ジャンク屋ジードと拾われた少女 作:増えることに飽きたプラナリア
目覚めた時、プルスリーが見たのは暗いコクピットの中ではなく、少しだけ寂れた印象を受けるくすんだ白い天井だった
体が鉛とかしたようなけだるさと鈍い痛みを感じながらも、ゆっくりと首を右に回せば、自分の腕につながる点滴が見える。そこで自分が誰かに助けられたことを理解した
その時、プルスリーは自分の左側から人の気配を感じ、ゆっくりとその方向へと首を回す
「ぐぅ…んにゃむにゃ……」
そこにはくたびれた黒の革ジャケットにカーキ色のズボンと水色のシャツを着た、少し派手なツンツンヘアーをした若造の印象を感じさせる、少し強面の顔つきながら威圧感は全く感じさせない、といった感じの男がプルスリーの隣で椅子に座ったまま居眠りをしていた。その様子には自分を警戒しているようには到底見えず、無防備な姿を曝け出している
「………」
そんな男の姿を、プルスリーは不思議そうに眺めていた。今まで自分が見てきた大人というのは科学者か軍人かマスターの三択で、その誰もがこんな間抜けな姿を晒したことはなかったがために、未知に触れた少女は男のことを不思議そうに眺めていた
「んぐぅ……むにゃ……んん?」
そうして少しの間男の顔を不思議そうに眺めていると、プルスリーの視線に気付いたのか間抜けな声をあげて男が瞼を開けた
いわゆる中途覚醒という状態にある男はいまいち状況を理解できてはいない様子で、その眠たげで間抜けな顔はプルスリーにとっては面白い、という意味で初めての衝撃を与え
「……ぷふっ!あはははは!」
このように彼女の顔を破顔させるに十分なエンタメとして機能した。そしてその笑い声を聞いたことでようやく覚醒を果たした男は、今まで看病していた少女…プルスリーが目覚めたという事実を理解し
「お? おぉ起きたのか!? 大丈夫か?? なんかどっか痛かったりしないか?」
と、自分が今笑われていることに気づいていないのか一番にプルスリーの容態を案じてそう声をかける男。そんな男になんとか答えようと込み上げてくる笑いを必死に堪えながら
「ぷっ、くく…だっ大丈夫だよ! ぷふっ! 結構楽、だよ…!」
と、なんとか答えることに成功する。そしてその答えを聞いた男は安堵の息を吐きながら
「そうか、なら良かったよ……」
心の底から喜んでいるのが滲み出た声質でそう口にしながら、男はゆっくりと椅子に座り直す
「ねぇねぇ、おじさん」
と、ひとしきり笑ったことで波の引いたプルスリーが男に話しかけ、男はなんだ? と話を聞くために少しだけプルスリーの方に体を傾ける
「おじさんが私のことを助けてくれたの?」
と、少しだけ不安そうにプルスリーが尋ねる。それに男はゆっくりと頷き
「あぁ、そうだ。たまたま近くにいてな。通信が聞こえたから急いで探し回って……助けたんだ」
探し回って、から少し言い淀むように口を閉ざし、流石に眉間に皺を寄せた男は、そこから何か決意を込めるようにしてそう答える。それを聞いたプルスリーは
「じゃああたしの命の恩人だね、おじさんありがとう」
と、プルスリーは精一杯の笑顔を見せて御礼を述べる。その健気な……男からは痛々しいものとして映るその姿に、微かに男の口が震える
「…お礼なんていらないさ、子供を助けるのは大人の義務ってやつだからな」
と、男はプルスリーに当然のことだと告げる。それを聞いたプルスリーは微かに微笑んだ後
「そっか、やっぱりおじさんは初めて会う人だ」
と、一つの感情だけではない、測りきれない複雑な思いを込めた瞳で男を見るプルスリーの表情に足しな疲労の色を見出した男は、向けられた瞳の重さから抜け出すために高声をかけた
「まだ起きたばかりで疲労も抜けきってないんじゃないか? もう少し寝てていい、ここがどこで、俺が誰で、そして何処に向かっているのかについてはその時にきちんと話すから」
と、席から立ち上がりそう話す男に対し、少女はゆっくりと頷くと顔を再び天井へと戻しながらこう答えた
「うん、信じるよ、おじさん」
その言葉は今出てくるには少し不自然で、しかしそこには明確な意図があるのだと気づいた男は、プルスリーの答えに少し悩んだ末にこう返した
「当たり前だ」
それを終わりの合図としてプルスリーは小さく微笑んで目を瞑り、男は医務室を後にした
「くそ!」
医務室をでてブリッジに戻った男は、操縦席に悪態をつきながら乱暴に座り、クラウン号の現在位置を確認しつつ通信回線を開いて相手を呼び出そうとする
その傍で、悪態をついた原因…と言う言い方は少し語弊があるかもしれないがプルスリーのことを思い返し、ますます彼女を兵器として活用したネオ・ジオンの人間たちに対して殺意を覚えていた
見た目で判断する限りプルスリーは15歳に届くかも怪しい印象だったのだ。つまりネオ・ジオンの軍人たち……いや、人でなしたちは戦争に勝つためだけに本来ならば親の愛情を一身に受け、健やかに育ててもらう権利を持つ子供を利用したことになる
更に男を不愉快に…いや憤らさせていたのは量産型キュベレイに乗っていた、プルスリーと瓜二つの少女たちのことだった
3人ともすでに生き絶えていたが、その死に際の顔には明確な恐怖と涙が浮かんでおり、想像を絶する思いを戦場で味わったことが容易に想像できた。そんなプルスリーに瓜二つのしょうじょたちが、プルスリーと同じ機体に乗っていたのだ
まさかクローン兵士なのか? と、男は最悪の想像を働かせてしまう。そのタイミングで呼び出していた相手の顔がモニター上に表示された
連邦軍整備班の証であるオレンジ色の制服のズボンを着用し、上はルナワンと英語で書かれたTシャツにネックレスと丸いサングラスをかけた、肩より少し上まで伸ばした癖毛が特徴的な少し陰の気を携えた男が現れる
彼はバーカス、一年戦争の前から軍隊で一緒だった奴で、メカニックマンとして戦闘機やMSの整備を担当していた
「や、連絡くれたってことは仕事終わったんだよね? 今回の収穫はどんな感じ?」
と、バーカスは普段通りと言わんばかりに砕けた調子で、期待を表に押し出しながら男に尋ねる
「あー……とんでもないお宝ととびきりの厄ネタを収穫できたね」
と、少しだけ申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた男の言葉に、期待がいつものかぁという落胆へと変わりながら肩落として背もたれに体を預けたバーカスは、ため息を吐きながら
「なんでそう君は厄介なものを拾ってきちゃうのかなぁ〜〜……」
と、嘆くように男に言い放つ。それに男は対して悪びれた様子もなく
「お宝に関しては噂でも出てきてないネオ・ジオンの最新鋭機が新品で手に入った。いますぐにでも戦闘可能な状態の、マジもんのお宝だ」
と言うと、バーカスは目の色を変える
「本当かい!? さっすが君だね!!!」
と、目の色を変えたバーカスが食い入るように画面に近づくも、続けて男が告げた言葉に心を破壊される
「厄ネタに関してはキュベレイの派生っぽいMSに乗ったニュータイプと思われる外見が瓜二つの女の子たちを回収した」
「………え?」
時が止まったように硬直したバーカスに対し、俺はもう一度同じことを言おうとする
「いや違う聞こえてなかったとかもう一度言えって意味じゃなくてね? は? え? なんでそんな見ただけでわかる厄ネタを拾ってくるの君は?」
それをぶった斬ってバーカスはそう男を責める。それに対して渋顔を作ったままの男は一言
「まだ小学校に行ってるような幼さの女の子だったんだ」
そう答える。その声の重さ、表情、雰囲気を感じ取ったバーカスは、告げるべき言葉を即座に思いつけはしなかった
「ネオ・ジオンの新型を起動して奪った時、無線で聞こえてきたんだよ。今にも消えそうな声で…でも懸命に生きようともがいてるあの子の声が」
表情がさらに険しくなるのを見たバーカスは、表情を真顔へと変えて席に座り直す
「助けに向かえば、そこには田坂を求めてた女の子に寄り添い、守るようにして沈黙する3機のMSと、身を守るように体を抱いて蹲ってる1機のMSがいたんだ」
当時の状況を思い出し、うっすらと歯が見えるほどに食いしばる俺の怒りの表情にバーカスは沈黙を保つことで話を聞く姿勢を見せる
「3機の方は、俺が助けに来た時点でもうパイロットは生きちゃいなかったよ。皆蹲ってるMSの方に手を伸ばしてさ。泣いてたんだ…」
あの時に見た3人の表情を思い出し、位マニも噴火しそうだと言わんばかりに怒りの形相で歯を食いしばる男、その様子に、言葉以上のものを汲み取ったバーカスも表情を微かに歪めた
「3人ともそっくりだったよ。まるで全員が同じ製品のロボットみたいにさ。そして唯一生き残ってくれた女の子も、亡くなってた女の子と瓜二つでさ……」
目を伏せ、必死に感情を抑えながら語る男の声には、はっきりと熱が込められていた
「ほんとならさ、学校で友達と勉強して、アイスクリームみたいなお菓子を食べながら一緒に遊んで……そんな当たり前の日常を過ごす権利のある子供が、大人の都合で兵器として徹底的に使い潰されたっていうクソみたいな現実を見せつけられて……」
助けない選択肢があるのか。男が最後に放った言葉の重みは尋常なものではなかった。プルスリーたちに対する深い憐れみの感情と、ネオ・ジオンの人間たちに対する激しい憎悪と怒りをこれでもかと盛り付けた声に、バーカスもまた、ネオ・ジオンに対して……少なくとも不快感を感じるとともに。男の問いかけに対して即答することができず、その迷いを示すように小さく唸る
「だからあの子達全員を救助して、治療したんだ。あのままあそこにいたんじゃ、亡くなった子達が落ち落ち安心して眠ることもできないだろうし、万が一俺以外の誰かが彼女たちを見つけても、助ける理由が終わってる可能性もあったわけだしな」
と、険しい表情のままに話した男の言葉に、バーカスは一応の同意の意思を示す。それを受けて男は続けて
「………なぁバーカス」
と、彼を説得するために男はさらに言葉を続けようとするも。それをばーかさの呆れたと言わんばかりの深いため息が止めた。
「はぁぁぁぁぁぁ……全く、僕が選んだバディは本当にそんな生き様してるよね? ま、それがいいと思えて付き合ってる僕も大概だとは思うけどね」
と、そう言って笑うバーカスに、男はそれまでずっと渋顔だった表情をようやく柔らかな笑顔へと変化させ
「お前ならそう言ってくれると思ってたぜ、相棒」
と、サムズアップしてみせる。それにやれやれと肩をすくめたバーカスは、しかしそれに対して少しの嬉しさを表すように口の端を笑顔に歪めながら
「とりあえず使えるものは全部使わなきゃダメだね。今回のネタは厄ネタとしての規模がおっきすぎるよ」
と、男の選択を全うさせるために、バーカスは建設的な議論をしようとそう切り出す。それに男は頷き
「今回に関しちゃ、使いたくないがじいさんのツテを頼ろうと思う。あの人ならこれが下手に軍や月に渡ることの危険性を理解して、こっちに丸投げしてくれるだろうからな」
と続け、バーカスは
「まぁそれしか選択肢はないね。で、問題は亡くなった子たちの遺体をどうバレないように埋葬してあげるかと、キュベレイの同型機のジャンクの処理をどうするかだけど…」
と、男の意見に同意を示しつつそう口にし、男はそれに対して
「前者に関しちゃ俺のポケットマネーを全部使って金庫室と冷凍ポッドを買って封印するしかないだろうな。最新型なら内部完結型のモデルもあるし、一度封印して記録を全部消せばリスクもかなり減らせるだろ。ちょうどクラウン号の設備更新をする予定があるから、これを隠れ蓑にすりゃいいだろ」
と言う。それにバーカスは
「僕も一部は負担してあげるよ。それと機体の方は下手に運び出すより、一旦クラウン号の中に置いとくほうがいいんじゃないかな?」
と提案し、男は思案するように唸りながら顎に手を添え
「そうだな。ただそうなるとしばらく稼ぎにいくってのは諦めるしかないなぁ」
と、同意しつつも少し悲しいといいたげに今後の展開についての予測を述べ、それにバーカスも同意する
「ま、大体はこれで決まりだね」
と、バーカスは続けてそういい。男が同意を示すように相槌を取立たなを確認してから続けて
「じゃあ僕は君が月に着くまでの間におじさまにアポをとっとくよ。必要なものの手配もやっとくから、後で送る資料に目を通しといてね」
といい、それに男は
「助かる、、頼んだよ」
と言い。それに任された、と笑顔で答えたバーカスはそれで話は終わりだと回線を切ろうとする
「あぁ、バーカス」
空を男の彼を呼ぶ声が止めさせる
「どうしたの? なんかまだ伝え忘れたことある?」
と、バーカスが不思議そうに男に尋ねる。それに男は少しだけばつが悪そうに沈黙した後、意を決したように
「いつも、その…苦労をかけちまうが、本当に頼りにしてる……ありがとうよ」
と、少しだけ申し訳なさそうに、そして…恥ずかしそうにそう言った男に対し、バーカスはくすりと笑った後
「いいよ別に。それがバディだろ?」
と、満面の笑みで自信満々に胸を張ってそう答えたバーカさはそのまま回線を切り、男はそんなバーカスの言葉を噛み締めるようにモニターを見ながら微笑み
そしてそのまま男はプルスリーの様子を見ようと医務室へと向かう
「あ、おじさんだ」
医務室に戻ると、上半身を起こしたプルスリーが天井を眺めていて。男が来ることを知っていたかのような態度で男を呼ぶ
「おいおい、ひどい怪我をしていたし。疲れてもいただろう? まだ体を起こしてちゃダメじゃないか」
それに対して男は優しく話すことを意識しながらそう諭す。それにプルスリーはなんてことはないと言わんばかりに
「ダイジョーブ! 私、みんなの中じゃ一番元気だから!」
と、にこにことそう答える彼女の姿に俺は、少しだけ無理をしているような印象を受け取り、ゆっくりとプルスリーのなるベッド脇の椅子へと向かいながら
「そうか、ならいいけど。…くれぐれも無理はしちゃいけないよ? 酷い怪我をしていたのは事実なんだから」
と、もう一度プルスリーに諭すようにそう注意をしつつ、ゆっくりと男は椅子に座る
「おじさんしんぱいしょーってやつだね、このくらいの怪我なんてことないよ、私たちは丈夫に作ったってマスターが言ってたし」
と、当然のことを説明するように自然と話すプルスリーの言葉の端々から滲む闇の数々に、男は気づかれないように奥歯を噛み締め、現れそうになる苦虫を噛み潰したような渋顔を潰す
「…だとしても怪我をしたら休む。身体が丈夫だからって、君の…あぁ〜そういえば自己紹介すらしていなかったね」
と、お説教にならないように気をつけながら話していた男は、そこで自分がまだ最初にやるべきことをしていなかったことに気づく
「私、プルスリー!」
その言葉に反応したプルスリーが元気よく手を上げて名乗り。その人間に到底つけるべきではない名前に男が絶句する中。彼女はエヘヘ、と無邪気に男に笑ってみせる
「あ、あははは、ありがとう、プルスリー…」
衝撃から復帰しきれず、すこし困惑しながらもそうなんとか答えてみせた男の様子に、特に何も思わなかったのかプルスリーは
「私が答えたから、次はおじさんの番だね!」
と笑顔のままにそう名乗るように促すプルスリーに、男は戸惑いを覚えつつも同意し
「俺の名前はジード・ヴァーレンシュタイン。ジャンク屋をやってる、よろしくな、プルスリー」
と、握手を求めて手を差し出す。それにプルスリーは初めその意味がわからないと言わんばかりに首を傾げた後、そのまま男を見真似て手を差し出す
そんなプルスリーの様子に男の中で彼女に対する憐れみとネオ・ジオンに対する怒りの感情がさらに湧き上がるも。それを懸命にこらえ、男は差し出された少女の手を驚かさないように優しく握る
「わっ」
その行為に嫌悪などの感情はないが、理解の外の行動を起こされたことに対しての純粋な驚きからプルスリーは声を上げる。それに男は静かに告げた
「これは握手って言うんだ」
「握手?」
男の言葉にプルスリーが首を傾げる。そのあどけなく、可愛らしい仕草に思わず微笑みを浮かべながら、男は説明を始める
「これからあなたと仲良くなりたいです、て言う意思を相手に伝える行動のことを、握手って言うんだ」
「へぇ〜…」
説明を受けたプルスリーは、俺の手と自分の手を交互に見た後。再び俺の顔へと視線をあげ
「じゃあこれからはお友達だね!」
と、まるで邪気のない。ただただ純粋な好意を持ってそう笑顔を浮かべるプルスリーに、男……いや、ジードは湧き上がる感情の渦を自覚せざるおえなかった
「あぁ……これからよろしくな。プルスリー」
しかしそれを表に出すわけにもいかない。複雑な心境を隠すことに苦慮しながらも。なんとか笑顔を作り出した男は、プルスリーの無邪気な好意に対して、そう返すことしかできなかった