俺の完全回復まで半日ほど。
その間を使って、俺たちは地球に帰ってきていた。
結局天下一武道会は皆棄権になったから、西の都にあるブルマちゃんの家で集まっている。
カプセルコーポレーションの一角を貸してもらって、急遽俺の送別会を開くことになったのだ。
俺が片時でも離すと爆音で喚き出すので、ニャルは肩に乗っけたままだ。
でもパーティ中に呪詛の詰まった腐肉のままは汚な過ぎるので、なんとか説得して青色のゴムのような肌の触手ボールに変わってもらった。
悟天君が目の前で「もう会えないの」と若干涙目で俺を見上げている。
おお、ごめんね悟天君。悲しい思いさせてごめんね!
すごくヨシヨシしてしてから、一緒に隣にいた悟飯君もヨシヨシしておく。
悟飯君も悟天君を慰める素振りを見せつつ悲しそうな様子だったからだ。
トランクス君も悟天君のしょんぼり具合に心配そうな顔をしている。
ブルマちゃんかこそこそっと寄ってきて俺に声をかけた。
「ところであの猫みたいな宇宙人は誰なの?」
「俺のバイト先の正社員。破壊神だよ」
「すごい単語聞こえた気がするけど、とりあえず接待しておけばいいわよね?」
「うす。猫は美味しい物好き。旨げな料理を渡しておけばひとまず落ち着くはず」
一応、俺がきちんと出立するかの見届け役だ。
界王神様も一緒にいるのがその証拠である。
まあ界王神様は料理を控え目に受け取ってアウェーな空気に恐縮しているようだが。
何も気にせず、会場の端っこでウイスさんが旨げな料理達を思う存分堪能している。
悟空君が疲れているのか、一心不乱に肉料理を腹に流し込んでいるのが見えた。
そして刺々しい視線のベジータ君「おい、俺と手合わせしろ」と因縁つけられている。
「オラ疲れてっからまた明日な」
「いいだろう。逃げるんじゃないぞ」
相変わらず過ぎて笑みが溢れる光景だ。
神様とセルも来ているようで、神様が穏やかな顔で俺に話しかけた。
「お主は本当に、来る時も去る時も突然だな。だが、やっとお主があるべき所に帰ることができるのは喜ばしいことだ。いつも寂しそうな顔をしておったからな」
「え、そんな顔してた俺?ううむ、思ったより恋しかったのかな」
「だろうな。年々苛ついて来おってからに。迷惑極まりないわ」
ポリポリと頬をかいて、照れ隠しに肩のニャルをぷにぷにと弄んだ。
ニャルはキャッキャと笑い声をあげて得意げな顔をした。
進み出たセルが深々と俺に頭を下げる。
「我が父よ、遠く離れてもあなたへの思慕は忘れない」
「ああ、俺も、できた息子であるお前のことを忘れないよ」
【!?!?!?父!?父!?!?】
「おうニャル落ち着け。ただの化身だよ」
ドロボウネコ!!!と叫び出したニャルを揉みしだいて黙らせる。
ニャルはモゴモゴと不満げに呻いたようだ。
【化身…???キモイ。羽虫臭イ。ペッ、我ガ夫返セ】
「あっバカニャル!セルから俺の細胞取り出そうとすんな。生き物はそんな細胞取り出せるようにできてないんだよ」
【チッ】
ニャルは舌打ちした。
だんだんカタコト怪異の化けの皮が剥がれているが、まあいいか。
所詮喋りたくないってポーズだけだしな。
ピッコロ君とクリリン君が手土産を持って俺に近づいてくる。
共同で買ったらしい、西の都のデパートのラッピングが袋からチラリと見える。
クリリン君が申し訳なさそうに手渡してくれた。
「西の都で急いで買ったもんだからそこまで大したもんでもないけど、受け取ってくれ」
「え、いいのか!?俺君らには迷惑かけた記憶しかないけど」
「ははは。でも、どうあれ俺が子供の頃からの知り合いだろ。形のある思い出を送りたかたったってだけだよ」
「俺も師への礼ぐらい多少送っておくべきだと思ったまでだ。被った迷惑の方が多いぐらいだが」
それは皮肉ようでいて、どうにも寂寞のようなものが含まれた声だった。
「………ありがとう」
声は、思ったより絞り出すようなトーンになった。
長いようで短かったこの世界での生活だが。
子供が大人になり、子をもうけるほどに時が経っていたのを今更ながらに実感する。
悟空君が「おーい黄衣さん!これうめぇぞ!」と手招きしてくれた。
いつも通りで、それこそが淡白な彼の愛情表現なのだろう。
声の元に行こうとした。
その時である。
「あのね、僕も見てたのね。君たちの戦い。面白かったのね!」
巨大な、巨大な、あまりにも巨大な権能の塊が佇んでいた。
ニャルと比してすらあまりにも大きく、まるで視界に収まりきっていないかのような印象すら受ける。
この宇宙の中心に常に見えていた、アザトースの如きもの。
あまりにも強い黒々とした権能に身がすくむ。
それでも視覚情報はちっぽけで、小さく青い異星人の子供のような姿に見えた。
後ろには3人。
一人は天使なのだろう、凄まじい権能を秘めた天使がたおやかな姿を見せる。
副王ヨグ=ソトースほどもある権能が渦巻いているのが手に取るように分かった。
その後ろの二人はわからないが、お付きの人なのだと思われる。
瞬時に顔面を床材に埋め込まんばかりに土下座したのは猫、破壊神ビルスだ。
次いで界王神様があわてて土下座。
最後にウイスさんが片膝をついて礼をした。
緑の神格がオドオドと同じように土下座する。
俺の前までやってきた巨大なモノが、俺を見上げて笑顔を作った。
触手がチリチリになる感覚。
まじまじと俺を覗き込んで、パカっと口を開く。
「やっぱり汚い!でも友達そっくり!不思議だね」
「友達……と仰いますと」
「僕の友達。たくさん遊んだんだよ。笛で踊ったり、絵を描いたり、とっても楽しかった!」
話が見えん。
ニャルが肩の上でモゾモゾ居心地悪そうに蠢いている。
後ろの天使が補足するように説明してくれた。
「私は大神官と呼ばれているものです。全王様は貴方がたの不法侵入を赦すと仰せになっています。また、今後の『お遊戯』の際も、ご協力願いますようお願いいたします」
「あのね、アザちゃんと相談したのね。今日みたいに強いのを戦わせてね、見守るって。きっと楽しいって」
アザちゃん……?
アザトースのことか……?
肩のニャルが「アザ…チャン……?」と宇宙ニャルになってしまっている。
多分俺も今おんなじ顔をしていることだろう。
大神官様がニコリと薄っぺらい笑顔を作った。
「アザトース様のメッセンジャー、ナイアーラトテップ様。どうか今後ともよろしくお願いいたしますね」
【………それが、混沌の夢であるのなら】
ニャルは観念して外向き用の言葉を紡いだ。
でも表情は心底嫌そうだ。
いつもアザトースのこと白痴って言ってバカにしてるもんな。
アザトースの部下みたいに思われるのは我慢ならんのだろう。
でもアザトースの意向には逆らえない、やる事なす事アザトースを喜ばせる、そんな複雑なお立場なのです。
しかし今後の「お遊戯」か。
まだ何かあるのだろうか。
だとしてもきっと、それは人の歴史が時に埋もれたさらに先の話のはずだ。
神々の時間概念からすれば、人など瞬きに死ぬものだから。
言うだけ言って、全王様は「じゃあまたね!」と言って掻き消えた。
ぷしゅる、とニャルが萎んで動かなくなる。
仕事の話になって全部嫌になったんだと思われる。
「おーい、ニャル、ニャル、もう帰るから、おーい」
【…………】
だめだ。返事がない。ただの屍のようだ。
俺は食べ終えた料理を見下ろしてから、机を立ち上がった。
「またニャルが暴れ出す前に帰るとするよ。なんかむくれちゃったからさ」
「あら、もう帰っちゃうの。孫君、帰るって!」
ブルマちゃんが声をかけると、悟空君はニッと笑ってサムズアップした。
俺もサムズアップで返した。
それだけだったが、それこそが何より大切な事だった。
皆、お元気で。
なんとなく波乱の予感がしないでもないけれど、ともかく今はそれだけである。
フリーザ社長には別れの手紙に俺の権能を少しだけ同封したから、活用してくれるといいな。
「悟飯君と悟天君にはこれを、俺が帰ったら開けてね」
「ありがとうございます。本当に…もう会えないんですか」
「たぶんね。本当は会っちゃいけないものだから。今後はどうなるかわからないけど」
それから、と俺は卵のようなものを取り出してセルに渡す。
「こっちはセルに。食用です。存在規模の詰まった卵。精がつく。料理しても生食でも良し。俺の息子だしもうちょっと体格あった方がいいだろと思って」
「感謝を、我が父よ」
あとはもう行くだけだ。
賑やかな会場にて、俺がたくさんの人と関わってきたことを思い返す。
これ以上長引かせれば、足が重くなりそうだ、
ニャルがモガモガと文句を言った。
「じゃあ、みんな元気で。縁があれば、また会いましょう」
暗転。
陽光が差すように光に乗って一直線。
そのように、あっけなく。
視界は切り替わったのだった。
「あのね、大会の名前はどうする?」
【─────Zzz】
「力の大会!いいね、いいね、それまでは踊ろっか!」
【Zzz】
完結。
番外編があるとすれば、アニメ銀河パトロール編が終わってから、未来トランクス編宇宙サバイバル編銀河パトロール編を続けてかな。
・アザトース
寝ている。
起きてる時に遊びたいなと思っている、夢見るが故に白痴の神。
でも虫相撲は楽しそうだな。楽しみ。