ヘラ・ファミリア唯一無二の眷属 ~月下の貴公子は英雄を嗤う~   作:ヘラニズム

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今日も綴ろう、営業日誌

今日も平穏な日常と思ったが、残念ながらそうじゃなかった。
頑張って、客じゃない訪問者をお客様として迎えてやった。ただ、面白い魔法と魔力をしている存在を見つけたので、良しとしよう。できれば、剣姫もこの目と魔法で解析してみたいものだ。

本日のお客様

お得意先のドワーフ
→ 魔道コンロの修理依頼とイチャモン。いつも通り、不適格な魔石を使用。回路は壊れていないが、ガタつきあり、調整。
修理費:3,000ヴァリス

本日のご来店様

神ロキ・団長フィン殿・リヴェリア様・研究対象ではなくレフィーヤ氏

ご要件
・変な芋虫、芋虫型の女王? とにかく強力な腐食液を吐くモンスターを知らないかと問われる。
→ 知らんと返答。退店を促す。

リヴェリア様・レフィーヤ氏が商品に興味を持ち、ご購入。
フィン殿と話をし、ロキ・ファミリア用タップブレスレットのオーダーメイドの注文を頂く。
遠征の赤字につき、価格交渉。素材持ち込みで製造費のみとした。神ロキの価格交渉が大変勉強になったので、今後の来店をお断りとして、店頭に「ロキお断り」の文言を貼ると決意。

→ 送風ネックレス:3万ヴァリス×2本 + 工賃1万ヴァリス(リヴェリア様分)/(レフィーヤ様分) 計7万ヴァリス
→ タップブレスレット:素材費持ち込みにつき製造費のみ。5セット計10個、まとめて1,000万ヴァリスで商談成立。(ロキ・ファミリア様)

代わりに神ロキは出禁にした。

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原作開始時
営業日誌 -ロキ・ファミリアのご来店 1/2


 夢を見た。

 

 早送りのような。早戻しのような。走馬灯というのはあるいはこういうものを言うのかもしれない。

 

 過去の残骸が脳裏を走り抜けていく。懐かしくて、苦々しくて、全部覚えている。全部、忘れてたまるかと思っているから、当たり前だ。

 

 目が覚めると、夜明け前だった。

 

 作業台の上で寝落ちしていたらしい。頬に魔導書の跡がついていた。あぁ、このページは書き直しが必要だなと思った。

 

 俺はノクス・ヘルレイヴン、二十二歳。《夜鴉魔工具店》(ナイトレイヴン)の店主であり、研究者であり、非公式ダンジョン潜入者であり、孤児院の経営者でもある。

 

 肩書きが多すぎるのは全部自分のせいだ。面倒くさい。

 

 影分身魔法《ニヴル・レプリカ》に任せすぎているのかもしれない。いや、あるいは、これだけのことを一人でこなせる実力と発明の数々を称えるべきか。究極のコストカット、人件費が(オール自分なので)かからないこの環境に、万歳。

 

 とにかく、今日も開店する。

 

---

 

 《夜鴉魔工具店》の朝は、静かだ。

 

 少なくとも、扉が開くまでは。

 

 この静寂がいつまでも続いてほしいと思う。店舗経営者としては間違っているが、目標に到達したあとは惰性でしかないのが、数多ある私の欠点の一つだ。研究費を稼ぐための手段のつもりだったのに、意外にも儲かるのが良くない。

 

 一階の販売フロアに降り、棚の状態を確認する。分身体のヒクスが昨夜製造した魔道コンロの新ロットが三台並んでいる。恒明灯の補充も終わっている。冷却箱のサンプルにうっすら霜が降りているのを確認して、問題なしと判断する。

 

 (点検、ヨシ)

 

 心の中だけで言う。声に出す必要もない。

 

 隣の建物からネクスの気配がした。孤児院の朝支度を始めているらしい。子どもたちの騒がしい声が壁越しに聞こえてくる。あいつは俺にしては、本当に向いているな、と思いながら、俺は研究中の薬膳茶を一杯淹れた。

 

 本体である俺がぼんやりしている間、分身たちは忙しい。

 

 開店準備を終えると、俺は作業台に向かい、昨夜の続きを始めた。

 

---

 

 最初の客は、予想通りだった。

 

 扉が勢いよく開いたのは、開店から三十分も経っていない時間だった。

 

「また壊れたぞ!!」

 

 どすどすと重い足音。小柄だが横に広い体。髭。怒声。

 

 ガブリエル・ダン。鍛冶職人のドワーフで、なぜかうちの魔道コンロを愛用し続けている常連だ。正確には、壊しては持ち込むを繰り返している常連だ。面倒なので、ドワーフ(A)として雑に相手している。

 

「視せろ《アーカイブ・ムーン》」

 

 俺は作業台から顔を上げずに短縮詠唱を一言だけ呟いた。コンロの魔力構造が視界に広がる。回路の流れ、魔石の接続状態、術式のどこに歪みがあるか。全部、一瞬で見えた。

 

「……他所の整備されてない魔石を使ったな」

 

「うっ」

 

「うちの専用魔石以外を突っ込んだ場合、互換性の問題で出力制御回路がガタつくとあれほど言った。今回で何度目だ」

 

「まだ二回目だ!」

 

「四回目だ。俺は覚えているぞ」

 

 ガブリエルが顔を赤くした。

 

「爆発はしてないんだろう、じゃあ使える。シャッチョサーン、ダイジョウブヨー」

 

「してないが! してなくはないが、驚いちまって、コンロの上で鍋ひっくり返しちまったんだよ!」

 

「自業自得だ。修理費は三千ヴァリス。魔石代は別途。次回からは専用品を買え。他所のやつは知らん」

 

 ガブリエルはぶつぶつ言いながら財布を取り出した。毎回こうだ。毎回文句を言いながら払う。修理済みのコンロを持って、文句を言いながら帰る。そして、また壊して戻ってくる。

 

 (まあ、いいか)

 

 心の中で思う。口には出さない。

 

 今日も変わらない日常――のはずだった。

 

---

 

 問題は、その三時間後だった。

 

 扉が開いた時、あぁ、静寂が遠のくと愛しさと切なさを覚える。

 

「邪魔すんでー!」

 

 明るすぎる声。小柄な赤髪の女神。オラリオで知らない者がいない顔ぶれがついていた。

 

 金の短髪のパルゥム。エルフの王族特有の緑の長髪。山吹色の髪の年若いエルフ耳の少女。

 

 フィン・ディムナ。リヴェリア・リヨス・アールヴ。レフィーヤ・ウィリディス。

 

 そして、主神ロキ。

 

「……」

 

 俺は作業台に戻した視線を、書きかけの仕様書に固定したままにした。

 

「いらっしゃいませ。お帰りはそちらです」

 

「あいよ〜!!ってちゃうわ! もう帰れ言うんか!? 入ってすぐやで!?」

 

「では、冷やかしに来たんなら帰れと。こういうのを神々の言う、お約束というやつなのでしょ。雁首揃えてお買い物って感じじゃない気がしますので」

 

 フィンが一歩前に出た。

 

「話を聞いてもらいたいだけだよ。そんなに警戒しないでくれると助かるかな」

 

「皆様方のようなお方々が言う"話を聞くだけ"は、私どものような小規模経営者には"黙って協力しろ"と言われているように聞こえまして。こういう流れは、大体が厄介ごとでは?」

 

 フィンが苦笑した。政治的な笑顔だった。

 

「核心を突くね。確かに、頼みがある。でも安心してほしい。ただの情報収集だ」

 

「では、情報屋はうちの業種ではない。ギルドへ行け」

 

「ギルドにはない情報の可能性があってね」

 

「知らん」

 

 ロキがずいと前に出てきた。近い。髪が当たりそうな距離まで来た。にやにや笑っている。

 

「なぁなぁ、《最後のヘラ》くんさぁ。ちょっとくらいええやないの。知ってそうな顔してるで?」

 

「ぶぶ漬けでも出そうか?」

 

「ひっど!!どんだけうちらを追い出したいねん!全員初対面やっちゅうのに。あと、それは文化圏を間違っとる!!」

 

「五月蝿い。じゃぁ、要件を言え、改めて、知らんと告げよう」

 

 フィンが話を引き戻した。

 

「あるモンスターについて知りたい。五十階層に出た特殊モンスターでね。腐食液を吐く芋虫型の個体、あるいは女王型の強化個体についての目撃情報や特性。何か情報はないかい?」

 

 俺は少し考えた。

 

 (五十階層。芋虫型。強力な腐食液。女王個体。……聞いたことがない。見たこともない。そもそも俺がオラリオにて、ヘラ・ファミリアにいたのは七歳までだ。当時の俺にダンジョン情報などあるわけがない)

 

「知らん。見たことも聞いたこともない。うちで買い物するつもりがないなら、帰ってくれ」

 

「ほんまに知らんのか?」とロキが目を細めた。笑顔だが、目だけが別の生き物みたいに動いている。

 

「俺がヘラにいたのは幼少期だ。冒険者だったわけでもない。ダンジョン情報は持っていない」

 

「ふーん」

 

 ロキはまだ笑っていた。そして振り返った。

 

「レフィーヤ、ちょっと頼むわ」

 

「え? わ、私ですか?」

 

「そやそや。こういう時のための女の子の愛嬌やろ。頼むで」

 

 ゴニョゴニョと愛嬌の指導が始まる。

 

 レフィーヤ・ウィリディスが困惑と羞恥の入り混じった様子で、顔を赤らめながらこちらを向いた。若い。たぶんまだ十代後半。気まずそうに口を開いた。

 

「あの……えっと。よろしければ、少しだけ……」

 

「知らん」

 

「あっ……はい」

 

 レフィーヤがすとんと頷いた。なぜか少し安堵した様子で即座に諦める。ロキは演技指導の成果が見れず、あからさまに落胆した。

 

 エルフというのが、なんとなくどうも苦手だ。純種は特に。理由は自分でも説明できない。

 

 結局、その少女は交渉を諦めたらしく、ふらりと店内に入り込んだ。棚を眺め始める。ロキへの説教を始めるリヴェリア、それを諌めるフィン、というロキ・ファミリアでは慣れた光景が展開される中、俺はちらりとその様子を視界の端に入れておいた。

 

---

 

 変化が起きたのは、その五分後だった。

 

 レフィーヤが棚の端にある試供品のネックレスに手を伸ばした。

 

「なんでしょうか、これ? あっ、」

 

 送風ネックレスの試供品だった。魔力を注ぐと風が発生する仕組みの、軽い装飾品型の魔工具。試供品として置いているのは接客を省くためだ。ノクス製の魔工具は、基本設計として安全機能、一定以上の魔力が注がれると回路が自動分離して魔力を放出する。壊れる前に壊れる、という設計。魔道コンロも爆発しなきゃ大丈夫も同じ原理だ。

 

「簡単に言えば、ダイソ○の羽なし扇風機みたいなアイテムやで!!」

 

「説教中に、急に何を言っているロキ、そして誰に話しかけている!?」

 

 話を戻そう。問題は、相手がレフィーヤ・ウィリディスだったことだ。

 

 魔力が流れ込んだ瞬間、安全機構が即座に作動した。ネックレスの装飾部分がぱきりと分かれ、連鎖的に二箇所の接合部が外れ、魔力がちいさな光の粒になって霧散した。

 

「………あぁ〜」

 

 棚の方を見ていたフィンが声を漏らす。リヴェリアは小さくため息をついた。ロキだけが面白そうに見ていた。

 

 俺は作業台から立ち上がり、棚まで歩いた。分離した部品を二つ拾い上げる。修理は十秒かからない。

 

「……試供品なんで。バラけても構わない設計にしてある」

 

 俺が言うと、レフィーヤが顔を真っ赤に慌てて謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい、私、つい反射的に魔力を――」

 

「責めていない。安全機構の設計通りに動いただけだ。大丈夫、問題はない」

 

 問題はない、とは言ったが、思っても見ない壊れ方に少し気になってはいた。

 

 (……無意識でこの量の魔力、か)

 

 思わず《アーカイブ・ムーン》が動きかけた。術式を手前で止める。勝手に解析するのは行儀が悪い。

 

---

 

「千の妖精(サウザンド・エルフ)……か」

 

 独り言のつもりだったが、リヴェリアが聞こえたらしく、こちらを見た。

 

「知っていたのか?」

 

「貴方様の次にロキ・ファミリアで有名なエルフですので。それに、個人的には彼女の得意な魔法に興味がありまして」

 

 レフィーヤが目を丸くした。

 

「私が、リヴェリア様の次だなんて、そんな恐れ多い……」

 

「情報収集は仕事でも趣味でもないのですが、一魔導師として、魔法や術式の話には目がないんです」

 

 俺は修理を完了させ、置き場に戻しながら少し考えた。

 

 (《エルフ・リング》……エルフに限り何でも使えるという魔法。複数の魔法術式を使用できる。エルフ限定の魔法を継承しているのか? それとも見た魔法を模倣し再現するのか? あるいは魔法を自分の魔法として呼び出すのか?)

 

「噂にある、同族の魔法が使えるという魔法について、少し聞いていいか?」

 

「あっ、はい」とレフィーヤが頷く。

 

「その魔法は、どういう原理だ? 言うなれば、魔法を連続で行使していると見受けられるが。二つの術式が完全独立しているのか、それとも共鳴して一つとして扱っているのか?」

 

 唐突に問われる専門的な話に、レフィーヤが困惑しながら返答する。

 

「えぇーっと、なんといいますか、共鳴……します? 私の《エルフ・リング》でゲートを作り、そこに皆さんのお力をお借りして……呼び出している、という感じで……です?でも、なぜ?」

 

「……なるほど」

 

 (召喚魔法とでも言うべきか。であるなら俺の《ヘラズ・レクイエム》とは根本から違うと考えるべきか。縛り方は類似するな。あちらは同族縛りで俺の方は家族縛り。核にするのが"種族の魔力帯"か"人間関係の記憶"かという違いだが、構造の設計思想は近い)

 

 思ったより、面白い術式だった。研究欲というのは、制御が効かなかった。

 

「レフィーヤ、己のステイタスに関わる内容を簡単に開示するものではない」

 

 リヴェリアが静かに言った。

 

「うっ、すみません、リヴェリア様……」

 

「……失礼いたしました、リヴェリア様。そして、詮索してしまい申し訳ない、レフィーヤ・ウィリディス氏」

 

「いえ、大丈夫ですので! 私も商品を壊してしまってますし!」

 

 どうにも気になる。一度入ったスイッチは止められない。

 

「なんや自分、ウチのレフィーヤに興味津々やん?」

 

 そして、神もどうやらスイッチが入ったようだ。

 

「レフィーヤの魔法見せたるから、ちょーっとウチらとお話ししてくれへんかな〜?」

 

 さて、このあと少々、いや、それなりのラリーをしたが、結局ノクスが自分の欲求に従うことになる。

 あと、同意した俺が後から言うべきではないが、本人の意思を先に聞いてやるべきでは?

 

---

 

「では、改めて」とフィンが言った。

 

「あの芋虫型のモンスター。あるいは、強力な腐食液を扱うモンスターついて何か知らないかな?どんな些細なモノでも良い」

 

「悪いが、何度問われても、ダンジョンに関することは、私は無知に等しい。期待されてる姉たちからの情報も、私には意図的に秘匿されていた。」

 

「……では、もし何か見聞きしたら、教えてもらえるかい?」

 

「無論、そのような情報が耳に入れば、共有するが、なにぶん、私自身がダンジョンを攻略したことがないので、期待に添えるかどうか。……現状の推察で良いなら話すことはできるが、それが貴殿らの役に立つかは分からない」

 

「うーん、できれば、協力してもらえると心強いのだけど」

 

「あいにくだが、俺は冒険者業にも英雄にも興味がなくてね。立ち位置としては中立だ。どの勢力にも与しない。それはロキ・ファミリアも例外ではない。とある酒場の主人が私の理想でね。便利な魔工具を作ってというのであれば、できないこともないが」

 

 フィンが少しの間、考えてからノクスを見た。何かを測っている目だった。「敵ではないが、協力者でもない」という距離感をきちんと理解した顔だった。

 

「なるほど。では少し店内を見て回っても良いかな。それを参考に、オーダーメイドを希望したい」

 

「了解した。お客様なら拒まないとも」

 

 そうして、フィンとロキはその場を離れ、店内を見回す。

 

 こちらには、様々なものに関心を示し、好奇心を抑えられないハイエルフと初対面の男に捕まった哀れな少女が残る。

 

「……では、レフィーヤ・ウィリディス氏、確認したいことがある。貴方の魔法を見てみたい。そしてそれを私の魔法で解析・鑑定させてほしい。嫌なら断れ」

 

 レフィーヤがリヴェリアを見た。リヴェリアがノクスを見た。

 

「先に、お前の魔法について教えてくれ。レフィーヤの安全面に関わる」

 

「解析と鑑定の魔法《アーカイブ・ムーン》。私の眼を良くするだけの魔法でして、相手に何かをするわけではないので、害はありません。術式の構造を視覚的に把握できる程度のものです」

 

 リヴェリアが納得を示し、どうするかをレフィーヤに任せた。

 

 少しの沈黙の後、レフィーヤが頷く。

 

「……わかりました。では、リヴェリア様の《ヴェール・ブレス》を使います」

 

 承諾をもらい、その魔法の内容を聞く。店内でも大丈夫そうだったので、万が一の備えの魔道具を準備し、少し広めのスペースへ移動する。

 

「月は識る。魂は刻む。神秘は隠せない。暴け、解け、記録せよ。《アーカイブ・ムーン》」

 

 ぽつりと呟く。完全詠唱で展開した。発展アビリティの《魔眼》が作用し、目にかすかに光が灯る。

 

「こっちは問題ない。頼む」

 

「ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい。《エルフ・リング》」

 

 レフィーヤの魔力の流れが、光の模様のように視界に広がった。術式の設計が見えた。核となる魔力帯の形、接続ラインの構造、魔法陣の配置と形――。

 

 (……ああ。本当によくできている)

 

 感心した。感心してしまった。

 

「木霊(こだま)せよ――心願(こえ)を届けよ。森の衣よ。集え、大地の息吹――我が名はアールヴ。《ヴェール・ブレス》」

 

 複数術式を同時展開するための負荷分散設計がひどく洗練されている。核になる魔力帯が術者の感情的な記憶と連動している点が特に――。

 

「……結構だ。ご協力に感謝する」

 

 《アーカイブ・ムーン》を解除した。ノクスは自分にしかわからないだろう言葉をぶつぶつと呟いている。

 

「何かわかったか?」とリヴェリアが訊いた。

 

「えぇ、本当に面白い設計です。現象としては他人の魔法を模倣し再現している。しかし、この魔法の構築は、そこにないはずの他者の魔法陣を持ってきて召喚しているという……《エルフ・リング》を媒介に――」

 

「ほぅ、なるほど、お前はそう解釈するのか。なかなかに面白い見解だな。分類としては召喚魔法とされるのがこの魔法でな、詠唱および効果を完全把握するという過程が必要でな。ゆえに私としては、その解釈は一部が逆ではないかと考えている。《エルフ・リング》を媒体として――」

 

 そこから先は、一般の人間が聞いてもわからないだろう。レフィーヤが置き去りにされていた。そして、内心で、人の魔法の詳細を話すリヴェリア様の方が、ダメなのでは?と訝しんだ。

 

 魔法を使うものにしか通じない独自の魔法理論と、どう魔力を運用するとより効果的かという研究者同士の深い語り合いが続く。要するに、魔法オタクトークがそれはもう盛大に展開されていた。

 

 (――あ、これ、楽しい)

 

「……ノクス・ヘルレイヴンと言ったな。実に興味深い話だった。感謝する。また後日、時間をもらえるか。最近愛読している魔導理論書があってな。それに関して、そなたの意見を聞きたい」

 

 リヴェリアがそう言った瞬間、ノクスの中で何かが切り替わった。頭によぎるは、ヘラニズム(ヘラの教育)、否!!もっと前のお姉様方の教育(ヘラニズム)の日々である。

 

「……あぁ、今日は実に良い日だ。森の精霊たちもきっと祝福しているのでしょう。まさか、この街でここまで心躍る出会いがあるとは思っていませんでした」

「それは願ってもないお誘いです、レディ。貴方ほどの知性と見識に触れられる機会を得られるなら、私は喜んでどこへでも同行しましょう」

 

 リヴェリアが少しの間、静止した。

 

 ノクスもリヴェリアも自覚がなかったが、ここでデートの約束がなされた。

 

 そして、その間に挟まれたレフィーヤは、まず呆然とし、思考が停止し、やがてそれを人でないものを見るような目で見るところから、じわじわと沸騰した。

 

「待ちなさい! リヴェリア様は高貴な血が流れているお方。貴方ごときがリヴェリア様と逢瀬など、断じて我々エルフは認めません!!」

 

 そして、ここで盛り上がっていた二人は、ようやくレフィーヤの存在を思い出した。

 

「あぁ、すまないレフィーヤ。お前の意見を聞いていなかったな。こちらで盛り上がってしまっていた。」

 

 あくまで研究者仲間としてであることを先に告げておく。

 

「あぁ……申し訳ありません、プリンセス」

 

 あくまで魔導師仲間としてであることを先に告げておく。

 

心底反省した顔で一歩近づく。

 

「私としたことが、大切な花を置き去りにしてしまいました」

 

本人は本当に悪気がない。

 

「もちろん、貴方も一緒に来てください。最近、小さなカフェを見つけたんです。静かで、落ち着いていて、エルフにも人気らしい」

 

少し首を傾げる。

 

「そこで貴方の話を聞かせてもらえませんか?」

 

「私はまだ、貴方のことを何も知らない」

 

「だから知りたいんです」

 

「貴方が何を好きで、何を見て、何を考えているのか」

 

少し微笑む。

 

「こんな風に思う相手は、そう多くありませんから」

 

「なっ……えっ……ま、ま、待ってください!?!?」

 

思考停止。

 

顔面爆発。

 

エルフ回路焼損。

 

恋愛頭脳戦(!?)――敗北者、レフィーヤ。

 

「なっ……あっ……そ……お……えっと」

 

再度言おう!!

 

思考停止!!

 

顔面紅潮!!

 

脳内演算機能完全停止!!

 

そして――

 

湯・沸・完・了!!!

 

ここに一人のエルフ少女が誕生した!!

 

否!!

 

正確には、茹で上がった真っ赤なエルフである!!

 

一方その頃。

 

事件の元凶であるノクス氏。

 

「研究者として、興味深いと言っている。褒めているんだが?」と

 

テンション上昇中。

 

なお本人、理由は一切理解していない。

 

何故なら。

 

そう、何故ならである!!

 

ここで読者諸君に、一つ重要な事実を伝えなければならない。

 

ノクス・ヘルレイヴン。

 

この男――

 

テンションが上がると幼少期の口調に戻る。

 

嘘だぁ!!

 

……と言いたいところだが、本当である。

 

しかも質が悪い。

 

非常に悪い。

 

何故ならそこには、普段の悪態も皮肉も執着も怒りも存在しない。

 

ただひたすら。

 

頭空っぽ!!

 

興味対象一直線!!

 

他の情報?

 

分身からの共有情報?

 

周囲の会話?

 

知らん!!

 

聞いてない!!

 

聞こえていない!!

 

脳内処理能力、研究対象に全振りである!!

 

そして問題はここからだった。

 

四歳〜十四歳。

 

人生形成における超重要期間。

 

この期間を何で過ごしたのか?

 

答えは簡単。

 

三年間の眷属教育!!

 

約七年間のヘラ教育!!

 

合計約十年間!!!

 

義務教育を超える洗脳コンボである!!

 

さらに追加で、その後にミアハ神による、よりスマートなアップデート期間が1年以上!!

 

つまり何が言いたいのか!!

 

この状態のノクス。

 

【絶残虐破壊衝動女の奇跡の存在】レジェンドボーイとさえ言われた空前絶後の存在が覚醒進化していた!!!

 

【絶残虐破壊衝動女たちが求める理想の男像】

 

これが起動する。

 

起動してしまう!!

 

再生されてしまう!!!

 

分かるだろうか。

 

普通のイケメンではない。

 

王道乙女ゲーム王子様である!!

 

否!!

 

乙女ゲームを十周した後に、夢女子が「もうちょっとこう……」と言って盛り付けた結果できた怪物である!!

 

そう、そこに、無量空処!!(くらえ、完結しない情報!!)

 

これこそが、正しく熟成された。

 

されてしまったヘラの教育のノクス君が本来の姿である!!

 

今の冷めた悪態をつくノクス。

 

これは、夢から覚めた期間で突貫で作った姿である。

 

これは悲しいことに、たった5年。

 

その期間で、オラリオに来てから頑張って作り上げた人格なのである!!

 

期間にするなら、ヘラニズムの期間の半分。

 

強固なヘラの教育には勝てない。

 

それほどまでに、染められていた!!

 

男たちの反応。

 

「誰お前……キッショ」

 

実に正常。

 

神々の反応。

 

「怖いけど、おもしろ〜」

 

実に非情。

 

しかし女性陣。

 

「キャーーーー!!」

 

終わりである。

 

戦いは始まる前から終わっていた。

 

しかもさらに恐ろしいことがある。

 

ギャップ補正である!!

 

普段。

 

冷たい。

 

怖い。

 

愛想がない。

 

悪態をつく。

 

近寄り難い。

 

ところが突然。

 

優しい。

 

気遣う。

 

距離感が近い。

 

妙に甘い。

 

脳がバグる!!

 

評価がマイナスから始まっているため、効果倍率が異常なのである!!

 

RPGで言うならクリティカル率100%みたいなものだ!!

 

そして現在。

 

この時点で何が確定したか。

 

答えは簡単。

 

今ここに。

 

茹で上がったエルフ少女の誕生!!

 

そして数時間後。

 

布団に入り。

 

「あれはいったいなんだったのだ!!」

 

と枕へ顔を埋めるハイエルフ誕生である!!

 

未来は確定した!!

 

回避不能!!

 

なお。

 

全ての元凶であるテンションの高いノクス氏。

 

なぜか頬が赤い?と首を傾げた。

 

完全に無自覚。

 

羞恥心?

 

そんなものはない。

 

ロキに茶化されて初めて、

 

「あぁ……これぞ、家庭の教育(ヘラニズム)のせいか」

 

と理解する程度である。

 

遅い。

 

あまりにも遅い。

 

きっと、何が彼をここまで根暗にしたのか?そういう説明や興味が出てくるレベルだが、その説明はきっといつかの際に語られるだろう。

 




かぐや様は告らせたい風をやってみたかった。
そして、長くなったので、分割します。

流れは、

1. ロキ・ファミリアが遠征から帰ってくる。
2. ベル君とアイズが出会う。
3. ロキ・ファミリア全員帰宅
[次の日]
4. 遠征の赤字と今後を幹部陣で話し、誰かモンスターの情報知らないかな?と会議してる
5. ロキが話に入ってきて、「あの元ヘラの子供なら知ってるかもやで?」と口をだす。
6. 駄目元で聞きに行くかとフィンが動く。元々行ってみたかったロキが同行し、話を聞いたリヴェリアが興味を持ち、この後に勉強予定にしていたレフィーヤに「道中に教えるから着いてこい」と言い連れてくる。
7. 店に着く


ノクスについて、ロキ・ファミリアの面々の反応

・ロキ
→ 他の神を伝手に噂を集めている。【絶残虐破壊衝動女の奇跡の存在】レジェンドボーイ について覚えていた。勘で、大丈夫やろうとそこまで警戒はしてない。追放云々で、一応の復讐の恐れがあり、護衛なしでは近づかないようにしていた。機会があれば、ウラノスに話を聞きにいこうかな?そこまでではないかな?という距離感。

・ロキ・ファミリアの眷属たち
何も知らない。

・ガレス・リヴェリア
元ヘラの眷属であり、[アストレア・レコード編]の大抗争のこともあり、最初は、警戒し、何度も接触を図ろうとした。けれども、ロイマン経由で、「何もしなければ、問題はない」というギルドの見解を聞き、「触れるな!近づくな!」を言われていたので、何かあるんだろうけど、まぁ、いいか。と、時間が経って、ほぼ忘れて、あまり気にしないようになる。

・フィン
予々、ロキと同じく、勘で、大丈夫やろうとそこまで警戒はしてない。一方で、親指が反応したりもする。
ロイマンの説明に一定の理解を示している。しかし、不安なので、一度見ておきたいな。グレーゾーンで消極的に何かわかれば良いな程度の情報収集はしている。
たとえば、ダンジョンに行くところを見るとか、街中でそれっぽい人がいたら、周囲に怪しまれない程度の聞き込みをしようかなとしていた。だが、外で見たことがないという。
孤児院を開いた?それでも、外で姿を見ない?関わっている神は、デメテル・ガネーシャ・ミアハ・ディアンケヒト・ヘルメス・デュオニュソス、、、・・・思ったより関わってるな。神の人柄を聞く限り、問題なさそうだな。
ふぅ、神経質にならなくて良さそう、、うん?名前のわからない上級冒険者の噂?たまにボールスと取引する誰かわからない奴がいて、ボールスの羽振りが良い?ふーん、方法は知らないが、ダンジョンに入ってるみたいやな。どんな手段が考えられる?魔道具で透明化?魔法?ギルドの私兵か?ヘラの眷属であろうものがいうことをきくか?
・・・(こんな感じで、頭の片隅で考えている)
(中略)
よし、会った時に、いろんな角度でカマかけてみるか。でも、「触れるな!近づくな!」というから、様子を見つつ、深入りせず、向こうが気付いて大事になる前に引く。向こうが付き合ってくれる限りにしよう。知りたいのは、ロキ・ファミリアにとって、勇者にとって、有益になるかどうかだけわかれば良い。


→ ノクスがやらかした事件があるが、それはヘルメスを中心に、ギルド・ガネーシャと関係者が全力でロキたちに隠していた。

→ フレイヤにも隠していたが、ヘルメスが隠し通せず、知られてしまう。

故に、オラリオは何も知らないし、大半の人々も元ヘラということを知らない。(男性なので、想像もしてないが)
つまり、この7年間のノクスの動向を知っているの神は、
ウラノス・ヘルメス・ガネーシャ・アストレア・デメテル・ミアハ・ヘファイストス・フレイヤ
+ タナトス・エニュオ

ただただノクスの人間性を知っている神は、
ヘスティア・タケミカヅチ・ヘラ・エレボス(故神)
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