無双オロチと魔法先生ネギま!のクロスオーバー。
 力尽きて書けなくなったやつ。

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第1話

 その日ネギたちはエヴァンジェリンの作った空間の中にある城で、ちょっとしたパーティーをしていた。和気藹々と話ながら食事をしていると、ゴロゴロと雷鳴が聞こえてきて皆は空を見上げる。

 空には赤黒い雲が集まり、とてつもなく気味の悪い情景を作り出していた。

 

 

 

 

 鋭いヒカリとともに空間が割け、再び別の空間と繋がる。

 

 

 

 

 意識を手放す瞬間、生徒たちの悲鳴と吹き荒れる風の音と重圧感のある男の声が聞こえていた。

 

 

 

 

我ニ挑メ──

 

[newpage]

 背中に感じる草の感触と、土の匂い。ゆっくりと目を開けると、木が見えてくる。どうして外にいるんだろう?ネギは体を起こして背伸びをする。

「たしか……僕、皆さんと食事を……──っ!」

ハッとして辺りを見回しても生徒たちは見当たらない。背筋がゾクリとした。しかし手元を見ると彼の武器、杖がある。あの魔法世界での事件に比べたら、いまの状況はまだ良いのかもしれない。あの時とは違い、父の形見である杖はネギの手元にある。その杖はいわゆる魔法の杖というものなのだが、そのまま武器として使うよりも最近彼は飛行用として使うことが多かった。つまり、移動には困らないということである。

 彼は空から様子を伺うことにし、杖を跨いで一気に上昇した。

 

──ゴクリ

 ネギは息をのんだ。目下に広がるのは田畑、小屋のような家屋、立派な邸、それから遠くにはお城が見えた。それから反対の方角には広大な大地が広がっており、中国風の街と城が見えた。

 眼前に広がる光景は、彼の知る日本ではなかったのだ。

「あれは……煙?」

火事かもしれない。そう思ったネギは様子を見ようと、その方角へと向かった。

 

 そこで目にしたのは、青い皮膚をした二足歩行をする怪物の集団と、いくらかの住民を背に庇い戦う一人の青年の姿だった。

「我が正義の槍は……このような所で折れるわけにはいかんのだ!!」

青年はただ独り、勇ましく敵に立ち向かっていた。だが多勢に無勢、形勢は青年の方が不利である。

 すぐに助けに行きたいところであるが、突然空から助太刀というのは怪しまれるかもしれない。ネギは遠からず近からず、まず適度な距離をとって離陸した。それから呪文を唱え、身体能力を上げる。

「僕も戦いますっ!」

「ご助力感謝する!!」

そう返答した青年は、チラリと横をみて驚愕した。

元服もまだのような小さな子ども。その声は幾らか高く、どうやら声変わりもまだらしい。

「ぬぁっっ?!……まだ子どもではないかぁっ!!」

そう言いながら、槍で敵を薙ぎ払う。対してネギはその青年の声の大きさに驚きつつ返答した。

「だ、大丈夫です!ちゃんと戦えますよ、僕」

麻帆良学園での武闘会の際に身につけた槍術が役に立っていた。ネギは杖を使い、青年に負けず劣らずの力をみせる。

「ど、どうやらそのようだな!」

二人の協力により、その後住民たちを安全な所まで避難させることができた。

 

 逃げ遅れた住民を避難させた場所は、その街からそう遠くない小さな寺だった。そもそも何故襲われていたのだろうか。それはネギが疑問に 思っていた事の一つで、恐る恐る尋ねてみると直ぐに返事が返ってきた。

「理由などない!ただ民の逃げ惑う様子をみて面白がっているだけとしか思えん!!遠呂智軍、許すまじっっ!!」

ネギは彼のあまりの剣幕にびくびくしていた。心なしか瞳もうるうるしている。

(あう~……。なんだかこのお兄さん恐いよー……)

そんな様子に気づいた青年は、慌ててネギに頭を垂れた。

「すまん!この声だけはどうにもならんのだ。驚かせてしまったようだな!……ん?おまえ、親が心配しているんじゃないか?はぐれたんなら俺が探すのを手伝ってやろう!俺は馬超、字は孟起。おまえの名は?」

寺は避難してきた住民でごった返していた。この中から特定の人を探すのは難しいと判断したのである。一方ネギはというと、青年の名前に困惑していた。

(バチョウ・モーキ……?変わった名前だなぁ……)

「僕はネギ・スプリングフィールドといいます。えっと……、両親はいません」

 

 両親のいないことをあっけらかんと言うネギ。馬超は感極まって抱きしめた。

「せんなきことを聞いてしまったな……。一人で辛かったろうな……」

「そんなっ……大丈夫です。お姉ちゃんがいましたし」

「そうか!ならば姉君を探せば良いんだな!!」

「ちょ、ちょっとまってくださいっ!」

「なんだ、どうした?」

「それが……」

ネギは話した。ここが知らない世界であること、それから探し出さねばならない仲間がいることを。

「そうか……。このふざけた世界を創ったのは魔王遠呂智。やつを倒せば恐らく世界は元に戻るはずだ。今各地で遠呂智軍と反乱軍との抗争が起こっている。実は俺も仲間とはぐれた身。近々どこかの反乱軍と合流しようと考えていたのだが、ネギも一緒にくるか?」

馬超の提案はネギにとって有難いものだった。勝手のわからないこの世界で、たった一人で仲間を探すのは困難だろう。

「バチョウさん。僕、できるだけ迷惑はかけないようにします。その……、よろしくお願いします!」

それは幼い少年のものとは思えない程、凛としていた。

「共に遠呂智を討とう!!」

相変わらず馬超の声は大きい。ネギは差し出された手に手を添え、握手を交わした。

「はいっ!」

 

 その日は馬超の提案で、住民を避難させた寺で一夜寝泊まりすることになった。寝具という寝具はなく、皆雑魚寝である。

(眠れない……)

急激に変化した環境は、ネギが寝入ることを許さなかった。

 

 寺の外。相変わらずこの世界の空は不気味だった。月は紅くひかり、それが緑を照らしているのである。

「みんな、無事だと良いんですが……」

ネギはウエストポーチの中に入れていた仮契約カードを取り出した。カードを通じて念話を試みるも、返ってくる声はない。念話が阻害されているのか、もしくは念話ができないほど遠くにいるのか、念話ができないほど切迫した状況にいるのか……。考えれば考える程深みに落ちる。相手と連絡が取れない以上、闇雲に捜索しても出会える確率は極めて低い。つまり、彼に残された行動の選択肢は皆を信じて頑張るしかないのだ。

(皆さんも反乱軍の一員としてどこかの軍と一緒にいてくれれば……、僕らはまた出会えるはずです)

それは彼の心許ない希望だった。

 

 寺に戻ると、隣に寝ていた馬超が身を起こしていた。彼と目が合う。

「バチョウさん……。起こしちゃってすみません」

ネギは頭を掻いてへらりと苦笑してみせた。

 

 その幼い少年は、とても大人びた表情をしていた。年齢に似つかわしくない言動も見てとれる。

 

「えっと……、バチョウさん、もしかして……僕の格好変ですか?」

早朝、寺を出る際ネギは馬超の視線が気になった。彼の衣服はエヴァンジェリンの別荘で食事をしていた時のままで、馬超にとってその服がおかしいのかもしれないと判断したのだ。だが幸いに彼の衣類は中華風で、計らずしもこの世界に適応していないこともない。

「そんなことはない!むしろその色は良いと思うぞ」

馬超はネギの袖をチョンとつついた。

「緑が好きなんですか?」

「いや、緑は蜀の色なのだ。好きな色かというと、まぁそうだな」

「緑は……食の色?」

意味が違う。

「そういえば何も知らんのか!」

馬超はそう言って笑うと、自分の元の世界の状況を簡単に説明した。

 

「なるほど。国のイメージカラーなんですね」

ぽんっと手を叩いて納得した様子のネギだが、馬超は横文字が理解できずにいた。

 

 結局、あの視線は何だったのか聞き損なったネギ。そんなことも忘れ、今は馬超と馬に相乗りしている。反乱軍と合流するための二人の小さな旅が今ここから始まる。

 

[newpage]

 

 仲間の安否など考えもしなかった。いや、できなかったのだ。

 目が覚めると四方に柵があった。すると、柵の向こう側にいた多数の見張り役らしい体表の青い生物(人間だとは思いたくない)がその場を離れたのである。

 気がつけばその忌々しい柵をぶち壊し、ただ無我夢中で屋敷の中を駆け抜けていた。

 

 橙の長い髪を二つに結ったツインテールの少女は、ハリセンを片手に全速力で走っていた。後ろに青い皮膚の生物を引き連れて……。

「いったい何なのよココはぁ~っ!!」

彼女の名は神楽坂明日菜。只今錯乱中。

 行き先に立ちはだかる敵はアーティファクトの武器、ハリセンでどうにか対応できた。どうやら叩くだけで気絶するようである。

「あっちに囚人が逃げるぞー!追え追えー!」

男の声がするとともに、青い皮膚の生物の集団に武装した人間が加わった。

「ちょっ……やだ、どんだけ人いんのよ!」

明日菜は半泣きになる。どうして捕まっていたのか、追いかけられるのか理由もわからずに彼女は建物の出口を見つけるべく奔走していた。

 

 その騒ぎに乗じ、三人の人物が城に侵入していた

「よくわからないのだけど、騒ぎのお陰ね」

黒髪の若い女性が隣を走る初老の男性にそう言った。

「まったくだ。……我らに運が向いとるということだな」

「お二方、急がれよ。若き龍を一刻も早く解き放たねばならん」

そう言ったのは白髪の老人。奇妙な呪いが顔に施されている。

 彼の言葉に二人は気を引き締め、走る速度を上げた。

 

 三人は"若き龍"を救出し、城からの脱出を試みたのだが彼らの存在はすぐに敵に知れてしまった。侵入路の門を固く閉ざされており、大将は城の兵を総動員して彼らの脱出を阻もうとしている。

 その劣勢の最中、白髪の老人が名乗りをあげた。

「私が囮となろう。……若き龍よ大徳を探すのだ」

彼は仙人とも称される術者、名を左慈という。仙人と言われるほどに人並外れた術を扱うため、その力は信頼できる。

 三人は左慈の好意に甘え、脱出拠点を目指して走り出した。

 

 彼らは途中、獄を抜け出したらしい女性と出くわした。

「島津!貴様がなぜここに!」

女性は、あの初老の男性に声を荒げた。それを皮切りに二人は何やら言い合いになったが、もう一人の女性の一言でなんとか収まった。彼女は、とりあえず目の前の敵を倒して脱出することが先決であると提言したのだ。

「その通りだ星彩。私たちは劉備殿のためにも一刻も早く、ここから脱出せねばならない。先を急ごう」

星彩の発言を力強く肯定したのは、左慈が"若き龍"と称す青年。四人は行く手を阻む敵を倒し、脱出拠点を目指して走り出す。

 

 足にはもう感覚がない。どれくらいの距離を走ったのかさえ、彼女には分からなかった。足には自信があっただけにその打撃は大きい。

 もう駄目だと諦めかけたその時、明日菜の目に飛び込んできたのは外の情景。やっと建物から出ることができる。この事実が彼女の意思を支えた。

「こんな所で捕まってたまるもんですかぁあっ!!」

そう奮起すると、彼女の気が足に集中し移動速度が一気に上昇する。明日菜はもう無我夢中だった。

 スパン、スパンと敵を叩きながら外に出て、一番に目についた門まで走る。だがその門は開かない。

「うそ?!なんで閉まってるのよーっ!!」

ドンッ

二つの拳を門に叩きつけた。体力、気力はとうに限界が来ており、背後に迫る無数の敵にはもう抗えない。悔しさに唇を咬んだ。敵は明日菜の使う謎の武器に怯えながらもジリジリと距離を詰めてくる。

 もう後がない。その状況が彼女の力を解き放った。

「だからっ……こんなワケわんない所で死ぬなんてイヤなのよ!!」

そう叫びながら光る剣で門を切りつける。それは凄まじい威力で、門は大きな音をたてて呆気もなく崩れ落ちた。剣に変化していたのはほんの一瞬で、彼女の手には元のハリセンがあった。

 

 明日菜自身も目の前の光景に呆然としていた。だがすぐにそんな暇はないのだと我に返る。

 壊れた門の向こう側に敵の姿は見えない。敵を倒すための動きをしなくて良いのであれば、まだなんとか走ることができる。彼女は走り出した。

 敵もすぐに彼女の後を追いかけ始める。

 

 

「はぁはぁはぁ……」

呼吸が乱れ、額に汗が滲む。明日菜は走り続けた。

 坂を登りきったところで、いくつかの人陰が見えてきた。

(人……?まさか敵じゃないでしょうね……)

その可能性は極めて高い。明日菜は苦笑する。

(さすがに、もう限界……)

数人の人陰との距離が少し縮まったところでもう一度よく見てみると、彼らは自分を追いかけていた兵士と同じような格好をした者と戦っていることがわかった。やつらと戦っているということは、自分の味方に成りうるだろう。明日菜は腹の底から叫んだ。

「お願いだから、……助けて!!」

やっと声が届く程の所にいた青年が、彼女の悲痛な声を聞いた。敵を倒したらしい彼と目が合う。

 

 

 

 視界がブラックアウトした。

 

 妙な格好をした少女の背後には、数多の兵の姿が伺える。それを確認したと同時に、少女はガクリと膝から崩れ落ちた。青年は目を見開く。数人の兵が槍の刃を彼女の首に突きつけようとしているのだ。気がつけ足が動いていた。走っていた。

「はぁあっ!」

青年の槍が大きくしなり、少女を傷つけようとしていた兵士たちが凪ぎ払われる。他の兵士たちは彼の武に恐れをなし、尻尾を巻いて城の方へと逃げ出した。

「趙雲殿、先を急がなければ。追手が来るのは必須」

星彩は青年を逃げるよう促す。

「だが星彩、この娘を放っておくことはできない。私たちと同じく追われる身のようだ……」

「なにも捨て置けなどと言っているわけではないわ。その娘を連れていくなら連れていくで私は構わない」

彼女は淡々と言い放つ。理性的な女性だが、情にはあつい。

「この娘の責任は私が負う。そうだな、先を急がねば!」

明日菜を保護することに反対する者はいなかった。彼女を抱えようと屈んだ趙雲は、彼女の側に何か落ちていることに気がついた。

「これは……」

ちょうど、手のひら程度の大きさの長方形の薄い板のような物。その材質は分からない。ただそれには、目の前に倒れている娘の精巧な絵が描かれている。絵の中の彼女は、身の丈程もあるような大刀を手にしていた。

 

 真夜中、目が覚めた。隣には知らない女の人が寝ていている。あたりを見回してわかったことは、どうやらテントようなものの中にいるということ。

(野宿かー……)

思い返すのは魔法世界をさ迷ったあの時のこと。テントなどあるわけもなく、藁の上で一夜を過ごしたこともあった。今の状況はそう悪くないのかもしれないと思い直す。

(そうだ、パクティオーカードでネギと連絡とれるかも!)

なぜもっと早く思いつかなかったのかと、明日菜は苦笑した。

 

「え……あ……」

言葉を失った。力尽きて気を失ったあと、パクティオーカードをどうしたのか当たり前だが記憶にない。ポケットを探ろうにも衣服は取り換えられており、辺りをみまわしても彼女の着ていた制服は見当たらなかった。

(ちょ、ちょっと待って。あれって再発行とかできるんだっけ?……って、そんな事聞いたことないし!)

今思えばあのカードには便利な機能が沢山ついていた。契約者と通信できたり武器に変わるのはもちろん、好きな服装をいくつか登録することもできる。明日菜は何着かの衣服を登録しており、なくしさえしなければ今の一文無しの状態でも着るものには困らないはずだった。

(どうしよ……)明日菜は隣に眠る女性をチラリと見た。考えても埒があかないため、とりあえずもう一寝入りすることに決めた。

 

 体を触られる感覚に驚き目を覚ました。

「目覚めたか……」

目を開くとそこには、精悍な青年の顔があった。

(イケメンだわ……じゃないっ!)

一瞬惚けていた明日菜は我に返り、趙雲に向けて人差し指を突き出した。

「ああああんた誰よ!」

彼女の失礼な態度に気を悪くすることもなく、趙雲は微笑する。

「私は趙雲、字を子龍という。驚かせてすまないな。これから移動するため貴女を連れていこうとしたのだが……」

「もしかして、趙雲さんが助けてくれたの……?」

「ええ」

「ありがとう!」

趙雲は明日菜の純粋な感謝の言葉と笑顔に面食らった。

「……貴女にはいくつか質問があるのだが、私たちは先を急ぐ。移動しながら話を聞きたい。あぁ、歩くのが辛ければ馬を貸そう」

「ううん大丈夫。歩けます」

 

 

趙雲の後を追う。明日菜は改めて彼の姿を見た。彼の身に付けているものはどうやら鎧のようで、その手にうかがえるのは大きな槍。合流した彼の仲間らしい人たちも武装していた。

(……この世界はよっぽど治安が悪いのね)

何も知らない明日菜はそんな事を考えていた。

 

 趙雲の言ったとおり、明日菜は歩きながら質問を受けることになった。

 無表情だけど綺麗なお姉さんが星彩で、男勝りで強気な姉御が立花ギン千代。それから大きなオジサンが島津義弘。その他に三十人程の兵士たち。明日菜は主要な人たちの名前だけでもと頭に叩き込む。

「どうしてあんな所にいたの?」

そう聞いてきたのは星彩。正直そう尋ねたいのは明日菜の方だったが、気がつけば牢屋にいて、わけがわからないまま脱走し、兵士たちに追い回されていたことをそのまま話した。すると何か合点がいったのか、彼女は笑みを浮かべる。

「それなら私たちは貴女に助けられたことになる。けれど"気がつけば牢屋にいた"というのは変よ」

助けられたことはあっても助けたことはない。明日菜は身に覚えのないことを言われ首を傾げるが、今はどうでも良いことだ。

「……ほんとに気づいたら牢屋の中だったの。っていうか、気づいたらこの世界に来てたのよ」

言葉で説明するには難しい状況である。明日菜はわかってもらおうと懸命に話した。

「うむ……信じがたい話だ。ならば、こちらに来る直前は何をしておった?もしかしたら原因がわかるやもしれんぞ」

島津はそう言って顎をかく。

 

「友達と夕食会をしていたのよ。そしたら急に雷が鳴り出して、空には変な色の雲が出てきて……、突然眩しくなって……。あ、そうそう、最後に声が聴こえたわ。"我に挑め"って」

暫く沈黙が続いた。明日菜は自分が何かまずいことを言ったのかと不安になる。だがそうではないのだ。

「明日菜、それは遠呂智の声だろう。それなら別の世界から来たという言い分も筋が通る」

趙雲がいうには、今この世界は遠呂智に支配されかけているのだそうだ。そして、それに抵抗する反乱軍が各地に存在するという。

「遠呂智って人を倒さないと、もとの世界に戻れないってこと……?それなら戦うしかないじゃない!ってカードなくしたままだったの忘れてた……」

「何かなくされたのか?」

趙雲が心配そうに明日菜の顔をのぞきこむ。

「すっごい大事な物なのよ。これくらいの大きさでー……私の絵が描いてあるの」

「もしや……」

趙雲は馬に乗せていた荷物から何かを持ってきて、明日菜に差し出した。

「あーっ!これよコレ。趙雲さんありがと!これで私も戦える」

「助けた時に側に落ちていたものだ。やはり大切な物だったようだな。実はそれについても尋ねようと思っていたんだ。して"これで私も戦える"とはどういう……?」

 

 趙雲の問いに明日菜はきょとんとしていたが、この世界に魔法がないのを悟った。異世界というので魔法世界と同じ感覚でいたのだ。

 そうとわかった明日菜はクスリと笑みを浮かべる。

「こういうことよ。……アデアット!」

白い光が彼女を包む。辺りにいた武将と兵士たちはあまりの眩しさに目を瞑った。

 胸部と腰には黒いコルセット、左腕と下肢には強固な甲冑。それから彼女の右腕には身の丈程の大刀がある。

「私、戦う!それから、みんなを探して一緒に元の世界に帰ってみせるわ」

そう言ってのけた彼女は凛としていた。

 戦うために必要なものは"強い意志"。今の明日菜の心は強い意志に満ちていた。

 

[newpage]

 遠呂智はネギたちをこちらの世界に呼び寄せた。その時に直接城に召喚できたのは四人が限界で、しかも目的の人物はその四人の中には見あたらない。目的の人物はこの広い世界のどこかに現れるに違いない。その為にはエサが必要で……。

 

 悪魔のような女は笑っていた。

「あなたの大事な先生のお姉さん、捕まえちゃったぁ」

それが嘘であっても、事実であっても関係ない。今の自分にはどうすることもできないのだから。

 

 妲己と名乗る女に脅され、四人はわけもわからず古志城という気味の悪い建物の中で過ごしていた。日の光の射さない場所らしく、今が昼なのか夜なのかさえわからない。一人でなかったことが唯一の救いだった。

「こんな気味の悪い城なんかさっさと出ていきたいとこだけど、妲己が何を考えているのかわからない以上、ヘタに行動できないね」

そう言った明るい色の髪をした少女は、他の三人に何か意見を求めている様子だ。名を朝倉和美という。

「逃げたら逃げたですぐに見つかって捕まるネ……」

金髪で小麦色の肌をした少女はそう言って肩を落とした。彼女の名は古菲という。

 この城には多くの兵がおり、それから逃げるのは容易でないはずだ。しかも古志城の周囲には広大な土地が広がり、さらにそれを山々が取り巻いている。逃げ出したらば視界を遮る物がない広大な大地では、すぐに発見されるだろう。

「今は動かないほうが良いと思うです。機を待ちましょう。あと、私たちがどんな魔法を使うのかは知らないようですね。特にのどかと朝倉さんは気取られないように気をつけねば」

腰よりも下までの長い髪とおでこが特徴の彼女の名は、綾瀬夕映。

「うん、そうするよ。悪用されたらたいへんだしー……」

おっとりとした口調の少女は宮崎のどかという。

 

 四人は堪え忍んだ。ここで何か行動を起こせば、身動きがとれない状況になるかもしれない。それだけは避けたかった。

 元の世界に帰る方法はわからないが、とにかく他の仲間と合流しようと考えていた。そのためには古志城の外に出ないことにはどうにもならないのだが、そのチャンスは向こうからやって来た。

「はぁいみんな~。私についてきてちょうだい」

四人に与えられた部屋に妲己が突然やって来た。妲己の機嫌の良さが異様だったため、何事かと四人は身構える。

 妲己は城の廊下にある扉の前で足を止めた。

「ちゃぁんと着いてくるのよ?」

彼女は振り替えって念を押す。四人は黙って頷くしかない。彼女に続いてその扉に足を踏み入れた。

 

 その瞬間、扉の向こうに見えていた光景とは違う場所に変わった。四人は驚愕し声をもらす。

「えっ……」

扉の向こうの部屋には畳や襖などがあり、和風の造りをしていた。そしてその部屋には二人の男性がおり、四人に奇異の眼差しを向けている。一人は赤毛で、もう一人は長い黒髪を後ろでくくっていた。

「三成さん、曹丕さん、早速だけど、この子たちの事お願いね。色気はイマイチだけど、中々可愛いと思わなぁい?……やっぱり鳥は放し飼いに限るわぁ。それじゃぁね~」

それだけ告げると、妲己は襖の奥に消えていった。朝倉は慌てて妲己の消えた襖を開けるが、そこに彼女の姿はなかった。

 

「……フン」

「くだらん」

二人の男性は、踵を返し部屋を出ていこうとする。

「ちょっ、待ってよ!」

「さすがに放置はむかつくアル」

四人がピーピー煩かったため、二人は出ていくのを止め再び四人と向き合った。

「「…………」」

用があるのなら手短に済ませろと言わんばかりの不機嫌な表情をしている。

 とりあえず自己紹介くらいはしておこうと、四人は右から順に名前を言っていく。

「古菲ネ!」

「綾瀬夕映!です!」

「朝倉和美!」

「みっ…宮崎のどか!」

ピシッと右手を挙げての自己紹介。その意外な行動に二人の男性は一歩退いてしまった。

「……いいだろう。名を名乗られたらばこちらも名乗るが道理。俺は、石田三成」

はじめに赤毛の青年が名乗った。すると隣の青年も続いて名乗る。

「私は曹丕、字は子桓。……妲己め、何を考えているのかわかりかねる」

曹丕の言葉に棘がある。彼は妲己のことをどう思っているのか、少し探る必要があるようだ。

「妲己は何も考えてないです。今回の事はただの気紛れ……。私たちにしてみればありがたいので良いのですが」

夕映がそう言うと、曹丕の眉がピクリと動く。

 

「ありがたい?どういうことだ。そもそも貴様らは妲己の何だ。部下か?」

曹丕は警戒していた。妲己の部下であれば、下手な行動をすれば妲己に気取られてしまう。

「あの、私たち……ずっと城から出れなかったんです。だから、あのお城から出られたことが嬉しいんですー…」

「あと、私らは妲己の部下でもないよ」

のどかと朝倉が曹丕の問いに応えた。

「捕えられていた……ということは、どこかの軍の捕虜なのか?」

次に質問したのは三成である。彼の言う"どこかの軍"の意味もわからず、四人は戸惑っていた。

 四人の服装を改めて見ると、少々異なりはするが同じ物を着ている。また、名前からして古菲以外は自分のいた世界から来たのではないかと考えた。そうすると彼女たちの着ている見慣れない衣服は妲己が与えたのかもしれない。三成は勝手に解釈していた。

「まあ良い。左側二人は俺につけ」

その左側二人に該当するのは古菲と夕映。三成が命令口調なのにムッとしながらも二人は大人しく従う。

「ならば残りの二人は私につくがいい」

曹丕も三成も同じような物言いである。自分たちが女で、しかも子どもだから軽くみられているのか、それとも誰にでもそういった態度をとるのかは判断できないが、とにかく不快だった。

 

「一つ、お尋ねしても宜しいでしょうかー……?」

曹丕の側に移動したのどかは、自分よりも遥かに背の高いその人の顔を見上げた。

「……言ってみろ」

「曹丕さんと石田さんにとって、妲己さんは上司、なんでしょうか……?」

「それは私も気になってた。妲己って二人の何なわけ?」

朝倉も彼女の問いに便乗した。

「妲己は遠呂智の部下で軍師。そして私は遠呂智の……盟友。三成は妲己の部下だ。これで良いか?」

曹丕は意外にものどかの質問に対し普通に応えた。

「そうなんですか。あ、ありがとーございました」

のどかはペコリと頭を下げて朝倉の側に駆け寄る。そんな彼女を目で追い、曹丕はぽつりと呟いた。

「……何も知らされてないのだな。その様子であれば、今の世がどういった状況なのかも知ぬか……。まぁ、これから嫌でもわかるだろうがな」

彼女たちはその時、曹丕の言った言葉の意味が解らなかった。

 

 曹丕と三成は山賊討伐という名目で、反乱軍を鎮圧するよう命じられることがしばしばある。その度に彼女たちは彼ら二人につき従った。そこで目にしたのは本物の戦。

 

 古志城からは出ることができたものの、この城から逃げ出すことは敵わぬため、仲間を探すには戦場に出向くしかない。四人は曹丕と三成に連れて行くように何度も頼んだ。

「まったく酔狂な奴等だ……」

「戦場で逃げるつもりかと思えば、……そのような素振りは見られなかったな」

彼らは戦に連れていけという四人の事を警戒していた。戦場に赴くことで彼女たちにある利点は、それくらいしか考えつくまい。彼女たちが妲己に脅されていることを知らない二人は、逃げ出したくともできないという事実を知る由もなかった。

 

 四人のうち古菲だけは戦に参加している。それが戦についていくための条件だった。

「それじゃ、行ってくるネ」

 今回は二度目の出陣。初陣の時程には緊張は見られない。本陣に残る他の三人は懸命に声をかけて彼女の後ろ姿を見送った。

「む、ムリしないでね……!」

「武運を!」

「私たちもこの辺の探索、がんばるよ」

本陣にいる間、彼女たちは和美のアーティファクトを用いて辺りを調べるつもりなのだ。

 

 おそらく、三成は四人とも戦闘経験のないものだと思っていたのだろう。「戦に役に立たん奴を連れて行ってどうする」その台詞に古菲は食いついたのである。

 

 三成は本陣の天幕の外から少し離れた所で古菲を待っていた。

「もう少し早く来れんのか。……それはともかく、戦場では俺の側から離れるな」

たしかに彼女は戦につれて行けと言うだけあり、その戦闘能力はかなりのものだった。だが彼女は人を殺めたことがないようで、槍を奮うのを躊躇う素振りがうかがえる。

(一人にするわけにはいかんな……)

力はあるが、戦慣れしていない。三成はそんな古菲を一人戦場に放ることができなかった。

「すまないアル。気をつけるネ」

「わかれば良いのだよ」

三成は素っ気なく言う。古菲は彼の態度に気を悪くすることはなかった。彼は誰に対しても同じような態度で、それが彼の普通なのだということがやっと分かってきたのである。

(きっと友達いないネ)

先を行く三成の背後で、古菲は小さくため息をこぼすのだった。

 

 その戦は三成の指揮に委ねられていた。自軍の戦力を二分し、敵軍の裏をかき北方と南方から同時に攻めることで勝利を勝ち取った。

その反乱軍の首謀者は、浅黒い肌をした厳つい老将。潔く討ち取られようと地面に膝をついて曹丕の前に頭を垂れていた。

 

 あぁこの男は殺されるのだと、古菲は思った。周囲の雰囲気が張りつめている。三成の隣で、その様子を眺めていた。

 だが、曹丕は剣を振りかざそうとはしなかった。その代わりに言葉を紡ぐ。

「何処へなりと失せるがいい」

その台詞に驚いたのは一瞬。古菲は隣の三成の様子を盗み見すると、彼はいつものように機嫌の悪そうな表情をしていた。

 

 曹丕と三成らが拠点にしている城に帰りつき、その日の夜のうちに古菲ら四人は話し合いをした。

「曹丕さん、実は良い人かもしれないアル。三成さんもそうかもしれないネ」

すると他の三人はそれぞれ微妙な表情をして古菲を見た。

「……みなさんの行方もわからないですし、今はあの二人に頼るほかないです」

せめてネギの姉、ネカネが妲己の手に落ちていることを知らせねばならない。そのためには無謀な行動を起こさずに、曹丕と三成に従うしかなかった。

[newpage]

 

 目の前には、子どものように瞳をキラキラと輝かせている青年がいた。

「おまえ、どこから来たんだ?それにその耳と尾っぽ!お前みてぇなヤツ、初めてみたぜ!」

そう言われてハッとする。彼の服装は初めて見るもので、百歩譲っても自分の世界にそんな格好をしている人はいない。そこで彼は、自分が知らない世界に来てしまったのを悟った。

 

 その青年の名は孫策、字を伯符といった。彼は呉という国の王の息子である。そのために彼は今大きな責任をその背に背負っていた。

 魔王遠呂智との戦に敗れ、今は捕虜を解放するために遠呂智軍に加わっているという。戦で功をあげることで数名の捕虜を解放するというのが遠呂智の軍師、妲己の出した条件なのだ。父親はどこかに幽閉されているらしいが、その情報は全く手に入らない。

「俺も協力させてぇな。妲己の駒になるんは御免やけど……アンタの力になりたいんや」

少年の名は犬上小太郎。彼は狗族という一族の末裔で、常人以上の力を持っている。

「……それはありがたいんだが、まだ子どもじゃねぇか。いくらなんでも戦には連れてけねぇぜ」

「ガキや思ってあまく見んどいてぇな!」

小太郎は側にあった岩を拳で砕いた。その小さな体のどこからそんな力が出るのかと、孫策は驚愕した。

「おまえ……。よし、わかった。だが、俺の側から離れねえってのが条件だ」

 自由に動けないのは些か不満ではあったが、次の戦で結果を残せば変えることもできるかもしれない。小太郎はその条件を承諾した。

 

 孫策は仲間である服部半蔵と徳川家康に、小太郎のことを紹介した。

「俺は犬上小太郎。子どもやと思てなめんどいてな」

小太郎が挨拶を終えると、家康が近づいてきた。

「なっ、何やおっちゃん。……っ!」

後ずさる小太郎。家康は彼の耳を掴んで引っ張る。

「この耳は本物、か?なかなか可愛いものだな」

なめるなと言ったそばからこの扱い。小太郎は怒る気も失せて項垂れた。

「だろ!家康。なーんか可愛いんだってコイツ。なぁ半蔵、おまえもそう思うだろ!」

孫策は家康に便乗し、小太郎の頭をワシャワシャと雑に撫でる。半蔵は小さな少年を弄くる大の大人を、無言で見ていた。

 

 

 反乱軍の首領は、蘭丸と馬超という男だという。妲己の指示でその反乱軍を鎮圧せねばならない。反乱軍を潰すのは孫策とて本意でないが、父親や他の捕虜を人質に取られている以上、あれこれ考えてもそれ以外の選択肢は出てこなかった。

 

 小太郎は防具や武器を嫌った。「男は拳や!」と意味のわからないことを言いながら、防具と武器を勧める者たちから逃げている。孫策はため息をついた。

「孫策様、あの子どもは戦場というものをわかっておりませぬ!」

その苦情は彼自身に来るのだから。

 

「好きにさせてやりゃ良いじゃねぇか。現におまえらが束になって捕まえようとしても小太郎は捕まらなかったろ?そんだけ機敏に動けるなら大丈夫だ」

部下らしい青年は、孫策の言葉に引き下がるしかなかった。

「孫策、助かったわ……」

どこに隠れていたのか、小太郎が現れた。

「だがなぁ……俺も心配なんだぜ?火縄銃とか矢とか、気づかなかったら終わりだしな」

「大丈夫や!心配いらんて」

「それなら良いんだがなー……。おら、もうそろそろ出陣だぜ」

 

兵の数からいっても、孫策の率いる軍のほうが優勢である。勝てる戦だとなめてかかっていたのかもしれない。孫策は小太郎と共に、敵の大将に向けて進軍していた。

 

すべて順調に進んでいるものと思うのが間違いなのだ。

「伝令!敵軍、本陣に向け東の山道を進軍中!我々の部隊は壊滅状態にあります。どうか救援を!」

孫策の元に慌てた様子の騎馬兵がやってきて、敵が東から進軍していることを告げる。

「くっそ!こっちはどうにか勢いが勝ってるってだけだ!だが本陣が落ちるのは……」

「俺が行くわ。孫策が動けへんなら俺が行く」

 

 伝令によると敵は東の山道を進軍しているということだが、すでに本陣までたどり着いていると考えるのが妥当である。小太郎は数人の手勢を引き連れ、自軍の本陣へと急行した。

 

 予想は的中し、本陣には敵の軍勢が侵入していた。ただ、敵が雪崩れ込んでいるという状況でないのが不幸中の幸。この程度の人数であればなんとかなるかもしれない。小太郎はそう思った。

 

 敵は小太郎が子どもであることに戸惑いつつも攻撃を仕掛けてくる。それを難なく受け流し、反撃する。

「絶対勝ったるで!気合入れてきーや!!」

──オオーッ!!

 小太郎の鼓舞により味方の士気が上がる。辺りの兵の奮起の声が地に響いた。

 

 自軍の勢いが増したところで敵の勢いにはまだ劣る。

(軍率いとるヤツをはよ倒さなヤバいで……)

敵将を倒して兵の戦意を削ぐしかない。

 

 

 敵将らしい人物を見つけた。竜の顔のような冑を身につけた精悍な青年。大きな槍で兵を次から次へと凪ぎ払っている。その勢いは凄まじく、自軍が圧されているのも容易に納得できる程だ。

 だが、小太郎の目は違うものを捉えていた。赤毛の髪を1つに束ねている少年。彼は小太郎のよく知った人物であった。

 

「なんでここにおるんや……ネギ」

その小さな独り言が聞こえたのか、その少年は小太郎を振り返った。

「小太郎くん?!どうして遠呂智軍なんかに……」

ネギにとって遠呂智は倒すべき存在。他の仲間にとってもそうだと思っていた。

「そっちが攻撃せーへんなら俺からいくで!」

小太郎は瞬歩でネギの正面に現れ、拳を繰り出す。ネギは咄嗟にそれを避け、困惑した表情をして小太郎を見ていた。反撃をすることもなく、攻撃は一方的。攻撃することなく交わすだけのネギに、小太郎は苛々していた。

「なんや!お前は腰抜けかい!」

「……遠呂智を倒さないと帰れないんだよ?遠呂智軍なんかにいることなんかないよ!」

そう叫んだネギは、今にも泣き出しそうな表情をしている。それを見ると少しばかり胸が痛むが、孫策に協力することは自分で決めた。仲間が敵となってもそれを曲げる気はない。

「だからオマエはあまちゃんなんや!俺とおまえは好敵手であって傷を舐めあうような生温いオトモダチやない」

吐き捨てるようにそう言った。

 

 子ども二人の戦闘は辺りの兵たちの目を惹くもので、もう戦どころではなくなっている。所一帯が麻痺状態になっているところに、敵軍の伝令兵がやってきた。

 

「伝令!蘭丸殿が遠呂智軍に捕縛。主力軍勢がこちらに向かっております!」

それを聞いた馬超は小さく舌打ちする。

「俺はここで死ぬわけにはいかん!……ネギ、おまえはどうする!」

 

 

「どうやらうまくいったみたいやな。もう戦う必要ない」

小太郎はそう言って後ろに飛び退き、ネギとの距離をとった。ネギにとってはそれが心の隔たりのように感じられる。もういくら彼を説得したところで無駄であることもわかる。

「……またね」

また会えるようにと願うばかりで、頼りない言葉しか頭に浮かばなかった。

 

 

 ネギは何度も小太郎を振り返りながら、馬超と共に戦場から離脱した。

「……よかったのか?」

ネギは仲間と合流することを強く望んでいた。隣を駆けるネギの様子を探りながら、馬超は小太郎と一緒に行かなくて良かったのかと尋ねた。

「……はい。遠呂智は倒すべき敵ですから」

無理をしていることは明らかで、何か励ましの言葉でもかけなくてはと焦る馬超。だがそんな言葉は浮かばない。

「そうか……。また、別の反乱軍と合流せねばな」

 

 日が落ちてきた。流れ者の生活に逆戻りだと馬超が言うと、少しばかりの兵たちは声を上げて笑った。

「私らはどこまでも馬超殿に着いていきます」

戦に敗けはしたが、彼らの意思は折れていないことがよくわかる。そのような真摯な言葉に、ネギは幾らか慰められたのだった。

 

 勝ち戦であったにも関わらず、小太郎がひどく落ち込んでいるように見えた。不思議に思っていると、本陣近くにいた兵たちの話を立ち聞きして赤毛の少年のことを知った。城に帰るなり、孫策は小太郎に問うたのだ。

「赤毛の少年、おまえの仲間だったんじゃないか?」

「……ネギっていうんや。俺の仲間。まさかこの世界に他のやつらが来とるとは思てへんかった。……よく考えたらあの時一緒にいた奴らもこっちに来とる可能性は十分ある。気づかへんやった俺がアホやったわ……。けどアンタに協力するってのは自分で決めたことや。のこのこネギんとこには行かれへん。男が廃るわ」

「……それだけ覚悟しているのなら心配ねぇようだな」

孫策は場合によっては小太郎を突き放すつもりでいた。だがそれは杞憂に終わったのである。

 

[newpage]

 

 不覚だった。自分のテリトリーとはいえ、いつ誰が割り入ってこない可能性が全くないはずがなかった。

 

 金髪の少女は何やら不思議な力に守られ、フワフワと宙を漂うように降下してきた。

 一部始終それを見ていた男は両手を上げて天を仰ぐ。

「おぉお……これぞまさに天の奇跡っ……!神が我々に神子を遣わされたのじゃああーっ!!」

彼を取り巻く兵士たちも喜びの声をあげた。彼らの熱気はいささか尋常でない。

 

 

「……それで私を敬っているというのか。馬鹿馬鹿しい」

少しばかり態度が傲慢な彼女の名は、エヴァンジェリン。空から落ちてきた金髪の少女である。

「これで遠呂智も早々に打ちのめせようぞ!黄天の世もすぐ側じゃあぁあ~っ!」

そう叫ぶのは張角という男。どうやら彼はことある毎に叫ぶ癖があるらしい。エヴァンジェリンは呆然として彼を見ていた。

(人の話を聞けっ……!黄天の世?遠呂智とは何だ……)

解らないことだらけであったが、彼女は尋ねるのを躊躇った。彼に聞いたところでまともな答が返ってきそうにないからである。なるようになれ。彼女はそう思った。

「……おまえがそう信じているのなら、無下に去ることはできんなぁ。それなりの待遇をしてくれるのなら、おまえに付いていってやらなくもないぞ」

彼女は悪どい笑みを浮かべた。

 

 エヴァンジェリンは馬に乗りながら不貞腐れた顔をしていた。

 張角という男は黄巾賊という賊の頭らしく、結果として彼女はその軍に従軍することになっていたのだ。それから彼女の言った"それなりの待遇"は、"将軍として扱うこと"としてとられたらしい。一般の兵とは違い、将軍格の武将は進軍の際に馬を使うのだ。

「まったく何なんだこの世界は……。……遠呂智がボスなら、そいつを倒せば終わるか?」

エヴァンジェリンの考えは的を射たものであったが、彼女はそうとは思っていないようで苦笑していた。

 

 遠呂智を敵とする反乱軍は各地に存在する。彼らと協力して遠呂智を討たねばならない。張角の率いる軍勢は、栗色の髪を一つに結わえた小喬という少女の率いる軍勢と出くわし、二つの軍勢は共闘することを約束した。

「今日からそなたも我が同志っ、共に黄天の世を迎えるのだ!」

そう言いながら両手をあげて天を仰ぐ張角。小喬はそんな彼をニコニコしながら見ていた。

「張角さんって面白ぉい!うんっ!一緒に遠呂智を倒そうね!」

 エヴァンジェリンは少し距離をとった所から彼らを傍観していた。

「愉快な奴らだな……」

それで一軍を率いる大将だというのだから、世の中不思議なこともあるものだ。

 

「よっ!エヴァちゃん」

突然掛けられた声に驚いた。その声は聞き覚えのあるもので、すぐに振り返った。長い髪に黒縁眼鏡。よく見知った少女の姿。

「さ、早乙女ハルナ……。よく生きていれたな」

いくらアーティファクトがあるといっても彼女の戦闘力はそう高くはないはず。エヴァンジェリンは感嘆の声をこぼした。

「ハルナさんもちょっと傷ついちゃうなぁエヴァにゃん」

そんな事を言いながらハルナはアーティファクトで"エヴァにゃん"を描き召喚する。"エヴァにゃん"とは、エヴァンジェリンに猫耳とメガネとスク水というアイテムを加えたマニアックな超複合体キャラのことだ。

「んなもん出すなーっ!!しばくぞ貴様!」

「エヴァにゃんと同じ顔の美少女がしばくなんて言っても痛くも痒くもないよ~。むしろ萌えるわ!」

「そうだ逸そ燃えてしまえ!」

 いつしか、張角と小喬がそんな二人の様子を見ていた。小喬は二人の側にやってきたかと思えばエヴァンジェリンに詰め寄っていた。

「ねぇねぇっ!もしかして、ハルナちゃんのお友達?」

その質問に答えるのには少し躊躇う。

「……ただのクラスメイトでネギま部のメンバーってだけだ」

「ちょ、"ただの"って酷くない?!」

 

「……。わかった!とーっても仲良しさんなんだねっ!」

喧嘩するほど仲が良いという、小喬の極端な解釈。

「実はそうなんだよー」

ハルナはそれをにこやかに肯定した。違うと言いたいところだが、エヴァンジェリンは推し留まる。

(ヤツ…、アルビレオに似てきてないか……?)

口では勝てないような気がしていた。

 

 

 

 この時期の反乱軍はそれぞれ共闘したり、優勢な軍が他の反乱軍を呑み込んだりしながら勢力を拡げている。現に張角軍は小喬を迎えた後すぐに、阿国という出雲の巫女を迎えた。巫女とはいっても戦場で戦うことのできる女性。

 エヴァンジェリンたちは、その女性と一緒に行動していた近衛木乃香と合流することができた。

「案外すぐに会えるもんなんやねぇ」

エヴァとハルナと再会するなり、木乃香は呑気にそんな事を言ってのける。今までどうしていたのかと尋ねると、阿国に拾われて一緒に遠呂智軍と戦ったりしていたらしい。

「うち、張角さんの軍に入ってよかったわぁ。こないにえらしい子が仰山おるんは他にあらへん。これからよろしゅう」

と、阿国。彼女の好物は、容姿の整った者と金目の物だったりする。

 

 それからしばらく経ったある日、島左近という男も張角軍に加わった。彼は張角軍の惨状に呆然としていた。

「しかしまぁ……、ここまで纏まりのない軍も珍しいですねぇ。張角さんは黄天一筋、小喬さんは考えなし、阿国さんは金と人漁りとくる……」

左近は大きくため息をつく。

 それを偶然見ていたエヴァンジェリンはニヤリと笑んだ。

「貴様、軍師だったな。クク……この軍は曲者揃いだぞ。柄にもなく同情するよ……」

「…………お嬢さん、南蛮人ですかい?」

隣の足下から聞こえてくる少女の声。目をやると小さな女の子がいた。背格好からいって十歳弱くらいだろうか。目を惹いたのは彼女の金色の髪だった。

 

「南蛮?失敬な。まぁ日本人でないことは確かだが」

南蛮の蛮は野蛮の蛮。エヴァンジェリンは南蛮人と言われたのが気にくわなかった。

「…………」

無言でエヴァンジェリンを凝視する左近。もしエヴァンジェリンが普通の少女であれば、泣くか逃げるかどちらかの行動をとるに違いない。ただでさえ厳つい顔立ちなのに、彼の目許にある刀傷がよりいっそうそれを際立たせている。

 

「なんだ貴様。ひとの顔をじろじろ見るな」

「気を悪くさせてしまったようで、すみません。お嬢さんがあまりにうちの殿にソックリだったんでね」

彼のいう"ソックリ"というのは、彼女の容姿ではなく性格を指す。

「殿?フン……まぁ良い」

エヴァンジェリンはプイッと張角の方に戻っていった。どうやら張角が布教のための演説を始めたようで、彼女はそれを見に行ったのだ。もちろん張角の演説に興味があるわけではない。

 エヴァンジェリンのうしろ姿を見送りながら、左近はぽつりと呟いた。

「殿、今頃どうしているんですかねぇ……。泣きべそなんかかいてなきゃいいんですが」

「なんだ……主人と離れ離れなのか?」

「はは、実はそうなんですよ。お恥ずかしい限りで」

左近は困ったような表情をした。

 

 

 

「……ふぇっくし!!」

そのころ三成はというと、大きな嚔をしていた。

「あんな美形がクシャミするとギャップがスゴいネ……」

「……あの人の嚔はレアな気がするです」

書物を読んでいた三成のクシャミを、偶然目撃した古菲と夕映はこそこそとそんなことを話していた。

 

[newpage]

 

 ここが一体どういった世界なのか。辺りを探索したり、木の影に潜み人の話を聞くことで大体わかった。

「ここは、戦乱の世か……」

誰もが己の信念を貫かんとし生きる時代。彼女にとっては忍としての力を試す良い機会であった。

 

 夜中、人の気配を感じ目が覚めた。それでも目は開かず、感覚でその様子を探る。

(相手も様子をみている……というところでござるな)

殺気は感じられず、相手がそのつもりならこちらもそうしてやろうと再び眠りに落ちた。

 

 その気配は、夜が開けた今でも変わらず感じられる。ただ、変化したことが一つだけあった。それは、相手が意図的に気配を消そうとしているということ。昨晩とは違い、今朝感じる気配はほんの少しのものである。

(昨日の……昼間からつけられていたのか?)

今の気配は、昨晩のことがあったから気づけたというだけなのだ。

 何の考えもなしに森の中で、身を隠しもせず眠ったのがいけなかったのか、楓はこの状況をどう看破したものかと心中穏やかでなかった。相手の実力も目的もわからない。そもそも自分をつけたところで利点はないはずである。謎は深まるばかりだった。

「そこにいるのは分かっている。つけられる側としてはやはり不快でござる。拙者に用があるのなら……出てきてみてはどうでござるか?」

けして己の力に自惚れているわけではない。これは一種の賭けだった。相手が悪ければ一貫の終わりかもしれない。

 

 甲賀流忍者中忍、長瀬楓。持ち前の長身を活かし繰り出される技は鮮やかで美しい。体は青竹のように強くしなり、その手に握る刃が空を斬る。

 男は彼女の連撃を軽々とかわす。だが、攻撃を仕掛ける程の余裕があるわけでもなかった。男は態勢を整え、大きく後ろに退いて構え直す。

(……しまった!)

その男は只者ではない。相手に反撃を与える隙を作ってしまえば、この戦局は大きく変わってしまうだろう。

「女、……おまえの技は見るに値する」

初めて聞いた男の声は重い闇のよう。男は手の刃をしまった。

「……!!」

「おまえの行く末を見届けるも……一興、か」

男に戦闘の意志はかんじられず、楓は警戒を解いた。

「何者だ」

「俺は……風魔小太郎」

それは歴史書でも見ることのできる伝説の忍の名である。只者ではないと感じた楓もまさかそのような人物だとは思ってもおらず、風魔小太郎と名乗る人物を見つめるだけだった。

「……拙者は長瀬楓という」

相手に名乗らせておきながら、自分が名乗らないのは道理に反する。そう思った楓は名を名乗るも、これからどうしたものかと考えていた。

 

 風魔はどこまでも彼女の後についてくる。昼も夜も、彼は一定の距離を保ちながら楓の側にいた。それでも言葉を交わすようなことはない。

「風魔殿も食べるでござるか?」

焼いた川魚を両手に、楓は風魔のいるであろう方を向いてそう言った。だが、その闇は動かない。楓はしばらく待っていたが、そういう気配は一向になかったので、手頃な岩に腰かけて川魚を食べ始めた。

「風魔殿、拙者の後を追って何になる?」

返事はなく、ただ彼女の声が闇に消えた。

 

 大勢の人の気配がする。楓は念のため、気配を消してその集団に接近した。広場のような場所には、武装した男性が所狭しと整列している。そして彼らの前には一人の女性の姿があった。

「遠呂智軍が私たちを制圧しようと進軍してきてるって、連絡が入ったの。いい?恐れることはないのよ。私たちには忍術があるからね!」

 その女性の率いる軍は大半が忍で構成されており、遠呂智軍が接近していることが予めわかった。そこで先に攻撃を仕掛けようと、野営をしている遠呂智軍を包囲した。

 

 遠呂智軍を率いる大将は董卓という男。その両腕の中には嫌そうな表情をした少女の姿があった。

「和美といったか。曹丕のもとにこのような女子がいたとはなぁ!どうだ、わしの妾にならんか。着物も宝石も思いのままぞ!」

いつも曹丕の傍にいた彼女は董卓に目をつけられ、曹丕が今回の遠征に不参加なのにも関わらず無理に連れられてきている。

 そんな董卓の言葉が耳に入った三成は、十五歳にしかならない少女に無茶なことをされてはと止めに入ろうとしたが、足を止めた。

「ふふっ、妾?董卓様と私とでは父と娘ですわ。そもそも私の心は……とある方だけのもの」

和美は艶やかに微笑んでみせる。先ほどまでの不機嫌な顔はどうしたのか。

(俺が出るまでもないな)

董卓は和美の態度に気を悪くすることもなく、能天気に尋ねた。

「ある方?曹丕か?」

その問いには答えず、微笑するだけだった。

 

「伝令!我らの軍は反乱軍に包囲されています。遊軍は足止めされている模様!」

「なにぃ!?おい誰か遊軍の様子を見てこんかぁ!!」

肉の塊のような巨漢の男は取り乱し喚き散らす。その見苦しさに三成は顔をしかめた。

「チッ……喚くしか能のないクズが。董卓!俺が行こう!……いくぞ、古菲」

「イエッサー!」

 

 敵の包囲網を潜り抜けるには南方もしくは北方を行くしかない。どちらに行くにせよ、多くの敵が待ち伏せしていることだろう。三成は南方の道を行くことに決めた。

「やはり来たか。古菲、遅れをとるな!」

「アイヤーッ!言われなくてもこのとおりネ」

古菲はすでに動いていた。敵を認知すると、相手が動く前に素早く殴り倒す。しかもその一撃は的確で、相手は気を失いバタバタと倒れていく。

「やるではないか」

巨大な鉄扇で敵を伸しながら、三成は彼女の働きを誉めるのだった。

 

 二人に対して迫りくる敵は武将だけでも四人と多いものであったが、大きな怪我を負うこともなく開けた場所に出ることができた。三成は釣り野伏せを警戒していたがそうでもないらしい。

「三成、むこうの檻に誰かいるアル。ちょいと様子を見てくるから先に行ってるといいネ」

二人の場合、二手に別れるのは好手とは言えたものではないが仕方がない。ずっとその場所にいたのなら役にたつ情報を持っている可能性もある。

「わかった。俺は先を急ごう」

三成は彼女の足の速さを知っている。すぐに追いつくだろうと、背を向け援軍のいるであろう場所を目指した。

 

 檻の中の人物は石川五衛門という大男だった。どうして檻に入れられているのかと聞いても、まともな返事は返ってこない。

「おまえらの援軍は忍術で足止めされてんだ。この俺を檻から出してくれるんなら、その忍術の解き方を教えてやろうじゃあねぇか!これでどうだ!」

「よし、その話乗たネ!!」

まさしく即答。古菲は五衛門の言葉が偽りである可能性を考えなかった。

「よしきた!……でもなぁ、よく考えてみりゃおめぇ女だもんな。一人じゃ鍵なんか壊せねえか……」

「心配は無用ネ。アデアット!……噫っ!!」

いつの間にか彼女の手に出現した棒により、鍵は難無く外れた。

 

 しばらく進むと、また開けた場所に出た。

「何だこれは……」

三成の眼前に奇妙な光景が広がる。そこには援軍がいるのだが、一人として微動だにしない。皆が立って寝ていた。

「三成、戻ったネ。強力な助っ人がいるから安心するアル!」

古菲はニカッと笑ってそう言った。

「あの囚人か?」

「忍術をといてくれるらしいネ」

爆発音が辺りに響いた。

 

「あ五衛門様の目を欺くたぁ良い度胸だ。隠れてないで出てこないとあ痛ェ目に……あうぜぇ!!」

五衛門は周囲の木々や小屋に向けて無茶苦茶に爆弾を放る。すると煙に巻かれながら、黒装束の者たちがゾロゾロと出現した。

「こいつらを全員倒せば味方は動けるようになるはずだ!」

その黒装束の者は忍で、一人一人がお香のようなものを持っていた。

 三成と古菲は五衛門の言うとおり、忍を一人一人倒していく。素早い忍を討ち取るのは骨が折れたが何とか全員倒すことができた。

「これで借りは返したぜ。あばよ!」

石川五衛門は森の中に消えていった。

 

 遊軍は全部で四部隊。三成の掛け声により、その四部隊が整列する。

「これより、部隊を二手に分ける。一部隊は俺と共にこれより先の祭壇に向かう。残りの三部隊は本陣に急行し、辺りの敵の排除にあたれ。……この戦、まだ巻き返すことは可能だ。己が力を充分に発揮し、奮闘せよ!!」

三成の軍配と鼓舞に呼応した武士たちの野太い声が地に響いた。

 

 向かった先の祭壇の真ん中には、一人の女性が身構えていた。三成の眉がピクリと動く。彼はわざと彼女を避け、祭壇の周りの敵にあたった。

 

 三成の代わりに古菲が彼女にあたる。だが倒したと思った女性は煙になった。

「む……?」

戸惑う古菲に、辺りの敵を一掃し終えた三成が近づく。

「それは分身の術だ。本体は恐らく、あの城内だろう」

「分身の術アルカ……。忍者には勝てる気がしないネ」

初めて聴く古菲の弱音に三成は驚いた。

「分身は倒せたではないか」

「分身と本体は違うヨ。それに分身の術を使えるとなると相当な手練れネ」

古菲は友人の楓を思いだし、弱気になっていた。彼女には勝てる気がしない。

「……?分身を倒せば本体の力も弱る。貴様が気弱になる理由がわからんな。一度本陣に戻るぞ」

 

 北西の祭壇を落とすことで本陣から西の敵は一掃でき、それから三成らは本陣の北方の道を通り本陣へ戻ってきた。

「やはり苦戦していたか」

三成はそれほど焦っていない。だが古菲はオロオロと友人の姿を探しはじめる。

「リーダーと和美は無事アルカ……?!」

 

二人の姿は壁の角にて見つけることができた。夕映は和美を背に庇い、防御壁で粘っている。

「足手まといでごめんね夕映っち……」

「いえ、ここは私が頑張らねば!」

 

 夕映が防いでいるのは、戦場を飛び交う弓矢と銃弾である。直接的な攻撃を受けているわけではない。

 古菲は幾人もの兵の間を掻い潜り、二人の元へと向かった。

「大丈夫アルか?!今は五分五分といったとこネ。ここが踏ん張り時アル!」

彼女のいう通り、総大将のいるここで押し負けたらもう後がない。しかし、ここで敵を打ち負かすことができれば勝機が見えてくるのだ。

 

「伝令!東の祭壇付近に竜巻出現。祭壇の敵将によるものと思われます」

その報せに三成は小さく舌打ちをした。

「やはりな。……古菲!ここはおまえに任せよう」

随分と勝手な指示である。だが古菲は頷いた。

 三成は東の祭壇へと向かう。その道中の敵兵は決して少ないものではなかったが、彼は単身で突き進んだ。

 祭壇の中央に立っていたのは、西の祭壇にいたのと同じ女性。彼女は三成の姿を見るなり、腰に手を当て叱り始める。

「三成っ!遠呂智なんかの手下になるなんて、本当に悪い子だねぇ。お説教だよ!」

彼女は、かつて三成の仕えていた男の妻だ。彼のことをよく知る人物であった。

「おねね様、相変わらずですね」

彼にはねねの言葉を聞く気がなかった。他人から言われずとも、今自分のしていることがどういうことであるのかはわかっている。

 

 祭壇の先にある反乱軍の本陣。この反乱軍を率いるねねはその城壁の中にいた。

「分身が倒された……?」

突如押し寄せてくる疲労感。彼女は、二人めの分身が倒されてしまったことを悟った。ガクリと膝が折れる。

 楓はそんな彼女の様子を木の上ジッと見ていた。遠呂智軍を敵とし戦う軍に、加勢するかしまいかを考えていたのだ。

(ここは少し手を貸すとしようか)

この反乱軍に勝機はないとわかっていても、手助けせずにはいられない。遠呂智は敵である。

「助太刀に参った。拙者は長瀬楓という者でござる」

「……おや、私を助けてくれるのかい?良い子だねぇ!」

「あいあい♪拙者は門を守ろう」

「うん!よろしくたのむよ~」

それだけ言葉を交わすと、楓は姿を消した。

 

 

 敵が近づいていることが知らされる。耳を澄ませば地を蹴る音が聞こえてきた。やがて、ねねのいる城の周囲は戦場へと変わっていく。楓はそれをなんとか阻まねばならない。

 

「……混沌が、渦巻いている」

いつのまに現れたのか、楓の隣に風魔の姿があった。彼は周囲の敵を薙ぎ払い、素早く印を結ぶ。

「忍法、くちよせ」

瞬く間に大勢の忍が現れた。城壁の周りにいたのは先程まで楓と風魔の二人だけだったはずである。楓は何も言えず、ただ呆気にとられていた。

 

「……それなら拙者は影分身の術でござる。ニンニン♪」

ドロンという音とともに、彼女の分身が大勢現れた。

「さすがだな、女……」

 

 二つの軍が衝突する。楓は多くの敵を迎え打った。その中によく見知った人影を見る。だが彼女が遠呂智軍に従っているとは考えにくい。分身は本体に知らせようと全線を離脱した。

 

 多くの分身から同じ内容の報告があり、それが事実であることを裏付ける。楓は駆け出した。彼女が一体どういうつもりなのかを早く確かめたいがため。

 

 黄金色の髪に小麦色の肌をした少女。見間違えるはずがない。彼女は楓の友人である。

「古!」

楓は古菲の名を呼ぶ。

「……楓アルか!?」

どこかで再会できればいいとは思っていたが、まさか戦場で鉢合わせることになろうとは。

 

 あの正義感の強い古菲が、何の理由もなく非道な遠呂智軍に従うはずがない。彼女はそう思いたかった。

「久方ぶりでござるな。……うむ、わかった。拙者は手を引こう」

反乱軍の大将に助太刀を申し出た矢先にこの状況。楓は苦笑した。

「ありがとアル……。詳しいことは後で話すネ」

古菲の様子がおかしい。楓は何も言わず、その場から姿を消した。

 

 

 

END




しりきれとんぼですが、ここで力尽きました。登場人物が多いと大変です。
あと、マイナーすぎて読み手がいないのも理由のひとつ。

すごく前に書いたものなので、文章にすごく違和感があって言葉のチョイスも微妙です。でも修正はたぶんしません。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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