ポケモンロード バイオレット・レクイエム 作:とり。@pktorisky
「…やっぱりあなただったんですね。フトゥー博士」
「改めてハロー、ハルト。またキミに会える日が来るとはね」
ポケモンロード バイオレット・レクイエム
Chapter5 ハルトの追憶
「まずは助けてくれてありがとうございます。念のために確認したいんですけど…AIの方、ですよね?」
「ああ。ボクはキミが知るフトゥーAIだ」
フトゥー博士はペパーの父でエリアゼロの研究をしていた。博士は研究を効率よく進めるために自身を模したAIを作り出した。それがフトゥーAIである。
研究の最中フトゥー博士本人は事故で亡くなり、その意思をフトゥーAIは引き継いだ。
そしてとある事件を経た後、最終的にはハルトやペパーたちに見送られながらタイムマシンを使い未来へと旅立ったのだ。
「ここってエリアゼロの地下にあった研究所ですよね?ぼくが元の世界でフトゥー博士と会った時は荒れ果ててたけど、かなり綺麗に整備されていますね…」
ハルトが周囲を見渡すと様々な研究設備がある。その中には水を作り出す機械や植物を育てる機械もあった。
「この世界には水や植物はほとんどなかったのに、それを作る機械まで開発されているなんて…」
「ボクがこの時代に来た時には既に改築されていたよ。どうやらこの研究所はユートピアと呼ばれる組織が使っていたようだね」
「ユートピア…あ!」
『俺はチーム・ユートピアのヴレイ。未来を導く者』
ハルトは未来の世界へ来る直前の事を思い出す!
「ぼくを襲ったあいつか…!ってことは…!?」
「…ハルト。まずは情報を整理しよう。互いに知っている事を話し合えばキミが求めている知識も得られるだろう」
そしてハルトはフトゥーにこれまで起きたことを話した。
「なるほど…では次にボクの事を話すとしよう。キミも知っている通り、ボクは元の時代からタイムマシンを使って未来へ旅立った。そしてこの研究所にたどり着いたんだ」
「ボクはこの研究所に残されていた研究記録、そしてボク自身に蓄積されているデータを基に研究を始めた。そんなある日…ボクがこの時代に来てからはずっと停止していたタイムマシンが突如起動したんだ」
「タイムマシンの起動…まさか…!?」
「ボクはAIだからコンピューターとリンクできる。すぐにタイムマシンとリンクしてデータを確認した」
「タイムマシンの出発時代はボクたちが元いた時代。行き先はこの星が生まれる数億年前。このままではタイムマシンに乗せられた者は酸素が無い宇宙空間に放り出されて死んでしまう。この者は救わなければいけない…ボクの直感がそう告げた。AIであるボクが直感という非論理的な言葉を使うのも奇妙な話ではあるけどね」
「フトゥー博士を基にしているあなたなら人間としての直感が宿っていてもおかしくないと思います」
「人間としての直感か…キミの言う通りかもしれないね」
「話を戻そう。ボクはタイムマシンの行き先をこの時代へと書き換えた。本当は到着地点の座標もこの研究所に書き換えたかったが、そこまで干渉する事はできなかった」
「それから二か月後、この研究所にミライドンがやってきた。テラスタル病に侵されたキミを抱えてね」
「ミライドンがここまで連れてきてくれたんだね…ありがとう」
「アギャ!」
「それとテラスタル病ってぼくの身体がテラスタル結晶化した…」
フトゥー博士は頷く。
「この世界の空気は光り輝いている事にはキミも気づいただろう?あれはテラスタル結晶の粒子だ。テラスタル結晶の粒子が人の体内に侵入し身体を蝕んでいく…それがテラスタル病なんだ」
「この世界に人間がいないのってまさかみんなテラスタル病で…」
「いや、テラスタル病以外にも原因はあるようだ。そしてこの研究所にはテラスタル病の治療薬も残されていた。ボクはそれをキミに投与した。治る保証は無かったけどね」
「保証は無い?」
「テラスタル病の治療薬には強烈な激痛を伴う副作用がある。この治療薬は十人に使われたそうだが完治したのは一人だけ。残りの九人は激痛による苦痛に精神が耐えられず亡くなったという記録が残されていたよ」
「そんなヤバい代物をぼくに使ったんですか!?」
「キミなら僅かな可能性を信じて病と戦う事を選ぶだろう?」
「それは…そうですけど…」
「そしてキミは半年も激痛に耐えて病に打ち勝ち、現在に至るという訳だね」
「…ぼくたちの時代に戻らなきゃ。ここにはタイムマシンもありましたよね?」
「ああ。だがタイムマシンの起動には莫大なエネルギーが必要となる。エネルギーが貯まるにあと数か月はかかるだろう」
「そんな…」
「それとテラスタル病は完治したといってもキミの体力は大幅に落ちている。タイムマシンを起動させるのに必要なエネルギーが貯まるまではリハビリに専念した方がいいだろう」
「…分かりました」
「ところでキミは勉強熱心で知識を得るのが大好きだね?」
「え?はい、そうですけど…」
「この研究所には未来で行われた研究記録が多く残されている。キミの身に何が起こっているのか、知る手掛かりとなるだろう」
こうしてハルトのリハビリの日々が始まった。
そしてリハビリの合間にハルトは研究記録を読み進めることにした。
-テラスタルエネルギーの解明-
テラスタルは人やポケモンの願いに共鳴するエネルギーである事が判明した。
テラスタルによってポケモンのタイプが変わる、本来あり得ない現象が起こるのもポケモンの願いに呼応する性質によるものである。
AIでシミュレーションを行ったところ、テラスタルをエネルギー資源として活用すればこの星の人とポケモン全員が数千年暮らせる程のエネルギーを賄えるという。
これからテラスタルによって人とポケモンの暮らしはより豊かなものとなるだろう。
「ぼくたちの時代ではテラスタルはまだ謎に包まれていたけど、未来の世界では研究が進んでいるんだ…」
「テラスタルは人やポケモンの願いに呼応する…か…」
-テラスタルエネルギーの暴走-
テラスタルのエネルギー資源としての活用が始まり二十年。テラスタルエネルギーが突如暴走し始めた。
人の欲望は尽きることが無い。人々の強すぎる願いがテラスタルエネルギーの限界を超えてしまったのだ。
テラスタルエネルギーの暴走によってテラスタル結晶は脅威のスピードで増殖し、大地や木々、川や海を浸食している。
このままではパルデアの人やポケモンが食糧を得られなくなってしまう。我々はテラスタルの暴走を食い止める手段を早急に見つけなければならない。
-テラスタルエネルギー暴走の更なる被害-
テラスタルエネルギーの暴走による被害はパルデアだけに留まらなかった。
同じくテラスタル結晶が発生しているキタカミの里はテラスタル結晶の大量増殖、それに伴う洪水や土砂崩れなどの二次災害によって壊滅。
ブルーベリー学園でもテラスタルエネルギーの研究が行われていたが、テラリウムドームはエネルギーの暴走によって崩壊し水没。
いずれも多くの人やポケモンが犠牲になる事態となった。
また同じくテラスタルエネルギーを研究していたシルフカンパニーでも暴走したテラスタルエネルギーによってテラスタル結晶が大量増殖し、ヤマブキシティ周囲の地盤を天高く持ち上げてしまう事態が発生。
さらに観測を行ったところ、増殖したテラスタル結晶の一部は周辺の地面には付かずに浮遊し、その高度は少しずつ上がっている。
AIでシミュレーションを行ったところ、このまま浮上をし続けると百年後にはヤマブキシティの標高はシロガネ山を超えるほどになるという。
パルデア以外でも被害をもたらし続けるテラスタルの暴走は一刻も早く止めなければならないが、未だ有力な方法は見つかっていない…
-テラスタル病の発生-
我々がどんな手を尽くそうとテラスタル結晶の増殖は止まらなかった。
それだけではなくテラスタル結晶は粒子となり、大気をも浸食。そして空気を介し人の身体をも蝕み始めたのだ。
人間の身体がテラスタル結晶化する現象を我々はテラスタル病と名付けた。
ポケモンの身体と人間の身体では造りが違う。ポケモンはテラスタル粒子をエネルギーに変える器官を持つが、人間にはそのような器官は無い。
テラスタル病は現代の医学では治すことができない不治の病。感染を防ぐ術も無い。
もはやパルデアは人やポケモンが暮らせる地ではない。多くの人々がパルデアから遠く離れた地方へと避難した。
だが全ての人やポケモンがパルデアから逃れる術を持つ訳ではない。
取り残された人やポケモンは迫りくる死をただ受け入れるしかなかった。
-世界大災害-
多くの人やポケモンはパルデアから逃れたが、テラスタルエネルギーの暴走はパルデアだけの問題に留まらなかった。
増殖を続けたテラスタル結晶はついにこの星の中心にあるマントルまで到達し、地殻変動を起こしてしまったのだ。
この地殻変動によってパルデアだけでなく、世界各地で大規模な地震や津波、大噴火などの災害を毎日のように引き起こし続けた。
大災害による犠牲者数はこの星に住む人やポケモンの80%にも及ぶと推測されている。
大災害への対策としてポケモン預かりシステムを活用したポケモン保護プロジェクトや、人類の宇宙への避難も行われた。
しかし保護プロジェクトや宇宙避難で救える命は生き残った人やポケモンの中でもごくわずか。
パルデアの崩壊と同様に多くの人やポケモンの命は見捨てられてしまった。
「テラスタルエネルギーの暴走にテラスタル病…そして大災害…!?ぼくたちが今まで使ってきたテラスタルのせいで…この未来の世界は滅んだというのか…!?」
そしてハルトは研究日誌のある部分に目を向ける。日付であった。
「…フトゥー博士、今この時代って何年ですか?」
「…我々が元居た時代から数えて百年後だね」
「テラスタル暴走が起きたのは…ぼくが元いた時代の六十年後。てっきり千年くらい遥か先の事だと思ってたけど、遠くない未来の話なのか…」
-テラスタル病の解毒薬の作成-
私はパルデアに取り残された人やポケモンを救うため長年研究を続けた。
そしてラクリウムという物質にテラスタル粒子を打ち消す力がある事を発見し、テラスタル病の解毒薬の開発に成功した。
しかしあまりにも時間が掛かり過ぎた。解毒薬が完成した頃にはほとんどのテラスタル病の患者は亡くなってしまっていたのだ。
またラクリウムには細胞を極限まで活性化させる作用があり、解毒薬には活性化し過ぎた細胞によって強烈な激痛を引き起こす副作用もある。
残り僅かな生き残った患者に解毒薬を使用したが、彼らには激痛に耐えられる体力も精神力も残されていなかった。
結局解毒薬でテラスタル病を完治できたのはこの薬を開発した私だけであった。
「テラスタル病の解毒薬を作った研究者のレポートだ…」
「今までのレポートは印刷されていたけど、こっちは手書きのレポート…書いてる人が違うのか…?それにぼくの字に似てるような…」
-機械の人間とポケモンの作成-
それでも私は人とポケモンの暮らす未来を諦めたくはなかった。次のプロジェクトがクォークボディである。
クォークボディはテラスタル粒子をエネルギー源とし、食事をしなくても生きることができる。
人やポケモンの意識をデータ化してクォークボディに移植すれば、水や食糧が限られているこのパルデアでも人やポケモンが生きられるのだ。
先人が残した研究データを元にポケモンの思考を再現したAIを作成し、クォークボディのポケモンたちに搭載。
わたしはクォークボディのポケモンたちをパラドックスポケモンと名付けた。
またコールドスリープ状態だった我が友の頭脳をクォークボディに移植。
ついにわたしは友との約束を果たし、再会することにも成功したのだ。
これはパルデア復活への第一歩となるだろう。
-クォークボディの限界-
一つ問題が発生した。パラドックスポケモンは問題なく稼働しているが、人間のクォークボディの劣化が想定より遥かに早かったのである。
そして私自身の身体にも既に限界が見え始めている。このままでは世界を救うことはできない。
私は人やポケモンを救うための最終手段…タイムマシンを開発する決断をした。
-タイムマシンプロジェクト-
タイムマシンの開発は難航した。開発途中のタイムマシンが暴走し、パラドックスポケモンたちの一部が行方不明になるトラブルもあった。
だが我々はついにタイムマシンの開発に成功した。
「クォークボディのポケモンは…未来のパラドックスポケモンのこと…」
「フトゥー博士がタイムマシンを開発する前にパラドックスポケモンはエリアゼロにいた事が不思議だったけど…未来の世界で作られたタイムマシンによって過去の世界に迷い込んでいたって事か…!」
-歴史の改変-
これより我々は過去の世界へと行き、歴史の改変を行う。
全ての元凶であるテラスタルさえ消滅させれば、この破滅の世界を変える事ができるだろう。
人とポケモンが豊かに暮らせる世界を我々は必ず取り戻す!
「やっぱり…ぼくを襲ったユートピアは未来から来た人間だった…!」
「その目的は過去の世界へ行きテラスタルを消滅させること。ボクのオリジナルであるフトゥー博士がタイムマシンを作れたのも彼らの入れ知恵なのかもしれないね」
「そしてぼくを襲ったのは計画の邪魔になるから…ネモやみんなは大丈夫かな…?それに歴史が変わったら…ミライドンたちはどうなってしまうんだろう…?」
「アギャ?」
その数日後…
「タイムマシンを起動するためのエネルギーが貯まった」
「これでやっと元の時代に戻れる…フトゥー博士はこの時代に残るんですか?」
「ああ。ボクはこの未来の世界の事をもっと知りたい。それにもし歴史が変わった場合、この世界、そしてボクの意思や記憶にどのような影響があるのか。そして何よりキミがこの時代に来たことによってどんな変化が起きるのか。この目で確かめたいからね」
「博士らしいですね。色々お世話になりました」
「そうだ。ハルト、最後にキミに二つ伝えておきたいことがある」
「伝えたいこと?」
「一つ目はキミの持つテラスタルオーブ。この未来世界で多くのテラスタル粒子を吸収し、キミのテラスタルオーブはより強力なものとなった」
「………」
テラスタルオーブを取り出して静かに見つめるハルト。しかしその手は震えていた…
「そして二つ目。キミはこの未来世界でテラスタルの恐怖を知ってしまった。テラスタルオーブを手にしただけで動揺するその様子を見るに、キミの精神的なダメージは相当大きなもののようだね」
「………」
「だが同時にキミはテラスタルの力をその身に味わうという本来ならポケモンしか知りえない経験を得た。テラスタルの恐怖を乗り越えた時…キミ、いやキミたちはテラスタルの新たな境地にたどり着くだろう」
「テラスタルの新たな境地…」
そしてタイムマシンが動き出し、周囲に強い光と共に時空の歪みが発生する!
「さあ。行きたまえハルト!」
「ありがとうございます、フトゥー博士。さようなら!」
ハルトは時空の歪みの中へと飛び込んでいった!
「ボン・ボヤージュ!健闘を祈る!」
Chapter5 ハルトの追憶 ~Fin~
ーNext Chapter「闇を乗り越えて」ー
ー次回「ネモの葛藤」ー