多分相性いいよまとスレとゼッツ。
「ざっしたー」
簡略化した挨拶の定型文で客を見送る同僚の声が聞こえてくる。入店と退店の区別もつかない自動ドアのシステム音声にため息をつきながら、今日も変わらず棚卸し。俺は……そんな日常に慣れ切っていた。
「あ、お前そろそろ上がりだろ? 後やっとくよ」
「っしゃーす」
そんなこんなで今日のシフトも終えて、帰路につく。時間は夜の九時半、太陽などとっくに沈んで月と星が幅をきかせる時間だ。まあ都会の光で月しか見えないのだが。そんなことを考えながら歩いていれば注意が散漫になるのも当然であり、すれ違いざまに女性と肩がぶつかった。
「あ、すみません」
「チッ……前くらいちゃんと見なさいよ。
……普通にそっちもご友人と話し込んでて前見てなかったんだからお互い様で良いのではないだろうか、とか。それ関係あるか、なんて思うものの。その舌打ちに対して言い返したところでそのコストに見合うリターンを得られるとは毛頭思えないので無視してそのまま歩き続ける。
──────『異能』。それは、数十年前に突如現れた異空間『魔都』にのみ存在する果実『桃』を口にすることで得られる超能力。しかし、理由は不明だが……その異能は
それにより、男女間の力関係は崩壊。今や世間の風潮は完全な『女尊男卑』となり、男は学業すら高卒就職が当たり前。大学進学など無駄、と言われるほどの代物になった。
「……はぁ。やってらんねーな」
思えば、俺の人生は不幸続きだ。親は俺の中学進学に合わせて交通事故でくたばるし、遺された俺と妹は親戚中をたらい回し。何とか親の遺産と国からの補償で安いアパート借りて生計立てるためにアホほどバイト回して、その果てにまだ中学生の妹にまで働かせる始末。我ながら情けねえったらありゃしねえ。なおその妹には諸事情で
「……いっそ死んだら楽かもなあ」
なんて零すが、実行できる気はしない。結局こうしてその場その場の不平不満を吐き捨てながら萎びて生きていくのだろうか。……まあ、仕方ないか。人生は諦め、妥協と諦観、逃亡の連続だ。自分が潰れない程度に逃げて、自分が壊れない程度に諦めて、自分が崩れない程度に妥協する。そうして自分を守り、他者を程々に不快にさせ合いながら生きていく。そういうものだろう。
「明日は……配達のバイトか」
そんなことを呟いて、一歩踏み出したその瞬間──────世界が変わる。
「あー……クソ、確率ガバにも限度あンだろ」
異空間『魔都』には、異能を齎す『桃』ともう一つ。恩恵と相反する、脅威があった。その脅威は『
その名も、魔防隊。隊員の全てが女性で構成された、自衛隊の一種である。
「いやァ、思い出すな。あン時は……」
確か、
『よう頑張ったのう。後は任せい』
そして、そんな言葉と共に醜鬼らを瞬殺した後ろ姿。生きる意味は見い出せない癖に、あの時俺と妹を助けてくれた後ろ姿を無意味にしてもいいと思えるほどの死ぬ意味も見い出せないから生きてるだけのリビングデッド。それが俺という生き物だった。
「……思い出に浸ったって仕方ねえか」
さて、現実に意識を戻そう。現在俺は、その『魔都』へと繋がる門……クナドが突発的に発生し、魔都に迷い込んでしまう『魔都災害』に巻き込まれていた。……周囲に人影なし。他に巻き込まれた奴が居ない、要は被災者が俺だけなのはせめてもの救いか。正直これも二度目だ、悲しい話だが慣れたものである。
「こういう時は……確か動かないのが鉄則だったか」
何せ、クナドは一度発生すると数時間ほど持続する。そして魔防隊の職務の一つは、その突発的に発生したクナドが自然消滅するまで醜鬼が現世に出ないように警備すること。だから魔防隊はそのクナド周辺を警備するわけだ。助かるならその近くに留まっていた方がいい。
「……ま、そういう訳にも行かねえか」
だが悲しいかな、この十七年弱の人生で二度も魔都災害に被災するような人間が『醜鬼に襲われずに済む幸運ガチャ』で当たりを引けるわけがない。
「……出るよなー……」
案の定、周辺に現れる怪物たち。魔都全域に生息し、無条件で人間を襲う……醜鬼である。現れた醜鬼らは当然のように俺へと狙いを定め飛びかかってきた。
「……ま、無抵抗で死ぬのもアホらしい」
咄嗟に横に跳び、初撃を回避。そして間髪入れず次の醜鬼が飛び込んでくるのは、その背中を足場として上を駆け抜けることで避ける。残念なことにこちとら『桃』の異能が得られない男、コイツらをぶっ殺すことは出来ない。……が。
「これなら問題ないな」
そんなこんなで三十分が経った。そろそろ来てもいいのでは? サボりか? ……と考えていると、丁度来たようだ。次の瞬間、ビームが降り注いで醜鬼達を消し飛ばし、空からアタッシュケースを持った女が降ってきた。はえー……最近の人間ってビーム撃って空飛ぶんだね。ガンダムかよ。
「他に出られる組員が居ないから、仕方なしに来たのだけれど……大丈夫かしら」
「三十分以上異能もなしに逃げ回り続けるのを『大丈夫』って表現する世界線にアンタが居るってンなら言えるんじゃねえの? 少なくとも俺はそんなタイムラインに生まれた覚えはねえな」
皮肉が言葉を突いて出る。こちとらバイト終わりのクソ疲れてるタイミングで三十分駆けずり回る羽目になってんだ、これくらいは許して欲しい。
「……三十分? あの醜鬼の大群を、男が?」
「ンだよ、フカシじゃねーぞ」
ガチで三十分逃げる羽目になってんだよこちとら。
「……ふうん? どうやら嘘はついてないみたいね。それなら……ねえ、貴方」
「……あ?」
「醜鬼相手に三十分逃げ切るその身体能力を見込んで、一つ良い話があるのだけれど……乗るかしら?」
良い話、ね。大層魅力的だが──────。
「とりあえずそれによって俺が得られるもの、金銭なら具体的な金額。その他諸々話の内容も全部話せるだけ話して貰わねーと返答出来ねえな」
「あら……随分と慎重だこと」
「この段階でホイホイ飛びつくバカと取引したって仕方ねーだろ」
「違いないわ」
花型の紐飾りをつけた黒髪の女──────恐らく魔防隊隊員──────はそう言うと、僅かに考えて口を開いた。
「……多元能力のシフト実験」
「多元能力ゥ?」
ンだそれ。
「私は
「テスターねぇ……」
そういや色々バイトは入れてたけど、治験系のはやったことなかったな。
「そちらに求めるのは、醜鬼の襲撃を三十分間凌げるほどの身体能力。こちらが提示するのは、醜鬼と戦う力……後は給金。どう、乗る? 額面は……これくらいね」
どれどれ……わお、月々でこれか。さすが魔防隊、俺の今までの月収の四倍くらいある。万年金欠としちゃありがてえな。
「──────乗った」
「そう、歓迎するわ」
女はそう言うと、手に持っていたアタッシュケースを俺に投げて渡してきた。
「……これは?」
「その多元能力を使うためのシステムよ。それを使うことが出来たなら──────今日から、貴方は魔防隊の特別隊員ね」
……魔防隊の、特別隊員か……皮肉なもんだな。そんなことを考えながらアタッシュケースを開けると、そこには──────
「……ベルト?」
中にあったのは、一本のベルト。そして、一つの真っ赤なカプセルだった。それに困惑していると、再び地面が隆起し醜鬼らが現れた。……お誂え向き、って感じだな。
「使い方は──────」
「良いよ」
何となく解った。俺は女の言葉を遮ると、醜鬼らへと目を向ける。……ああ、酷く高揚する。こんな気分は何時ぶりだろう。少なくとも親が死んでからは初めてだ。身体は五年前から成長したのに、精神はあの時一緒に止まっちまってた。妹を守らなきゃ、俺がしっかりしなきゃ。そのために足掻いて足掻いて、妹を育てるために
「──────でも」
ベルトを胸に。左から、たすき掛けするように装着する。……熱い。酷く熱い。震えがする。体調不良……いや、違う。これは、俺が
摂氏三十七度の赤熱が全身を巡る。心臓が脈を打つ。
そしてその言葉と共に、ドライバーをなぞるようにソケットのカプセムを回した。
その瞬間、俺の全身が黒いモヤに覆われる。その中で真っ黒な
そして、最後に
──────仮面ライダーゼッツ フィジカムインパクト。
これが、俺の戦う姿。夢と現、生と死、空想と現実の狭間にある力か。
「早速初陣よ。思う存分暴れてみせなさい」
「ったく、人使いの荒い雇い主だな」
だが、俺としても試運転をここで行えるのは僥倖だ。やるとしようか。
「──────ッラァ!!」
力を込めれば、
「良いな、爽快だ」
回し蹴りを放てば数体の醜鬼を薙ぎ払い、適当に目についた一体を掴んで振り回し投げ飛ばせば数十メートル単位で飛んでいく。気分は無双ゲーだな。そんなことを考えながら、ドライバーに装填されたカプセムを回転、更なる力を引き出す。
その状態で一歩踏み込めば大地が砕け、腕を振るえば風圧が醜鬼を襲う。……これ本当に個人の兵装として大丈夫な規模か? まあいっか。そうやって数を減らしていると、追い詰められた醜鬼らは自らの身体を融合させ巨体を形作った。……そんなのあり?
「うおあっ!?」
咄嗟に再度カプセムを回し能力強化、振り下ろされた拳を迎え撃つ。……っぶね、アレ直撃したらちょっと面倒だったぞ。
「さて、そろそろ仕舞いにするか」
トドメは必殺技。これは何時だって絶対法則だろ?
トリガムを三回押下、そしてインパクトカプセムを回転させる。
引き出された力で一気に肉薄、回し蹴りを叩き込む!
続いて大地を駆け背後を取り、無防備な背中に二発目!
そして正面に戻り、大きく跳躍。必殺の飛び蹴りを炸裂させる!
必殺の一撃『インパクトバニッシュ』を叩き込まれた醜鬼。その全身が瞬く間に弾け飛び、残骸すら残すことなくその命を奪い尽くした。
「──────どうよ。お眼鏡には叶ったか」
「ええ、期待以上よ。それじゃあ、改めてご挨拶ね。私は
「
これは、死を境に止まった男の──────再び生きて進むための物語。
所属:無所属(高校生)→魔防隊特別隊員
年齢:16歳(高校二年生)
身長:177cm
体重:58kg
誕生日:8月8日
血液型:A型
家族構成:妹
CV.江口拓也
恋に『多元能力システム』のテスターとして雇われた親無し金無し誇り無しの一般男子高校生。
中学入学直前に両親が事故に遭い重体になった挙句そのタイミングで家族諸共魔都災害に巻き込まれ、両親が死亡するというこの世界でもそうそうないクソ不幸に巻き込まれた。その後、引き取ってくれるような親戚も碌にいなかったことで両親の遺産と死亡保険、災害補償により受け取った金銭をどうにか削りながら妹を何とか養っていた。ほぼ毎日のアルバイトの過労や金欠などで慢性的な栄養失調に陥っているが、『そも病院行く金が勿体ないし通院してる間バイト入れられない』という理由で放置している。前回の健康診断の結果はほとんど赤信号で、割と常に『何時倒れてもおかしくない体調』なので常に火事場の馬鹿力が働いており身体能力は高い。基本的に諦観で投げやり気味なので誰にでもタメ口。
妹は現在魔防隊で働いている。
自身の異能である『万物を総該した無限宇宙の全一』のような『能力の切替』が可能なシステムを機械的に再現したもののテスターを探していたらSSRを見つけた。この後SSRを検査したらめちゃくちゃ身体ボロボロで腰抜かす。