白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#13 地下に潜る日Ⅰ

馬車を走らせ、逃亡を始めたキアステン達。

 

「撃て!」

「馬車を停めろ!」

 

後方でエルフィンド陸軍の部隊が小銃のレバーを倒して薬室を排莢。新しい小銃弾を装填した。

追撃をしようとしたエルフィンド陸軍に対し、キアステンは持っていた拳銃を放った。

 

「ぐあっ!」

 

するとそのうちの一発が一人の白エルフの肩を貫通した。

 

「急いで!」

「分かってる!」

 

キアステンにヘンナは頷いて馬車を村まで走らせる。幸い、幌馬車はケチって会社のロゴも何もつけていなかったので、上の荷台を壊すか、最悪馬を逃して証拠隠滅も計れる。

パーカッションロック式回転式拳銃(レ・マット・リボルバー)を用いて彼女は牽制を行なって追撃を図った部隊を撃退する。

グロワールの医師が発明したこの古い拳銃はかつて、センチュリースターにて彼女が購入した代物であった。

 

『助けて!』

『何で!?』

『痛い!』

 

魔術通信には黒エルフの悲痛な叫び声が響き渡り、思わず切ってしまう。

 

「ねえ、何が起こったの!?」

「…放逐よ」

「っ…!」

 

静かにキアステンが放った一言にヘンナは思わず息が止まりそうになった。

それは嘗て、二度の放逐を見た彼女が断言していた言葉であった。

 

『白エルフはいずれ、黒エルフを放逐しにかかるだろう』

 

彼女はそう言ってコボルト達を川を超えた南に逃していた。その予言が今的中してしまった。

 

「そんな…」

 

彼女は魔術通信で聞こえてくる他の黒エルフ達の混乱・驚愕・悲鳴を聞いて戦慄した。

間も無く村に着こうと言う時、街道には黒エルフが居た。

 

「っ!」

「不味い…」

 

キアステン達はその黒エルフ達を見ると馬車を止めて、キアステンは飛び降りた。

 

「みんなどうした!?」

「に、逃げてきたんです…アイツら(エルフィンド軍)、私たちに向かって…」

 

その声はとても震えていた。見覚えの顔の者もおり、キアステンは考えるよりも先に声が出た。

 

「全員!南に逃げなさい!」

「え?どうして…」

 

彼女の言葉に驚愕する黒エルフ。そんな彼女達にキアステンは容赦なく、冷徹に言い放つ。

 

「このままだと全員死ぬ」

「っ!?」

 

彼女の断言に全員が気圧された。

 

「生き残りたいなら、南に逃げなさい」

 

彼女は再度同じ忠告をすると、遠くから銃声がまた聞こえた。

すでに魔術通信では多くの悲痛な叫び声が聞こえ、エルフィンドの部隊がその場で射殺や焼き討ちをしているらしい。

 

「ヘンナ」

「…うん」

 

短い応答で、長年の付き合いであった彼女はすぐに動いた。

 

「走って!村に逃げ込んで!」

 

そう叫んで黒エルフ達の誘導を始めると、その途中でヘンナは馬車にいた黒エルフ達もそれに付き従わせた。

 

「行って」

「え、でも…」

「いいから」

 

有無を言わさずに彼女は言うと、逃げた黒エルフ達は戦々恐々としながら馬車を降りてヘンナの後についていく。

 

「ごめんよ」

 

そして彼女は馬車を今まで引っ張っていた馬に触れ、その後に馬車と繋げていた金具を外した。

 

「自由な生活をしてくれ」

 

荷物が無くなった馬は少し楽そうにしてキアステンの隣に立った。この馬は荒っぽい性格のアスカニアから来た馬で、市場でも安くなっていたところを買った馬であった。長い間付き添ったり調教で慣れさせたりしたことでようやく懐いてくれた一頭である。

馬を放つと、彼女は手に燐寸(マッチ)を取り出すと、側面で擦って火をつけると躊躇なく馬車に投げた。

蜜蝋や油で艶出しをされていた馬車はあっという間に火に包まれ、馬車という邪魔な荷物は焼却されていく。

 

「…何だ、逃げないのか?」

 

それを背にキアステンは常に一歩後ろをついていくハノーバー種の茶色一色の馬を見上げた。

 

『何だ、乗らないのか?』

 

とでも言いたげな目をしていた。その様子にキアステンは少し笑うと聞いた。

 

「オリエンス、乗せてくれ」

 

そう言うと、馬は言葉を理解したように足をとめ、少し姿勢をまっすぐにしてくれた。

 

「悪いね」

 

馬車の時の手綱やハミは持っており、まだ外していなかったので手に数回巻きつけて長さを調整してから足で合図を出すと走り出した。

 

「流石に裸馬だからキツイわね」

 

振り落とされないように懸命に足で押さえながら馬は走ると、いつも世話になっていた村に到着をする。

 

「アグネス!」

「商会長」

 

そして村に到着するや否や、自分の信頼できる部下を呼ぶとすぐに顔を見せてくれた。

 

「状況は?」

「最悪です。商会長の予言が当たりました」

 

アグネスはそう言い、顔を歪めてキアステンの下馬を手伝う。

 

「すでに多くの黒エルフが被害に遭っています。焼き討ちされた村もあるそうです」

「敵はどこまで来ている?」

「隣村まで来ていると」

 

彼女は聞くと、アグネスは広場に避難してきた黒エルフ達を遠目から見る。

彼女達は皆、何が起こったかも分からずに仲間を失っていた。

 

「川の方は?」

「ヘンナ達が木場で浮き橋を組んでいます。まあコボルト族の時にやった手ですね」

 

彼女はそう言って状況を説明すると、キアステンは頷いてから魔術通信を再度開いた。

 

『助けて!助けて!』

『嫌だ!死にたくない!!』

 

泣き叫ぶ声があちらこちらから聞こえる。この距離であれば隣の村のものであるだろう。

 

「不味い…こっちに来るぞ」

「すでに部下を派遣しました。足止めを行います」

「私も出よう」

「商会長、危険です」

 

アグネスは前線に赴こうとしたキアステンに言うと、彼女は言い返す。

 

「私とて元兵士だ。私は彼女達が逃げ切るまで抵抗し続ける」

 

彼女はそう言い、被っていた唾の大きな帽子を脱いで新しい毛糸で編まれた帽子を被る。

動きやすいズボンスタイルであった彼女は拳銃と予備のシリンダーを確認する。

 

「それに…」

 

そして確認を終えた彼女はフッと笑みを見せる。

 

「私はキャメロット人に長いこと繕ってきたんだ。同族から人間族と思われるんだから、身分が露呈することもなかろう」

「…ふっ、さすがですね」

 

アグネスもそんなキアステンに不適に笑みを見せると、支給されたレバーアクション式小銃を持って村を出ていく。

 

「護符を焼き捨てる覚悟は?」

「貴女に拾われた頃から」

「よし、忠義を尽くせ」

 

彼女は下命すると、アグネスは敬礼をして答えた。

 

 

 

 

 

その頃、川辺ではヘンナが声を出して指示を飛ばしていた。

 

「急いで!」

「こっちの縄縛って!」

 

比較的流れの浅い場所であるこの流域において、彼女達は普段から係留されていたあの筏を組み合わせていた。

 

「…」

 

その様子を静かに見ていた氏族長。

 

「本当に当たってしまうとはな…」

 

そして悲しげに呟くと、彼女は以前よりキアステンから聞かされていた悪夢が現実のものとなったことを嘆いていた。

魔術通信で聞こえてくる同胞の悲鳴は彼女でさえも耳を塞いでしまった地獄絵図だった。

 

「姉様、キアから連絡です」

「…何と言ってきた」

 

あらかた予想はついたが、あえて族長は妹である副族長に聞いた。

 

「逃亡までの時間を稼ぐ。その間に南に逃げてくれと…」

「…彼女らしいな」

 

昔、コボルト族を逃したときを彷彿とさせる光景であった。あの時、多くのキアステンと関係のあったコボルト族が、流れの浅いこの地域に逃げ込んで川を渡ろうとしたが、流されてしまう者が多くいた。そんな状況に悲観していた頃、大量にあった筏を見て村の誰かが思いついたのだ。

 

『この筏で橋を作れないか?』

 

その案は早速採用され、無事に安全な場所まで橋を渡せた後に多くのコボルト族が逃げ仰た。当時、まだ林業を始めた頃であったので不慣れな操作で流されるコボルトや仲間もいた。

 

「いかがなさいますか?」

「…」

 

聞くところによると、すでにこの二週間ほどで多くの黒エルフが虐殺の目に遭ってきたと言う。

 

「気づくのが遅かった…」

 

思わず歯噛みせざるを得ない。逃げてきた黒エルフは多くおり、すでに川辺で一気に出来上がっていく浮き橋に目を白黒とさせていた。

 

「彼女の意向に従う。ただし、戦う気のあるものは集めさせろ」

「分かりました」

 

頷くと、副氏族長は川辺から去る。そして足音が聞こえなくなった頃、彼女はゆっくりと力が抜けるように地面にへたり込んだ。

 

「…白エルフ」

 

彼女の心中は複雑だった。散々、口を酸っぱくしてこの村に流れ着いた耳のない白エルフの話は現実となって同胞を殺し始めた。そしてそんな暴力を抑えるために我々を守ろうとしているのも白エルフだ。

 

「私はどうすればいいのだ…」

 

彼女は傍に用意された回転式拳銃を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

そして山岳地帯の中にある畑の影に隠れてレバーアクション小銃を持った白エルフは、視界に逃げる黒エルフを見た。

 

「っ…」

 

しかし直後、その黒エルフはその後ろにいた無数のエルフィンド軍の銃撃にあって畑の真ん中で斃れた。

 

「うっ…」

 

中には黒エルフの赤ん坊もおり、彼女達は容赦無く銃剣で赤ん坊の喉に剣を突き立て、それを見た一人が吐いてしまった。

 

「なんて事をするんだ…」

 

彼女は、今自分が見たことが信じられなかった。彼女もかつてエルフィンド陸軍に所属をしていたが、酒場で知り合ったキアステンと意気投合をして給金も良かったこの傭兵団に加入した経歴を持っていた。

 

「あんなのは…軍隊じゃない…」

 

自分の中で何かが崩れていく気がした。

かつて軍隊内でとある黒エルフと仲が良かった彼女であったが、その時の黒エルフは白エルフからの軽蔑によって最終的に軍を去ってしまった。そのことで上官と揉めたことも辞める一因であった。

 

「…ゴミ共め」

 

そして目の前の虐殺を見て、白エルフとしての誇りと自信は打ち砕かれた。あんな赤ん坊の喉に銃剣を刺すような軍隊にいたのかと思うと、ゾッとして背筋が凍りついた。

 

「総員、射撃準備」

 

すると後ろから声が聞こえて振り返ると、傭兵団の団長のアグネスがレバーアクション小銃を持って指示を飛ばした。

 

「あんなクソッタレた屑どもをここで足止めだ」

「了解」

 

彼女の指示に全員が頷いた。彼女達はこの傭兵団の仕事である商品護衛で多くの黒エルフ達と交流があった。

酒を酌み交わし、お互いの踊りや歌を歌い合った仲であった。そんな彼女達にとって今目の前で起こった事件は衝撃的であった。

 

「(無事に逃げ仰て頂戴よ…)」

 

一人は自分の護符に口付けをして次の村へ襲撃に来る(エルフィンド軍)に銃口を向ける。

 

「撃て」

 

アグネスの指示によって畑の畦から一斉に傭兵団達は発砲した。

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