スラムの子、コツコツ金稼ぎ   作:雨雲ばいう

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05 鉱石採掘機関

巨竜の亡骸に潜り、鉱石を手に入れる。

 

そんな命知らずのスカベンジャーたちを統べるのが、鉱石採掘機関である。

 

鉱石採掘機関は王家の名の下にその売買を独占していた。

 

それもそうだ。

 

今の王国の栄華は魔術機械あってこそ。

 

そして、魔術機械は巨竜の亡骸からとれる鉱石なしには働かない。

 

もしも鉱石がほかの国に渡れば、それだけで王国がゆらいでしまう。

 

ゆえに、スカベンジャーは王家の名のもとに縛りつけなければならない。

 

ドブさらいよりはるかに窮屈な稼業。

 

だが、そのかわりにスカベンジャーになれば大金を手にできる。

 

ひもじい思いをせずにすむ。

 

鉱石機関の石造りの館、その大ホールにアスクレイの姿はあった。

 

王家の旗が誇らしげに輝いている。

 

大ホールはスカベンジャーたちの熱気につつまれていた。

 

鉱石が山のように入ったズタ袋が運びこまれ。

 

カウンターに座るアドバイザーと激論を交わし。

 

あるいは買った地図を頭をつきあわせて読みこむ。

 

王国の英雄、命知らずの勇者たち。

 

これが鉱石機関、スカベンジャーの巣窟であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

新たにスカベンジャーになるための申請窓口。

 

やっとの思いでたどりついたアスクレイは、しかし顔をしかめた。

 

黒山の人だかり。

 

数えきれないほどの人々が窓口につめかけている。

 

これでは今日のうちに手続きが終わるかどうかも疑わしい。

 

「……はぁ」

 

アスクレイが、そっとため息をついた時だった。

 

「あそこ、なんで鉱石機関に乞食がいるんだよ」

 

「病気とかもってないだろうな」

 

ふと、ささやき話が聞こえてくる。

 

アスクレイはふと、己に数えきれないほどの目が集まっていることに気づいた。

 

もちろん、温かなものではない。

 

こちらを忌み嫌うような、冷たい瞳だ。

 

風に乗って聞こえてくるのは、陰口だけ。

 

「……」

 

アスクレイは黙りこくって、布を深くかぶった。

 

こうなることを考えなかったわけではない。

 

まわりに目をやれば、どうして嫌われているかはすぐわかる。

 

スカベンジャーになろうという者はみな、上品で整った姿をしている。

 

漏れ聞こえる話を聞くに、ほとんどの者は貴族や資産家の三男。

 

豊かな家に生まれた子どもが、家業を継がないかわりにスカベンジャーとなる。

 

それが、王国の常識だった。

 

なにしろスカベンジャーという稼業は魔獣と戦える腕がないと務まらない。

 

魔術であれ、武芸であれ。

 

幼いころから学ばなければならないし、そのためには大金がかかる。

 

スラム生まれのみなし子が敵うはずがない。

 

それこそ、アスクレイのように幸運に恵まれなければ。

 

そっと、布の上を指でなぞる。

 

アスクレイの右目、竜の目は布で巻いて隠している。

 

無学なアスクレイでも、竜の血の力とその貴重さは良く知っている。

 

竜の息吹を手に入れたなど、人に知られればどんな災いを誘うかわからない。

 

とくに暗黒街のみなし子が手に入れたとなると、考えたくもなかった。

 

隠しておくに越したことはないのだ。

 

「その目、どうしたの?」

 

その時だった。

 

すぐ後ろの青年から話しかけられたのは。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

金髪に、幼さを残した純朴な顔。

 

しかし、その緑の瞳はどこか人をひきつけるような輝きを秘めていた。

 

「えっと、オレはユーヴェイン=ナイトハウス。田舎貴族の三男なんだけど」

 

はにかんだ笑顔で、ポリポリと頭をかいている。

 

その瞳は、アスクレイの右目のあたりをさまよっていた。

 

「……アスクレイといいます」

 

「そう、アスクレイっていうんだ。それで、その目はどうしたのかな」

 

ユーヴェインという青年。

 

その姿に上から下まで目を走らす。

 

カザンヒツジの上等なベストに生地のいいコート。

 

田舎だろうが貴族、アスクレイとはけた違いに裕福な生まれに違いない。

 

「ちょっとゴミが入っただけですよ」

 

アスクレイは、右目をまるで隠すように後ずさった。

 

しかし、ユーヴェインは顔をしかめる。

 

「でも、そのゴミで目に傷がついたら困るでしょ。医者に診てもらうほうが……」

 

右目を隠す布に、その手がゆっくりとのばされる。

 

「っ……!」

 

アスクレイは、思わずその手をはらった。

 

「あ、えっと……その、ごめん」

 

気まずそうな顔をして、ユーヴェインが手をひっこめる。

 

「あまり、気にしないでいただけますか」

 

危なかった。

 

この竜の目を知られてしまうところだった。

 

いったいユーヴェインはなにを考えているのか、訳がわからない。

 

アスクレイが、そっと懐のナイフを握りしめた時だった。

 

「まさかとは思うけど、まさか君ひとりでスカベンジャーになるつもりかい」

 

ユーヴェインがまっすぐな目でみつめてくる。

 

アスクレイは困惑しながらも頷いた。

 

「……ええ」

 

「そんなの駄目だよ、危なすぎる。小さな女の子がしていいことじゃない」

 

ユーヴェインの言葉に、アスクレイの思考は凍りついた。

 

「……?」

 

なにやら、とんでもない思い違いをされてはいやしないだろうか。

 

アスクレイは頭が痛くなった。

 

たしかに己が童顔で線が細いことは知っている。

 

それに、ろくに栄養もとれていないから背丈が小さいことも。

 

だが、まさか女の子と勘違いされるとは。

 

瞬時に、アスクレイはユーヴェインが話しかけてきた訳がわかった。

 

ユーヴェインは、アスクレイをなにか訳ありの幼女だと気にかけているのだ。

 

たしかに、目を布で隠しているのもその疑いに拍車をかけるだろう。

 

これはいけない。

 

アスクレイはすぐさまその勘違いを正そうとした。

 

「すみません」

 

しかし、アスクレイが言葉を口にすることはなかった。

 

かなりの力がこめられて、アスクレイの肩がつかまれる。

 

「失礼ですが、生まれのほうをお聞きしてよろしいでしょうか」

 

ふりむくと、背後には鉱石機関の官吏がひとり。

 

ニコニコと笑っているものの、その瞳はゾッとするほどに冷たかった。

 

「暗黒街の宿なしに鉱石採掘機関を寝床にされては困るので、ね」

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