使徒殱滅を果たしたNERVはその役目を終え解体される事となった。
事業精算の為、極一部の者を残し従事していたスタッフや職員は全員解雇されてしまった。
エヴァパイロットと雖もその例外では無かった。
また、奇しくも時同じくして関西に大規模な遊園地テーマパークが完成間近となりスタッフやクルーの応募が始まるとここぞとばかりにNERVスタッフや職員が挙って応募したのである。
勿論、NERV事業精算団体の根回しや政府の後押しがあったので大量の受け入れが実現したのである。
そして巨大テーマパークを舞台に彼、彼女等は…?


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使徒殱滅を果たしたNERVはその役目を終え解体される事となった。
事業精算の為、極一部の者を残し従事していたスタッフや職員は全員解雇されてしまった。
エヴァパイロットと雖もその例外では無かった。
また、奇しくも時同じくして関西に大規模な遊園地テーマパークが完成間近となりスタッフやクルーの応募が始まるとここぞとばかりにNERVスタッフや職員が挙って応募したのである。
勿論、NERV事業精算団体の根回しや政府の後押しがあったので大量の受け入れが実現したのである。
そして巨大テーマパークを舞台に彼、彼女等は…?



OPENING CREW STORY

 

 

☆第5回LRS覆面企画応募作品☆

 

 

 

OPENING CREW STORY

 

 

 

【1】

 

 

「シンジくんはどうするの?」

 

 伊吹マヤ2尉はNERV本部発令所で自身の荷物を纏めながら控え室から様子を覗きに来た碇シンジに尋ねた。

 

「えっ?あ、え〜と…まだ何も…」

 

「まぁ!そうなの?早く決めた方が良いわよ。学校の事もあるし…NERVから結構な人達があっちに行くみたいよ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 使徒殱滅を果たしたNERVはその役目を終え解体される事となった。

 

 事業精算の為、極一部の者を残し従事していたスタッフや職員は全員解雇されてしまった。

 

 エヴァパイロットと雖もその例外では無かった。

 

 また、奇しくも時同じくして関西に大規模な遊園地(テーマパーク)が完成間近となりスタッフやクルーの応募が始まるとここぞとばかりにNERVスタッフや職員が挙って応募したのである。

 

 勿論、NERV事業精算団体の根回しや政府の後押しがあったので大量の受け入れが実現したのである。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 発令所のモニターや機器類は既に電源は落とされて必要最小限の照明だけが残されていた。

 

 あれだけ賑やかだった発令所は静まり返り数人のスタッフが後片付けに来ている状態であった。

 

 

 マヤはショッピングバッグに私物を詰め込むと不要になったファイルや書類を廃棄函に纏めながら言う。

 

「レイも関西に移住して高校も決まったらしいし。先週登録説明会に行ったみたいよ?」

 

「えっ、綾波も…?」『僕は何も聞いてない…』

 

「あら?レイはもう採用通知が来て明日は入社オリエンテーションよ!」

 

 同じく私物を引き上げに来ていた赤城リツコはマヤの話しを補足する。

 

「ええっ!」それを聞いたシンジは驚きの声を上げた。

 

「私も明日です!入社オリエン!」マヤは嬉しそうにリツコに報告する。

 

「青葉君、日向君達はもうOperation DIV. (運営部)Attraction(遊園施設)チームで部門オリエンテーションも終えたって」

 

 リツコは他のスタッフの進捗状況を語った。

 

「えええ〜っ!」シンジはまたしても驚きの声を上げた。

 

「ミサトもOperation DIV.でAdmission(入場管理)チームに決まったしアスカももう部署OJT受けてるわよ!」

 

「ええええっ!」『ミサトさん新しい所の面接行くって…この事だったのか…』

 

「リツコさん…!あ、アスカは?アスカも⁉︎」

 

「アスカは違う部署よ。あの子、綾小路麗華役やりたいって言ってね。Entertainment DIV.(エンターテイメント部)志望だったんだけど…あれは特別な演技指導を受けた役者さんじゃ無いとって言われて…で、エンタメのSeamstress(衣装修繕補正)チームに配属されたみたいよ?」

 

「えええええっ⁉︎」『アスカは委員長と旅行に行くって…まさかアスカまで…』

 

 シンジは二人からも何も聞かされていない事にショックを隠しきれなかった。

 

「リ、リツコさんは?」

 

「私はもうOJTも終わってレギュラークルーのVenue(配属先)リードよ?」

 

「ど、どんなコト…するんですか?」

 

Food Service DIV.(飲食部)のディスカバリーレストランよ」

 

「えっ?レストラン?」『リツコさんがレストラン…⁉︎』

 

「私も先輩と同じVenueに配属になりました〜!」マヤはまたも嬉しそうに言う。

 

『みんな…もうそこまで…』

 

「シンジくん、ミサトがあのマンションはそのままにしてあるから住んでてもイイって。アスカも関西に移住するから一人になるけど」

 

リツコは少し笑いながら冷たく言い放つ。

 

「ええっ!そ、そんな〜!」

 

 シンジは大慌てで控え室に戻ると電源とLANが生きているパソコンからテーマパークの募集要項にエントリーして応募フォームに記入した。

 

 

 数日後、シンジはパークの人事部から無事採用の通知を受け取った。

 

 

 そして深まり行く秋の気配の中、彼は皆んなを追うが如く関西へと旅立つのであった…

 

 

 

 

 

【2】

 

 

「よし、学校も決まったし、住む所はNERVから手配してもらったし(ボロアパートだけど…)学校とパークへは電車一本で近いし。青葉さんや日向さん、その他の顔見知りの人が多いから安心だ!」

 

 シンジは引越し荷物を解きながら自の部屋を設えていた。

 

 それから明日必要な書類やファイル、筆記用具を卓袱台に揃えた。

 そして一息吐くと窓辺から先に見えるJR桜島線の高架を見据え気合いを入れる様に言う。

 

 

「さあ!明日は入社オリエンテーションだ!」

 

 

『そう言えば綾波のVenue(配属先)は何処なんだろ?明日、パークの研修とかで逢えるかな?』

 

 

 

 数日後、シンジは部門オリエンテーションを終えべニューのOJT研修に入っていた。

 

 シンジの配属先はOperation.DIV(運営部)Wardrobe(ワードローブ)チームであった。

 

 ここは出演者(キャスト)や役者の衣装(コスチューム)とは別で一般従業員(クルー)のワードローブ(ユニフォーム)を管理する部署で、貸し出しや回収、クリーニング選別、補修等を行うのである。

 この部署は24時間交代制で夜勤は専属チームを擁する100人越えのクルーが従事する大所帯であった。

 

 1日当たりのクルー利用者数は通常1〜2千人、ピーク時には4千人越えのクルーが押し寄せるオフセット(裏方)では多忙な部署であった。

 

 シンジは観客(ゲスト)等、知らない人前は得意では無かったのと、ここならアスカやミサトさん、それに綾波にも逢えるからと自ら選んだのであった。

 

 

 OJTを終えたシンジは貸し出しカウンター業務に就いた。

 

 広大なフロアーにあるカウンターはA〜Qまで横一列にあり各べニュー毎に別れている。

 それぞれのワードローブが此処にストックされており、その数は延7万着以上と膨大であった。

 

 またこの広大なフロアーには大きな男女各更衣室があり更衣室とカウンターの間に約7千台ものロッカーが置かれている。

 

 クリーニングは数社の大手の事業所が大型トラックで回収し、仕上がり品が翌日に納品されるのである。

 

 場所はCrew Service Complex(略してCSC)と呼ばれるパークのバックヤードの端の建物で他の建物と同じく撮影スタジオを模してありステージ番号も振られているのでパーク内の観客(ゲスト)からは判別出来ない。

 

 内部は各フロアーに毎に分かれており1階フロアーはTechnical DIV.の機材や備品の収容場所(ストック)乗り物(ライド)のメンテナンス等を行う場所になっている。

 

 2階フロアーは従業員食堂(クルーカフェテリア)とクルー専用コンビニエンスストア、それ等の関連オフィスと医療室にナースステーション等が配置されている。

 

 3階は先程のワードローブのフロアーとなっていた。

 

 採用されたクルーはここでユニフォームのフィッティングを行い決定されたサイズの物を借り受けるのである。

 

 

 シンジが業務に就いて数日後、各べニュー毎にフィッティングが始まった。

 そこにアドミッションの一行がフィッティングにやって来た。

 

 

「あら?シンジくん!」

 

 

 シンジは急に名前を呼ばれて驚き、声のする方に振り返る。

 

「ミ、ミサトさん⁉︎」

 

「元気だった?」

 

「元気だったって…酷いじゃ無いですか!ホントのコト言わずに勝手に出て行って…僕は…僕の気持ちなんか…」

 

 シンジはやっと逢えた嬉しさと置き去りの様にされた淋しさを思い出し少し涙ぐんだ。

 

「まぁ、イイじゃない。こうしてまた会えたんだし〜」

 

 ミサトは然も大した事じゃ無いと言わんばかり笑い出した。

 

 シンジは『NERVの絆が無くなればこんなもんか…』と寂しくなった。

 

「アスカは?アスカも…」

 

「そうね、アスカも居るわね。でも、あの子のべニュー、反対側のデッキオフィスだし。しかも私服勤務だからCSCにワードローブ借りに来る事は無いわよ⁉︎」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「向こうのオフィスにもカフェやコンビニはあるからねぇ〜。こんな広いトコわざわざ端から端まで来やしないわよ!」

 

『そうなんだ…』

 

「あの…綾波は?」シンジはミサトにレイの事を聞いてみた。

 

「あら、あの子はパークのオンセットには居ないわよ?」

 

「えっ⁉︎」

 

「彼女、人前は苦手だからって。駅を降りた先にある外部関連施設のセントラルキッチン勤務よ!」

 

「はぁ…」『そうなんだ…一緒に働けると思ったのに…』シンジは少し残念な気分になる。

 

 そのシンジの様子にすかさず気付いたミサトは「あら〜!シンちゃん気になるの〜?レ・イ・の・コ・ト‼︎」と、ニヤニヤ顔で揶揄う様に言った。

 

「あ、い、イヤ…そんなんじゃ…」

 

「まぁ、まぁ、赤くなっちゃって!」

 

 

 

 それから更に数日後、リツコとマヤがフィッティングにやって来た。

 

「わぁ!シンジくん、ココに配属されたのね!」

 

「あっ、リツコさん、マヤさん!お久しぶりです」

 

「馬子にも衣装とは…よく言ったものね」リツコはカウンター内のシンジを見て冷ややかな笑みを浮かべて言った。

 

「リツコさん…それどう言う意味ですか⁉︎」シンジは少しムクれて言う。

 

「イヤね!冗談よ。私達みたいなオンセット用のワードローブじゃ無いけど…ソレ、結構カワイイじゃない?」

 

「もう!揶揄わないでくださいよ〜!」

 

 リツコとマヤは笑いながらシンジから申告時のサイズのワードローブを受け取るとチームの採寸係の女性スタッフに連れられて更衣室へと消えていった。

 

 

 

 次にやって来たのはスタジオスターズレストランの一行だった。

 一行はカウンター前で並び、順番に設置されたカードリーダーにIDカードをスリットして申告時のサイズのワードローブを受け取って行く。

 

 

「あっ、碇くん⁉︎」

 

 

 シンジはまた名前を呼ばれた列の中程見た。

 

 そこには洞木ヒカリとクラスメイト(眉毛の太い女の子)が並んでこちらを見て微笑んでいた。

 

 列が順序よく進み二人がシンジの前にやって来てIDカードをスリットする。

 そしてオートラックが自動で回り始め各自のサイズのワードローブが出て来た所で停止する。

 

「久しぶりね碇くん!碇くんもココに来たんだ」

 

「だって皆んな僕に何も言わずに行くんだもん!」

 

「あら、そうなの?てっきり聞いてるもんだと…」

 

 そんな会話をしながらシンジは止まったラックからワードローブをハンガーごと取り出すとカウンターの上を通した。

 

「ピッ!」と言う音と共にカウンター内に仕組まれたセンサーがワードローブに縫い込まれた管理用チップを読み込み自動的に貸し出し日時と着用者、返却日とクリーニング回数等を記録するのである。

 

 二人はセーラカラーが付いたワンピーススタイルのワードローブとお揃いのカチューシャを受け取ると「じゃあ碇くん、またねー!」と言い列から離れた。

 

 

 そして次にやって来たクルーにシンジは息を呑む…

 

 

 

「バカシンジも来たんだ…」

 

 

 

 嘲笑気味た笑みを浮かべて彼女はIDカードをスリットした。

 

「あ、アスカ…どうして…⁉︎」

 

「何よ!アタシがココに並んじゃいけないの⁉︎」

 

「いや…アスカはデッキオフィス(あっち)だって聞いたから…」

 

「誰が?」

 

「ミサトさんが…」

 

 彼女は「チッ!」と舌打ちすると「ホント、アラサーはおしゃべりなんだから!」と呆れた様に言うと続けて「なんかアッチの部署はココと同じでオフセット(非接客)だからスーパーバイザーに無理言って変えて貰ったのよ!せっかくこんな大きな舞台(ハコ)で働くんだから!アタシの美貌でゲストを魅了してFood Service DIV.(飲食部)でトップセールス勝ち取ってやるのよ!」と息巻いた。

 

「でも、なんでスタスタ(スタジオスターズ)なの?」

 

「ヒカリがココのワードローブがカワイイからって。まぁ、私が着れば何でも可愛くなるんだけど〜」

 

「そ、そうなんだ…」シンジは呟く様に言うと彼女の言動を『相変わらずだな…』とそんなに時間が経っていないにも関わらず懐かしく感じていた。

 

「もう!バカシンジ!インターフェースヘッドセットは?」

 

「あぁ、ゴ、ゴメン…」と言いながらシンジはカウンター下の小物ボックスからカチューシャを取りアスカに渡した。

 

「彼女は「ふんっ!」と鼻で言うとシンジの手からカチューシャを引っ手繰る様にして受け取った。そして「じゃ!」と素っ気なく言うとヒカリ達と更衣室に消えていった。

 

 シンジは彼女の後ろ姿を見送りながら『ヘッドセットじゃねぇよ…』と心の中で呟いていた。

 

 

 

 新しい環境に慣れ始めたシンジは同じアパートのシゲルやマコト、他の顔見知りの旧NERVスタッフ達とシフトが近ければ一緒に通う事も多くなった。

 

 勤務に向かう時や退勤の折に電車の中や駅でレイやアスカ、ミサト、リツコ、マヤ達の姿を探す様になった。

 

 また、駅からセントラルキッチンに向かう人波の中やコックコートを着てパーク内に出入りする人の中にレイの姿を索めていた。

 

 しかし彼女達を電車や駅で見掛ける事は無かった…

 

 

 

 

 

【3】

 

 

 来年春のグランドオープンに向けてパーク内の各部署は遽だしく準備に追われていた。

 

 グランドオープン前の準備期間から業務に携っているクルー達はオープニングクルーまたはオープニングスタッフと呼ばれ運営会社から記念品のオリジナル腕時計が贈呈された。

 

 

「碇さん。第二グループの休憩に入ってね」

 

 べニューリードからそう告げられてシンジは防寒パーカーを借り受け、階下のクルーカフェへと向かった。

 

 そこで彼はお気に入りのハンバーガーセットを注文する。

 

 このハンバーガーは注文を受けてから目の前の大きなグリルパンで焼き始める本格的なもので味は良く、ボリュームも満点であった。

 

 シンジは注文する度に『ヤッパリ外資系(あっち)の企業だけの事はあるな…』と感心しきりであった。

 

 昼食を済ませるとシンジは借り受けた防寒パーカーを羽織り1階に降り外に出る。

 

 そしてラグーン(中央池)からフロート(舞台船)待機及び整備用の引込み貯水池(ハーバー)の畔にある野外の喫煙所に向かう。

 

 此処はゲストからは見えないバックヤードでクルーの中でもその存在を知る者は非常に稀であると言われる程マイナーな場所だった。

 彼が防寒パーカーを借りたのは此処に来る為であった。

 

 シンジは煙草を吸う訳では無いか、ここに来るとシゲルやリツコ、他のNERV時代の喫煙仲間の大人達が屯している事が多かった。

 そして旧NERVの裏話しや知らなかった出来事、また他のNERVスタッフ達の現況を聞くのを楽しみにしていた。

 

 

 

 ある日、昼食を済ませ、何時もの様にラグーンの畔にやって来たシンジはバックヤードのベンチに一人で俯いて座っている女性クルーの髪色を見た瞬間、全身に衝撃が走りその場で立ち尽くしてしまった。

 

 その女性はシンジに気付き俯いていた顔を上げた。そして確認するかの様に彼を赤い瞳で見つめて言った。

 

 

 

「碇…くん?」

 

 

 

 その懐かしい声にシンジの心は震えた。

 

「あ、綾波…」シンジはやっと逢えた嬉しさに涙が滲んで来た。

 

 

「碇くんも…来たの…?」

 

「うん…」

 

 シンジはそう言いながらミサトから聞いていたセントラルキッチン用のコックコート姿では無いレイのワードローブに驚いていた。

 

 それはフロントフリルが付いた白いブラウスに黒のボウタイ、黒のタイトミニスカート、縁に二本の黒いラインが入ったミニエプロン、それに黒いエナメルのヒールを履いたオンセット(接客)用のワードローブであった。

 

 シンジは随分と大人っぽい(アダルティーな)彼女の姿に思わず息を呑んだ。そして尋ねた。

 

「あ、綾波どうしたの?その格好…」

 

「部署…移動になった…」彼女は静かに答えた。

 

「えっ、じゃあ…セントラルキッチンじゃ…」

 

「うん。パークサイドグリルレストランのサーバーに…」

 

「ど、どうして?人前は苦手だって…聞いたけど…」

 

 

 

 レイはポツリと言う…

 

 

 

 

 

「フライドポテト…」

 

 

 

 

 

「えっ⁉︎」

 

「ワタシ、セントラルキッチン(あそこ)Flyer(揚げ場)に配置されて…予行稼働(ドライラン)で毎日揚げてたら気分が、その…悪くなって…。それにオープンしてピークになれば多分、付け合わせ含めて5万食分は揚げる事になるらしくて…」

 

「ご、5万⁉︎」シンジはその規模に驚いた。

 

「それでべニューのリードに相談したの」

 

「ふ〜ん…」

 

「そうしたら飲食部のエリアマネージャーやべニューのスーパーバイザーがやって来て…君は容姿端麗(見た目が良し)だから是非にって…。で、昨日べニューのオフィスでワードローブとか靴とか揃えて貰って…」

 

「そうなんだ…」『だから逢わなかったのか…』

 

 

「碇くんは、ドコのべニュー?」

 

「ボクはOperation.DIV(運営部)Wardrobe(ワードローブ)チームなんだ。この上の…」そう言いながらシンジは背後の建物を見上げた。

 

「ココなの?」レイも振り返り見上げる。

 

「うん。ココの3階フロアー。でも…なんでこんなトコで座ってたの…?」

 

 レイは自身の足先に視線を落として言った。

 

「ヒール…痛くて…」

 

 シンジは脱がれたヒールと彼女の踵を見た。其処は肌色のパンスト越しに血が滲んでいた。

 

 レイは自身の脹脛(ふくらはぎ)のパンストを摘み上げながら「規則で生足はダメなんですって…でもワタシ…パンストとかヒール履いた事無くって…パンストって以外とスースーするの…碇くん…知ってた?」

 

「いや、し、知らないよ〜…ボクも履いた事無いし…」と、言いながらレイの足から目を逸らし顔を赤らめた。

 

「そうだ!この2階に医療室があるからそこで手当してもらって換えの絆創膏とかもらうとイイよ」

 

「うん…」

 

「歩ける?一緒に行こうか?」

 

「うん…」

 

 

 

 

 シンジに連れられて医療室で処置を終えたレイはシンジに礼を言うとべニューへと向かう為に歩き出した。

 

 

「ありがとう…じゃあ…」

 

 

「うん…」シンジは彼女の後ろ姿を見送る…

 

 

 見送りながら何故か名残惜しい気持ちが彼の胸の中に急激に高まって行った。そして…

 

「綾波!」と、声を張り上げ彼女を呼び止めた。

 

 振り返る彼女にシンジは聞く。

 

「あの…明日は?」

 

「来る…」彼女は短く答えた。

 

「何時?」

 

「お昼から…13時」

 

「じゃあCSS(ココ)のクルーカフェでお昼、一緒に…どうかな…?」シンジは勇気を振り絞って言った。

 

「…うん」

 

 シンジは彼女の答えにホッとした…と同時に嬉しさが込み上げてきた。

 

「じゃあ明日、12時に上のカフェで…。綾波はここのクルーカフェ来た事ある?」

 

 シンジの問いに彼女は冠をフルフルと小さく横に振った。

 

「ここのハンバーガー美味しいんだよ!」

 

「そう…」レイは少し困り顔で呟いた。

 

 シンジはレイのその様子を見て彼女が肉類を食べない事を思い出した。

 そして、「あっ!あの…本国から来てる本社の指導スタッフや作業員向けのベジタリアンメニューってのもあるんだ!」 と、話しを繕う。

 

「そう。なら…」彼女は安心したのか少し笑顔になった。

 

「じゃあ明日、クルーカフェで!」

 

「うん」そう返事を返して彼女は自分のべニューに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

【4】

 

 

 翌日、シンジは1時間程早く出て駅でレイが来れば一緒にカフェに向かおうと待っていた。

 

 しかし待ち合わせの5分前になっても彼女の姿は見当たらなかった。 

 シンジは仕方なくクルーカフェに向かう。

 

 すると其処には既にレイがテーブル席に座って待っていた。

 

 

「あれ?いつ来たの?待った?」

 

「ううん…さっき来たところ…」

 

「…?」シンジは少し不思議に思う。

 

「じゃあ、オーダーしに行こうか!」

 

「うん」

 

 

 二人は席を立ちビュッフェスタイルのカウンターに向かった。

 カウンターでシンジは何時ものハンバーガーを注文する。

 レイもビーフパティの代わりに大豆ミートを使ったパティのベジバーガーを注文し引き換えの番号札を受け取る。

 

 注文を受けたコックはグリルパンにバンズを置きカットされた面を温める様に焼く。

 それから各々のパティーを焼き始めた。

 

 焼き上がりを待つ間に二人はサイドメニューにコブサラダを選び、シンジはノンオイルのオニオンドレッシングを、レイはシチリアのアルベルトのオリーブオイルをひと匙回し掛け、同じシチリア産の岩塩のミルを軽く回し挽き、薄っすらとかけた。

 

 やがて二人の番号がアナウンスされる。

 カウンターに戻り出来上がった料理を受け取りトレーに乗せる。

 

 そしてドリンクバーからシンジはコーラを、レイはホットレモンティーを選ぶ。

 

 二人はナプキンやカトラリーを取り、ミールセットを乗せたトレーを持って席に着いた。

 

 

 「「いただきます」」

 

 

 シンジはハンバーガーを手にして豪快に被り付いた。

 

 レイはサラダから食べ始め、ハンバーガーはナイフとフォークを使い一口サイズに小さくカットして口に運ぶ。

 

「美味しい…」レイはベジバーガーを気に入った様である。

 

『良かった…誘って!』レイの様子にシンジは心の中で思う。そして胸が暖かくなって行くのを感じていた。

 

 食事が進む中でシンジは不思議に思った事を尋ねた。

 

「ねぇ、綾波はどうやって此処に通ってるの?」

 

 

 レイは紙ナプキンで口元を拭い終えると静かに言う。

 

 

 

「お船…」

 

 

 

「えっ⁉︎お船?」

 

「うん」

 

「お船って…何処から?」

 

「対岸の小さなお山の公園の所から…乗り場があるの」

 

「そんなのあるの?」

 

「うん。市の運営で無料の渡し船が出てるの。屋根は有るんだけど吹き曝しですごく寒い…でも短時間だから平気」

 

「な、なんか外部のアトラクションライドみたいだね…」

 

「赤城博士や葛城三佐、伊吹二尉…それに弍号機の人。みんな其処から乗る。私達、対岸の大きな水族館の近くのマンションにそれぞれ住んでるの」

 

「ふ〜ん…」と相槌を打ったシンジであったが『そうなんだ!だから皆んな合わなかったのか…でもマンションって…なんか男性陣との扱いに格差を感じるんだけど…』と思っていた。

 

「碇くんは?」

 

「僕は電車。青葉さんや日向さん、それに整備斑の人やオペレーターさん達とか…皆んな一緒のアパートに居るんだ」

 

「そう…パークの中でNERVの知ってる人、結構見かけるものね。それに学校の同じA組だった人もいるし…」

 

「うん!委員長と太眉さんもいるし…まだこれから先、また知ってる誰かに会うかも!」

 

「ワタシ、なんか…楽しくなって来た…」

 

「うん!僕達が命懸けで護り取り戻した世界…楽しまなくっちゃ!」

 

「そうね…」

 

 

 それから二人はシフトが合う日にはクルーカフェで待ち合わせたり、一緒にランチをする様になった。

 

 

 

 それから数日後…

 

「おっ!アレ碇やないか?お…!」

 

 パークサービスのワードローブ姿でクルーカフェにやって来たトウジは奥のテーブル席に座るシンジを見つけて声を掛け様としたが、一緒に来たケンスケに軽く袖を引かれて止められた。

 

「シッ!トウジ…」

 

 サイバーダインショーケースのワードローブを着たケンスケは小声で注意する。

 

「なんや⁉︎」トウジは怪訝な顔つきでケンスケに振り向いた。

 

「アレ…見なよ」ケンスケは顎先と目線でシンジの向かい側で彼等に背中を向けて座っているレイを指し示した。

 

「うん?向かいにおるんは…おっ?あの頭の色…綾波とちゃうんか!」

 

「なぁ、折角二人で楽しんでんだからさ…野暮なコトするなよ?」

 

「せやな…」

 

 

 

 また、別の日…

 

 元A組のクラスメイトの女子達が更衣室でおしゃべりの最中に…

 

「碇くんと綾波さんって何時もカフェで一緒にいない?」 

 

「あら?知らなかったの?」

 

「あの二人怪しいわ…」

 

「えっ⁉︎まさか付き合ってる…とか?」

 

「ふふふ…さぁ、どうかしら…?」

 

 

 クルーカフェでの二人の目撃情報は元クラスメイトの間では結構話題になっていた。

 

 

 

 

 

【5】

 

 

 冬本番を迎えたこの時期からパークは来春のグランドオープンに向けて本格的な本番宛らの研修に突入して行く。

 

 Food Service DIV.(飲食部)ドライラン(予行稼働)も順次始まった。

 

 このドライランは当日勤務のクルーをゲスト役に見立て料理やサービスを提供するのである。

 これらを通して接客やマナー、料理の配膳スピードや温度管理等を実地で経験して研修するのである。

 

 全てのメニューを揃える訳には行かないのでチケットを持った人は来店時に箱からクジを引き、書かれた料理を注文するのである。

 

 

 二人は何時も通りシフトが合う日の朝にクルーカフェで待ち合わせをしていた。

 

「ねぇ、綾波。明日ウチのべニュー、レストランのドライランの招待チケットあるんだけど…ルイズNYピザパーラー。あの、お昼…一緒にどうかな?」

 

「えっ⁉︎イイの?」

 

「うん。お弁当持ちのスーパーバイザーが使わないからって貰ったチケットがあるから…行く?」

 

「うん!」

 

 

 後日…

 

「碇くん!ワタシのべニュー今日、メルズドライブインのドライラン招待日なの…碇くんの好きなハンバーガーが名物のお店なんだって!」

 

 

 更に後日…

 

「綾波!今日、ビバリーヒルズブランジェリーの…」

 

 

 更に更に…

 

「碇くんKWBBの…碇くんの好きなハンバーガーの…」

 

『あの、綾波…ハンバーガーばっかりじゃ無くても…』

 

 

 二人のパークデートはクルーカフェデートから厚かましくもフードドライラン(タダ飯)デートへと進化?して行った。

 

 

 そして当然此処でも二人は目撃されていた…

 

・リツコ 「マヤ、あれ…」

 

・マ ヤ 「まあ!シンジくんとレイ…」

 

・シゲル 「あの二人いつから…」

 

・マコト 「相引きを肉眼で確認!」

 

 

 更に例の喫煙所やデッキオフィスのカフェでは旧NERVスタッフの間でも話題に…

 

・元看護官「ねえ!ねえ!聞いた?あの二人シフトが合う日にドライランでデートしてるの!」

 

・元整備長「そう言やぁ、よく見かけるなぁ…」

 

・元発令員「クルーカフェでも二人でよく居るよな?」 

 

・元警備員「ほう!そりゃご熱心なコトで…」

 

・アスカ 「な〜にヤッてんだか…」

 

・ミサト 「イイんじゃな〜い!?若っかいんだから〜!」

 

 

 

 そしていよいよアトラクションのドライランも開始された。

 当然、二人はアトラクドライラン(タダ乗り)デートも重ねて行くのであった。

 

「碇くん!明日、ワタシのべニュー、アトラクのドライランに当たってるんだけど…ジェラシックパーク・ザ・ライド…碇くん一緒に行く?

 

「うん!」

 

 

ざっぱ〜ん‼︎

 

 

「うわ〜!」「きゃあ〜!」

 

 テストライドに乗った二人は他のクルーと同様にずぶ濡れになってしまった…

 

 皆はワードローブフロアーに駆け込み新しいワードローブを要求するがカウンター前の100人近い濡れ鼠さながらのクルー達を見たワードローブ部のアカウントエグゼクティブやスーパーバイザーが怒り出し、アトラクションの関連部署に抗議の内線を掛け怒鳴り出した。

 やがてアトラクのエリアマネージャーが飛んで来て確認と連絡不足を詫び、全員のワードローブ交換が行われた。

 

 その間、シンジとレイを含む犠牲クルー全員がずぶ濡れで震えていた。

 

 

 更に後日…

 

「綾波!明日、バックドラフトのドライラン有るんだけど…行く?」

 

 レイは前回の事もあり少し躊躇したがシンジの嬉しそうな顔を見て「う、うん…」と返事してしまった。

 

 

ぼわ〜っ!ちゅど〜ん!どっか〜ん‼︎

 

 

「アッチ〜‼︎」「きゃあ〜‼︎」

 

 二人は他のクルー達と一緒に逃げ出した。

 出口にたどり着いたドライラン参加クルー達は皆、無残な姿になっていた。

 

 着ていたワードローブは焼け焦げ、穴が空き、顔や全身が煤だらけで髪はチリジリになって煙を纏いながらぞろぞろと這い出して来て口々に「ダメだこりゃ!」とドリフの爆発コントの様に言いながら倒れ込んだ。

 

 シンジとレイはお互いの真っ黒になった顔を見合わせると涙を流して爆笑していた。

 

 ここだけの話であるが、アトラクションのドライランは従業員(クルー)を使ったライドや演出装置の限界を探る為のある意味実験台の可能性があった事は否めない…(嘘)

 

 

 その後も二人は各所でドライランデートを目撃されて更に噂の的となって行くのであった。

 

 

 

 

 

【6】

 

 

 過日…夕方に西九条駅高架下の大阪王将西九条店では旧NERVスタッフの飲み仲間が集まっていた。

 

・元交換手「ねえねえ、聞いた?あの二人JPのアトラクのドライランでびしょ濡れになってたの!」

 

・元コック「あぁ、アレか〜!ウチから行ったの連中もずぶ濡れになったって言ってたな〜」

 

・元受付嬢「私が聞いたのはバックドラフトのドライランで二人が焦げてたって…」

 

・元副司令「ふ〜む、身も心もアツアツとはな…」

 

・シゲル 「内部に、高エネルギー反応?」

 

・マコト 「識別パターン、ピンク!なんちゃって!」

 

・アスカ 「な〜にヤッてんだか…」(ソフトドリンク参加)

 

・ミサト 「イイんじゃな〜い!?若っかいんだから〜!」

 

・リョウジ「でも君たちシンジくんに内緒でコッチに来たらしいじゃないか?」

 

・ミサト 「そうそう!パークで初めてシンちゃんに会った時、彼、半泣きだったわ!」(笑)

 

・リョウジ「そりゃチョット可哀想じゃない?」

 

・マ ヤ 「私達も初めてワードローブカウンターで会った時にシンジくんすごく嬉しそうだったし…」

 

・リツコ 「そうね…寂しかったんでしょうね…皆んなに置いて行かれて…」

 

・リョウジ「なんだ?皆んなグルなのかい?」

 

・アスカ 「あのバカ!ああでもしないと…自分では何もしないし決められないんだから!まぁ、今まで人の言う事や命令でしか動いて来なかったから…ね!」

 

・リョウジ「それで?」

 

・ミサト 「それでアスカと…チョッチ、ショック療法的な作戦で…ね!」

 

・リツコ 「で、私達もそれを聞いてNERV発令所でちょっとした仕掛けを…ね?」

 

・マ ヤ 「はい。先輩!そしたらシンジくん大慌てで控え室に駆け込んで…まぁ、ホント見事に引っ掛かりやがりました!」

 

・リョウジ「レイも知ってたのかい?」

 

・ミサト 「いいえ。レイには知らせなかったわ。あの子…嘘つくの下手そうだし〜」

 

・リョウジ「て、事は…今の二人の親密な感じは…」

 

・リツコ 「そうね…シンジくんの自主性の発動による副次的効果…とでも言うのかしら…?」

 

・リョウジ「ほほう!シンジくんもやるじゃないか!」

 

・ミサト 「ふ・ふ・ふ・・でもね…コレ、発案者は私じゃ無いの!」

 

・一 同  「「だっ、誰‼︎」」

 

 

 

・ミサト 「な・ん・と・・碇司令なの!」

 

 

 

・一 同  「「ええ〜っ‼︎い、碇司令⁉︎」」

 

 

・カヲル 「息子の将来を懸念して自らの自主性を促すとは…流石リリンの王…シンジくんの父上だ…」

 

・アスカ 「司令(オヤジ)の計画にマンマと乗せられるなんて…ホント、バカなヤツ…」

 

・マ リ 「とか何とか言ってぇ〜、姫、ホントはヤキモチ焼いてるんじゃあないのかニャ?」

 

・アスカ 「うっさいわね!」

 

 

 

 

 

【7】

 

 

 過日…

 

 シンジは夕方の部署のミーティングが長引き、レイとのクルーカフェでの待ち合わせに随分と遅れてやって来た。

 

「ゴメン!綾波。大分待たせちゃって…」

 

「ううん、大丈夫…それより碇くん…あそこ…」

 

 レイはそう言うとカフェの入り口付近に視線を向けた。

 

「ナニ?綾波…」シンジは彼女の視線の先に振り返る。

 

 そこには千鳥格子のハンチングに白の開襟シャツ、サスペンダーで吊られたこれまた千鳥格子のズボンにブラウンのエプロンのフードカートのワードローブを身に付けた背の高い初老の紳士が立っていた。

 

「ん、えっ?ええ〜⁉︎」シンジは驚きの声を上げる。

 

 それは冬月元副司令であった。その見事な迄に似つかわしく無い格好に二人は固まった。

 

 二人に気づいた冬月は徐に近付いて来る。二人は急ぎ席を立ち敬意を表す。

 

「やはり…君達か…」二人のテーブル前に来た冬月は眉毛と目尻を下げて微笑みながら言う。そして「まあ、座りなさい」と席に着く様促した。

 

「「はい!」」二人は副司令の言葉に従い席に着く。

 

 冬月は「どうかね?もう此処の業務には大分慣れたかね?」と二人に尋ねた。

 

「はい!まだまだですが…」シンジは答えた。 

 

「はい!ワタシも…まだ…」レイも答える。

 

「あの…副司令は…どうしてココに…?」シンジは尋ねた。

 

「私かね?フードカートでキャラメルポップコーンをな…まぁ、若者達と汗水流して働いたり接するのは良い刺激になる」と言い「どうかね?似合うかね?」とエプロンの裾を引っ張ってみせた。

 

「は、はい…すごく…」シンジはそう言って少し苦笑いする。

 

「お、お似合いです…」レイは忖度を覚えた。経験値が3上がった。

 

「ハハハ…そうかね、似合うかね?」冬月は満足そうに笑った。そして「君たちは…今から帰りかね?」と二人の私服姿を見て言った。

 

「「はい」」

 

「ふむ。では、良いことを教えてあげよう…」

 元副司令は腕時計にチラリと目をやり、今からオンセットで面白い事が始まるからと二人に伝ると「ところで…ネームプレートは有るかね?」と尋ねた。

 

「あのロッカーに行かないと…」シンジはワードローブに付けたままだと伝える。

 

 冬月は「ふむ…。ではIDカードを…」と言いエプロンのポケットから首掛け式のカードホルダーを取り出した。

 

「コレにカードを入れて首から下げて行けばパークパトロールに見つかっても大丈夫だからな…もし、何か言われたらデッキオフィスのカートの冬月の使いだと言いなさい」と二人にホルダーを渡した。

 

 そして「折角のところを邪魔したな…」と言い席を後にする。

 

「「いえ!副司令!」」二人も同時に席を立ち不動の姿勢で見送った。

 

 冬月は振り返る事無く「もう副司令では無いがな…」と言い軽く右手を挙げるとカフェから去って行った。

 

 

 

 先程の冬月の教え通りに二人はCSCのバックヤード脇からオンセットに入るクルー専用のゲートからパークの中に入った。

 

 

 夕暮れの静かなパーク内のサンフランシスコエリアの水辺を二人は歩く。時折り遠くで本国の外国人スタッフ達がセットファサードやアトラクションの前でポツリポツリと作業をしながら何か無線機で遣り取りをしていた。

 

そして遠くのスタッフの無線機から「OK!」と聞こえた次の瞬間、パーク内のほぼ全てのライティングやネオンサインの照明が一斉に点灯された。と同時に各エリアやアトラクションのテーマ曲、BGM、効果音が随所のスピーカーから流れ始めた。

 

 先程の静かな夕暮れとは対照的に実に華やかで夢の世界の様な光景に二人は驚き魅了されていった。

 

 それはパークの最終チェックのテスト稼働が開始されたからであった。

 

 

「うわ〜!スゴイね‼︎」シンジは目を輝かせて言う。

 

 

「キレイ…」レイは水面に反射した光の饗宴をウットリと見詰めていた。

 

 

 二人だけの貸し切り状態のパークの中をシンジとレイはゆっくりと歩いてデッキオフィスとTVスタジオのゲートに向かう。

 

 サンフランシスコエリアからニューヨークエリアに到達した二人は映画に登場した建物のセットファサードを巡る。

 

「ねぇ、綾波。こっちに…」

 

 シンジはそう言うと勇気を出してレイの手を取り引いた。レイは引かれた掌でシンジの掌を軽く握った。

 

 シンジはダウンタウンエリアに入った。

 

 そこは映画スティングに登場したシーグラー倉庫やソロモンハート内装店、ステナーズビリヤード、マクネールパブのセットファサードが並ぶ。

 

 その先のALLEYのアーチをくぐるとそこはウエストサイドストーリーの裏路地のファサードであった。

 

 

 マリアのバルコニーの下で二人は立ち止まり見上げる。

 

「綾波はこの映画みた?」

 

「ううん…」

 

「この階段駆け上がって…あのバルコニーで歌うんだ!二人で…」

 

 シンジは映画のワンシーンを真似て歌い出す。

 

 

Tonight, tonight,

トゥナイトトゥナイト

The world is full of light,

世界は光に包まれている

With suns and moons all over the place.

太陽や月がそこらじゅうにある様に

Tonight, tonight,

トゥナイトトゥナイト

The world is wild and bright,

世界は激しく光輝き

Going mad, shooting sparks into space.

狂った様に光を宇宙に放っている

 

Today, the world was just an address,

A place for me to live in,

今日世界は僕にとってただ住むだけの場所だった

No better than all right,

平凡以上の何物でもない

 

But here you are

でもここに君がいて

And what was just a world is a star

世界だったものが星になった

Tonight!

トゥナイト

 

 

 歌い終わると息を切らせたシンジはレイに向き合い笑顔で言う。

 

「そしてね…クライマックスのシーンで…」

 

「クライマックスのシーンで…?」

 

 レイは紅潮した頬で小首を少し傾げ(あどけな)い顔でシンジを見詰めて言う。

 

 

 シンジはそんな彼女の可憐な姿に思い余って強引に彼女を引き寄せると強く抱きしめた。

 

「碇くん…ナニ…⁉︎」

 

 彼女は少し驚いたが直ぐに何かを覚悟したかの様にシンジの腕の中で身を委ねた。

 

 

「綾波…」

 

 

「碇くん…」

 

 

 二人は表通りの華やかな照明を背景に見つめ合う。

 

 

 そして、その光の中で影となった二人は互いの唇でそっと触れ合った…

 

 

 二人の甘い時間はセットファサードの影の中に溶けて行った…

 

 

 

 

 

 だが…その二人の行動をハリウッドエリアのスタジオスターの並びのセットファサードの陰からこっそり固唾を飲んで見守っていた一団があった…

 

 それは元副司令はじめ、あの時の王将飲み会のメンバー達であった。

 

 

 その後、一同は大阪王将西九条店に河岸を変え、新しいカップルの誕生と前途を祝して盛大な宴会が開かれていた事を二人は知らない…

 

 

 

 

 

                                         <おしまい>

 

 

 

 後日談

 

 シンジはいつもの様にクルーカフェで待ち合わせのレイが来るのを待っていた。

 

 やがてやって来たレイは少し怒った様な表情でツカツカとシンジに歩み寄って来た。そして…

 

 

「碇くん…昨日あの映画見た…!」

 

 

「えっ、そ、そうなんだ…見たんだ…」シンジは焦り出す。

 

 

 シンジの狼狽え振りにレイは言った…

 

 

 

「そんなシーンは無かったわ…」

 

 

 

                                     (終)

 

 




史燕さん主催の「覆面企画」に初めて参加させて頂きました。
この企画は「お題」を基に作者名を伏せて誰の作品であるかを推理するものです。

このお話しは応募した物に自分の間合いと少しの修正を加えました。

お楽しみ頂けましたら幸いです。

是非、ご批評、コメント等をお願いします。

Ayanami Type No.6 拝

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