笑い声。
怒鳴り声。
まだ、世界がどこまでも続いていると信じていた頃。
人波がうねるあの街には、いつも誰かの生きた声が溢れていた。
少し騒がしくも懐かしい、賑やかな宝物の記憶
ジュノの石畳は、
昼でも、夜でも、
どこか落ち着かない音がしている。
靴音。
シャウト。
荷物を抱えた冒険者たち。
誰かを呼ぶ声。
白門とも、
タブナジアとも違う。
人が、
「どこかへ向かうため」に集まっている街の音。
「テレポラテー!
ラテ行き空いてるぞー!
あと二人だ!」
遠くから響いた声に、
ウルミアは小さく笑った。
隣を歩いていたプリッシュが、
じろりとこちらを見る。
「んぁ?
なんだよ。なんかおもしれぇもんでもあったか?」
「ふふ……。
少しだけ、思い出していたんです」
「なにを?」
ウルミアは、
少しだけ人混みの向こうを見る。
白い石畳。
飛び交う声。
せわしなく行き交う冒険者たち。
そして、
昔と変わらない、
あの元気な声。
「初めてジュノへ来た時のことを」
「うげっ」
プリッシュが、露骨に顔をしかめた。
「もう昔のことだ! 忘れろ忘れろ!」
「でも、プリッシュ」
「忘れろって! アレはノーカン! 旅の恥はなんとやらだ!」
「ふふっ……」
風が吹いた。
遠くで、
誰かの笑い声がした。
--少しだけ、少しだけ昔のことを思い出した。
その頃のジュノは、今よりもっと騒がしかった気がする。
冒険者たちは、皆どこか急いでいて。
誰かが叫び、誰かが走り、誰かが空を見上げていた。
「テレポヨトぉぉぉ!
あと一名ー!」
「テレポヴァズ空きあり!
高いけど安全だぞー!」
「ラテ行きすぐ出るぞ!」
「なぁウルミア、あれなんだ!?」
プリッシュが、目を輝かせながら声を上げた。
白いローブ姿の冒険者の周囲へ、人が集まっている。
「“テレポ”……でしょうか」
「テレポ?」
「移動魔法、だったと思います」
「おもしろそうじゃねーか!」
嫌な予感がした。
止める前に、プリッシュは人混みへ突っ込んでいく。
「おっちゃん!
それどこ行くんだ!?」
「ん?
ラテーヌ高原だけど」
「おー!
知らねぇ場所だ!」
「……は?」
「オレたちも連れてってくれ!」
「えっ」
冒険者が、ぱちぱちと瞬きをした。
プリッシュは、当然のようにギル袋を差し出す。
「金払えばいいんだろ?」
「いやまぁ……
いいけど……」
「決まり!」
「プリッシュ……」
やはり…、こうなったら止まらない。
--やがて、淡い光が足元へ広がった。
--白い粒子が舞い上がる。
--周囲の景色が、揺れる。
風が、
消えた。
次の瞬間。
「おおおおおおおおお!!」
プリッシュの歓声が、草原へ響いた。
見渡す限り、広い空。
遠くの岩場。
風に揺れる草。
「すっげぇ!!
一瞬だ!!
一瞬だったぞ今!!」
「ここが……、ラテーヌ……」
「おい見ろウルミア!
なんかデカい羊いるぞ!」
「プリッシュ、あまり離れると――」
「ん?
あ、そうだ」
プリッシュが、
くるりと振り返った。
「おっちゃん!
帰るときは声かけてくれよな!」
「……え?」
冒険者が固まった。
「帰りもよろしく!」
「いや、帰りは無いけど」
沈黙。
風が吹く。
「……え?」
「え?」
「……戻れねぇの?」
「デジョンII使えないし……」
「でじょんつー?」
「いやだから、帰還魔法が――」
「えっ」
プリッシュの顔色が変わった。
「えっ!?
ちょ、待て待て待て待て!
ジュノ戻れねぇの!?」
「普通はチョコボとか……」
「聞いてねぇぞそんなのぉぉぉぉ!!」
その絶叫に反応したのか。
近くの岩陰から、オークが飛び出してきた。
槍を振り回しながら、怒声を上げる。
「グオオオオオ!」
「うるせぇぇぇぇぇぇ!!
こっちはそれどころじゃねぇんだよ!!」
次の瞬間。
プリッシュの回し蹴りが、
綺麗にオークの顎へ入った。
轟音。
オークが吹っ飛ぶ。
「ウボァー!!」
遥か向こうで、土煙が上がった。
沈黙。
風だけが吹いている。
冒険者が、少し後ずさった。
「……君、なに?」
「今それどころじゃねぇんだってば!!」
半泣きだった。
--結局。
プリッシュは、
真顔でテレポ屋を拝み倒して頼み込んでいた。
「だから!
もし変なのが来たら、
“プリッシュはラテーヌ行った”って伝えてくれ!」
「いや絶対怒られるやつじゃんそれ……」
「頼む!!
命に関わる!!」
「もう関わってる気がするけど……」
--案の定。
迎えに来た護衛たちから、プリッシュは盛大に大目玉をもらっていた。
ジュノの通りへ、怒鳴り声が響く。
「勝手にテレポで飛ぶな!!」
「せめて俺たちを呼べ!!」
「うるせぇ!
オレだって知らなかったんだよ!」
「知らないなら行くな!!」
「だって面白そうだったし!!」
ウルミアは、少し離れた場所でその声を聞いていた。
怒鳴り声。
人の笑い声。
遠くのシャウト。
誰かを呼ぶ声。
あの頃のジュノは、いつも騒がしかった。
タブナジアには、あまり無かった音。
けれど。
だからこそ。
あの街を歩いていると、
世界はまだ、どこまでも続いているような気がした。
--遠くでまた、テレポ屋の声が響く。
「ラテ行き出るぞー!」
私の口元に浮かんだ悪戯な記憶を読み取って、プリッシュは分かりやすくそっぽを向く。
その尖らせた横顔を見て、私の微笑みはさらに深く静かにあふれていく
風の向こうで。
昔の笑い声が、まだ聞こえた気がした。
(=゚ω゚) 懐かしいジュノのテレポ屋さんたち!大変お世話になりました!