疲れた声。
帰り道の笑い声。
夕暮れにそんな小さな交わりが今日も静かに響いていた。
夕方の町は、少しだけ騒がしい。
競売前を走る足音。
店先で値段を叫ぶ声。
遠くで鳴るチョコボの声。
帰還した飛空艇の汽笛が、港の向こうで低く響いた。
剣の傷。
砂埃のついたマント。
使い切った魔力。
それでも、誰かが笑っていた。
その全部が混ざって。
町は、今日も生きている音をしていた。
--ウルミアは、噴水広場の端に立っていた。
--人を待っていたわけではない。
ただ。
旅から帰ってくる人たちの音を聞いていた。
「だから言ったじゃん!インビジ切るの早いって!」
「しょうがねぇだろ、見つかったんだから!」
「見つかる前の話してんの!絶対全滅したと思ったわ……」
石畳の向こうから、三人組が歩いてくる。
ヒュームのシーフ。
タルタルの黒魔道士。
エルヴァーンのナイト。
ナイトは、何も言わずにため息だけついていた。
「……ごめんなさい。」
黒魔道士が小さく言う。
「いや、別に怒ってないわよ。」
「怒ってる顔じゃん!」
「これはいつもの顔よ!」
その瞬間。
シーフと黒魔道士が吹き出した。
ナイト本人だけが、
なぜ笑われているのかわからない顔をしている。
「んー、まじめな話ヒーラー探してみるか?」
「そうね、私のケアルだけじゃさすがにMP厳しいし…」
「ヒーラーがいたらもっと連携に魔法合わせられるかも…」
3人は騒がしく話しながら街中を進んでいく。
ウルミアは、少しだけ目を細めた。
きっと。
何度も同じ失敗をして。
何度も同じように笑ってきた人たちなのだろう。
--噴水の反対側では、別の冒険者たちが地面に座り込んでいた。
「MPもう空っぽ……」
ミスラの白魔道士が、
杖を抱えたまま噴水の縁へぐったり寄りかかる。
ローブの袖は、
何度もケアルを重ねたせいか、
少し煤けていた。
「ヒーリングしろヒーリング。」
隣のガルカ戦士が、
荷物を整理しながら低く言う。
「だから座ってるんじゃん……」
白魔道士は、
噴水の水音を聞きながら小さく息を吐く。
どうやら、
最後の戦闘はかなり危なかったらしい。
ミスラの白魔道士が、
杖を抱えたまま空を見上げている。
近くへ置かれた黒魔道士の帽子は、
半分ほど焦げていた。
隣では、ガルカの戦士が黙って荷物を整理していた。
肩当てには、
大きな爪痕が残っていた。
「ねぇ。」
白魔道士が、小さく声を出す。
「今日のリーダー、ちょっと怖かった……」
ガルカは手を止めない。
「まぁ、今日はリンク多かったからな。」
「黒さん二回死にかけたし……」
「お前もタゲ取りすぎだ。」
「だって回復間に合わなかったんだもん……」
ガルカは、
そこでようやく少し笑った。
「でも。」
ミスラは少し笑った。
「ちゃんと最後まで待ってくれた。」
その言葉に。
「……そうだな。」
ガルカが短く返した。
--また別の場所では、競売前で大声が響いていた。
タルタルの召喚士が、
杖を振り回しながら必死に抗議している。
「だから召喚だって役に立つって言っただろ!」
「いや、役に立ってないとは言ってない!」
「絶対思ってる!」
召喚士のローブには、
乾いた土埃がついていた。
どうやら長い狩り帰りらしい。
「だって今日、最後タイタンで耐えたじゃん!」
「あれはナイトが挑発間に合わせたからだ!」
タルタルの召喚士が、必死に弁解している。
「でも今日、ラムウ出した時ちょっとかっこよかったじゃん。」
誰かがそう言うと、召喚士はぴたりと止まった。
「……マジ?」
「マジマジ。カオスストライクのスタン効いてたし!」
「だから言ったじゃん!
召喚だって役に立つんだって!」
周囲から、
また笑い声が上がる。
「おい、褒めるのはほどほどにしとけ!こいつはすぐ調子に乗るんだ!」
召喚士本人は、
もう半分くらい機嫌を直していた。
周囲は笑っていた。
誰も、本気で馬鹿にはしていなかった。
その空気が。
ウルミアには少しだけ心地よかった。
空は少しずつ藍色へ沈み始めていた。
競売前の灯りが、
ひとつ、またひとつと石畳を照らしていく。
それでも、人の声はまだ消えない。
帰る人。
誘いを探す人。
また明日の約束をしている人。
強い人たちではない。
完璧な冒険者でもない。
失敗して。
怒られて。
疲れて。
座り込んで。
でも、終わらない。
「……また明日、行く?」
誰かがそう聞く。
「んー……」
少し長い沈黙。
「行く。」
今度は、誰かが笑いながら答えた。
誰も、英雄には見えなかった。
疲れた顔。
傷だらけの装備。
座り込んだまま動かない人。
それでも。
誰かが笑うたび、町の空気は少しだけ柔らかくなる。
ウルミアは、その変化を静かに聞いていた。
名前は知らない。
でも。
ああ。
きっと。
こういう声が、世界を少しだけ長く続けているのだろう。
風が吹いた。
陽が沈む夕暮れの町に、誰かの笑い声が遠くまで転がっていく。
冒険者たちの声を乗せて、まるで歌うような音色を帯びていた。
風が髪をすくい上げるたび、感情豊かで柔らかな詩が舞い踊る。
ウルミアは、その音を追いかけるように顔を上げた。
「……いい音色。……人と人が交わって生まれた交響談」
小さな呟きは、
町のざわめきの中へ静かに溶けていった。
(=゚ω゚) "交響談"なんて言葉はないのですが、ウルミアは賑やかな話声は頭で詩に変換してそうだなーと私が勝手に想像して脳内変換でつくった造語です。