ポケットモンスター 新たなる旅路   作:よっしい

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※※今話以降は基本的に読者視点です※※


第五話 闇夜の堕天使

とある日の夜、一匹の野生のポケモンが、苦しそうな声をあげていた。

 

「グル…グルルルル…!」

 

苦しい。

苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

 

辛い。

辛い辛い辛い辛い辛い。

 

わざわいポケモン、アブソル。

あく単タイプのこのポケモンは今、自身に襲い来る苦しさに悶えていた。

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」

 

息は徐々に荒くなり、身体もどんどん熱を帯びていく。

まるで病気のような状態、だが……

 

ゴオオオッ!

 

風が吹き、災いを呼ぶとされる一匹に、紫(・)の(・)エ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)が集まる。

 

喉が、喉だけでなく身体全体が、締め付けられるように痛む。

 

走る、激痛。

止まらない痛み。

溢れ出る、力。

 

 

「アブソオオオ……ッ!」

 

 

紫のエネルギーはどんどん体に吸い寄せられ、溜まっていく。

溜まる度に、まるでウイルスが進行していくかのように徐々に理性が消えていくのがわかる。

 

もう考えることですらままならな─────

 

 

「アブソオオオオオオオオッ!」

 

 

身体が、黒い繭に包まれる。

 

そして、それと同時に、

 

 

プツン

 

 

アブソルの意識は、ぱたりと途絶えた。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「参ったわ。私の負けよ。」

 

先ほどまでの少年少女の熱はどこへやら、しんと静まり返ったバトルフィールドにて、セレナはあっさりと、清々しく敗北宣言をする。

 

「「やった~!」」

 

ホムラたちも、あと一撃でももらっていたら負けていたほど。

そこまで拮抗し、そしてなにより白熱した試合だったのだ、負けず嫌いなセレナといえど、自然と清々しく負けを認められた。

 

悔しい気持ちがないわけではない。

だが、彼らなら負けても仕方がないし、彼らに自身の弱点を教わったような気さえした。

 

敗北したのにここまで気分がよかった試合は、セレナにとって初めてだった。

 

「不思議ね。あなたたちに負けたのに、ちっとも負の感情が沸いてこない。これもあなたたちの魅力かしら。」

 

「「そうかも?」」

 

最後の一撃、強い覚悟と気合いを感じた。

文字通り自身の全力を出し切っているように感じた。

 

互いに余裕ではないからこそ、清々しいのかもしれない。

 

思えば、あ(・)の(・)少(・)年(・)との戦いも同じような感覚になったっけ。

 

「やっぱりいいわね、全力を尽くす戦いって。」

 

互いに手を合わせて喜びを分かち合う少年少女を温かく見守りながら、セレナはそうつぶやくのだった。

 

 

 

☆

 

 

 

「……で、だからセレナはついてくるの?」

 

「ええ。目的地まであなたたちと一緒に行かせてもらうわ。ちょうど同じ進行方向だからね。」

 

あの後、解散するかと思われたホムラ一行とセレナだったが、どうやらセレナの目的地とホムラたちの進行方向が同じらしく、一緒に冒険することになったようだ。

ちなみにホムラもユウリも、二つ返事でOKした。

先ほどの試合、そして実力を見れば、一緒に冒険していて何か得られるものがあるのは確かと考えたからだ。

 

……まぁ、ホムラとユウリは、まさか相手も同じ考えをしているとは思っていないようだが。

 

かくして、彼らは森の中の一本道を少しずつ進んでいく。

優しく吹く秋の風を感じながら、平和な自然の中を……

 

 

ピリッ

 

 

「「「!」」」

 

平和だったはずの自然の中から、3人はふと敵意を感じ取る。

それも鋭く睨まれているような、これまでないほどに緊張感を感じさせてくる敵意。

 

ただ、圧倒する感じではなく、余裕のなさそうな敵意。

 

「誰の敵意だ?」

 

「なんか凶暴なポケモンにでも出くわしたかのような感覚がする…。」

 

位置までは把握できなかったものの、少し遠くから感じられた、この敵意。

進んだ先にいると踏んで、僕らは少し早足でまた歩き出す。

 

すると……

 

「スピアー、ミサイルばり!」

 

「ス─────」

 

「グヴォル!」

 

ズシャァ!

 

「ピァァ……。」

 

「スピアー⁉」

 

3人がかりで、紫(・)の(・)オ(・)ー(・)ラ(・)をまとったアブソルに挑んでいる姿が。

ただ、3人側が圧倒的に押されている。

 

「まだだ!ジュペッタ、シャドークロー!」

「合わせるぞ!メガニウム、ソーラービーム!」

 

「ジュペ─────」

「メガァ─────」

 

ズシャシャシャァ!

 

ホムラたちが駆けつける間に、残っていた2匹まで掃討され、3人側は万事休すの状態に陥る。

獲物(ターゲット)を追い詰めたアブソルは、じりじりと3人に迫る。

 

「グヴォオオオオオッ!」

 

「く、くそ…。おれたちじゃ手に負えそうにないぞ……!」

 

「ここまでか……⁉」

 

やがて3人に向けて無情にも背中の巨大な爪が─────

……まぁ、チャンピオン3人が来たからにはそうはならないのだが。

 

「ファイアロー、ブレイブバードよ!」

 

「アアイッ!」

 

 

ゴシャァ!

 

 

「ッ⁉」

 

ボールから飛び出したそのままの勢いで、アブソルにブレイブバードを使用。

突然の奇襲に驚くアブソルに、ホムラとユウリは追撃を加えようとする。

 

「ぱもぱも、でんこうそうげき!」

「アイロ、ボディプレス!」

 

「ぱぁぁぁもおおっ!」

「アアアアアッ!」

 

「ソルッ……。」

 

だが、両者の攻撃ワザは悉くいなされてしまう。

 

「……あれ?なんかいつもより速くない?」

 

「実は、このアブソルはいろいろあってメ(・)ガ(・)シ(・)ン(・)カ(・)が(・)不(・)完(・)全(・)な(・)状(・)態(・)で、見た目はメガシンカしておらず、しかも中途半端にメガシンカしているんですよ……!」

 

先ほどまで戦っていた3人のうちの1人が、ホムラたちにあのアブソルの情報を渡してくれる。

つまり、あのアブソルは普通のアブソルではないが、メガアブソルでもない。

半(・)分(・)だ(・)け(・)メガシンカしたアブソルのようだ。

 

「グルオオッ!」

 

ただ、短期間に高威力の攻撃を撃たれて危機感を感じたようで、アブソルは踵を返して、

帰宅部のごとき速さで退避していく。

 

「……どうやら、逃げてはいってくれたみたいね。」

 

追撃する暇もないほどのスピードで逃げられたため、ホムラたちは追うのを諦め、ひとまず作戦を立てることにした。

 

 

☆

 

 

近くにあった公園にて、ホムラたちは作戦会議を始める。

 

「それじゃ、今から作戦会議を始めようか。」

 

ホムラが仕切り、作戦を立てるために一度自販機で飲み物を買い、ベンチに座って話し合うことにした。

 

「まず、最初に。状況を教えてください。」

 

「わかりました。あれは昨晩の話……。」

 

昨夜、アブソルの唸るような鳴き声がしたので、当時キャンプ中だった3人は気になって外に出て懐中電灯によってその声のしたほうへ進んでいくことになった。

 

「おいおい、これホントに大丈夫かよ?」

 

「大丈夫大丈夫、確認しに行くだけだってば。ついでに悪い奴がいたらとっちめないとだしな。」

 

「カントーのジム7か所制覇したからって調子に乗っちゃだめだぞ?」

 

「乗ってないって!」

 

などと仲良くしゃべりながら前方に向かっていた彼ら。

だが、彼らは気付かなかった。

まさか声の主の方が自分たちに迫っているとは……。

 

「……なぁおい、なんかおかしくないか?」

 

「ん?なにが?」

 

「なんかさ、声が…音が…近づいてきてる気が────」

 

刹那、空間が裂けるような、鋭い音がする。

 

 

ジャッ。

 

 

「うわっ……⁉」

 

先頭を歩いていた者は、ドスンと尻餅をつき、慄く。

なぜなら、突如目の前に、黒(・)い(・)ア(・)ブ(・)ソ(・)ル(・)が現れたからだ。

 

 

「グルヴォオッ!」

 

 

「一旦下がれるか⁉」

 

「お、おう!」

 

先頭の人物は、幸い腰は抜けていなかったようで、

3人同時にアブソルのもとから逃げ切ることに─────

 

 

シャッ

 

 

「「「はッ⁉」」」

 

 

失敗した。

 

神速で目の前に接近してきた黒いアブソルは、3人目掛けて連続で攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「ルヴォオオオオッ!」

 

 

かまいたちのような連続攻撃を周囲に放ち、木々をなぎ倒す……というより、切り崩していく。

その断面は、不自然なほどに綺麗に裂けていた。

 

そして、その切れ味を見て、3人の防衛本能が働く。

 

「急いで逃げるぞ‼」

 

「ああ!リザードン、行くぞ!」

「頼むぞ、ピジョット!」

 

「グルォ!」

「ピジョットォッ!」

 

ひとまず空に逃げ込み、退避して作戦を練り直そうと画策する一行。

だが、それをよく思わなかったアブソルは、かまいたちのようなものを再び連射してくる。

 

シャッ!シャシャッ!

 

「当たったら絶対1発アウトだろ、これ…!」

 

空間が歪んで見える。

その歪み様から、カッターのようなものの大体の形が見えるが、とにかく凄く鋭かった。

ブーメランのような見た目で結構広がっている癖に、刃こぼれしていない、新品の鋭いナイフのような、そんな鋭利さを感じる。

 

「とにかく逃げるぞ!」

 

幸い、黒いアブソルは空へは攻撃しづらかったようで、猛スピードで来た方向へ引き返せば、かまいたちも、アブソルも追ってはこなかった。

 

だが、昼間に再び見つかってしまい、バトルしていたところ、圧倒的実力差に驚いたわけだ。

 

 

「……という内容なんです。」

 

「なるほど…。」

 

推理するに、相手は確かにアブソル。

だが、色違いのアブソルや色違いのメガアブソルは、体(・)色(・)に(・)黒(・)を(・)含(・)ま(・)な(・)い(・)。

 

つまり、ここから導き出せることとしては─────

 

「メガアブソルZ、ね。」

 

「メガアブソルZ?」

 

セレナが告げた名称に聞き覚えがなかったユウリは、疑問を呈す。

それに対し、ホムラが回答する。

 

「最近発見された、アブソルのもう一つのメガシンカ。それがメガアブソルZだ。メガアブソルと打って変わって、体色は黒になり、攻撃と素早さが大幅に上昇するらしいんだ。」

 

そう、実はホムラはこのアブソルについて、以前少し調べていたのだ。

理由は、最近発見されたメガシンカZと呼ばれる新たなメガシンカについて、ニュースでやっていたので調べたからだ。

 

「ホムラの説明でも言ってた通り、素早さと攻撃が高いの。これらのステータスが高いことからわかるでしょうけど、あのポケモンは急接近からの超火力近距離攻撃が売りよ。」

 

「なるほど。だから逃げようとしてもすぐに追ってこられちゃったんだね。」

 

素早さは、ポケモンの攻撃速度などにも直結する。

よって、素早さが高ければ高いほど素早い攻撃展開が可能なのだ。

 

「……ところで、なんでさっき遭遇した時は普通のアブソルだったのかしら。」

 

「あまり我々もわかっていないのですが、どうやらエネルギーが関係しているみたいなんです。」

 

「「「エネルギー?」」」

 

エネルギーと言えば、先ほどみたアブソルの体の近くに浮いていた、紫のエネルギーを思い出す。

もしかしたら、あのエネルギーの量が関係しているのかもしれない。

 

「恐らく、夜通し暴れまわった結果、エネルギー切れでメガシンカが解除されたのでしょう。テントに戻った後も、木々が倒れる音がしていましたから。いつ見つかるか、気が気じゃなかったです。」

 

「まぁ、ちゃんと寝れたんですけどね。」

 

「「「よく寝れるなその状況で…。」」」

 

意外とピンピンしてそうな3人を見る限り、結構寝れたか、はたまた体力がバケモノ級か。

さすがはカントーのジムを7つも制覇したトレーナーたちだ。

面構えが違う……。

 

「じゃあ、エネルギーが回復したらまた動き出すってこと?」

 

「かもしれないな。今のうちに作戦は立てておいたほうがいいかも。」

 

「「「俺たちも協力しますよ!」」」

 

「是非とも、お願いするわね。」

 

導入を終えて、彼らは本格的な作戦会議に入る。

 

「ここまでの情報を聞くからに、恐らく相手は暴走メガシンカしたメガアブソルZね。で、飛ぶ斬撃は、特殊ワザのかまいたちみたいね。」

 

「でも、メガアブソルZって特殊攻撃はあんまり得意じゃないよ?」

 

「話を聞く限り、効果力の特殊ワザか、攻撃のステータスで攻撃できる特殊ワザの可能性が高いわね。」

 

「分散してたら多分直ぐに対応されちゃいそうだね。」

 

かまいたちといえば、エネルギーをチャージして、そのチャージしたエネルギーを刃に変えて相手にぶつける、所謂溜めワザというやつ。

エネルギーをチャージする分、広範囲に攻撃を繰り出すことも可能だ。

 

よって、纏まって攻撃するか、一匹がヘイトを買い、残りで袋叩きにするしかない。

だが、それぞれの方法に懸念点がある。

 

「纏まって攻撃するのもありだけど、それは素早い攻撃ですぐにやられそうだな…。」

 

「ヘイト買いをして袋叩きにするのもありでしょうけど、一回しか使えなさそうよね…。」

 

高火力広範囲攻撃は、しっかりと対策を講じておかなければ、すぐに一網打尽にされる。

協力してくれる3人も、ぶっちゃけてしまうと、ホムラたちレベルに強いわけでもない。

 

これが主にホムラたちを悩ませている理由だった。

 

「ううむ、どうしたものか…。」

 

「……アブソルの弱点ってなんだろう?」

 

ホムラたちが頭を悩ませていたところ、ユウリがふと呟く。

 

「え?メガアブソルZだろ?そんなの、フェアリータイプの攻撃しかないじゃないか。」

 

「ううん。違う、タイプ相性的な意味じゃなくて、あの高い素早さと攻撃力だからこその、行動の隙か弱点か、なにかないかな~って思って。」

 

行動の隙、または弱点。

圧倒的な素早さと恐るべき攻撃力を持ち合わせている相手の、行動面における弱いポイント。

 

「確かに、どんなに強いポケモンでも、必ず弱点はあるものね。スピードとアタックが強力なポケモンに多い傾向、又はアブソルの傾向…。」

 

「……ああ、それなら、対峙したときの映像がありますよ。」

 

「それ、ちょっと見せて頂戴。」

 

「はい、どうぞ。」

 

動画を見せてもらうと、性能の良いスマホロトムだったことから、コマ送りにしても行動が鮮明に映った。

だが、このアブソルの弱点は、コマ送りにするまでもなく、見つかった。

 

「……これは。ねぇみんな、このアブソル、どうやら……」

 

動画を見せながら具体的に説明するセレナ。

それを聞いた彼らの作戦会議は、急速に進んでいく。

 

 

やがて、作戦会議も幕を閉じ、恐らくエネルギーが回復するであろう夜がやって来る。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「グルルルル……ヴオオオオオッ!」

 

 

その日の夜、休息をとっていたアブソルは、再びメガシンカし、活動を再開する。

洞窟から飛び出し、今度こそ昨夜獲り逃した敵を討つべく動き出す。

 

だが、アブソルにとって意外だったことは、獲物が直々に自分の下に迫っていたことだった。

 

 

「おい、そこの黒いアブソル!」

 

 

「ルヴォ⁉」

 

威勢のいい人間の声。

これに反応したアブソルは、いち早く迎撃態勢に入る。

 

仕掛けてきたのは相手。よって、問答無用である。

 

「俺たちがお前を鎮めてやる!」

 

「ルヴァァッ!」

 

早速襲い掛かるアブソル。

だが、目(・)先(・)の(・)獲(・)物(・)に(・)夢(・)中(・)に(・)な(・)り(・)す(・)ぎ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「ニンフィア、ハイパーボイス!」

「ライダー、テラバースト・浜梨!」

「シアン、じゃれつく!」

 

急に姿を現したチャンピオンの自慢のアタッカーたち。

それに気づくアブソルだったが、もう遅い。

 

 

ズダダダダッ!

 

 

「ヴッ…!」

 

 

出だしは上々といったところか。相手にとって予期せぬ攻撃だったことと、相手が低耐久かつ弱点の攻撃だったこともあってか、結構なダメージが入っているようだ。

だが、問題は気づかれた後からだ。

 

「ライダー、陽動しながらテラバースト・浜梨で攻撃!」

 

「アギャァァ────」

 

「ソルッ!」

 

 

ザシャシャシャシャシャシャシャ!

 

 

地面に撒かれる、かまいたちのような斬撃。

これは恐らく応用ワザの類の攻撃。

ポケモンは技名を発することは基本的にないので、正確な技名こそわからないが…。

 

「ライダー、避けて!」

 

「ギャス!」

 

上空に舞い上がり、上手く攻撃を回避するライダー。

だが、アブソルとて二度も同じ手は食らわない。

 

「ソルッ!」

 

今度は上方向に、空気を裂きながら迫ってくる無数の斬撃たち。

しかも、先ほどの発射からほぼ時間が経っていないのに、威力が全くと言っていいほど落ちていない。

どうやら、通常のかまいたちと違い、溜めの必要ない攻撃のようだ。

 

「アギャ⁉」

 

ズパァ!

 

「ライダーッ⁉」

 

さすがの連続攻撃に、素早いライダーも動けず被弾。

しかも、急所だったようで、結構なダメージを受けていた。

 

さすがは素早さの高いかつ高火力なポケモン、一度ダメージを受けただけでこの疲弊。

 

だが、ホムラたちには作(・)戦(・)がある。

 

「シアン、じゃれつく!」

 

「ウォォルド!」

 

「ッ⁉」

 

突如背後から襲い来るシアンに反応し、素早く回避行動を行うアブソル。

だが、その先にも敵はいた。

 

「ハイパーボイス!」

 

「ふぃいいい……」

 

「ソォッ…!」

 

ニンフィアを視認したアブソルは、またも次の場所に回避行動を行う。

もちろん、反撃に転じようとする前に、だ。

 

「スピアー、どくどく!」

 

「ピアアアアッ!」

 

そして今度は、捨て身で突っ込んでくるスピアーを視認。

そんなわ(・)か(・)り(・)や(・)す(・)い(・)行(・)動(・)を見たアブソルは、数を減らすべく先にそっちを狩りに行く。

 

だが。

 

シュンッ!

 

「ソルッ?」

 

残念ながら、それはかげぶんしん。

本命は背後から、ゆっくり確実に襲い来る。

 

 

ドシュッ!

 

 

「ソル……!」

 

 

「いいぞ、スピアー!」

 

「ピアア!」

 

背後から奇襲を仕掛け、見事毒針を直撃させる。

直撃した毒針は、アブソルに猛毒を与え、徐々にアブソルの体を蝕んでいく。

 

そう、これがホムラたちが立てた作戦。

 

相手にスピードがあるなら、それを活かす隙ができないようにすればいい。

だからこそ、相手が隙を晒した瞬間に一斉攻撃で一気に削る手法を取ったのだ。

 

そして、相手の『癖』も利用。

相手の癖は、一(・)番(・)近(・)い(・)か(・)つ(・)隙(・)の(・)あ(・)る(・)相(・)手(・)に(・)飛(・)び(・)つ(・)く(・)というもの。

それを利用し、相手に状態異常を付与。

スピードを伴うということは、より体を使うということ。

それすなわち、スタミナの消費によるもうどくのダメージが響きやすいということになる。

なので、飛びついてきた瞬間にもうどくにして、相手にダメージを蓄積させる作戦をとったのだ。

 

「ソルッ!」

 

一気に追い込まれたアブソルは、危機感を覚えて身を低くした姿勢をとる。

 

「どうしたんだ、あのアブソル?もう反撃すらできないぐらい消耗したってのか⁉」

 

「……いいえ。恐らく、違うわ。」

 

そう、消耗して怯んだのではない。

次に備えて、構(・)え(・)た(・)のだ。

 

 

来る。でかい、衝撃が。

 

 

 

ザヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!

 

 

 

あちこちに黒い斬撃が飛び交いまくり、木々は次々となぎ倒されていく。

そして、アブソルを中心として黒い竜巻が形成される。

 

だが、竜巻は竜巻でも、斬撃の集合体。

アブソルの火力での攻撃なものだから、食らってしまえばひとたまりもない。

 

そして、それはホムラたちも例外ではない。

 

「アギャァ……!」

「ウルゥ……!」

「ア゛ッ⁉」

「ピアアッ⁉」

 

場にいた全員が巻き込まれ……

 

「グルボォ⁉」

「サム……!」

 

背後からの奇襲を狙っていた二匹も巻き込まれてしまう。

 

「みんな、大丈夫か⁉」

 

「ア───ギャァス⁉」

 

心配するホムラ。

だが、その隣にいたライダーに、2撃目、3撃目と立て続けにクリーンヒット。

 

「ライダー⁉」

 

「ギャァ…ス……ッ。」

 

結果的に、ライダーはテラスタルが解除され、倒されてしまう。

あまりの威力に、ホムラも物陰に隠れざるを得ない。

よって、他のメンバーの心配ができない。

 

こんな威力なものだから、心配は必須だ。

 

 

ギュオオオオッ!

 

 

「くそ…!なんて威力、そして持続時間なんだ…⁉」

 

そしてなにより、持続時間が長い。

この威力にしては、長すぎる持続時間。

次のポケモンを出そうにも出せないのだ。

 

だが、どんな悪天候でも最終的には晴れるように、やがて黒き刃の渦巻く巨大な竜巻は勢いを失っていく。風速が落ちると同時に、威力も同じく落ちていく。

 

それから数秒後、竜巻は収束した。

 

隙を見せたその刹那、全方位から好機とばかりに強者たちによる猛攻が降り注ぐ。

 

「シアン、じゃれつく!」

「ガチゴラス、こおりのキバよ!」

「リザードン、オーバーヒート!」

「カメックス、みずのはどう!」

「カイリュー、りゅうせいぐん!」

 

「ウオオルド!」

「チッゴォ!」

「ブオオ!」

「ガンメッ!」

「バウウッ!」

 

ザシアン、ガチゴラス、メガリザードンY、メガカメックス、メガカイリューによる、最大火力かつ最速の連続攻撃。

 

だが、アブソルは一歩も動かない。いや、正確には動(・)け(・)な(・)い(・)。

そう、反動ダメージがあるのだ。

 

 

ズドドドドドドドドドッ!

 

 

伝説による大いなる戯れが身を大きく削り、

古代の暴君が破壊力抜群の氷結の牙を突き立て、

冷えた体をメガシンカして火力の上がった獄炎が焼き尽くし、

メガランチャーにより威力の上がった水撃をその身で3発も受けて、

しまいには心優しき黄龍の降り注ぐ岩石の餌食にされ……。

 

全員の総攻撃を受けても、それでもなおまだ立っていた。

 

「これは物凄いバルクね…。」

 

「大丈夫、このままいけば勝てるよ~!」

 

これに若干驚きを示すセレナ。

だが、アブソルは今にも倒れそうなほどフラフラしている。

 

つつけば倒れてしまいそうなほどだ。

 

 

「グルルルル……!」

 

 

自身にもう抵抗する体力は残っていない。

だが、それでも抵抗を、威嚇を一切やめない。

それが無駄な抵抗とわかっていても。

 

ボロボロのその体は、紫のエネルギーによって無理やり動かされているようにすら見えた。

 

「もう抵抗はやめたらどうだ?僕たちは、お前の癖も理解してるし、利用までしているんだ。」

 

「グヴォウッ……!」

 

話を聞く気がないのか、はたまた従う気はないのか、それともそもそも聞こえてすらいないのか。

理由はどれにしろ、アブソルが抵抗をやめなかったのは事実。

 

ならば、多少無情でも、倒すしかない。

 

「ららるん、つららおと─────」

 

 

 

ビイイイイイイイッ!

 

 

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 

突如鳴り響くアラーム音。

困惑し、驚く6人。

 

すると、アブソルはライトに照らされ、UFOのようなものがアブソルを上空に引き上げていく。

 

「ソルッ⁉ソルッ!!?」

 

驚くアブソルを無視して、無音でひたすらアブソルを引き上げるドローン。

直後、ドローンからモンスターボールが─────

 

 

「リボン、ハイパーボイス!」

 

 

「ふぃあああああああああっ!」

 

 

と同時に、ハイパーボイスを直撃させられ、一(・)撃(・)で(・)ボ(・)ー(・)ル(・)内(・)に(・)戻(・)さ(・)せ(・)る(・)。

そう、よっしいのリボンに。

 

「大丈夫か、お前ら?」

 

そう僕らに声をかけるよっしい。

さらに困惑する僕らをよそに、ドローンは夜闇に颯爽と姿を消す。

 

「……ごめん、どういうこと?」

 

 

 

☆

 

 

 

「……っつーことで、自然環境保全活動の一環として、この暴走メガシンカを取り締まってたところ、毎回遭遇しては凶悪なポケモンを出してくるドローンが出てきてるのを見つけたから、対処しただけさ。」

 

「「「「「なるほど?」」」」」

 

「んな簡単に納得できる話じゃないでしょ…。」

 

よっしいの簡潔な説明に、まぁあいつも大変なんだろうと理解を示そうとする僕らだが、セレナがそれを否定する。

 

「そもそも、凶悪なポケモンって?なんであのアブソルは回収されたの?あなたから聞き出したい謎なんてまだまだたくさんあるけど。どれから答えてくれるわけ?」

 

セレナからの質問ラッシュに、よっしいはめんどくさそうにしながらも、無知な僕たちでも分かるように、丁寧に回答及び説明していく。

 

「第一に、俺、デルタチャンピオンの緊(・)急(・)時(・)の役割は、環境保全活動、いわゆるパトロール。暴走メガシンカの対応も、そのひとつだ。よって、俺は加勢した。

第二に、凶悪なポケモンとは、謎の組織によって駆り出されたドローンから出てくる、暴走メガシンカポケモンの回収を邪魔させないために出されていると思われる、現状メガシンカが発見されているポケモン。なんであんなにタイミングよく来るのか、なんで暴走メガシンカポケモンが回収されてるのかは俺も知らん。現在調査中だ。」

 

「……ってことらしいわ。」

 

「つまり、暴走メガシンカポケモンを利用してると思わしき集団がいるってこと?」

 

「そうなるな。詳細はマジで不明。ホムラがデルタに来る1週間ぐらい前から、暴走メガシンカポケモンの発見と同時に出没してきた。」

 

1週間前……。じゃあ僕は関係ないってことか。

というか、1週間前からあったんだね……。

 

「じゃあ、そんなに危険な集団が絡んでいるのなら、なんで公表してないのよ?」

 

「……リーグ運営の仕業だ。運営の方針で、暴走メガシンカは秘匿にする、と。

曰く観光客がガクンと減るからだのなんだのだってよ。知らねぇよ、って話だがな。」

 

人命にも関わりかねない事象なのに、秘匿にするなんて……。

確かにここは今話題のデルタ地方。暴走メガシンカなんて危ない事象が明るみになれば、今の勢いは確実に衰えるだろうし、今とは打って変わって、初心者トレーナーには少し厳しい地方になってしまうだろう。

 

だからといって、秘匿にしておいていい情報ではないのは間違いない。

 

「じゃあ、よっしいは秘匿を貫くの?犠牲者が出るまで?」

 

「……いいや、そんなこと、絶対にさせない。だからこそ、俺もリーグ運営も動いているんだ。

勢いを落とさないまま暴走メガシンカに対応して、初心者でも安心して冒険できる地方を作る!

だからこそ……」

 

「私たちに力を貸してほしい、と。」

 

「ああ。旅先で出会ったらでいい。対応をお願いしたい。加えて、ドローンの情報も、何かわかったら伝えてほしい。申し訳ない。」

 

よっしいが深々と頭を下げる。

恐らく、一匹一匹の撃破に時間がかかるだけでなく、ドローンなどの処理がマストなものが次々に湧いて出てくるせいで大変なのだろう。

ホムラたちはその思いを汲み取り、こう答える。

 

「もちろん協力するさ。」

「人を助けることにもつながるもんね~。よぉし、頑張るぞ~!」

「これは、一地方のチャンピオンとしてもやるべきこと。もちろんやるわ。」

 

「そう言ってくれて助かるよ。」

 

「自分たちも、できる範囲で協力しますよ!」

 

「そうしていただけると非常に助かります。ただ、無理だけはしないように。」

 

無理をするな、という言葉に反応してか、3人は顔を見合わせる。

そして、よっしいにこう言い放った。

 

「大丈夫ですよ!」

 

「俺たち、こう見えても…」

 

「カントーのジム7か所を制覇してきたんでね!」

 

「……うん、さすがは今回の修羅場を潜り抜けた猛者たち、頼もしい限りです。

改めて、ご協力感謝します。」

 

そういいながら、レベルボールを手に取り、色違いのリザードンに乗って、どこかに飛び去って行くよっしい。

 

どうやら、彼の今宵の狩りは、まだまだ続くようだ。

 

 

 

To be continued……




暴走メガシンカ

ミアレシティで最初に発見された、野生のポケモンが勝手にメガシンカして暴走する現象のこと。かつてミアレで起きた際にはアンジュという機械が原因だったが、デルタ地方で発生している理由は今のところ不明。
ミアレでの暴走メガシンカと違い、状態異常が効く、メガシンカでダメージが1.2倍アップという仕様がある。
よって、ミアレとデルタで原因が違うことは明白だが……?


螺旋疾風(らせんしっぷう)かまいたち  ノーマル 物理  威力 100
使用可能ポケモン 野生のアブソル
デメリット効果 長めのチャージが必要(メガシンカにより効果打消で実質デメリットなし)
効果  かまいたちのような攻撃を全方向に放出し、相手を切りつける。遠距離狙撃も可能だが、非接触の物理ワザ扱いになる。ゴーストタイプにも命中する。確定急所攻撃。


黒渦(くろうず)・堕天(だてん)  あく 物理  威力 150
使用可能ポケモン 野生のアブソル
デメリット効果 反動が大きいためにメガシンカしていなければ使えない
効果  周囲に竜巻を巻き起こすかのように黒い斬撃を飛ばしまくる。広範囲に大ダメージをばら撒く超火力の攻撃だが、使用後反動で一時的に動けなくなる。確定急所攻撃。


次回  第六話『双璧の王者たち』
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