マクロスΔ 空飛ぶニワトリ   作:マルク

18 / 18
空の野生児

惑星エデン。

 

S.M.S極秘格納区画。

薄暗いブリーフィングルームの中、一人の男が椅子へだらしなく座っていた。

 

イサム・ダイソン。

 

年齢を重ねても、目だけは昔のまま獰猛だった。

 

「で?」

 

机へ足を乗せたまま言う。

 

「わざわざ呼び出して何だ」

 

向かい側ではゼネラルギャラクシー社員達が微妙な顔をしていた。若手技術者がおずおずと端末を差し出す。

 

「…こちらをご覧ください」

 

映像再生。

 

灰色のYVF-22VG。

 

空戦データだ。

 

イサムは最初、気の抜けた顔で眺めていた。

だが数秒後ーー

 

「……は?」

 

足が机から落ちる。

 

映像の中でYVF-22VGが急制動からあり得ない角度で滑り込む。

失速寸前。

普通なら終わる。

なのに機体は生きている。

 

イサムの目が細まる。

 

再生。

 

停止。

 

巻き戻し。

 

「おい、誰だコイツ」

 

低い声に社員達が顔を見合わせる。

 

「セス・バルザック元中尉です」

 

「知らねぇ名前だな」

 

「辺境勤務中心だったので」

 

映像続行する。

 

今度はYVF-22VGがデブリ帯へ突入。

普通のパイロットなら避けるルート。

 

しかしセスは違う。

 

流れへ乗る。

 

風へ潜る。

 

機体を“落としながら”加速している。

 

イサムの顔から笑みが消えた。

 

「…こいつ」

 

誰も口を挟めない。

イサムはモニターへ身を乗り出す。

 

「22を“理解”してやがる」

 

その言葉に技術者達が息を呑む。

イサムは低く笑った。

 

「ははっ……!」

 

楽しそうだった。久々に心底面白い玩具を見つけた子供みたいに。

 

「いいじゃねぇか」

 

映像内でYVF-22VGが敵機を撃墜。

 

鋭く、獰猛に、でもどこか繊細に飛ぶ。それを見たイサムは呟く。

 

「ガルドの野郎、まだ飛んでやがる」

 

静かな言葉だった。

 

VF-19はイサムの翼。

 

自由そのもの。

 

だがVF-22は違う。

あれはガルドだ。

 

重く、不器用で、でも誠実に空へ向き合う翼。

 

イサムは鼻で笑う。

 

「19が派手過ぎたせいで、22は随分損したな」

 

技術主任が慎重に口を開く。

 

「ですが市場競争では――」

 

「市場の話してねぇ」

 

即答だった。

イサムの目が鋭く社員を射抜く。

 

「飛べる奴が飛ばせば、22は今でも化け物だ」

 

誰も反論できない。

イサムは映像を止める。

 

そこに映っていたのはYVF-22VGのノーズアート。

 

敬礼する鶏。

 

その滅多に見ない絵に思わず吹き出した。

 

「なんだこのセンス」

 

若手社員が恐る恐る言う。

 

「敵側から“チキン野郎”と呼ばれているそうです」

 

「最高じゃねぇか」

 

洒落たネーミングセンスに笑いが止まらない。しばらく笑った後、ふと真顔になる。

 

「……でもコイツ」

 

「?」

 

「長生きしねぇな」

 

空気が止まる。

イサムはモニターを見たまま言う。

 

「飛び方が危ねぇ」

 

「……」

 

「自分の限界じゃなく、“死線”で飛んでる」

 

それは同じ怪物だから分かる感覚。イサムは少しだけ目を細めながら言う。

 

「ガルドより危ういぞ」

 

誰も喋れない。パイロットではない身では解らない領域だからだ。

やがてイサムは椅子から立ち上がる。

 

「会わせろ」

 

社員達がざわつく。

 

「む…無理です。機密ですので」

 

「お前らさぁ、機密って言えば済むと思ってね?」

 

拒絶の言葉に呆れながらイサムが苛立つ。

 

「済ませないと困るんです!」

 

「へぇ、面白ぇ。ますます会いたくなったぜ」

 

獰猛に笑うイサムに社員が怯える。圧力に負けたのか視線を合わせないようにしながらぽつりと言葉を漏らす。

 

「…あー、そういえば近々合同検証会があるんですよ」

 

「合同?」

 

「インダストリー社とです

 

「ほぅ」

 

「互いのテストパイロットと軍上層部を集めて、22系と19系の運用データを比較をやる予定でして…」

 

「面白そうじゃん」

 

興味深そうにイサムは笑みを深める。

 

「そ、それが終わってからで良いですか?」

 

黙り込むイサム。じっと捕食者が獲物を品定めをするかのように社員を見る。

永遠にも感じた数秒後――イサムが笑った。

 

「じゃ、俺も混ぜろ」

 

「……は?」

 

「検証会」

 

「いやいやいや!」

 

社員が首を横に振りながら悲鳴を上げる。

 

「なんでそうなるんですか!?」

 

「俺が暇だから」

 

「帰ってください!」

 

「約束反故されたくないじゃん」

 

「信じてください!」

 

「19持ってくぞ? 俺が乗ってきたらお偉いさん、どう思うかな?」

 

「脅迫ですか!?」

 

「違う違う、純粋な好奇心」

 

「話聞いてました? 軍上層部だけじゃなく、インダストリー社も来るんですよ!?」

 

「楽しそうだな」

 

「だから駄目なんです!!」

 

社員の怯える様を楽しみながら、イサムは再びモニターへ視線を戻した。

 

「22でここまで飛ぶ奴なんざ、放っとく方が失礼だろ。それに…」

 

「?」

 

イサムは灰色の22を見ながらぽつりと呟く。

 

「ガルドの翼がまだ空飛んでるならな」

 

その瞳は普段の少年のような輝くものではなく、どこか大人の哀愁のようなものを帯びていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

技術試験隊斯ク戦ヘリ(作者:ザクスキー2世)(原作:ガンダム)

もしも第603技術試験隊にニュータイプのパイロットが居たら、テストパイロットたちはもう少しマシな活躍が出来たかもしれないーーと言うお話▼オリ主はニュータイプ能力が高い割に、感受性が強くて残留思念の影響を受けてしまう系女子です。▼原作で死亡するキャラは、そのまま死んだり生き残ったりする予定です。▼基本的にMSIGLOO準拠ですが、一部ジオリジンの設定を持って来…


総合評価:850/評価:8.67/連載:8話/更新日時:2026年06月10日(水) 11:00 小説情報

魔改造バルキリーで銀河を駆け抜けたい(作者:萩月輝夜)(原作:超時空要塞マクロス)

C.E71年9月…連合・プラント大戦の最中一人の少女が命を落とした。▼彼女の意識が途切れたそのとき奇跡が起こった。▼一方で星間大戦から半世紀…人類は存亡を掛けて人類は種を銀河の彼方へ飛ばした。▼辺境の惑星”アル・シャハル”にて一人の少女が現れる…そこに現れたのは別世界で死んだ筈の少女…その名はエミリア・A・レインズブーケ。▼後に”紅蓮の悪魔”と呼ばれる彼女は…


総合評価:430/評価:8.75/連載:5話/更新日時:2026年04月19日(日) 22:21 小説情報

ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話(作者:陸奥九十九)(原作:ガンダム)

閃光のハサウェイの結末悲惨やな…せや!ハサウェイがアムロやシャアに影響される前にのめり込むものがあればいいんや!▼ミライさんの実家って地球圏の大企業だし、その実家で過ごしているうちにハサウェイが機械いじり(特にバイクや車)にハマって、なんやかんや幸せになるお話です。▼あんまりMSとか出てこないし、戦闘シーンなどもあんまりない予定です。▼追記:▼公式だとミライ…


総合評価:19162/評価:9.2/連載:47話/更新日時:2026年06月23日(火) 02:33 小説情報

旧型サラミスで生きる1年戦争(作者:カズkaz)(原作:機動戦士ガンダム)

ありきたりな転生ものです。機動戦士ガンダムをそこそこに知っている主人公が旧型のサラミスに乗り込み、なんとか1年戦争を生き抜こうと奮闘する物語。▼思い付きで投稿していますので続かないかもしれません。▼箸休めにご覧ください


総合評価:3098/評価:8.28/短編:21話/更新日時:2026年06月20日(土) 20:55 小説情報

名前のない距離の隣で(作者:レゾリューション)(原作:ソードアート・オンライン)

GGOで銃集めにハマっている主人公とシノンのお話


総合評価:790/評価:7.88/連載:28話/更新日時:2026年06月23日(火) 17:06 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>