スラムの子、コツコツ金稼ぎ   作:雨雲ばいう

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11 狩猟貴族

霧雨にかすんで、その令嬢はにこやかに笑っている。

 

「初めまして、わたくし、ファルデリアと申します」

 

淡い金の髪、小さな背たけ、線の細い顔。

 

だが、その首からはたしかにスカベンジャーの証たる名札が下がっていた。

 

その素材を目にして、アスクレイの額にしわがよる。

 

竜の背骨、それはいかなる刃でも傷つけることのできない神秘の品。

 

巨竜の最奥、竜の尾を目にした者にのみ許される、鉱石機関における最上の名誉。

 

「鉱石機関にて骨つきを拝命しておりますわ」

 

骨つき、それはもっとも優れたスカベンジャーを指す言葉。

 

この世でたった三人の骨つきの名ぐらい、暗黒街の赤子ですらも知っている。

 

コールドランド大公家の家長、神秘の血が流れる竜人の一族。

 

「……狩猟貴族、ファルデリア=ヴォードゲン」

 

ファルデリアの笑みが深まった。

 

「あらあら、嬉しいですわ。ご存知でいらっしゃったのですね、わたくしのこと」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

しばらく、カンオケカタツムリが骨を折る音だけが響く。

 

「……それで、どうするのですか」

 

アスクレイは、ボソリと呟いた。

 

三人の亡骸を隠滅しようとしているところを目撃されたのだ。

 

貴族たるファルデリアは、捕らえようとするのか、殺そうとするのか。

 

アスクレイは右目の布に手をかける。

 

「どうするか、とおっしゃいましたか」

 

ファルデリアは骨つき。

 

竜の目があったとしても、アスクレイの勝ち目はほとんどない。

 

だが、だからといってむざむざと殺されるつもりなどアスクレイには毛頭なかった。

 

「どうもいたしませんけれど」

 

しかし、ファルデリアは首を傾げるばかりであった。

 

「ただ、あなたの狩猟が素晴らしくてつい話しかけてしまっただけですわ」

 

にっこりと笑う。

 

「この者たちは狩人として落第でした」

 

カンオケカタツムリに食われている三人。

 

ファルデリアは、その者たちを冷たく語った。

 

「一人目からして語るまでもない。あんなに油断した背は王都でも目にしません」

 

スカベンジャーの名折れです、とファルデリアはため息をついた。

 

「残りの二人もひどいもの。攻撃に気づかない挙句、数秒で殺されました」

 

奥の手の魔術をひけらかすように語る青年など、聞くにたえなかったという。

 

「獣に猟銃をみせびらかす猟師がどこにいますの」

 

貴族というのに、ファルデリアは三人をまるでどうでもいいと思っているようだ。

 

それまで冷たい顔をしていたファルデリアが、ぱっと顔をほころばせる。

 

「でも、あなたは違いました」

 

情に流されることなく、冷たくただ貪欲に三人の殺害のみを狙っていた。

 

数の差を崩すため、最後尾をダラダラと歩く青年を音もなく殺し。

 

続いて、残る二人に速攻での終幕を図った。

 

それがしくじったとしても慌てない。

 

己の手札をベラベラと語る隙をついて、みごと三人の狩猟を果たした。

 

「狩りに貴賤はありません。あなたが狩人としてはるかに優れていただけのこと」

 

そう、ファルデリアはうっすらと笑う。

 

日傘をくるくるとまわし、ファルデリアは木々の奥へと去っていった。

 

「またお会いしましょう。その時は、願わくば狩猟をともに興じたいものです」

 

その一言を残して。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「アスクレイ!」

 

「……ローレラインさん」

 

鉱石機関を訪れると、顔を青くしたローレラインが走ってくる。

 

足先から頭まで、手でふれて傷ひとつないことを調べ、深く安堵の息をこぼした。

 

「っ、気が気でなかったぞ。よくぞ帰ってきてくれたっ!」

 

胸もとに顔をうずめながら、ローレラインが吐露する。

 

「おまえみたいな金づるを失ったらどれだけの損失になるか、考えるだけで……」

 

なるほど、とアスクレイは胸のうちで手をたたいた。

 

やけに気にかけてくると思ったが、金のなる木を失うのが怖かっただけか。

 

それなら、アスクレイにも頷ける話だった。

 

聞くと、アスクレイが巨竜の牙にむかってからハクイムシの一報が入ったらしい。

 

ちょうどアスクレイの訪れる地点に、コロニーができたと。

 

それは、正しくはもっと先に伝わる情報のはずだった。

 

「……ちなみに、なぜその一報が遅れたかの訳はご存知ですか」

 

「っ、ああ。いつもおまえに嫌味を口にしていた、あの男だとも」

 

ローレラインが苦虫を嚙みつぶしたような顔になる。

 

「わたしへの嫌がらせだろうな、その情報をずっと隠していた」

 

証拠がないからどうしようもないのだという。

 

現に、その官吏は伝え遅れたのはわざとではないと口にしているらしかった。

 

なるほど。

 

アスクレイはカウンターをのぞきこむ。

 

いつぞやの官吏が、信じられないといった顔をしてこちらをみつめていた。

 

「……失礼、その人にちょっと話があります」

 

「お、おい、アスクレイ! へんな気を起こすつもりじゃ……!」

 

ローレラインをよけて、カウンターにむかって歩いていく。

 

一歩踏み込むごとに、官吏の顔は青を越して白くなっていった。

 

やがて、目と鼻先まで迫る。

 

「な、なんだね! わ、わたしはわざと巣のことを教えなかったわけでは……!」

 

「わかっています、抗議をしたいわけではありませんから」

 

アスクレイは、静かに言った。

 

渡したいものがあるのだと。

 

懐から、三つの名札を手にとる。

 

カラカラと音をたてて、鉄の板はカウンターに散らばった。

 

官吏の唇が、ブルブルと震える。

 

「帰りの道で、カンオケカタツムリを目にしまして」

 

「ま、まさか、き、きさま……」

 

アスクレイは、淡々と語った。

 

殺してみたところ、たった三つだけ食われていなかったものがあったのだと。

 

「記憶違いでなければ、この三人はあなたのスカベンジャーだったはず」

 

「あ、ひ、ひぃ……!」

 

恐怖、脅え、それらが入り混じった瞳で官吏がアスクレイをみつめる。

 

アスクレイは、にっこりと笑った。

 

それは、官吏が初めて目にした、アスクレイの笑顔だった。

 

「心より、お悔やみ申し上げます」

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