余命一年なのでグレたアイドルの終活プロデュースして死にます   作:はつぼし たろう

8 / 8
今回全然登場しませんが今日は雨夜燕さんの誕生日です。おめでとうございます。
いずれ出演していただきたいと思います。


第8話 レッスンの日々、一歩一歩

 賀陽さんのアイドルとしての能力について考える。

 

 まずもってボーカル、ダンス、ビジュアルのどれもが高水準であることは間違いない。

 高等部一年にしては、なんて枕詞はまったく不要で、初星学園の全生徒の中で少なくとも上位一割に食い込むと見ていいだろう。もっとも、それは『SyngUp!』時代の100点を取り戻した状態で、という話だが。

 

 もう一つ考えたいのが、他生徒との比較でなく彼女の能力同士の比較、つまりボーカルダンスビジュアルの三つの能力でどれが優れていてどれに課題があるかという点だ。

 

 それぞれのレッスンを実際に見てきた上でのおれの感覚では、各能力の差はそこまでなく、強いて言うならボーカルが少し抜けているかな、という印象だ。

 ただ、人によってはダンスを上と見る向きがあってもおかしくないと思うので、相対的にはビジュアルで売るアイドルではないのかな、というのが結論である。

 

 うん、本当に歌とダンスについては、プロデューサー目線であればプロデュース方針の差で評価が変わる――いや、ほとんど好みの差と言っていいと思う。

 

 つまり、おれは賀陽さんの歌が結構好きだということである。

 

「――うん、素晴らしい! 音程のブレもほとんどなくなって、発声もどんどんよくなっていますよ、賀陽さん」

「ありがとうございます」

「……プロデューサー? さっきから後ろで腕組みしてしみじみ頷いているだけですけど、貴方からもちゃんとアドバイスをしてあげてくださいね?」

「あ、すいません、普通に聞き惚れてまして……賀陽さん、本当に歌が上手いですねぇ」

「そんな小学生でも言えるような感想……もうちょっと何かないの?」

 

 ボーカルトレーナーさんからちくりと刺され、とりあえず素直すぎる感想を述べたら賀陽さんからも呆れられてしまった。

 

 しかし、トレーナーのいる場で言えるほどのことはないのだ。

 プロデューサーにだっていろんなタイプがいて、技能的なことをよく勉強して具体的なアドバイスをするのが得意な人もそりゃいるが、おれは基本を押さえている程度でしかない。特に、歌に関しては自分自身が得意でないのもあって教科書的なことしか言えないのである。

 

「まぁ、それでも強いて言うなら、賀陽さんがもっと感情を込めて歌う姿が見てみたいですね。個人的な願望です」

「う、うーん、願望と言われてしまうとちょっと困りますが、そうですね、歌に感情を乗せるようにすればもっと素晴らしい出来になるのは間違いないですよ」

 

 ほとんど私欲をひけらかしただけのおれに苦笑いしつつ、しかしボーカルトレーナーさんもおれの願望に賛同する。

 

 が、それを聞いた賀陽さんはと言えば、何やら難しそうな顔をしている。

 

 ……いや、()()()ではなく、理由はわかっているのだが。

 

「賀陽さん、できないのではなくやっていないだけ、というのはわかっています。ただおれは、引退の場で最後に届ける歌がそれじゃあもったいないと思うんですよ」

「……そうは言われても、ね」

「もちろん、その時になれば否応なく溢れるものがあるでしょうけどね。だから心配はしていませんが、一応伝えておいた方がよいかなと」

「それも、考えておけって?」

「そうですね、そういうことにしておきましょう」

 

 賀陽さんは、あからさまに面倒くさそうなため息をつく。

 

 おれは、ボーカルトレーナーさんと顔を見合わせて、苦笑いをしたのだった。

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

 次の日はビジュアルレッスンだった。

 今回もビジュアルトレーナーさん付きのレッスンで、これが二回目になる。

 

 ビジュアルとはつまり()()()だ、とは以前に定義した通りだが、それを踏まえると現時点でのビジュアルレッスンというのは少々難しいところがある。

 

 今後もアイドル活動を続けていくのであればいくらでもやることはあるのだが、今の賀陽さんが姿を()()()予定として確実なのは引退ライブのみ。

 そしてそのライブはまったく具体化していない状況であり、むしろそれ以前の他での露出は慎重に……なんて話をつい先日したばかりなわけで、ぶっちゃけやることが少ない。

 

 まぁ逆に言えば実際にライブの計画を立てる段階になれば演出等々を考えて、それを最高の形で実現するために一番重要なレッスンになるのだが……現時点ではヨガやストレッチなど静的な運動で身体を動かしつつ、トレーナーさんと会話しながら中等部でもやってきたであろう基礎を固めなおしている状況だった。

 

「トレーナー、このアイドルのライブの、この演出なんですが……」

「んー? どれどれ……わーお、すごいアクロバティックね。こういうのがやりたいの?」

「いいえ、ここまでは。ただ、このライティングが良いなと思って、他の形に落とし込めないかなと」

「なるほどね、するとまずは……」

 

 ……と、しかし賀陽さんはそれでも真剣に、積極的にこのレッスンの時間を使っていた。

 

 本人が前に言っていたようにレッスンが好きだからか、あるいは根が真面目だからか……たぶん、両方だろうとおれは思っている。

 

「……いててっ」

「あ、ちょっとプロデューサーちゃん、あんまり無理に伸ばしちゃダメよ。ゆっくりじっくりでいいんだから」

「や、すいません、前はもうちょっと行けた気がして……」

「あなた、身体硬いわね。お風呂上がりとかに柔軟するだけでも違ってくるわよ」

「へい……」

 

 で、それはそれとして、やっぱりボーカルやダンスのレッスンと違って時間を持て余し気味なため、おれも一緒になってヨガをやっていた。

 

 いやはや、健康な頃は適度に筋トレなんかしていたのだが、この半年でかなり体力が衰えたものだ。

 日常生活を送ってるだけでも感じていたものの、なんか身体も硬くなってるし。

 

 激しい運動は禁物、しかし逆にまったく身体を動かさないというのもよろしくないらしいので、ヨガは最適だと言えるだろう。まぁ担当アイドルと一緒になってやっているのはわけがわからないが。

 

 やわらかいヨガマットの上でなおもヒ―ヒー言いながら腕や足を伸ばしたり縮めたりしていると、ふと燐羽さんが近づいてきて、意地の悪い笑みを浮かべながらおれを見下ろした。

 

「……なんです?」

「知ってる? 柔軟って、一人でやるよりも誰かと一緒にやる方が効果的なのよ?」

「はぁ、まぁ、そうでしょうけど。賀陽さん、ちゃんと自分のレッスンに時間を使ってくださいね」

「息抜きよ」

「じゃあちゃんと息を抜いて下さ――あいだだだだだだだ!!! 死ぬ!!! 身体壊れて死ぬ!」

「ちょっとプロデューサーちゃーん、あなたのそのジョーク笑えないからやめてよー」

 

 じゃあ止めてくださいよこの悪い子を! ビジュトレさん!

 

 

     ☆ ☆ ☆

 

 

 さらに次の日はダンスレッスン。

 トレーナーなしの自主レッスンで、メニューは前回時点でダンストレーナーさんから指摘のあった内容を元に賀陽さんとおれとで相談して決めた内容になっている。

 

 賀陽さんはセルフプロデュースに長けている、というのは以前も言及したことだが、それはレッスンのメニュー作りのような細かな点にまで及んでいる。

 

 つまるところ、彼女は自分を客観視する能力が非常に高いのである。

 

 自身がどう振舞えばどう見られるのか、どういう印象を与えられるのか。

 そして、目標、目的に対して何がどこまで必要なのか。

 そういった自己分析が常に的確なのだ。

 

 賀陽さんはおれの前で、適当に選んだらしいアイドルの曲をかけて踊っていた。振り付けは、ライブの映像を何度か見ただけで完コピしたらしい。

 

 最初のダンスレッスンに比べると、既に見違えるほどにキレが増していた。

 ターン、ステップ、指先、視線……既におれの目では粗が見つけられないほどで、初めは一番足を引っ張っていただけに、それをあっという間にここまで戻してしまう賀陽さんのポテンシャルには惚れ惚れしてしまうほどだった。

 

 三分三十七秒、賀陽さんは最後のポーズと共におれへ視線をやって、一曲をフルで踊りきった。

 

「……ふぅ。どう?」

「完璧ですね。アイドルを辞めてもダンス一本で食べて行けそうです」

「それはどうも。ま、このフリは私向けじゃないけれど」

「と、言うと?」

「もっと背の高い子の方が映えるって話よ。たとえば、あなたの十王さんとかね」

「おれのじゃないですが、まぁ一理ありますね。しかし賀陽さんも手足が長いですから、十分迫力がありましたよ。表現力の賜物でもあるかと思います」

「はいはい、一応誉め言葉として受け取っておくわ」

 

 いや、一応も何も褒めてるんだけどな……もっとわかりやすく褒めた方がいいだろうか? 絶対に嫌がられると思うが。

 

 賀陽さんが一旦休憩に入ったので、おれはおれで所感をレポートにまとめるなどする。

 後でダンストレーナーに報告するために見直すので、とりあえず思ったことはどんなに小さいことでも書き留めていく。

 

「……ねぇ、プロデューサー」

 

 タオルで汗を拭いていた賀陽さんが不意にちらりとおれを見て、話しかけてくる。

 

「はい、なんでしょう」

「あなたの目から見て、今の私は……()()まで戻せてる?」

「90点。あなた自身も、そのくらいの見立てでは?」

 

 特にもったいぶらずにスパっと答えると、賀陽さんも少し逡巡してから頷いた。

 

 自己分析に優れた彼女の同意はむしろおれの回答の答え合わせのようにも思えたが、どんなに客観視が得意でも他人目線の評価が全く不要なわけではない。

 むしろ、それを切り捨てるような人間は客観視が得意だと思い込んでるだけの危うい人だと言えよう。

 

 ともあれ、ここに至ってもお互いの認識が合っているのは良いことだ。

 アイドルとプロデューサーで現在地の認識が食い違っている、なんていうのはよくある不和の元だから。

 

「思っていたよりも早いわ」

 

 と、賀陽さんは呟く。

 おれはそれを肯定しつつも、しかしと反論した。

 

「あと10点分が同じペースで埋まるわけではないでしょう」

「それでも、目安にしていた丸一か月はかからないわね。……想像以上に、レッスンが充実していたから」

「それは幸いでした。遅れるよりはずっといいですから」

「ええ……あなたのおかげだわ」

 

 賀陽さんが出し抜けにそんなことを言ったので、おれはちょっと驚いてしまった。

 

「……え、なんでそんな急にデレてくれたんです?」

「ハァ? デレとか……そんなんじゃないんだけど? 私はただ、事実を口にしただけ。あなたがトレーナーたちに忠告していたんでしょう、私にアイドルを辞めるのはもったいないだとか言わないようにって」

「それはまぁ、そうですが」

「どうせ、うるさく言われるんだろうって思っていたのよ。でも、ちょっと気味悪く思うくらいそれがなくって……それが思っていたよりも、ずっと快適だったから」

 

 お、おお……デレ、だな?

 

 まぁ実際、賀陽さんが快適にレッスンができるようにと気をまわしたのは確かである。

 トレーナーさんたちは本当に悪気なく、賀陽さんのためを思ってそういうことを言ってしまうだろうと思ったから、お互いのためにとあらかじめお願いしておいたのだった。

 

「……せっかくのタイミングなので言ってしまいますが、レッスン、下手にセーブしなくてもいいですよ」

「……どういうこと?」

「ですから、100点をゴールにしなくていい、ということです。引退は夏、というのは既に告知していますから、それまで好きなだけレッスンしてください。そうして付いた実力をどこまで披露するかは後で考えましょう。妥協しない、という方針とは少々矛盾しますが、それが足かせになってレッスンをセーブするのでは本末転倒ですから」

 

 賀陽さんを焦らせない、あるいはアイドルを続けさせようとしているかのような誤解を彼女に与えないために設定した1()0()0()()の目標だったが、少しは信用してもらえたであろう今ならそう提案しても大丈夫だろうと思った。

 

「周囲からの目は、これからもおれが可能な限り調整します。賀陽さんは自立していますから、そういうことでくらいはおれを困らせてください。それでこそプロデュースのしがいがあるってもんです」

 

 むんっ、と力こぶを作るようなポーズをしてみせると、賀陽さんは呆れたように笑った。

 

「……ええ、わかった。言ったからには、覚悟しておきなさいよ。あなたのところに、なんで賀陽燐羽を引退させるんだって文句がめちゃくちゃ届くようにしてあげるから」

「望むところです」

 

 

 ――賀陽さんとのレッスンの日々は、こんな感じで少しずつ前に進んでいくのだった。

 

 




日間ランキング6位、新作ランキング5位ありがとうございます!
一桁取れると思ってませんでした!
すべては読者の皆様と学マ水曜日のおかげでございます!

評価、お気に入り、感想など引き続き頂けると励みになります!
必ずやプロデューサーを死に至らしめますので是非よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『SyngUp!』のプロデューサーは足を引っ張ると殺される(作者:プロデューサー科のもの)(原作:学園アイドルマスター)

『学園アイドルマスター』の世界に転移した、元社畜のプロデューサー科1年生が、『SyngUp!』に脳を焼かれてプロデューサーになる話。▼なお、足を引っ張ったら殺される。▼基本土日の20時更新▼※調べ不足なところもあるかもしれませんが、オリジナル設定としてゴリ押す場合があります。▼※『学園アイドルマスター』の最新話までのネタバレがある場合があります。ご注意くださ…


総合評価:10390/評価:9.03/連載:92話/更新日時:2026年05月17日(日) 20:00 小説情報

「酒寄?酒寄なら俺の隣で寝てるよ」芦花「は?」(作者:ソリダコ)(原作:超かぐや姫!)

「酒寄?酒寄なら(日頃の疲れと寝不足の状態で満腹になったからか勉強中だったんだけど)俺の隣で(電源が落ちたかのようにぐっすり)寝てるよ」▼そんな(?)お話▼メインで投稿している作品が詰まってる最中に超かぐや姫に脳を焼かれて衝動的に書いたお話▼小説版未読でヒロインもオチも何も思いつかない状態で書いたお話なので突っ込み所満載だと思うので温かい目で読んでください


総合評価:7752/評価:8.9/連載:5話/更新日時:2026年05月14日(木) 20:00 小説情報

不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。(作者:RGN)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、かつての仲間は全員上位種で、色々と主人公への感情を拗らせまくっているものとする。


総合評価:3789/評価:7.92/連載:5話/更新日時:2026年05月12日(火) 23:48 小説情報

うわっ、前からタケノコが!!(作者:七夕ナタ)(原作:超かぐや姫!)

▼ 激闘のオンパロス編終わったヤッター!▼ 永劫回帰は強制参加!ハピエンにするまで終われまてん!もこれにて終了!▼ ▼ そんな旅を終えて、癒しを求めて臨時休暇という名目で列車を飛び出したナナシビト。果てのない宇宙へバカンスにでも行こうと意気込んでいたら、銀河を爆速で飛行する『光るタケノコ』に宇宙船が狙撃された一般通過転生宇宙人のお話。▼


総合評価:6882/評価:9.02/連載:12話/更新日時:2026年05月20日(水) 21:31 小説情報

数千回目のループに疲れたので休暇をもらったら、何故かみんなの様子がおかしくなりました(作者:ド級のリトライ)(原作:ブルーアーカイブ)

繰り返し、繰り返し、繰り返す。▼彼───輪廻カイトは繰り返してきた。▼全ては世界の運命(バットエンド)を変えるために。▼全ては全員(みんな)が笑っていられる未来(ハッピーエンド)を実現するために。▼しかし、彼も人間。ときには休息が必要だった。▼「というわけで、ちょっと疲れたので休みます。バケーションじゃ〜!!」▼これは、ハッピーエンドを目指して何千回と繰り返…


総合評価:3987/評価:7.97/連載:7話/更新日時:2026年02月05日(木) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>