純情悪魔さんが経営しているカジノにでも入り浸ろうと思う。
「ざけんな!! さっき確変入っただろうがァアアアアアアア!!」
カジノ────すごろく、スロット、カードゲーム、バー、ルーレット。
おおよそ考えられるあらゆる娯楽が集まった素敵な場所である。
多くの冒険者がここに立ち止まり、なけなしの金をコインに変えて景品を求めて奔走する。
そんなカジノのスロットをバンバン叩く負け組がいる。
俺である。
「マイスイートハニ~~♥ スロット台を叩くのはお止めくださ~~い♥」
ディーラー姿の可愛い赤髪の美少女、ただし両側頭部に山羊の角が生えている。
臀部からは矢印風の尻尾。デーモンであり、ここの支配人だ。
名前はミロ。瞳の悪魔らしい。たしかに目がなんかグルグルしていて、それっぽい。
「だってチェリー出たんだぜ!? 確変入ってるはずだろ!!」
「それ、ただの噂だから♥ 元勇者ともあろうものが情報に流されちゃいけないんだぁ~」
「辞めたつもりはねぇけどな」
ポケットを漁る。もう1Gだって残っちゃいなかった。
なけなしの全財産がパァだ。
聖剣は聖女に返還したし、先祖の鎧も質屋に消えた。
三ヶ月スロットだけして過ごしていたとはいえ、なんでこんなことに……。
「はぁ……ミロ、仕事ない?」
「元パーティメンバーのヒモでもしたらぁ? ハーレムだったんでしょ、ハニー」
「全員に振られたよ」
”すまない。故郷に将来を誓いあった男がいるんだ”
女騎士はそう言って故郷に帰った。幼馴染らしい。知るかよ。
アレだけ乳と尻がデカい女だ。モテないわけがないと思っていたが。
”わたくし、純血を神々に捧げていますので……”
聖女はそう言って大聖堂へと戻っていった。
フリだと思って連れ出そうと思ったらガチでしばかれた。
もう知らんあの女。
”一人にしがみつくなんて我慢ならないのよ”
魔術師はビッチだった。いろんな男をとっかえひっかえするのが趣味らしい。
しばらく付き合っていたが、奴の不倫に気づいたので破局した。
そういうの良くないと思うな、俺。
「じゃあ王都で騎士でもやりなよ~なんでこんな辺境に?」
「だってカジノがあるからな」
半分嘘である。魔王を倒した勇者ともなると、そのカリスマ性は凄まじい。
絶対に王都に滞在せず旅立ってくれ、と王様に懇願されたのだ。
いや姫様と結婚させろよ、と言ったらガチで姫様に泣かれたけど。
「なぁ、ミロ」
「なぁに、ダーリン」
「俺ってそんなにキモいか?」
「う~~~ん……」
スロット台に座っている俺をジロジロと見てくるミロ。
即座にキモいって言われないだけマシだが、こう品定めされるとちょっと照れる。
「まぁこのだらしないシャツと無精髭は簡単に戻せるよね。
清潔感がないし、いかにも三十路のおっさんって感じだけど、
体は鍛えられてるしまだまだ全然イケると思うよん」
「じゃあなんで俺はモテないんだ?」
「別にイケメンでもなんでもないからかな……
キャラクリエイトで適当に作った感じ!!」
「言ってる意味がわからんが」
衝撃の事実であった。俺はフツメンなのである。勇者なのに
おもえば俺に成り代わって姫様と結婚した男はバチバチのイケメンだった。
世の中、顔なのか。クソぉ。
俺の困り顔を見て、ミロがケタケタと笑う。
本当に悪魔的な哄笑である。
「きゃはははは!! 仕方ないから魔王でも目指しちゃう~~?」
「やだよ、おっさんの悪落ちとかダセェし」
「そういうところ偉いと思うな。金持ってないのはダメだけど」
「うるせぇな……」
ともあれ、このままでは今日の飯もない。
このままではマジで闇落ちしてしまう。
俺は地面に跪き、ミロに仕事をもらうことにした。
「頼む!! 何でもするから養ってくれ!! 三食昼寝付きで!!」
「え~~そうだなぁ~~、じゃあ回収人でもしてもらおうかなっ」
「回収人?」
俺がそう言うと、ミロはごそごそと胸の谷間から一枚の契約書を出してきた。
その契約書には無数の融資と、数多の幸運───。
その代わりに千人の高潔な魂を捧げること、と書かれている。
そんな法外な契約をしたのは……。
「おい、これってこの国の王様じゃねぇか!?」
非常に精密な似顔絵と、王の名前が記されていた。
「そうなんだよねぇ。でもいつまで経っても支払いがなくってぇ……」
なるほど、もしかすると都合よく魔王を倒す勇者が現れたのも。
姫様に超絶イケメンな彼氏ができたのも。
肝心の勇者が諦めてカジノでこうして腐っているのも。
その幸運のおかげかもしれないってことか。
なんだかムカついてきたぞ。
「そろそろ脅しつけようかと思って……一緒に来てくれない?」
「俺が謀反人になっちまうわ……」
流石に謀反人になるのはちょっとな……。
たしかに王様は良い政治をしているとは言えないけど、殺すほどじゃない。
かと言って千人もの真面目な人間が殺されるのも許容できないし……。
「でも困ったなぁ。悪魔の契約ってそんな安いものじゃないのに」
「具体的に履行しないとどうなるんだ?」
「化け物になるよん♥」
「……………………」
つまり千人を殺すか、化物になった国王を殺すか。二択である。
千人殺すよりは国王に死んでもらったほうが良いだろう。
ちょうど国を継いでくれる義理の息子もできたんだし、うん。とはいえ……。
「と、とりあえず契約を変えるって選択肢はないのか?」
「ええ~~? まぁいいけど……どちらにせよ、ついてきてくれない?」
「待て。俺が勇者だとバレるとまずい」
勇者が悪魔の部下になったなんて知れたら、人類絶望だよ。
疎遠になったとはいえ、仲間にバレるのも嫌だし。
最悪の場合、討伐命令とか出されるかもだし。
それを聞いて、ミロははぁ、と溜息をついた。
パチン、と指を鳴らすと────またたく間に俺は黒い鎧に包まれた。
さらにはどこからともなく、宙に扉が現れる。
「これならいいでしょ? ハニー」
「おっけぃ。それじゃあ行くか……」
ともあれ、まぁなんだかんだ上手くまとまるだろうと思っていた。
「その悪魔を殺せぇええええええええええええええええええっ!!」
国王の食事中にお出まししてしまった。
円卓に並べられた豪勢な食事、姫様を抱きかかえて剣を構えるイケメン。
即座に入り込んでくる大勢の騎士たち。
とりあえず迫りかかってきた騎士たちに応戦することに。
鎧とともに腰に据えられた古びた剣。
それを抜かずに、殴打。殴打。殴打。殴打。
またたく間に四人の騎士が地面に崩れ落ちた。
「さっすがハニー!! これだから権力者は嫌なんだよねぇ~~」
「いいから契約の話をしろよ」
俺がそう言うと、ミロは円卓の上の七面鳥に齧りつきながら、王様に詰め寄った。
ヒゲを蓄え、王冠を頭に被った、昔ながらの古風な王様である。
「で、王様? 千人分の魂は?」
「き、貴様にくれてやる犠牲などないわッ!!」
「わぁ~~すごい高潔♥ 悪魔と契約してなきゃだけども♥」
ミロはそう言うと、円卓の間をジロジロと見る。
その興味は美しい姫君と、新たな王子候補の前で止まった。
怯えた表情の二人。王子候補くんは剣を構えているだけ偉いな。
「このお姫様でもいいよん? 千人分としては破格でしょ」
「だ、ダメじゃダメじゃ!! そもそも貴様に魂を奪われたらどうなる!?」
「こうなりま~~っす」
胸元から数多のカードを取り出すミロ。
そこには恐怖に歪む人々の顔が描かれている。
……つまりカードにするわけだ。
しかし俺を捨てたクソみてぇな国だが……流石にな。
「ミロ、悪ふざけはよせ。もうちょっとまともな取引にしてやれ」
「え~~~? しょうがないなぁ」
ふぅむ、と頬を掻くミロ。
しばらく悩んだ末になにやら思い浮かんだようで、ポンと手を叩いた。
「宝物庫の財宝と、向こう百年の幸運。これぐらいなら元手は取れそうだね」
「な、なにをぉ……!!」
「私を楽しませる芸術品を貢げば、幸運の徴収はその分減らしてあげる♥ 優しいでしょ」
「こ、こいつ……!!」
王様は右拳を震わせていたが、やがてわなわなと崩れ落ちた。
千人分の魂を持っていかれるよりはマシだと考えたのかもしれない。
「…………勝手にしろ」
「では契約修正~~っと♥ 国が滅びない程度に頑張ってね王様♥」
そう言うと、再び扉が現れ、俺達はそこに落ちていった。
王一人の幸運じゃなくて、国家全体の幸運ってわけか。
こいつ、本当に悪魔的だな……。
場所は戻り、カジノ。
普段カードゲームをするテーブル台に、大量の金貨が振ってくる。
金貨だけじゃない。王国の名のある宝物、名剣、その他いろんなものが混ざっている。
「どうだった? 久しぶりの姫様は。姫様でも良かったんだけどね~」
「いいよ、別に。適当に幸せになってくれれば」
「それは王様の貢物次第だけど♥」
こんだけ宝物に溢れてまだ足りないのか、こいつ。
……まぁ、俺が魔王を滅ぼしていなければ、この国は滅んでいただろう。
その幸運を買ったのだから、これぐらいは必要経費なのかもしれない。
「いやぁ~当分、お金には困らなさそう! ハニー、今日はおごるよ?」
「おお、そうか。だったら……」
俺は手を伸ばし、テーブルから金貨を1枚手にとった。
「今日のスロット代はタダだな」
結局、その日は1ゴールドも出ることはなかった。
反応がよかったらこういう話を続ける予定です