グロワールやセンチュリースターからわざわざ仕入れた銃火器。それは一つの商会が持つものとしては過剰と言われてもおかしくはないだろう。
しかしこの国において銃というのは基本的に狩猟用である。なので需要はあった。仕入れて売るんだと言って税関を通したという。
まあ実際に売ったわけだが…。
「へぇ、ずいぶんとこれはまた…」
事務所で真新しいボルトアクション方式の小銃を持って一人の白エルフが感嘆の声を漏らした。
彼女の名はアグネス・ユーティライネン。ロザリンド会戦への参戦経験も持った女性である古兵である。ドワルフシュタインへエルフィンドが侵攻した時に事実婚をしていたドワーフの夫を失った経験を持っていた。
ドワルフシュタイン滅亡後に軍内での揉め事で軍を辞め、半ば浮浪者となっていたところを私が声をかけて仲間に引き入れていた。妹が故郷の村に一人おり、北部系出身であった。
「どうかしら?」
キアステンが問うと、アグネスは手元で槓桿を起こして後方に引いた後に前に押し込んで元の位置に戻すと、満足げに軽く頷いた。
「十分です。こんな上物を支給してくれるとは」
アグネスは最新式の小銃に少々不慣れであっても、その性能の高さに目を見張った。まあ射程二キロ近い代物を見たらマスケットを使ってた人間からしたら驚くわな。
「これは狙撃用ですか?」
「ええ、私たちが多く使うのはこっちね」
キアステンは頷いて他に多数用意された、新品や中古品の混ざったレバーアクション式小銃を見る。
本当は絹を何層にも重ね合わせた初期の防弾チョッキが手に入れたかったが、あれが登場するのはあと数年先のことであった。
「なるほど、
「そう言うこと」
キアステンは頷くと、アグネスも彼女が考えていることを十分に理解している上で事務所に集まった他の数名の白エルフを呼び集める。
彼女達はこのステン商会が保有する馬車の護衛の傭兵達である。元々農奴や浮浪者であったところなどを、衣食住を提供する代わりに商会が運ぶ荷物の護衛任務をさせていた。
「総員傾注!」
軍隊上がりのアグネスの声にすっかり他の面々も綺麗に整列をした。
「会長から武器は受け取ったな?」
「「「はい!」」」
そこで彼女達は受け取った装備品諸々の確認を行う。
本当は
「ではこれより射撃訓練も兼ねた商品の送迎を行う!」
「「「はいっ!」」」
キアステンが選んできた彼女達は全員が何かしらの事情があってこの商会の傭兵になることを選んだ身であった。
故郷の白銀樹を離れられた彼女達は支給されたレバーアクション式小銃やボルトアクション式小銃を持って事前に荷物を積んだ馬車に乗り込む。
これらは黒エルフの住む村々が注文を行った品々で、主に小麦粉や燕麦、ライ麦や乾燥野菜を乗せていた。
「だいぶ量が少ないわね」
「収穫量が減っているのは本当のようですね」
キアステンにフレンは頷くと、最後の荷馬車にキアステンは乗った。
「邪魔するわね」
「いえ、お構いなく」
荷馬車には数名の護衛の白エルフが武器を持って乗り込んでおり、体に巻きつけた弾薬盒にはレバーアクション小銃用の弾薬が用意されていた。他に小銃を渡した部隊にはそれに対応した弾薬を渡しており、購入した分は国内に分散させて用意していた。
「しかし商会長、よくこれだけの武器を集められましたね」
「まあね。中古品とかも買ってきたから、ちょっと悪い気もしているんだけどね」
「そんなそんな。むしろ使い込まれている方が動かしやすくていいですよ」
そんな事を話しながら彼女達はファルマリアを抜ける。
四台の荷馬車は街道を抜け、南部の黒エルフが主に住んでいる山岳地帯に向かう。
「そろそろです」
「ん」
「久しぶりの帰郷ですか?」
「そうね…」
その為に土産物を持っていたので、少し浮き足立っていると指摘されても文句は言えなかった。
村に繋がる道は昔と比べると綺麗に整備されていた。ほぼ獣道のようであった道も草を刈られ、馬車が通り抜けできるように改修され、補強されていた。途中、黒エルフの村で事前に魔術通信で注文を受けていた品物を送り届けたりをして馬車は積荷を減らしていく。そして馬車は少しすると見覚えのある村が見えてきた。
「久しぶりね」
「商会長、土産楽しみにしてますよ?」
「任せなさい」
ドンと胸を張って部下に答えると、キアステンは街の広場に止まった馬車から降りた。
「キア姉!?」
「あっ!キア姉が帰ってきた!」
すると私の顔を見るや否や、村にいた黒エルフの少女が嬉しげな笑顔を見せて家に走って行った。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」
そしてヘンナが家から出てくる。昔から変わらない木造二階建てのログハウス。何度か補修を重ねているが、大きく変わったわけではない。
ついでにヘンナも大きく変わったところはない。
「また随分と派手な服装で…」
ヘンナはそう言って全身がワインレッドのデイ・ドレスを纏ったキアステンを見る。ツバの大きな羽付きの黒い帽子はキャメロットで一般的な服装をしていた。
「あら、ログレスではこれが一般的よ?」
「いやキャメロットとエルフィンドを同じにしないでよ…」
もはや自分よりも世界に詳しくなったキアステンに、何となく追い越された感覚をヘンナは覚えた。いつも海外にいるようになった彼女を見てロザリンド渓谷の頃と変わったと村の他の人達は言うが、私はそうは思えなかった。
「今日はどうしたの?」
「お土産と、傭兵の子達の射撃訓練かな」
「なるほどね」
話を聞いて理解した様子でヘンナは頷くと、直後に少し怪訝な顔をする。
「ねぇ、本当に白エルフが私達を放逐しに来るの?」
それは昔から私が警鐘を鳴らしてきたことだった。
フンド同盟も異種族放逐によって南に逃れることとなり、その際に私達の村々ではある産業を使った方法で彼らを効率的に流していた。
「私はそう思ってる」
キアステンは確固たる様子で頷いた。
この約一二〇年、白エルフに対しキャメロット人として彼等を俯瞰してきた私は、彼等が根本的な部分から選民思想にどっぷり浸かっている事を確信していた。
自らを優れた存在と自称する同胞はドワーフ、コボルト、大鷲、巨狼をこの半島からオークのいる彼等の教典に記された野蛮の地へと放逐した。
「
奪った領土から技術と文化を奪い、それを自らのものに仕立て上げた。
メッキで塗り固められたそれらが剥がれかかると、また新たな放逐と言うなの放電でメッキをし直す。
「白エルフは黒エルフを放逐して、次に北部系の白エルフを放逐する」
「…」
そうやって
彼女の話は、妙に説得力のあるものだった。
しかしヘンナは眉を落とす。まるでキアステンが白エルフを恨んでくれと言っているような口調であったからだ。無論、彼女の生まれを知っているからそう思うのも無理はないとわかっていた。
しかし、自分も含めたあらゆる同胞を恨んでいると言うのは自分の心も荒ませていくのではないかと危惧していた。
「じゃあ、ちょっと射撃場借りるね」
「あー、うん。良いよ、あそこってキア達以外で使わないし」
ヘンナのそんな思いとは裏腹にキアステンは傭兵達と共に川辺に向かった。
この村はシルヴァン川に近い場所にあり、その為上流にあるまた別の村から切り倒された丸太がここの製材所で材木に加工をされて市井に送られている。私が提案し、コボルト族の商人もその噂を聞きつけてシルヴァン川の急流を集った水運をするようになっていた。
基本的に黒エルフは私達白エルフと違って狩猟で生活が成り立っている為、体の動かし方を心得ている。初めこそ『え?あのシルヴァン川を下るの!?』と奇怪な目で見られたが、いざやってみるとこれが上手いこと行けた。
切り倒した木々を繋げて川に流してその上に黒エルフが乗って、細長い棒を使って筏を制御し、数珠繋ぎの筏を流れが比較的収まるこの村まで流れてやって来る。魔術通信で事前に筏が来ることを聞いて、私達は川に出て筏を捕まえる。
「よう」
「お疲れ」
河辺では筏の上に乗った数名の黒エルフが村の黒エルフや一部こっちに移り住んだ白エルフなどと軽く挨拶をする。
「今日もまた多く持ってきたな」
「ああ、間伐で切ったんだ」
そう言い、新たに縄で結ばれる筏。川には加工待ちの丸太が係留されており、その上を何度か飛んで黒エルフは砂利の上に降り立つ。
「ふぅ、しかしあの白エルフは良く考えたものだな」
そして感心や感嘆の声が混ざった様子でその係留された筏群を見る。これを提案したのは、この村に住んでいる一人の白エルフ。普段はキャメロット人と言っているが、薄々彼女達も察しており、暗黙の了解となっていた。
「昔から川を使った運送はあっただろうが」
「だからってこんな急流でやると思わんだろ…」
日焼けや虫喰いを防止する為に水に浮かべられたその筏は、村で生まれた子供達がその上で遊んで怒られると言う景色を作っていた。
「コラーッ!落ちたらどうするのよ!!」
今日もそんな怒号が木場に響いた。
中洲までいっぱいに繋げられた筏は今も蒸気を上げて動く製材所で加工されていく。間伐材も持ち込まれて炭焼き窯に放り込まれて木炭に加工されている。基本的に橅の木を取り扱っており、その運送を代行して利益を出していた。
「上げるぞ」
「そーれっ!」
水から引き上げられた丸太はそのまま加工所に移動し、以前までは川の水を使った水車で動いていたところを輸入したキャロット製の蒸気機関が鋸を回していた。
そんな中、川の近くの森では銃声がした。
「何だ?」
「傭兵の白エルフが撃ってるんだ。何でも仕入れた武器の試し撃ちらしい」
「勤勉だな…」
黒エルフはそこで川沿いに用意された的に向けて撃っている白エルフ達を見ていた。
その後、夜になって村ではキアステンは村の面々に土産物を持ってきた。
「どうぞ」
「おお、グロワールのワインじゃないか」
「スコッチもあるわよ」
旅先で購入した酒類を振る舞うと、練習を終えたアグネス達もその味に満足げに飲む。
「これは美味いな」
「そりゃあ良かった」
焚き火を囲み、彼女達は歌を歌ったり踊ったりする。
かく言う私もヘンナに手を差し出されて白エルフが引いた音に合わせて踊る。白も黒も変わらずに焚き火を囲む光景は他ではほぼ見られなかったが、これが実に楽しい日々であった。