この世界の名称が分からない部分は史実の名前を使わさせてもらいます。
このファルマリアに用意された小さな商会であるステン商会。
かつて、コボルト放逐が行われた時に逃したコボルト達からの謝礼で渡された金品を元手に黒エルフ族が作った木工品や加工肉の取り扱いをする商会である。法人名義で役所に届け出た代表者の名前はキャメロット国籍の私だ。まあ言うとヘンナ達の村々から売られる工芸品や材木などを運搬して販売する業者である。
「悪いわね。こんな遅くまで待たせちゃって」
「いえいえ、私もまだやる事が残っていましたので」
軽く首を横に振って事務所でペンを持っていた眼鏡をかけた白エルフは言う。黒茶色に赤茶の瞳を持った彼女はフレン・クレブスという白エルフだ。
かつてコボルトの商人に弟子入りをしていた彼女は、コボルト族放逐の際に路頭に迷いかけたところを、そのコボルトが南に逃げる際に私と顔を合わせ、私が誘った事でそれ以来の付き合いである。今はこのファルマリア事務所の代表兼ステン商会の商会長をしている。
私には商才は無かった為に、コボルト族放逐で職を失いかけた白エルフに声をかけて居場所を作った後はとっとと名誉職になって会社から一定の利益を貰って外遊に高じてきた。
「で、何をしていたの?」
「今日入ってきた品物の確認と、この前売却を行なった国鉄債券の利益ですね」
「おお、儲かった感じ?」
「はい。利回りを含めてこのくらいです」
コボルトに弟子入りしただけあり、彼女は計算が早く、また同時に利益となる匂いを嗅ぐ能力が高かった。
「おお、流石ね」
詳細に記された利益につい笑みが溢れてしまう。黒エルフが林業で作った工芸品や家具はキャメロットでよく売れており、今回もキャメロットの商人が買って行ったと言う。
「商会長のお陰です。この前、ノアトゥンにも事務所を構えられました」
「へぇ、あそこにいい場所あったんだ」
「仕入れを行ったキャメロットの商人からの要望でもありましたからね」
「なるほどね」
事情を理解してキアステンは数回頷くと、フレンは続けて伝える。
「それから商会長、こちらを」
「うん?」
そこで次に彼女が渡してきたのは今回の輸入品目録であった。
我が商会の主な取引先は黒エルフである。他の白エルフは基本的に黒エルフとは距離を置き、蔑んだ行動を軍隊内ではとっていると聞いていた。
またフレンはヘンナのような黒エルフ以外で数少ない、私が白エルフであること知っている人物であった。商会の中でも私が直接誘った人間以外は知らない為、普段からキャメロット人として最近は繕っていた。
「…」
目録を見たキアステンは少し目元を細めると、軽く頷いてから彼女に言う。
「荷物は今どこに?」
「港の倉庫で預かってもらっています」
「了解、他の子達には明日出勤した時に伝えて」
「わかりました」
フレンは頷くと、そこで彼女はグロワール土産のワインを机に置きながら届いた荷物の場所を聞いた。
「ほぉ…」
そしてすぐに港近くの倉庫に飛んで届いた真新しい木箱の蓋をあける。
「レバーアクションの銃。センチュリースター合衆国が安売りをしていたからね」
購入を行ったのはセンチュリースター合衆国の銃器メーカーが製造を行っていた
後にこれは西部を制した銃とも言われるはずであるが、内戦の後に国が分かれたセンチュリースターは急激な領土確保に躍起になって西進を進めており、この銃はセンチュリースター内戦でも大いに活躍をした銃であった。
キアステンの脳内で色々と想定される戦場ではこの銃は欠点が多いのだが、連射ができるという一点で採用をしていた。
「これは?」
「グロワールの最新鋭の小銃よ」
そこで隣の木箱を見てフレンは首を傾げると、キアステンは木箱の中身を言う。
キアステンが自らの知識を用いて購入をした銃器である。グロワールが採用したばかりの最新式の小銃で、思っていたよりも早い到着であった。本当はオルクセンの武器が欲しかったのだが、あの国は旧式の武器以外を市場に流していなかった。
「照星は一〇〇〇メートル以上もあるんですね」
「ええ、最新のグロワールの銃だもの」
正直、軍隊よりも先にこちらの届いたことにキアステンは身に覚えがあったので思わず苦笑してしまう。正直、税関を通れるかヒヤヒヤしていたが、どう言う手を使ったのか、全部がこうして倉庫に集められていた。
「戦争でもするつもりですか?」
「阿呆、んなことすると思う?」
事前にキアステンの想定を聞いているとはいえ、フレンは彼女が購入を指示した武器量に思わず苦笑してしまう。
「一応、表向きには強盗対策であると申請しました。我々が契約する傭兵団に装備させる予定です」
「ん、他にも色々と装備品とかが来ると思うから」
「分かっていますよ」
フレンは理解している様子で頷くと、キアステンは嬉しげに頷いて片付けて倉庫を後にした。
マスケットの世界において、少し前に画期的な発明があった。
ミニエー弾。
キャメロットの軍人が考案し、星歴八四九年にグロワールの軍人が発明したこの弾丸は銃器に革命をもたらした。
別名で椎の実弾やプリチェット弾などとも言われていた。
それまで、マスケットというのは滑腔式銃身と呼ばれる内側に溝のないパイプのような銃身を使用し続けていた。この銃身は前から装薬の装填を行うマスケットからすれば簡単に弾丸と装薬を押し込む事ができた。
しかし滑腔銃身の欠点として、発射の際に装填をしやすいように実際の弾丸よりも大きく設計された弾丸が銃身にぶつかりながらランダムに回転しながら飛んでいく為、射程距離が短くなってしまい、また先に発射ガスが漏れて威力が落ちてしまう問題があった。
そこで弾丸が螺旋状に回転をしながら発射されると矢羽根のように安定して高威力になる事が発見された。俗にいうジャイロ効果と呼ばれる現象であり、これにより銃の射程は約四五メートルから約二七〇メートル程へと驚異的に伸びた。
しかし欠点として、重心に刻まれた溝に黒色火薬の汚れが溜まって清掃がしにくくなることや、弾丸と旋条が密着をする事で銃身内の押し込みに苦労することとなり、装填がしづらくなるという欠点も抱えてしまった。その為長い間、マスケットに
しかしこのグロワールが開発したミニエー弾は発砲の際に弾丸の下部に切り取られて窪んだ部分が膨らんでがっしりと銃身の溝と噛み合って回転運動を起こすのだ。この銃弾は以前の円形の弾丸と同じく銃身の穴よりも弾丸の直径が小さく設計され、今までのマスケット銃と同様の速度で装填ができるようになった。
このような銃身に溝が刻まれたパーカッション式で先込め式の銃器をライフルド・マスケットと言う。
この銃は星歴八四五年に起こったキャメロット・グロワール・イスマイルと、まだエトルリア統一前のサルデーニャ王国が合わさった連合軍と、ロヴァルナとの戦いであるクリミア戦争にてその恐ろしいまでの威力を示した。
また点火装置についても、大きな変化があった。
ミニエー弾発明から遡って星歴八〇六年頃に
雷管を使用したその点火装置は従来の火打石を使ったものと違って天候に左右されず、発火までが早く、信頼性も格段に上がったことで戦場における銃火器の価値を一気に高めた。また点火装置を少し改造するだけで使用可能であった為、あっという間にこれは世界中に広がった。
そしてこれもまた、先のクリミア戦争において恐ろしい実力を示した。
そしてそのクリミア戦争と同年の星歴八四五年、グロワールの技術者がとあるものを発明した。
リムファイア式実包。
金属製で
それ一つで弾丸・火薬・雷管を備えた世界初の金属薬莢の誕生である。
その後にセンチュリースターの陸軍大佐がベルダン型センターファイアー式の金属製薬莢を発明し、より実用的なものを作り出していた。
なおこの陸軍大佐、内戦時にはシャープシューターと呼ばれる特別な狙撃兵部隊を編成していたことでも有名であった。
銃器における三大発明はこの三つであるだろうとキアステンは確信している。これらの技術は後年になってもずっと使われていく技術であり、これらが揃うまで四〇年ほど。キアステンは産業革命後の人間の技術の進化の速度に最も恐れ慄いた瞬間であった。
そしてその威力をまざまざと実感したのは、やはり星歴八六一年に勃発したセンチュリースター内戦だろう。あの戦争は、進化した銃が戦場にどれだけの被害を与えるのかを最初に世界に教えた戦いであった。
星歴九世紀に入り、産業革命の伝播を受けて急速な工業化を達成したセンチュリースター東海岸北部と、奴隷労働に依存した大規模なプランテーション農園による一次産業と密着をした南部。
同じ国であっても南北で産業構造が全く違うこの国において、奴隷制度の問題や南部の主力生産品であった綿花を高値で買ってくれるキャメロットやグロワールを、北部が関税による保護貿易で締め出そうとしたことなどが主な開戦の要因であったと言われている。
センチュリースター合衆国とセンチュリースター連合国。二国の内戦は、始めは短期間で終わるだろうと誰もが予想していた。
しかし戦線はあっという間に東海岸全体に広がり、四年以上の歳月をかけ、九〇万人以上の死者を出す大惨事となった。
星暦八六一年から八六五年まで行われたこの戦争は、全軍を通してライフルド・マスケットが使用された初の戦いと言えるだろう。
南部連合は
私はそんな時、第一次ブルランの戦いに赴いていた。
合衆国の首都に程近かったこの場所での戦闘は、首都の市民が見物のために訪れており、何とそこで彼らは昔ながらの戦列歩兵を用いて行進を行なっていた。既にエルフィンドではロザリンド会戦で廃れた戦法であったため、逆に珍しかった。
しかし先述の通り、ライフルド・マスケットは強力な上に一斉に射程距離が伸びたことで以前のような四、五〇メートルの戦闘ではなくなったのだ。そのため、先に北軍が放った銃弾は南軍の横隊を一斉に薙ぎ払った。北軍が放った銃弾は全て命中をしたため、そのまま南軍は潰走をしてしまった。
これにより戦争は長期化する事となってしまい、最終的に国は分かれたままとなってしまった。