スラムの子、コツコツ金稼ぎ 作:雨雲ばいう
巨竜の亡骸に潜り、鉱石を手に入れる。
そんな命知らずのスカベンジャーたちを統べるのが、鉱石採掘機関である。
鉱石採掘機関は王家の名の下にその売買を独占していた。
それもそうだ。
今の王国の栄華は魔術機械あってこそ。
そして、魔術機械は巨竜の亡骸からとれる鉱石なしには働かない。
もしも鉱石がほかの国に渡れば、それだけで王国がゆらいでしまう。
ゆえに、スカベンジャーは王家の名のもとに縛りつけなければならない。
ドブさらいよりはるかに窮屈な稼業。
だが、そのかわりにスカベンジャーになれば大金を手にできる。
ひもじい思いをせずにすむ。
鉱石機関の石造りの館、その大ホールにアスクレイの姿はあった。
王家の旗が誇らしげに輝いている。
大ホールはスカベンジャーたちの熱気につつまれていた。
鉱石が山のように入ったズタ袋が運びこまれ。
カウンターに座るアドバイザーと激論を交わし。
あるいは買った地図を頭をつきあわせて読みこむ。
王国の英雄、命知らずの勇者たち。
これが鉱石機関、スカベンジャーの巣窟であった。
◆◆◆◆◆
新たにスカベンジャーになるための申請窓口。
やっとの思いでたどりついたアスクレイは、しかし顔をしかめた。
黒山の人だかり。
数えきれないほどの人々が窓口につめかけている。
これでは今日のうちに手続きが終わるかどうかも疑わしい。
「……はぁ」
アスクレイが、そっとため息をついた時だった。
「あそこ、なんで鉱石機関に乞食がいるんだよ」
「病気とかもってないだろうな」
ふと、ささやき話が聞こえてくる。
アスクレイはふと、己に数えきれないほどの目が集まっていることに気づいた。
もちろん、温かなものではない。
こちらを忌み嫌うような、冷たい瞳だ。
風に乗って聞こえてくるのは、陰口だけ。
「……」
アスクレイは黙りこくって、布を深くかぶった。
こうなることを考えなかったわけではない。
まわりに目をやれば、どうして嫌われているかはすぐわかる。
スカベンジャーになろうという者はみな、上品で整った姿をしている。
漏れ聞こえる話を聞くに、ほとんどの者は貴族や資産家の三男。
豊かな家に生まれた子どもが、家業を継がないかわりにスカベンジャーとなる。
それが、王国の常識だった。
なにしろスカベンジャーという稼業は魔獣と戦える腕がないと務まらない。
魔術であれ、武芸であれ。
幼いころから学ばなければならないし、そのためには大金がかかる。
スラム生まれのみなし子が敵うはずがない。
それこそ、アスクレイのように幸運に恵まれなければ。
そっと、布の上を指でなぞる。
アスクレイの右目、竜の目は布で巻いて隠している。
無学なアスクレイでも、竜の血の力とその貴重さは良く知っている。
竜の息吹を手に入れたなど、人に知られればどんな災いを誘うかわからない。
とくに暗黒街のみなし子が手に入れたとなると、考えたくもなかった。
隠しておくに越したことはないのだ。
「その目、どうしたの?」
その時だった。
すぐ後ろの青年から話しかけられたのは。
◆◆◆◆◆
金髪に、幼さを残した純朴な顔。
しかし、その緑の瞳はどこか人をひきつけるような輝きを秘めていた。
「えっと、オレはユーヴェイン=ナイトハウス。田舎貴族の三男なんだけど」
はにかんだ笑顔で、ポリポリと頭をかいている。
その瞳は、アスクレイの右目のあたりをさまよっていた。
「……アスクレイといいます」
「そう、アスクレイっていうんだ。それで、その目はどうしたのかな」
ユーヴェインという青年。
その姿に上から下まで目を走らす。
カザンヒツジの上等なベストに生地のいいコート。
田舎だろうが貴族、アスクレイとはけた違いに裕福な生まれに違いない。
「ちょっとゴミが入っただけですよ」
アスクレイは、右目をまるで隠すように後ずさった。
しかし、ユーヴェインは顔をしかめる。
「でも、そのゴミで目に傷がついたら困るでしょ。医者に診てもらうほうが……」
右目を隠す布に、その手がゆっくりとのばされる。
「っ……!」
アスクレイは、思わずその手をはらった。
「あ、えっと……その、ごめん」
気まずそうな顔をして、ユーヴェインが手をひっこめる。
「あまり、気にしないでいただけますか」
危なかった。
この竜の目を知られてしまうところだった。
いったいユーヴェインはなにを考えているのか、訳がわからない。
アスクレイが、そっと懐のナイフを握りしめた時だった。
「まさかとは思うけど、まさか君ひとりでスカベンジャーになるつもりかい」
ユーヴェインがまっすぐな目でみつめてくる。
アスクレイは困惑しながらも頷いた。
「……ええ」
「そんなの駄目だよ、危なすぎる。小さな女の子がしていいことじゃない」
ユーヴェインの言葉に、アスクレイの思考は凍りついた。
「……?」
なにやら、とんでもない思い違いをされてはいやしないだろうか。
アスクレイは頭が痛くなった。
たしかに己が童顔で線が細いことは知っている。
それに、ろくに栄養もとれていないから背丈が小さいことも。
だが、まさか女の子と勘違いされるとは。
瞬時に、アスクレイはユーヴェインが話しかけてきた訳がわかった。
ユーヴェインは、アスクレイをなにか訳ありの幼女だと気にかけているのだ。
たしかに、目を布で隠しているのもその疑いに拍車をかけるだろう。
これはいけない。
アスクレイはすぐさまその勘違いを正そうとした。
「すみません」
しかし、アスクレイが言葉を口にすることはなかった。
かなりの力がこめられて、アスクレイの肩がつかまれる。
「失礼ですが、生まれのほうをお聞きしてよろしいでしょうか」
ふりむくと、背後には鉱石機関の官吏がひとり。
ニコニコと笑っているものの、その瞳はゾッとするほどに冷たかった。
「暗黒街の宿なしに鉱石採掘機関を寝床にされては困るので、ね」