか?………よく頑張ったな虹星!」
虹星 「うん! ありがと魔理沙!」
霊夢 「あら、その勾玉………とても綺麗ね。」
虹星 「でしょ〜! 師匠からの餞別!」
虹星はこれから先も強くなり続ける事………
自身の信念を貫き、何事も諦めない事を
師の背中に誓うのだった。
??? 「お、お帰りなさいお師匠様!」
妖忌 「うむ、久しぶりじゃ…わが孫よ。」
??? 「此処に戻って来られたという事は…当分滞在して行かれるんですよね!?」
妖忌 「………いや…あのお方に挨拶をしたら、儂はまた直ぐに旅に出るよ。」
??? 「そう…ですか…。」
妖忌 「(本当は一、二ヶ月くらい滞在する予定じゃったが………。)………我が孫よ。恐らく…そう遠くない将来、其方に良き好敵手が現れるであろう。」
??? 「………好敵手…ですか?一体どんなお方なのでしょうか?」
妖忌 「…そうじゃなぁ。端的に言えば…才能なし、ヘタレ、泣き虫。じゃが…確かな覚悟と信念を貫き決して諦めない、儂の弟子…と、言ったところじゃろうな。」
序章 完
重力玉は返したとさ
孫が出てくるまで主人公君生きてられるかな