白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#14 地下に潜る日Ⅱ

その瞬間、エルフィンド軍は畑の前で足止めをされていた。

 

「くそっ!」

「何々だよ!?」

 

驚愕するエルフィンド軍の兵士達。その視線の先には銃弾が飛んできていた。

 

「応援を呼んでこい!」

「なんで奴らこんな武器持ってんだよ!?」

「くそ(デック)め、破れかぶれに…!!」

 

悪態を吐きながら彼女達は膝立ちで小銃に装填を行って発砲を行う。

 

「撃て!」

 

しかし直後、

 

「がっ!」

 

拳銃を持っていた白エルフの指揮官は頭が吹き飛んだ。

 

「少尉がやられた!」

「て、撤退しろ!!」

「馬鹿言うな!」

 

指揮官を射殺され、混乱状態のエルフィンド軍は抵抗をしてきた部隊に驚愕していた。

 

「命中」

「よくやった」

 

そして望遠鏡を使って見ていたアグネスはその足元で槓桿を起こして空薬莢を排出し、新しい銃弾を装填して薬室に押し込んで閉鎖する。

この望遠鏡もキアステンがアグネスの誕生日祝いで購入したもので、彼女はとても気に入って使っていた。

 

「シモーヌ、指揮官を集中的に狙え」

「了解」

 

真新しいグロワール製のボルトアクション小銃を提供された彼女がそう頷くと、先ほど命中させた。

シモーヌ・ヘイヘはこの傭兵団に所属する北部系出身白エルフで、アグネスが認める射撃の達人であった。この傭兵団でも狙撃兵に文句なしで抜擢され、今もエルフィンド軍の指揮官の頭を吹き飛ばした。

 

「敵の撤収を確認」

「了解。速やかに偵察兵を残して補給に戻るぞ」

 

アグネスは言うと、偵察兵であるシモーヌ以外の面々が戦場となった畑を後にする。

 

「味方の死体すら置いていくか…」

 

呆れたもんだとアグネスは唾を吐きかけたくなる気持ちを抑え込んで村に戻る。

 

今の季節は本格的に冬に入る時期だ。元々シルヴァン川は流れの早い川で、黒エルフたちの筏下りでも時折流される者が出ていたほどである。

おまけに川幅が広く、全体的に深い。大瀑布が上流にあり、その下には険峻な断崖絶壁。橋などもない大河で、エルフ達の聖地でもある。

天然の要害であり、長らく他国からの侵略を抑えた歴史を持っていた。

 

「ここは浅瀬だ。多分、放逐に来たエルフィンド軍はここを抑えにくる」

 

地図を前に確信してアグネスは言う。

 

「ならできるだけ早く渡渉しましょう」

「そうだな…健康な者は歩かせてくれ。浮き橋はどうだ?」

 

少なくともこの東方の下流域にあるこの村は岩石や川砂が集った比較的安全な場所。しかしこの時期の水は極限まで冷えており、数時間も保たない可能性があった。

 

「子連れはどうしますか?」

「悪いが後回しだ。子供は弱いからな」

 

村には数百人の黒エルフ達が逃げてきており、皆が不安な様子を見せていた。

 

「しかし増援も来ます」

「ああ」

 

部下からの進言にアグネスは頷く。まず駆逐をしにくるエルフィンド軍がこのままで終わるはずがない。次はもっと重武装で来ることは間違い無いだろう。

 

「いかがなさいますか?」

「簡単だ。我々は夜のピクニックに向かえばいい」

 

ウキウキとした様子を隠しきれずにアグネスは言うと、それを聞いた他の団員達は苦笑をした。

キアステンが支援して創設された『カワウ傭兵団』はアグネスを筆頭に数十名の団員で構成されており、全員がレバーアクション式小銃やボルトアクション式小銃で武装していた。

 

「間も無く夜だ。我々は夜目が効く。五名ほどに分かれて四方から夜襲をかけ、敵を迎撃する。魔術通信は一切禁ずる」

 

同族を手にかけることを、彼女達は躊躇しなかった。

同族(白エルフ)による(黒エルフ)への蛮行は教義以上に許し難いことであった。

 

「補給はどう?」

 

すると川辺から戻ったキアステンが効いてきたので、アグネスは敬礼で答えた。

 

「川の方は?」

「十人単位で独り身から送り出し始めた。武器を持って川から襲われないように警戒している」

 

端的にわかりやすく説明を終えると、筏を繋げた浮き橋は半分ほどまで完成していた。

 

「まさか筏を浮き橋にするとは…」

「でも危険だぞ?ちょっとした増水ですぐ使えなくなる」

 

荷馬車から弾薬の補給を行なった彼女達は、そこですでに渡り始めた黒エルフ達をみる。

 

「始まったか…」

「警戒しなければなりませんね」

 

現在、ダークエルフの包囲網をエルフィンドは徐々に狭めている。一体どれだけの人々が被害にあったのか、想像すらしたくない。

 

「我々にはもはや言葉は必要ない。必要なのは護符を焼き捨てる覚悟だ」

 

アグネスはそこで鋭い眼光を傭兵団の面々に見せた。

この中でも多くの者が友人を失い、その事を氏族の者から知らされてきた。

 

「他の場所はどうなっているんでしょうか…」

「分からない」

 

黒エルフはベレリアント半島の南部に住まい、長い間国境警護を担ってきた民族であった。

しかしこの放逐が始まったと分かったのは二週間が経った頃であった。

 

「川を超えた先はオークの国(オルクセン)ですか」

「商会長が言うには色々とすごい国らしい」

「なるほど…」

 

そこで彼女達は水平線の向こうに見える未知の土地を見つめていると、斥候に出していた兵の連絡があった。

 

『サーチ3、見ゆ。敵多し』

 

出力を絞り、短い符号を聞いて一斉に彼女達の視線は険しくなる。

 

「行くぞ」

「「「了解」」」

 

そして彼女達は再び銃を持って戦場に赴いた。

 

 

 

 

 

『オークなんて信用できない!』

 

そう言った黒エルフは容赦無く置いてきぼりにされた。そこに慈悲も何もない。ただ彼女達はグループに分かれて渡河をしていく様を見つめるしかない。

この川を超えた先はオルクセンの領土だ。彼女達はかつてコボルト族が逃げた際に使ったのと同じ道を歩いている。

 

「渡ります」

「うん、気をつけて」

 

深夜、一切の明かりをつける事なく浮き橋が作られ、その上を黒エルフの小グループが避難を始めた。

 

「姉様」

「ああ、分かっている」

 

ヘンナは渡渉をしていく黒エルフの黒い影を見る。

 

「…」

 

その手には護符が握られ、腕を即席の包帯で巻く者もいた。

 

「…辛いな」

「…当たり前ですよ」

 

ギリッと歯軋りをさせてヘンナは言う。

 

「八人が死んだ。みんな子供で、隣村に遊びに行ってた子達だった」

 

全員の顔を覚えていた。この村で生まれた可愛い子供達で、妹のように可愛がっていた子供達だ。

護符を回収しきれなかった子もおり、その事を悔やんでいた。

 

「護符を作った子だっていたんだ…本当だったら残って白エルフを皆殺しにしてやりたい…!!」

 

彼女はそう言って自分の持っていた護符を強く握りめた。

 

「それにキアが前線で足止めをしているんです。それなのにこんな場所で…」

「白エルフが川から襲ってくるかもしれないんだ。私たちはここから離れられん」

 

ヘンナにそう言って宥めさせると、村の北側の方から銃声が聞こえる。

 

「始まった」

「…」

 

それは我々に味方をしてくれた白エルフ達の奮戦の音であった。その様子を見て不甲斐ない気持ちで埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

そして村の北側で展開したエルフィンド軍をアグネス達は小規模に分かれて焼き討ちをされた村の残骸に隠れる。

 

「…」

 

彼女達はそこで、家の軒下に吊るされた黒エルフの死体を見る。彼女達の顔は苦痛に満ちており、途中にも多くの黒エルフの死体があった。

 

「護符、全部集めていって」

「うん…」

 

今にも泣きたくなる感情を殺し、憎悪に転換させて彼女達は敵が来ない間に死体に残された護符を集めていく。

 

「来たぞ」

 

小声で言われると、視線の先に足音が聞こえる。

無数の一定のリズムで組まれた足音は大量の部隊がいる事を示していた。

 

「村を包囲しろ!」

(デック)を皆殺しにしろ!」

 

指揮官は馬に跨って叫ぶと、歩兵部隊は進軍を進めていく。

 

「敵は重武装だ!徹底して射撃を行え!」

「銃の確認をしろ!」

 

そして廃村となったこの場所でエルフィンド軍は武器の最終確認を行う。その様子を廃村の外の畑から監視していたアグネスはその後ろにあった輜重馬車に目をつけた。

 

「(やれ)」

 

手符号(ハンドサイン)で信号を送ると、馬車の御者目掛けて一人が発砲。

 

「銃声!?」

「襲撃だ!」

 

新月の夜で全く明かりがないに等しい中で補給隊に正確に狙撃を行ったことでエルフィンド軍は混乱をした。

 

「っ!」

「!?」

 

後ろから爆発音が聞こえ、その音に驚愕をしたエルフィンド軍はその隙に建物の影から飛び出してきた人影にやられる。

 

「ぎゃあっ!」

「ぜ、前方にも敵がいます!」

「なんだと!?」

 

前から切り込みをかけてきたことに白エルフは驚愕をして兵士たちは乱雑に発砲を始める。

 

「ぐはっ!」

 

そして無闇に発砲をしたことで同士討ちまで発生してしまっていた。

彼女達に切り込みをかけたのは、村からの志願で復讐に燃えていた黒エルフであった。彼女達には特別な山刀を持たされており、それはかつてドワーフが持っていた技術で、これは頑丈な上に鋭い切れ味を持つ山刀であった。

 

「生きて帰れると思うな。白エルフ共…!!」

 

彼女達は家族や仲間を惨殺され、逃げ惑う機会しか与えられなかった。そのため、この時に多くの白エルフ達に対する報復攻撃が行われていた。

元々この場所で生きてきた彼女達は全ての地形を知り尽くしており、隠れるのに十分な場所などをアグネス達に提供していた。

 

「ひっ!」

 

その赤い燐光を見た時、一人の白エルフが恐怖に満ちた顔をして首を刎ねられた。

 

『司令部!こちら十二歩兵連隊!敵の襲撃を…がっ!?」

 

魔術通信で増援を呼ぼうとした指揮官は狙撃兵による長距離狙撃で頭を粉砕された。

 

「…」

 

撃ったのは白エルフ。この殺戮を見せしめのように受け取り、祖国への絶望をした者達の顔は鋭く、侮辱に満ちていた。

 

「団長、指揮官をやりました」

『こちらも順調。敵の銃を奪ったぞ』

 

魔術通信の向こうでアグネスは満足した様子で鹵獲した軍の装備品を見る。

 

「これから回収する。通信されちまったから長いは無用だ」

「その割には時間かかる作業をやるつもりじゃないですか」

 

横で副団長がツッコミをかけると、そこで弾薬を積載した輜重馬車を見る。

 

「勿体無い。我々が快く引き取ろう」

 

アグネスはそう言うと、次の部隊が来るまでの間に弾薬と小銃を鹵獲して夜の暗闇に消えていった。

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