何十回。いや、何百回も繰り返している。
空は晴れ、田舎の駅は人も疎ら。僕は詰め襟の学生服でベンチに座る。手帳を持つ左腕の疼痛。シャープペンシルの動きが止まる。
「いつも、何を書いているんですか?」
セーラー服の少女に話しかけられる。自然体で不安を微塵も感じさせない笑顔。人間が怖くはないのだろうか?嬉しいはずなのに言葉が出ない。
棺が開け放たれようとしていた。僕は内側から見ている。青色の病衣。
「おはようございます。MTUさん。人体実験は順調ですか?」
「順調です。既知最長人工冬眠者さん」
女性を模したロボットは屈託なく笑った。地熱により電力が供給される大深度地下施設の電子頭脳に直結された殻。何時からだったか、対応するロボットがMTUに変わったのは。
「他の人達は?」
僕が納められていた棺と同様の物が、隣に十二基並んでいるが、全てが冷たく沈黙している。
「皆さんは刑期を終え。出所されました」
僕は起き上がると人工冬眠装置の傍らに立つ。
「女の子に何と答えたら良いのでしょうか?これから千回繰り返しても答えが出そうにない」
「愛してる」
「そんな…」
「深層精神療法の内容に付きましては、お答え致しかねます」
MTUが持つ棒状の感応装置の光が僕を照らす。数年に一度は目覚めてMTUによる問診と検査を受ける。摂氏零度付近の低温状態での人工冬眠だが僅かな加齢を感じる。
「人工冬眠による昏睡刑。懲役三百年でしたね」
「はい。認知機能にも問題は無いようですね」
「次に目覚める前に人類なんか滅亡していると思っていました」
「うふふ」
僕が笑うとMTUも笑う。死刑の道もあった。しかし、司法取引で人工冬眠実験の被験者となる道を選んだ。
「人工冬眠が何かの役に立つのでしょうか?」
「人類が火星に降り立ちました。宇宙放射線による被曝の低減。食料や燃料の節約。宇宙開発に人工冬眠の技術は欠かせません」
感応装置の光が左腕の辺りにくると、MTUの動きが止まるが一瞬のこと。
「どうしようもなかった。もっと早く、沢山の人の命が奪われてしまう前に…」
少女が上気して手帳を僕に返す。
「少しだけ続きを教えて貰えませんか?あと、タイトルも教えて下さい」
逃げ出したい。二度と会いたくない。
「二人は結婚しています。獄中結婚をして彼女は死の間際に、精神を電子頭脳に配置された人工感覚質に移し替えた。そして、誰からも忘れ去られた千年の後に二人は機能を停止する。タイトルは…」