徐々に回復してきています!
ホグワーツ特急は白い蒸気を吐き出しながら、緩やかにロンドンの街並みを離れていく。
車窓に映る景色は煉瓦造りの建物から緑豊かな郊外へと移り変わり、生徒達の話し声も次第に落ち着きを取り戻していた。
「結局、最後まで来なかったな」
「そうですね」
「まあ、考えても結論は出ん。どうにかできる問題でもない」
そう言うと、セラフィーナは車内販売で買ったカエルチョコレートを一つ摘み、包み紙を開いて口へ放り込んだ。
リオラも同じく車内販売で購入したカボチャパイを口に運びながら、小さく頷いた。
「グレンジャーが心配していましたね」
「あぁ。だが私達にできることはない」
セラフィーナは窓の外へ視線を向ける。
列車は一定の速度を保ったまま、緑の草原や森の間を駆け抜けていく。時折、小さな村や湖が窓の外を流れていった。
別のコンパートメントからは生徒達の賑やかな笑い声や、ペットが逃げたと慌てる声が聞こえてくる。
「去年はロングボトムがヒキガエルを逃がしていたな。毎年誰か一人はペットに逃げられるという伝統でもあるのか?」
「そんなこともありましたね」
そんな他愛もない話をしながら、二人はゆっくりと旅の時間を過ごしていく。オーロラは時折窓の外を眺めながらも、基本的にはセラフィーナの隣の座席で丸くなっていた。
時折車内販売の魔女が通り過ぎ、通路では友人同士が互いのコンパートメントを行き来していた。
ハリーとロンのことだけが僅かな引っ掛かりとして残っていたが、それ以外は去年と変わらぬ穏やかな車内だった。
◇
数時間後。
日がすっかり落ちた頃、ホグワーツ特急は終着駅であるホグズミード駅へ静かに滑り込んだ。
「着いたな」
「はい、お嬢様」
二人はトランクを降ろし、ホームへ降り立つ。
ホームにはランプの灯りが揺れ、一年生達を集めるハグリッドの大きな声が夜空へ響いていた。
「一年生!一年生はこっちだ!」
不安そうな表情を浮かべる新入生達が、巨大な体躯の半巨人の後ろへ次々と集まっていく。
「去年は私達もあちらだったな」
「一年が経つのは早いですね」
二人は一瞬だけその光景を眺めると、二年生以上の生徒達と共に馬車へ向かった。
夜風がローブの裾を揺らす。馬車は音もなく動き出し、街灯一つない夜道をゆっくりと進んでいく。
やがて森を抜けると、小高い丘の先に無数の灯りを宿したホグワーツ城が姿を現した。
「戻って来たな」
「えぇ、いつ見ても見事な城です」
窓から漏れる暖かな灯りが、夜闇に浮かぶ城を幻想的に照らしている。オーロラは特に興味が無いのか、セラフィーナの膝の上で丸くなっていた。
馬車は石畳を進み、やがてホグワーツ城へ到着した。二人は馬車を降り、生徒達の流れに続いて城内へ入る。
二人は他の上級生達と共に大広間へ入り、スリザリンの長テーブルへ腰を下ろした。
間もなく新入生達が案内されてくるだろう。
セラフィーナ達は静かにその時を待った。
◇
翌朝。大広間へ向かう廊下は、朝から異様な熱気に包まれていた。
「本当に見たんだって!」
「空飛ぶ車がホグワーツまで飛んできたらしいぞ!」
「ポッターとウィーズリーだって!」
「暴れ柳に突っ込んだって聞いた!」
あちこちで飛び交う噂話。話す者によって内容は少しずつ違うが、一つだけ共通していることがあった。
ハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーが二年生になって早々、何やらとんでもないことをやらかしたということだ。
「ホグワーツ特急に乗り遅れ、空飛ぶ車でやってきて暴れ柳に突っ込む……この話、どこまで事実だと思う?」
「空飛ぶ車で来た、というのはあり得ない話ではないかと思います。確かアーサー・ウィーズリーが所有していると、旦那様が仰っていましたので」
二人は大広間へ入る。オーロラは眠そうに欠伸をしながらも、セラフィーナの足元にピッタリと寄り添って歩いていた。
周囲では朝食を口に運びながらも、誰もが同じ話題を話している。
「ふむ。随分と話が大きくなっているな」
「噂とはそういうものですから」
二人はスリザリンの長テーブルに腰を下ろした。オーロラはセラフィーナの隣で丸くなり、ゆっくりと尻尾を揺らしている。
その時だった。
大広間の扉がゆっくりと開く。談笑していた生徒達の視線が、一斉に入口へ向いた。
「……来たか」
姿を現したのは噂の渦中の人物、ハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーだった。二人は居心地が悪そうに周囲の視線を受けながら、足早にグリフィンドールの長テーブルへ向かった。
「まあ、無事ではあったようだな。グレンジャーはさぞ安心していることだろう」
「ですが、あれだけ目立てば暫くは学校中の話題でしょうね」
その時だった。
一羽のフクロウが真っ赤な封筒を抱えて、一直線にグリフィンドールの長テーブルに向かっていった。
ロンが青ざめた顔で封筒を受け取り、震える手で開封する。
「ロナルド・ウィーズリー!!」
次の瞬間、大広間全体を揺るがすほどの怒鳴り声が響き渡った。
ロンは顔を真っ赤にしながら硬直し、周囲の生徒達は一斉に視線を向ける。
真っ赤な封筒は大広間中に響き渡る勢いで怒鳴り続け、ロンはただ俯いてそれを聞くことしかできなかった。真っ赤だった顔からはみるみる血の気が引き、青白く変わっていく。
「凄まじいな」
「えぇ、これが吼えメールなのですね」
セラフィーナは小さく呟き、リオラも思わず苦笑する。流石のオーロラも少し驚いたらしく、目を丸くしながらグリフィンドールの長テーブルを見つめている。
やがて怒鳴り声が止むと、手紙はひとりでに燃え上がり、一瞬で灰となってロンの皿の上へ崩れ落ちた。
一拍置いて、大広間のあちこちから笑い声が上がる。ロンは羞恥と恐怖の板挟みで複雑な表情を浮かべながら項垂れるしかなく、ハリーも気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
「……暫くは学校中の笑い者だな」
セラフィーナはそう呟くと、興味を失ったように朝食へと視線を移した。