スラムの子、コツコツ金稼ぎ   作:雨雲ばいう

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25 いけしゃあしゃあと

「これが、話しかけてきた訳ということですか」

 

ローレラインの一室。

 

机の上。

 

ふたつの、金貨。

 

それを冷たくみつめながら、アスクレイはぼそりと呟いた。

 

ユーヴェインは、慌てふためいたように手をふった。

 

「いや、もともと謝ろうと思っていて、ついでにってだけだから……」

 

先日、アスクレイが頼まれてその命を救った二人の男女。

 

その二人は、もうスカベンジャーを辞めるらしかった。

 

アスクレイとユーヴェインの姿を目にして、心が折れたそうだ。

 

ちょっとした憧れでスカベンジャーになったらしく。

 

そんな甘い考えでは命を落とすと、大人しく実家の稼業を継ぐらしい。

 

「それで、この金は」

 

「その、命を救ってもらったお礼に、とのことでオレに……」

 

ユーヴェインの目が泳いでいる。

 

アスクレイは、だいたいのことは気づいていた。

 

貴族家が、まさか暗黒街の乞食に会って礼を口にするなどできるはずもない。

 

それに、その暗黒街の者に救われたそれそのものが、醜聞だ。

 

その口封じ。

 

故に、それぞれ金貨をよこしてきたのだろう。

 

黙って金を懐に入れておけ、後はもう吹聴するな。

 

そういう考えがありありとしていた。

 

どこか悔し気に唇を結んでいるユーヴェインに文句を言うのは、お門違いだ。

 

アスクレイは、大人しく金貨をしまいこんだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「……それで」

 

と、アスクレイは脇の女スカベンジャーに目をやる。

 

エルフィーナと名乗った、赤髪の勝気な子。

 

「聞きたいことがあるというのは、そちらの貴族さまのことでしょうか」

 

「もうとっくの昔に没落してるけれど、ね」

 

エルフィーナが、苦笑する。

 

アスクレイが嘘をついているのではない、正しいエルフィーナだ。

 

聞くと、ユーヴェインと組んで巨竜の亡骸に潜っているらしく。

 

その夢は、かつてのアンドロマギ家をふたたび興すことらしい。

 

「領地も、館も、みんな失っちゃったから。亡くなったお父さまのためにも……」

 

エルフィーナが、顔をうつむかせる。

 

ユーヴェインが、かわりにアスクレイに問いかけてきた。

 

「エルフィーナのお父さんは、金銭の問題でギャングに殺されたそうなんだ」

 

没落し、貴族の座を失って王都に流れついたアンドロマギ家。

 

一族のふたたびの栄華のためにと金策に走る父は、オーグリー兄弟とつながった。

 

恐らくは暗黒街の流儀を知らない貴族。

 

ギャングの甘言に誘われたのかもしれない。

 

そうして、わずかに残っていた一族に伝わる秘宝すらも狙われた。

 

今年のこと。

 

ようやくスカベンジャーになれたと喜ぶエルフィーナに、父は姿をくらました。

 

ギャングが渡すよう脅してきた、一族でもっとも貴重な宝とともに。

 

「それが、竜の――ムグッ!」

 

「エルフィーナ、さすがにそれは口にしちゃ駄目だって!」

 

恐らくは竜の血と言いかけたのだろうエルフィーナを、ユーヴェインがたしなめる。

 

「その話を聞かせたら、アスクレイまでゴタゴタに巻きこんでしまうだろう」

 

「っ、そうね……」

 

なにやらヒソヒソ話をしている二人。

 

しばらくして、ユーヴェインが話を続けた。

 

「でも、お父さんは殺された。そして、その宝はなくなっていた」

 

「わたしは、ギャングにとられたって思ってるの。それで……」

 

アスクレイはため息をついた。

 

「暗黒街生まれの乞食にオーグリー兄弟について教えてもらうことにした、と」

 

「ちょっ、べつに乞食なんて嘲ってないわ、わたしだって没落貴族なのよ!」

 

眉をひそめるエルフィーナ。

 

没落貴族と、暗黒街生まれでは天と地ほどの違いがあるという話はさておき。

 

なるほど、とアスクレイは頭のうちで考えた。

 

だから、あの日下水に竜の血が流れついたのか。

 

エルフィーナの父が、ギャングだけには渡すまいと流したに違いない。

 

さて、エルフィーナの探す竜の血のありかを、アスクレイはよく知っている。

 

なにしろ、右目に入っているのだから。

 

アスクレイの手にした竜の息吹、それはアンドロマギ家のものだ。

 

「……さて」

 

問題は、だ。

 

――アスクレイが、それを告白するつもりなど欠片もないことである。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「まず、宝がどうこうというのはまったく知りませんね」

 

まったく迷いもせずに嘘を口にする。

 

「なるほど、アスクレイの耳にも入ってないのか……」

 

ちょっとばかり落胆したように、ユーヴェインが言葉を漏らす。

 

正しくは、耳に入るどころの話ではない。

 

竜の血の盗人は、アスクレイその人だ。

 

アスクレイは、いちど手にした竜の息吹を手放すことができるか、知らない。

 

だが、たとえできたとしてそんなことを許すはずもなかった。

 

今のアスクレイの富は、稼業は、人生は。

 

なにもかもが、竜の息吹という絶大なる力の上に積み上がっている。

 

ここでこの目を失えば、なにもかもが崩れ落ちてしまうだろう。

 

だから、アスクレイはエルフィーナを手伝うつもりなどさらさらなかった。

 

さて、どうするか。

 

頭のうちで計算を働かす。

 

考えてみれば、ほんとうのエルフィーナが現れたのは危機でもあり、好機でもある。

 

このことを上手く転がせば、アスクレイの目下の問題ふたつを一気に片づけうる。

 

ライネルと、オーロック。

 

そろそろ始末したくなってきた、この二人。

 

まるで羽虫を捕らえるため、美しくも残酷な巣を作り上げるクモのように。

 

アスクレイは、深々と考えこんだ。

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