白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#12 一二〇年前Ⅻ

ステン商会は国内で使用する木材や燃料の木炭や薪を取り扱っている事から、黒エルフと白エルフの仲介役を自然と担当するようになった。

昔から南部の山間の中で生きてきた黒エルフは、白エルフの中では軽蔑に近い差別意識があった。

北部に住む非主流派の白エルフは見た目が同じである為に分かりづらかったが、黒エルフに関しては小麦色の肌で分かってしまうため、見た目で差別を受けることが多かった。

 

こうした差別を助長することとなるのは、エルフ特有の白銀樹の元から離れたがらないこともあるのだろう。それが理由で地元に根強くエルフが残り、仲間の結束力の向上からくる排他的な思考が強く意識されるようになった。いわゆる村八分が起こりやすい環境が出来上がっていた。

キアステンなど、その村八分の良い典型例であった。

 

キアステンのようなエルフでも白銀樹の気配というものは感じられ、この黒エルフの村で何人もの黒エルフの誕生を見ていた。ただ、私はエルフィンドを出ていくことが多かった為に子育てを経験したことは一度もなかった。

 

シルヴァン川の北岸の山岳地帯で、私は村々を巡って取引をしていた。

 

「ごめんね、乗せてもらって」

「良いよ良いよ。こっちも丁度行く予定だったし」

 

ヘンナにキアステンは問題ないと言って馬車の手綱を握る。

帰ってきてしばらく村に滞在した後、私とヘンナは馬車を使って近くの村に移動していた。私作った商会はこう言う黒エルフがいる村を主に回って商品の取引を行うことで利益を上げてきた。

ティアーラ通貨を参考にバーター取引(物々交換)を行うことでティアーラの持ち合わせがなくても村の生産品を使って取引をしていた。黒エルフと取引をする白エルフの商会というのはよほどな物好きか、仲が良い氏族でなければやらないためにほぼ独占状態だったこともあり、利益は鰻登りであった。

 

「でも良く考えたわね。黒エルフの村同士で取引なんて」

「まあ、フレンとか他のみんなが思いついてくれた結果だったりするかなぁ」

 

私はそう言って紹介のみんなの顔を思い出す。商会として同じ事を思いついても、伝手がなくて途方に暮れていた者なんかも見つけて誘って言い方を悪くすると囲い込みで人員を増やしていた。別に独立をしてもいいのよ?と暗に言ってみたものの、彼女達は各地の事務所の所長を続けていた。

 

「で、今回は何運んでんの?」

「ヘラジカの干し肉と川魚の燻製、あと小麦と…」

 

馬車は商会の規模が拡大するととも購入した中古の一頭曳きの幌馬車。

まあ殆ど貨物用で作られた馬車であったので仕方がない話なのだが、我が社も成長したもんだなと内心で思っていた。

 

「というか、ここら辺って山賊なんて出るの?」

「さあ?今まで出たことないけど、とりあえず役所はそれで通ったわよ?」

「えぇ…」

 

彼女が雇っている傭兵団は全員がボルトアクション式小銃とレバーアクション小銃で武装をしており、正規のルートで輸入していた。

 

「まあ、実際ここら辺は猛獣とかも出たりするからその対処も兼ねているだけどね」

「なるほどね」

 

多分、役所にこれほどの武器の輸入が許可されたのはそれが理由だろうなと察した。南部を主に活動するこの商会は、白エルフの村も回って取引をしており、ティアーラを使わない取引は中々に好評であった。

 

「で、次はいつ国を出るの?」

「うーん、半年くらいはここにいる予定なのよね」

「あ、そうなんだ」

 

ヘンナは暫くキアステンが国にいることに少し嬉しく感じた。

 

 

 

 

 

急速なキャメロットから産業革命の伝播とともに伝わった資本主義思想は白エルフに見たことのない発展を促すとともに、黒エルフ族との亀裂を表面化させた。

 

元々、農耕を主に、歌と音楽、知恵と言葉遊びと、読書を大切にする白エルフはその文化から優秀な人材育む上で十分な素質があった。

そしてそうした娯楽をする中で彼女達は農作物だけを食べるのかと問われるとまたこれも違う。彼女達は牛乳やバターを好んで食べ、牛肉や鶏肉、魚も食す雑食性。

 

そうした酪農や放牧は主にこの山岳地帯に住む黒エルフが担っている。私のところでも干し肉やヤマメなどの川魚も都市に運んでいた。そして昨今のエルフィンドの問題として農作物の収穫量の減少が挙げられる。それは一〇〇年前と比べても明らかに量が減っていると分かるほどであった。

 

年々減り続ける収穫量(リソース)に対し、この国の人口は増えている。富農と呼ばれる地主がこの国の農業の中心であり、かつて農奴だったものは今は小作人と名を変えて存続している。

 

このままでは一人当たりに与えられる糧食は減っていってしまい、いずれ民族そのものが餓死をしてしまう危険があるかもしれない。何故だ?何故糧食が足りない?

 

 

 

…そうか、ドワーフだ。彼らは広い穀倉地帯を持ちながら、その小さな身体で食すには余っている食料を我々に提供して来なかった。だから足りないのだ。

その蓄えた食料を奪わね(侵攻せね)ば。余分な人口(ドワーフ)は追い出し、その余分な食料ごと我らが管理をしてやろう。

 

 

 

広い穀倉地帯のあったシルヴァン川南岸(ドワルフシュタイン)に侵攻し、我が物とした。これにより我々は食料の不足を免れた。しかしそれでも食料は足りぬ。何故だ?人口(需要)が増えたからか?いや、違う。

 

であるならこの食料が足りないのは何故だ?

…そうだ、この国にはまだ魔種族(コボルト)がいる。彼らは税を余分に吸い取り、その余分な税で懐を暖める悪き存在である。我らから持ち去った金は我々のために使われねばならん。この場所にいてはならない。追い出さねば。

 

 

 

動物共(コボルト族)を追い出した。これで食料も経済も一安心だ。

しかし今度は肉が足りなくなってきた。何故だ?

 

…そうか、山にいる害獣達(大鷲族・巨狼族)だ。

彼らは山に篭り、我らが食す大切な家畜を貪り食っている。

この大地は教典にも記された通り我らのものである。即ち、我らのものに手を出している。追放(放逐)しなければ。

 

 

 

黒エルフ(デック)に指示を出して害獣どもを追い出した。

しかしおかしい、なぜこの国は食べ物(収穫量)が足りていないと言うのだ?

 

ドワーフ、コボルト、大鷲、巨狼…彼らを半島より追い出し、我々は偉大なる女王の教えの通りに半島全土を我が物とした。では何故足りないのだ?

まさか、これは神から我々を農耕をせよと言う天啓でもあるというのか?

 

いいや、今更我々(白エルフ)が歌や踊りを捨てて農業に舵を切ることなどできるわけがない。そんな事は教典の教えにも反する断じて許されない行為である。

 

我々は偉大なる女王より教えられた選ばれし民である。そこに間違いは存在しないのだ。

 

であるなら誰が悪いのか?

 

歌や踊りを嗜む白エルフか?いや違う。

では政策を発表する政府か?いや違う。

では農作物を作る小作人か?いや違う。

では税を徴収する徴税官か?いや違う。

 

皆、我らの同胞(白エルフ)が行っている。我々がしているから間違いである筈がない。では何故我らの食料は足らぬ?

 

 

 

…そうか、黒エルフ。貴様らなのだな?

我らと同じ容姿をしておきながらその黒く焼けた肌。絹のような美しさを持たぬ焼け焦げた体の貴様らは我ら白エルフから食料を奪っているのだ。

我らが食す肉や乳は貴様らが作っている。はるか昔より同胞と笑顔で接しながら仮面を被り、その顔で我々の胃袋を握り、我々の作った食料を奪っていたのだな。何故今まで気がつかなかった…!!

 

我々(白エルフ)から食料を奪っていたのは貴様ら(黒エルフ)だった!

ふざけるな!我々の作ったもの(農作物)は我々のものだ!他の誰にも譲らぬ!

そして黒エルフよ、我々のものに手を出したな?

 

 

 

もはや言うこともあるまい。我々から奪ったものはもはや帰って来ない。であるなら何を持ってこの代償を償うべきか、狩猟を生業と知る貴様らなら分かりおろう?

 

 

 

 

 

そこに産業革命による人間族の技術の流入は、白エルフと黒エルフの間に技術的な格差を生んだ。長年起こって来なかった外来戦争がなかったこともこの問題に拍車をかけた。

 

「?」

 

馬車を走らせていると、ふと街道の向こうから小さな影が見えた。

何だろうかと思っていると、その影は黒エルフであった。

 

「っ!馬車だ!」

「た、助かった…!」

 

その黒エルフは必至の形相をしており、キアステン達を見ると安堵した様子で私たちに叫んだ。

 

「た、助けて!」

「お願い!馬車に乗せて!」

「…何があった?」

 

その顔にキアステンはどうしたのだと困惑気味に聞くと、彼女達は言う。

 

「エ、エルフィンドだ!エルフィンドの連中が…!!」

 

すると遠くから一定した集団の足音が聞こえた。

 

「アイツら…!」

「き、来た!!」

 

黒エルフはすっかり怯えて思わず馬車にしがみついた。

 

「構え!」

 

するとエルフィンド陸軍の制服を纏った兵士たちはその手に陸軍正式小銃(メイフィールド・マルティニ)を構えてこちらに照準を合わせた。

 

「馬がいます!」

「構わん!(デック)どもは皆殺しだ!撃て!」

 

直後、発砲。複数の銃声は馬車の横を過ぎた。

 

「何!?」

「逃げるぞ!飛び乗れ!」

 

ライフル弾が通過し、驚愕するヘンナ。すぐにキアステンは手綱を握って足元にいた黒エルフ達に叫ぶ。

馬は銃声に驚いて鳴き、暴れそうな所をキアステンはヘンナ達から教えられた馬術で巧みに操作して馬車を綺麗に反転させる。

 

「チッ、追え!」

 

白エルフの指揮官は叫ぶと、キアステンは手綱を握って馬を走らせる。

 

「ヘンナ、ちょっと変わって」

「分かった」

 

御者を交代すると、彼女は荷車に出て乗り込んだ黒エルフ達を見る。

 

「何があった?」

 

聞くと彼女達は着ていたインバネスコートの下から一丁の拳銃を取り出す。

 

「わ、分からない…」

「奴ら、いきなり村を襲ってきたんだ」

 

馬車に飛び乗った三人は口々にそう語ると、聞いていた私は内心で舌打ちをした。

 

「(連中、また始めやがった…)」

 

彼女の予想は、当たった。

 

エルフィンド政府は黒エルフ追放の決議案を極秘決定。

 

陸軍部隊や国境警備隊を派遣し、黒エルフの放逐を開始した。

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