石橋慎美は未だかつて男性と付き合った事がない。
しかし、5年前にお金を払って女性用風俗に行き、
そこでラストバージンを済ませていた。
男性なら素人童貞の一言で済むこの状態を、
なかなかうまく伝えられないもどかしさ。
彼女は他人に説明する事に疲れていたのだった。

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素人童貞の女性バージョンを考えてみた

素人童貞という言葉がある。

プロのお姉さんに筆下ろしを済ませて貰ったが、恋愛経験は0という男性を表す言葉である。

私、石橋慎美はその女性版と言える存在だ。

いやまあ、そりゃあ恥ずかしいとは思う。

「女だったら誰でもイイ」

と公言する男が一定数いる中で、相手を見つけられなかったのだから。

あまりに男性にモテないからと、

決して安く無い金額を払いプロのお兄さんに開通して貰ったのだ。

もちろん、セックスに興味があった。

それが動機の大半である事は間違いない。

あと、経験さえすれば、自分にも「大人の色気」が身につくかもしれないとの淡い期待もあった。

モテたい。

でも、色気が足りない。

性の経験があれば色気が出るらしい!

でも相手がいない。

相手を得るためにモテたい。

この永遠に終わらない無限ループが私を苦しめていた。

日々悶々とする中で、その選択肢が唯一私に性の扉を開いてくれたのだ。

だから、後悔はしていない。

色気は結局身に付かなかったけど、貴重な体験をさせてもらえた。

お兄さんから聞いたけど、女性の風俗嬢と違い、

男性の風俗スタッフはルックス、トーク、テクニックなど、

様々なスキルを求められるらしい。

女性を心身共に満足させられるスタッフじゃないと即クレームなのだとか。

 

何が言いたいのかというと、スゴかったのだ。

当時未経験と言っても、十数年のソロプレイ歴を誇る私が、

まさになす術もなく快楽の波に翻弄された。

「おねぇさん初めてだからサービスするね」

と言ってくれたが、過剰過ぎるほど過剰なサービスだった。

今でもあの夜を思い出すとご飯三杯は軽い。

ただ、その後3度ほどプロのお兄さんのお世話になったが、

あの時のお兄さんと比べると、正直イマイチな満足度だった。

初めのお兄さんは、自分でも、

「俺知っちゃうと、もう他では満足出来なくなるよ」

と言っていたが、あればセールストークではなく、

本音だったのかもしれない。

兎にも角にも、私の中でセックスに対しての憧れは解消出来た。

なので、モテないままではあっても、

なんだか心に一区切りついたのだろう、

あれから5年、相変わらず彼氏ができた事はないが、

以前のように悶々とする事も減り、それなりに人生を楽しんでいる。

 

恋愛経験が皆無なのも、最近では開き直って、

仲間内でネタにすらしている。

しかし、女性版素人童貞をさし示す適当な言葉が無いので

いつも説明がまどろっこしくなってしまうのが難点だ。

女性用の風俗について先に話すと、嫌な顔をする人や、

風俗についての質問が矢のように飛んできて、

恋愛未経験である事を言いそびれてしまい、

逆に恋愛経験豊富な女と思われる事もあった。

明らかにモテてない女が恋愛強者ぶってると思われるのは

余りにも恥ずかしすぎる。

かと言ってモテないって所から話を始めると、

「そんな事ないでしょー」

「石橋さん、すごいイイ人なのにー」

などと、同席した人たちに無駄な気を遣わせてしまう事になり、

非常に申し訳ない気持ちになる。

中には、

「そんなのに頼るなんて、何か思い詰めているんですか?」

と余計な心配までしてくれる人までいる。

「いや、そんな重苦しい話じゃ無いんだ、

ただエッチというものをしてみたかっただけなんだ」

と否定しても、普通に生きているだけで、

普通に異性と付き合えて、

普通にエッチまで出来る人には、

相手がいないという状況が理解出来ないらしい。

「そんな事言って!昔の彼に酷い目に遭わされたとか?」

といた事もない元カレまで妄想し出す。

いや、元カレがいたらこんな苦労はしませんて。

私としては

「女性用の風俗で経験済みだけど、恋愛経験は皆無」

というキャラで立ち回って手っ取り早く笑いを取りたいだけなのだ。

そういうキャラである事を大前提として皆んなに弄って欲しいのだ。

なのに、いつも説明の段階でモタついて話が進まない。

 

そう、私は女性版素人童貞を言い表す新たな呼称を求めていたのだ。

初めて聞く人にもなんとなく意味が通じて、

かつ普通の会話で使ってもあまりエグくない呼び名。

そこで、特に仲の良い友人達にいい呼び名が無いか考えて貰うことにした。

「えー、素人童貞の女バージョンなら素人処女じゃない?」

中1で初体験を済ませたという早苗がハイボール片手に言っている。

「うーん。女の場合、素人、玄人ってつけると風俗嬢ってイメージ

がついて回っちゃう気がするんだよねー」

と私が言うと、

「あー分かる。なかなか買う側ってイメージにならないよね。

んー要は経験はしたけど、恋愛は全くのウブってニュアンスだよね。

逆コナンってのはどう?」

男性経験3桁を豪語する盛子が串カツにかぶり付きながらも

アイデアを出してくれる。

「え?どう言う事?…あっ『体は大人で、心は子供』って事ね。」

皆んな、一瞬間を置いてから理解する。

「面白いじゃん!ならこんなのどう?膜無し処女(まくなしおとめ)!

幕張メッセみたいな言い方で、語呂良くない?」

上司と絶賛不倫中の貞絵がふざけるように言いながら、枝豆を食べている。

「膜無しって。ど直球ね。それ、私,好きかも」

と私は気に入ったが、他の3人はやや引いている。

どうやら賛否が分かれる呼び名のようだ。

「うーん。やっぱり万人ウケする言い方、他にないかなー」

とみんなが悩んでいると、

婚約者と別にセフレがいる又代がシーザーサラダのトマトを

盛子に押し付けながら叫ぶ。

「じゃあさ!ペーパー非処女なんてどう?

教官(プロ)同乗で高速道路に出たりもしてるけど、

独力では車乗ってないみたいな感じ!」

又代としてもなかなか満足なアイデアの様で、少しドヤ顔をしている。

「良いね!」

「それ!ピッタリ!」

「いいじゃん、それ!」

と皆んなも気に入ったようだ。

 

数日後、

会社の飲み会が行われる。

今回初めて飲む人もいて、ペーパー非処女という呼称を

使う絶好のチャンス到来!

満を持して飲み会に赴く慎美。

しかし、そこには社内でも二枚目で有名な、営業部の流星が。

あまりのイケメンオーラに非モテの慎美もトキメキを抑えられない。

甲斐甲斐しく流星の周りで料理を取り分けたり、

お酒を注いだりと忙しい女性社員達。

慎美もその一人だった。

結局、その日、ペーパー非処女というキャラは

完全に封印されたまま終わるのであった。

 


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