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ルーマニア自動車メーカー。
その中でも環境保護、そして燃費の向上に注力している企業があった。
怪異を用いた新エネルギー「ヘテロニクス」による新動力炉。だがその営業実績は芳しくない。
新世代エネルギー源はその運用方法に適していなかった。夢のような万能エネルギーであったとしても、それは、車を購入する顧客の意にそぐわなければ意味を為さない。
結局のところ、化石燃料を燃やしたエネルギーで唸るエンジンの誘惑に人間は勝てなかった。そこに求められるのは環境への配慮などではなく、合理性の入り込む余地がない
それでも。それでもと諦めきれずに続けていた開発は──頓挫した。残念なことに。打ち切られ、技術者達は打ちひしがれた。
世間の声に後押しされる形で。安全性が未知の新エネルギー動力炉よりも、過去の信頼と実績。確実な運用方法が確立された旧式エンジンによる物を選択された。
交通事故でエンジンが損傷した際の二次災害が不明な代物、保険に加入してたとしてもごめん被る代物だ。
悔しいことに──車両の燃費において極東が抜きん出ていることを彼らは痛感している。
一度は頓挫した計画だったが、近年再評価のあおりを受けていた。
顧客の見直し案。それは新社長によるものだった。乗用車としてではなく、人類のエネルギー源である食を支える形での車両開発を進める。それが功を奏し、農家の悩みの種だった燃料費と維持費の軽減に成功。
今やクリーンエネルギー源の代表的な顔としてヘテロニクスは人類に浸透しつつあった。
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「ホーウェン局長、ルーマニア自動車メーカーの本社爆破の許可を」
「出せるわけがないだろう」
──当たり前の話だが、特務執行権限を有していたとしても許可が降りるはずがなかった。
しかしホーウェンは一連の報告から手続きを進め、現在真祖討伐部隊は財団の輸送機で現地へ向かっている。
「はえ〜……」
極東から東欧支部への空の旅は貸切のチャーター機。
その操縦もファットトゥエルブの仕事だ──とはいえ自動操縦機能もあるため、離陸と着陸程度のものだが。戦闘機ではなく旅客機に近い。
長距離移動におけるストレスケアも兼ねてある程度の飲食物が備えられている。だが利用するのは財団の特殊部隊、あるいは戦闘員。酒類は置かれていなかった。緊急時に備えてパラシュートと救命ボートも完備。これを使う機会が無いことを祈るばかりだ。
当然作戦室も兼ねている。ど真ん中に置かれているのはディスプレイ一体化型のテーブルだ。
クロックナインとエヌラスが相変わらず中心となって真面目に作戦会議をしている。今はお互いの装備の話をしていた。
そこに入り込むスロウドという名前の起爆剤。持ち込んだ武器の数々に目を疑う。
「……念のため確認させてもらうが、全部所有許可申請しているのか?」
「もちろん公然武装携行許可証と紐付けてありまぁす! はいどうぞ」
疑念の眼差しを向けるクロックナインに差し出される顔写真付きのIDカード。銃器に刻印されたタグと番号も一致していることを確認するとため息をついて返した。
エヌラスもユウコも見たことがないのか眉を寄せる。
「なんだそれ?」
「オープンキャリーライセンスインサイト、通称「オシリス」の許可証」
怪異事変が世界全土で猛威を振るった。その際に自衛策として一時的に銃刀法の規制が緩和され、後に制定された制度──それが「オシリス」だ。
理論上、個人情報と紐付けられたIDカードに登録できる武装は無制限とされている。ただし、紐付けられた銃器などで犯罪行為に及んだ際は厳罰が待ち受けていた。
登録武装全没収。資格の永久剥奪。および罰金、拘禁刑だ。
携行許可証と武装を公然の場で掲示する。ナイフですら隠し持つことは許されない。もし相手に武装を奪われ、それで殺害された場合は自己責任。自己防衛意識の欠如として認識される──が、もし犯人が確保された場合も重罪に問われる。もちろん前科持ちは所有することを許されない。
スロウドが持ち込んだ銃器。
軍用アサルトライフルに独自改造を施したもの。
ショートバレルショットガン。
それとハンドガンが二挺。リボルバーとオートマチック。
そしてそれらの弾薬。正気か?
だが、IDは全て一致している。嫌な予感がした。
「……他にも持っているのか?」
「地下工房の壁一面ガンラック」
「登録済みか?」
「認可済みでーす」
クロックナインは自分が火薬庫を連れ歩いてると考える。銃火器の中にもう一つ──
「これは?」
「旅行カバンですが?」
「……そうか」
深くは聞かなかった。というか聞けない。怖くて。
気を取り直して。
「コホン。我々の状況を再整理するぞ。各員、聞いてくれ。現在我々が向かっているのは財団東欧支部だ。着陸後、ルーマニアブラックスポットであるワラキア領へ向かう」
「本社爆発は!?」
「中止だ」
「しょんぼりなえなえぽん……」
スロウドのテンションが目に見えて落ちる。
静かになったところでクロックナインは話を続けた。
「こちらには吸血鬼を探知できるユウコくんがいる。周囲の警戒をしつつ、伯爵の居城に直接乗り込む手筈だ。トゥエルブ、着陸後の運転は任せたぞ」
「お任せください、安心安全信頼と実績のトゥエルブタクシーが現地まで皆さんを無事に送ります」
冗談で茶化すが、これまで入隊してきた操舵手の中で一番腕が良いとクロックナインは確信している。
「財団東欧支部からの調査によれば、ルーマニアのほぼ全域が伯爵の手に落ちているものと見ていい。それでも表沙汰になっていないのは共生しているものと思われる」
「共生っていうか寄生では?」
「そうともいうな。作戦行動にあたり、単独での行動は厳禁。最低でもツーマンセル、二人一組で行動するように」
突入地点は北部から、南部のワラキア領を目指す形を予定していた。しかしひとつ問題がある。
「過去、財団東欧支部が戦力を投入した際は数百の被害者が出た。そして問題のドラキュラ伯爵の居城だが、大きく分けて三つの候補がある。
ひとつ、ブラン城。ルーマニア南部・トランシルヴァニア地方にある別名「ドラキュラ城」だ」
「名前からしてまんま」
「最有力候補だ。次に、ポエナリ城。断崖絶壁に建つ廃城──だったが、吸血鬼騒動の最中で再建されている」
「どうやって、どこの誰が」
「一切不明だ」
ディスプレイに映し出されるルーマニアの地形。ブラン城のポイントはほぼ中心部だ。続いてポエナリ城、こちらは東部に位置している。
「最後は」
「チェイテ城。ルーマニアから離れたスロバキアだが、こちらも吸血鬼騒動が絶えない。関連性は高いと思われる」
こちらも廃墟となっていたが、地元住民からの通報によりいつの間にか再建していたという。女性の行方不明者が相次いでいることから可能性がある。
エヌラスはその情報に腕を組んで考え込む。
「なにか気になることでも? 遠慮なく言ってほしい」
「吸血鬼にとっての吸血行為は、言ってみれば食事のようなものだろう? それにしちゃずいぶんと大食いな気がして、なにか引っかかる」
「君はオカルトハンターだったんだろう? 世界中の怪異を倒して回っていたそうだが」
「人探しのついででやってただけだ。半分くらいは八つ当たりみてーなもんだよ。だからいちいち相手のことなんか調べてない」
殴って解決、死ぬまで。
「……いや、だが。相手の移動方法が昼間は自動車だっていうならポエナリ城は除外してもいい。断崖絶壁なんだろ?」
「そうだな。交通の便で考えれば不便な場所を選ばないだろう。となると、チェイテ城かドラキュラ城だ。戦力を分散させるのは得策とは言えない」
「消し飛ばしてもいいなら俺一人でもいいですけど!」
「テメェの面から消し飛ばすぞ」
「やぁだもぉあの人こわぁい」
「なんでそんな爆発したがるんだよお前……」
「だってスカッとするじゃないですか。爆発はロマンですよ」
男としてその気持はわからなくはないが、控えるようにエヌラスは咎める。スロウドのテンションがますます下がった。しょんぼりしながら銃をいじり始める。アンダーシックスが慰めているのを横目に、クロックナインと共に東欧支部との情報をもとに居場所の特定を急ぐ。
しかし、調査を進めていくうちにますますエヌラスが難しい顔をしていた。
「クロックナイン隊長さんよ。自動車メーカーの所在地どこって言ったっけ?」
「アルジェシュ県だ」
「……ポエナリ城、どこにあったっけ」
「ルーマニア南部ワラキア地方アルジェシュ県だ……」
「突入場所、決まったな」
「そうだな」
「除外していいとか言って悪かった」
「誰しも間違いはある。責めはしない」
◆
財団東欧支部に着陸した輸送機から降りた「FF2プロトコル」部隊はそのまま特務作戦装甲車両へ搭乗し、発車した。
安心安全、信頼と実績のトゥエルブタクシーに揺られながら、ユウコは緊張した面持ちで深呼吸を繰り返す。その横顔を覗き込んでフォックステイルが手を振った。
「だいじょうぶ? 乗り物酔いとかするタイプだったりする?」
「んー、違うんですけどー。いや、なんというか、ルーマニアについてから頭痛いっていうか」
「低気圧っすね」
スロウドがエヌラスにぶん殴られて撃沈する。口を開けば殴られるとわかっててなぜ口を出すのか。それがいつまでも理解できないからこそ青天井バカと呼ばれるのだ。
ユウコの容態には全員が細心の注意を払っている。
「どんな風に?」
「う~ん……なんていうか、勝手に頭の中に周囲の声が入ってくるっているか、ノイズが多いっていうか……」
「片頭痛っすね」
スロウドは二度死ぬ。今度は顔面に靴底を押しつけられて床に倒れた。
「どうせ踏まれるのなら俺はフォックステイルお姉さんに踏まれたいっ!」
「ちくしょうこいつ雑草ばりにしぶてぇな!!!」
「えー、どうしよっかなー。うりうり~」
特殊部隊戦闘服のコンバットブーツでぐりぐりと頬を突かれる。ユウコはドン引きしていた。なにがいいのかまったく理解が及ばない。可能なら近づかないでほしい。
「あ! 痛い! これ思ったより痛い! ブーツの裏のスパイクが地味に痛い! すいませんチェンジで!」
「おふざけはそのへんにしておいてくれ、スロウド君。これから我々が突入するのはドラキュラ伯爵の居城だ」
「うーん、アルジェシュで一泊したほうがいいと思いますけどね」
「ブラックスポットのど真ん中にか?」
「向こうからしたら飛んで火にいる夏の虫ってやつですよ。袋のネズミの方がわかりやすいですかね? そもそも難攻不落の要塞って話ですし」
それこそヘリや飛行機で上空から突入できないか、という話も持ち上がったが東欧支部から許可が降りなかった。そのため陸路での突入を余儀なくされている。
難攻不落の要塞と名高いポエナリ城はかつてヴラド・ツェペシュがオスマン帝国との戦いで用いたと知られていた。これを攻め入るのは容易なことではない。現代火器を用いてどのように攻略するのかが鍵だ。
山脈にほど近く、アルジェシュ渓谷にあるポエナリ城は周囲を見下ろす形で君臨している。これではどのような進行ルートを取ったとしても一目瞭然だ。となればいっそ開き直って、最短距離を堂々と突っ切るのもひとつの手かと考える。
「山崩しましょうよ。土砂災害で過去に城ぶっ壊れてるって話なんですし」
「ちょっと黙ってろ
「しょんぼりぽん……」
どうしてそういちいち発言内容が過激派なんだ。ファングもファングだ。所長というのなら自分が率先して同行してくれればいいものを。なぜよりによってスロウドを寄越したのか。
どうせ利用者なんていない便利屋だろうに。一週間滞在して来客はゼロだった。退屈通り越して本当に営業してるのか不安にすらなる。
「──東欧支部と連絡がついた。アルジェシュで宿を押さえてくれたらしい」
「ぃやったー!」
「観光はしないからな」
「しなしなシンナー、テンションダウナー、やる気しょんぼり」
「呪文を唱えるな」
心底不安になってきた。
相手は吸血鬼だ。こちらは噛まれたら一巻の終わりだということを理解しているのか、スロウドは。エヌラスはため息をつく。ユウコは相変わらず調子悪そうにしている。
前途多難だ。──ひとりでやっていた頃はこんな気苦労を背負うこともなかったというのに。